トラック分野へのLPG普及
「世界LPGフォーラム95 イスタンブール大会」より
日刊自動車新聞 1996年(平成8年)1月6日 (土曜日)
「世界LPGフォーラム95 イスタンブール大会」より
特別寄稿 コープ低公害車開発統括マネジャー 若狹良治
トラック分野へのLPG普及
1995年9月に開催された「世界LPGフォーラム イスタンブール大会」でトヨタ自動車の酒井貫之部長とLPGトラックの開発と普及の取り組みについて共同で発表を行った。
その際、イタリア、 オランダとLPG自動車の普及状況を視察してきており、日本の現状も振り返りつつ、LPGトラックの普及を目指しているユーザーの立場からいくつかの提言を行いたい。
LPGとの付き合いもそんなに長くない私にとって、 フォーラムそのものも1994年千葉・幕張大会と今回が2回目。
また、家庭用や企業用の燃料産業展の色合いが濃いこともあって、LPG業界との付き合いがオートガスのみの私にとってオートガスの展示が一点しなかったのは寂しかった。
一点は、オランダのAG(オートガスシステム)で、出張の当初の予定にはなかったが、オランダ訪問の際に訪問した。
LPGトラックの普及を目指している消費者・ユーザーの立場からは、わがままな願いと自覚をしつつ、環境を守っていく立場から、LPG業界はオートガスの分野での研究開発や普及のための展示や発表の場を大きくし、電気自動車天然ガス自動車などの他分野の国際フォーラムよりも現実的という面でもっと力を投入してよいのではないかと思った。
それはあながち贔屓(ひいき)の引き倒しではないと考えている。
【イタリアLPG自動車事情】
イタリアは歴史的にLPG自動車が普及しているが、現状では、今後の展望が見えなかった。
イタリアの運輸省を訪問したが、率直に言って特別な施策を持っているようにみえなかった。
LPG自動車は一般にかなり普及しており、人口5200万人、車両台数3200万台に対し、107万台である。ただ今後、経済的メリットがなくなると、一気に落ち込む可能性がある。
LPG自動車加工業者は、来年からの排出ガス規制強化に対しオランダの方式以外にクリアする方策がなく、そのためのコストアップをユーザーが受け入れてくれるかどうかについて極めて悲観的であるとしている。
中には、積極的にオランダの進んだ技術を取り入れていこうとする動きもあるが、混沌としているとの感触を受けた。
蘭、政府が振興策
第3世代の「多点噴射」
【オランダLPG自動車事情】
オランダは、政府機関の一つであるTNO(オランダ応用化学研究機構)が積極的に技術的研究開発を進め、LPG業界をサポートしている。
第三世代のシステムといわれる「マルチポイント噴射システム」を推進している。
EUの共通経済の進行で、物品税の導入などでLPG自動車の経済的メリットが薄れ、減少傾向にあるが、環境問題で、 政府関係が新たに振興策を策定しつつあり、盛り返しの芽がでてきている。
オランダは1970年以来、 LPGオートスタンドもセルフであり、安全策も実態に即して進んでいる。
人口1500万人、自動車保有台数570万台、そのうちLPG自動車は50万台。
LPG自動車のユーザーは、個人にも浸透している。
LPGオートガススタンドは、高速道路のスタンドエリアには必ず併設されており、オランダの中でLPG車の移動に不便はない。
ただ、陸続きの外国に行く際に不便となるため、ほとんどのLPG自動車がガソリン・LPG併用車で、そのための技術が進んでいる。これはイタリアでも同様傾向だった。
オランダは、家庭用や工業用のエネルギーが天然ガスと電力で90%以上がまかなわれており、LPGの利用はほとんどが化学工業原料とオートガスである。
これは天然ガスの国という事情もあが、日本におけるエネルギー転換の政策とその状況を考えると、オランダにおけるLPGの利用状は、将来の日本の姿を見る思いがする。
【コープの取り組み、啓発運動】
LPGトラックの開発のきっかけは、1992年9月に行った2回目の「生協EV検討実務担当者会議」で、トヨタ自動車からLPGトラックの利用可能性について打診されたことである。
当時、東京都のごみ収集車や日本LPG協会のボンベ配送車として開発を進めていた2,700CCエンジンのLPGトラックである。
担当者会議でその後、検討を深め、トヨタ自動車の技術陣との話し合いを行い、求められる性能や構造のアウトラインが決まった。
生協の求めたのは、ともすれば汎用性を考慮しオーバースペックになりがちであった風潮の中で、 生協の実態にあった積載量、増えつつある女性の運転手を考慮したパワーステアリングやオートマチックなどの必要最低限の装備を実施した1~1.5㌧積載のトラックである。
担当者会義で試作途上車の試乗などを行いながら、各自の生協でこの取り組みについて話し合いを行うようにして進めた。
とくに問題となったのは、各生協においても「建て前と本音」の世界があり「環境とコスト」の問題や「環境担当と配送実務担当」との意思統一の不足などそれなりに切実な問題があり、導入決定ができない事例であった。
これに対して、各生協において環境(政策)・管理(コスト)・運用(現業)の三部署が集まって協議することを推奨した。
同じテーブルについてこのような検討を行ったのが初めてという生協が多くその中から組織的、また担当者同士の意見交流という面で前進し、担当の窓口も次第に整備された。
1994年6月から生産を開始、7月4日に愛媛県のえひめコープに第1号が納車になった。
ちばコープなどで熱心な導入が進み、現在は350台を超えたが、問題はまだ多く残っている。
日本の行政も腰を上げる
低公害車としての認知
【LPG車のボトムアップ】
LPGトラックは低公害車とし行政庁からなかなか認められず、1994年度の環境庁主催の低公害車フェアへの出展も要請はしたが実現できなかった。
しかし、その(1994)年の3月に発表された環境庁の「低公害車地域及促進方策検討会・最終報告書」で当面の対策としてコスト的に合い、スタンドが全国的に整備されているLPGトラックについて、黒煙 SPM対策上、中型ディーゼル以上の代替に有効であるとし、事実上の低公車として認められた。
一方、同年、通産省エネルギー庁の「エネルギー大綱」で、LPG自動車をディーゼル代替車両として、貨物自動車などへの利用ではクリーンエネルギー車として位置付けられた。
コープ低公害車開発では地元の生協と共同で自治体に働きかけ、1994年度に神奈川県・横浜市・川崎市・大阪市・静岡県などが主催した低公害車フェアにLPGトラックを出展し、1995年度は千葉県などでの新たな展示が実現した。
これらの動きのなかで、生協が熱心に普及活動を進めていることが評価され、1995年5月の「95‘低公害車フェア」に、低公害車としての認知はしないが、展示が認められた。
このように活動が行政サイドから次第に認知されるようになり、自治体でも低公害車の定義を見直しが顕著になってきた。
具体的には、神奈川県では、県主催の大気汚染改善のための研修に私が講師となった講演が組み込まれたり、このほどとりまとめた神奈川県の低公害車普及方策の中でもLPGトラックが大きな柱に位置付けられている。
LPG車の普及活動もLPG業界や生協のみならず、現実的な車両の低公害化の取り組みとして、具体的には丸大食品、コカ・コーラボトラー、ヤマト運輸などが体的な検討を始めた。
また、LPGゴミ収集車も東京都をはじめ神奈川県大和市、相模原市、千葉県船橋市、市原市、愛知県豊田市などで実際に導入された。
【普及策にに関するいくつかの提言】
ディーゼルエンジンの開発普及の軌跡をみると経済優先の方策がはっきりとみてとれる。
現在では排出ガスの問題が極めて深刻になったことから、政府や自治体は改善を図るよう努めている。
だがそれは、根本的なディーゼルに依存する体質をそのままにした「小手先」の環境対策との面がある。
そうした対策のアリバイに使われたのがこれまでの低公害車普及政策である。
低公害車を実験室レベルの電気自動車、メタノール自動車 天然ガス自動車、ハイブリット自動車に限定し、普及が大気汚染防止の特効薬であるとの幻想を撒き散らしながら、その実具体的な対策は遅々として進んでいない。
排出ガスによる大気汚染は年々その悪化の状況を増しているのが、何よりの証明である。
さて昨今のRVブームも、気になる。
軽油を利用しているとなれば、トラックが行かないような住宅地や野山にディーゼル排出ガスがばらまかれているのである。
行政に対しては、「学術研究課題と現実の改善課題を同じ時間軸上でとらえていくのは無理がある」ことを指摘したい。
公害対策に必要な視点は、現状でできる技術で解決を図ることと、将来の技で解決できることを組み合わせて進めるべきで、すべてを将来の技術に委ねるような解決策はサポタージュのようなものだ。
また、国の施策と自治体の施策のレベルが同じというのも理解できない。
国はより先を、自治体は現実をどのように改善するかの役割分担があるはずである。
自動車業界に対しては、目先の方策ではなく、横断的、立体的な体系をもって、LPGトラックの充実と販売促進策に取り組んでほしい。
林野監視や公園監視の4WD車、7~8立法メートルと容量を拡大したゴミ収集車の開発を進めるべきだし、そして何よりも燃費の改を進めていただきたい。
またLPガス業界も、今後のオートガスの市場をどう切り開くのかという将来の視点から、販売価格やインフラ整備などで積極的に取り組んでもらいたい。
LPGトラックの普及促進は、少なくとも極めて現実的であり、将来を含めて、可能性は高い。
エネルギー的にも天然ガスに含まれているLPGの販売先を求めている現状であり、天然ガスの産出に合わせ一定レベルでの利用が可能である。
天然ガスは一般エネルギー、LPGはオートガスへのすみ分けが将来の展望を切り開くものと考える。
神奈川県「かながわ地球環境賞」を頂き、また、神奈川県からの推薦により当時の環境庁より「地球環境保全功労賞」を頂きました。
コープかながわ が呼びかけて出発したコープ電動車両開発株式会社が生協が現実に使用しているディーゼルトラックの低公害化を目指して開発したLPガストラックの普及活動に地元神奈川県の環境課が電気トラックの段階から支援を頂いてきましたが、LPガストラックの本格的な普及活動に対して、「かながわ地球環境賞」を授与頂きました。
トヨタ自動車としては、後にも先にもトヨタ系列以外の法人と共同開発を行っていませんが、その唯一の例外がコープ電動車両開発株式会社⇒コープ低公害車開発株式会社とのLPガストラックの開発推進でした。そのトヨタ自動車が初めて昭和10年にトヨタの販売自動車としてのG1トラックを発売して60周年記念に感謝状を頂きました。
トヨタ自動車と同社としては初めての社外との共同開発を行ったLPガストラックが生協への納車が1000台に達してことを記念してトヨタ自動車で作成して頂いた「テレホンカード」です。スマホの時代ではテレホンカードのありがたさはわかりませんが、大変ありがたい記念品でした。
2006年3月 コープ低公害車開発株式会社が創立16年で役割を終えた際に「LPガス自動車普及促進協議会」より感謝状を頂きました。
1994年4月5日の生協流通新聞でコープ電動車両開発(株)の統括マネジャーであった頃、電気トラックから開発普及の主力をLPGトラックに切り替え、「CO-OPしが」で初披露をした後、西日本(中国・四国・九州)のコースで鹿児島県の「コープかごしま」まで巡回説明会を行った直後に取材を受けた際の記事です。
肝心の若狹良治の名前が当時有名であった「ロッキード・全日空」の会長の名前と間違えて大きく「若狹得治」と記載された笑い話にもならないことがありました。このデータは修正を行ったもの。
この西日本巡回は、言うなればLPGトラックが実用に耐えられるかという試乗を兼ねたもの。
最後の「コープかごしま」では、桜島の見える高台の急坂で、「この坂を用意した商品をフル積載で登坂できれば認める」と言われ、見事に成功。一同そろって、拍手を頂きました。
上記は配布資料をスキャニングしてPDF化しました。
コープ低公害車開発(株)の歴史と経過(1998年) |
1998年にコープ低公害車開発株式会社の今後のあり方について検討を行いました 1989年にコープ電動車両開発株式会社として発足、しかし、電気トラックの研究開発を進めたが、現実問題として実際に使用している生協の配達トラックとして、ディーゼルやガソリンで稼働している状況から電気トラックへの移行は大変難しいとの認識のから、より現実的に生協で働く配達する職員やパートさん、配達先の組合員さんの健康環境を改善を果たすことが何よりも優先するという立場から、神奈川県環境研究センターと共同で行ったディーゼル・ガソリン・LPガスの3種の排ガス性状や燃料効率などから一番良いと判断されたLPガスを燃料とするトラックの研究、性能向上へシフトし、定款を電気および低公害な車両研究開発とし、会社名称をコープ低公害車開発株式会社と変更した。 問題は、運用する資金が、当初、コープかながわとコープしずおかが用意したものだったが、その資金が枯渇する状況となり、その資金調達をどうするべきかということから、継続するのか、会社を閉鎖するのか、継続する際は、参加している生協の資金負担はどうするのかなどを議論し、コープ低公害車の果たした成果と今後の課題などについて検討委員会を設置して議論を行いました。 この資料は、その際の事務局がまとめた活動と課題です。 出発点 1989年1月 車両の排ガス公害の改善を目指す。 (コープかながわ 理事会) 第1次展開 電気トラックの研究・開発と普及の活動 1989年4月 特別担当を配置し、調査→「メタノールか?」「電気か?」→電気を選択 1989年9月 コープかながわ 理事長の諮問委員会としてCOOP・EV技術検討委員会を設置 ↓諮問↑答申 COOP・EV技術検討委員会(座長:飯山雄次 千葉工業大学・教授) 第1次試作車の仕様を決定し、メーカー交渉→いすゞ自動車(株)に決定 1990年 発注→製作(米国・ソレック社 大場社長)→完成(12月) 5月発起人会・6月設立総会・7月2日コープ電動車両開発㈱ 創立日 目的 1. 電気自動車の製造及び管理 2. 電気自動車の製造に必要な調査、研究、開発 3. 電気自動車の運用に必要な充電、補修、管理機器・設備の研究、開発 4. 電気自動車の運用に必要な運行、管理、保全のためのシステム、マニュアルの調査、 研究、企画、開発 5. 電気自動車の運用のための事業コストの調査、研究 6. 電気自動車及び低公害車の斡旋及び販売 7. 電気自動車の運用に必要な充電、補修、管理機器・設備の斡旋及び販売 8. 電気自動車の運用に必要な運行、管理、保全のためのシステム、マニュアルの斡旋及 び販売 9. 前各号に付帯または関連する一切の事業 1991年 第1次試作車(1号車、2号車)完成 29 東京モーターショー出展 1992年 第2次試作車 (1号車)完成 1993年 第2次試作車実用走行車 (2台) 東都生協・首都圏コープ事業連合へ納車 東京都から半額助成 第3次試作車完成 30th 東京モーターショーに出展 1994年 第3次試作車実用走行車 (1台) コープとうきょうへ納車 東京都から半額助成 第2次展開 担当者会議の設置とLPGトラックの研究・開発・普及の活動 1992年 生協 EV検討実務担当者会議設置 (7月) 92年3回開催 (通算3回) 生協 EV検討実務担当者会議 9月第2回でトヨタから LPGの打診 1993年 1月トヨタ自動車(株)とモニター車の製作交渉 9月 LPG トラック開発についてマスコミ発表 11月〜94年4月 モニター車完成・全国25ヶ所で試乗・展示・発表会 生協 EV検討実務担当者会議 1993年4回開催 (通算7回) 1994年 5月株主総会で定款変更・社名変更、6月コープ低公害車開発㈱と名称変更 目的 1. 電気自動車及び低公害車等に関する調査研究・開発・斡旋及び販売 2. 前各号に付帯する又は関連する一切の事業 6月 LPG トラック生産開始 7月4日第1号車「コープえひめ」に納車 生協 EV検討実務担当者会議 1994年4回開催(通算11回) 1995年 供給開始より1年で350台達成 三菱自動車工業㈱) 開発に参加 生協 EV検討実務担当者会議 1995年3回開催(通算14回) 8th 世界 LPG フォーラムにトヨタ自動車㈱と合同で発表 12月 三菱自動車工業 LPGトラック キャンペーンに出発 1996年 マツダ(株) 開発に参加 供給開始より2年で600台達成 5月 マツダ LPGトラック キャンペーンに出発 9月生協におけるLPGトラック導入 600台突破記念 「大気汚染防止と自動車排出ガス等に関するシンポジウム」を開催 「環境担当理事職員交流会」を開催 生協 EV検討実務担当者会議 1996年3回開催(通算17回) 1997年 2月生協大気汚染等検討交流会 (コープかながわと共催) いすゞ自動車㈱開発に参加 供給開始より3年で1000台達成 10月 「車両低害化のためのシンポジウム」を開催 生協 EV検討実務担当者会議 1997年3回開催 (通算20回) 11月 いすゞLPGトラックキャンペーンに出発 12月 トヨタ 4WDLPGトラック 11台納車 1998年 1月現在 74生協・組織 1264台 6月5日 コープ低公害車開発、環境庁の「地域環境保全功労者」に選ばれた。 1999年 6月現在 74生協・組織 2000台 注) コープ低公害車開発は2006年3月の会社閉鎖までに、累計(廃車も含めて)で7000台以上、生協の現有車両数としては配送車両の35%(5500台)をLPガストラックに転換。 【続きは下記の文書をご覧ください。】 |
〒903-0907 沖縄県那覇市首里久場川町2―96―P―107 排気ガス撲滅運動推進本部会員 石 原 兼 治 様 |
横浜市港北区新横浜2-5-11 コープ低公害車開発株式会社 代表取締役専務 若狭良治 TEL 045‐472‐7913 FAX 045‐472‐7924 |
資料送付のご案内 初めてお手紙をさしあげます。 私どもは、コープかながわ・コープしずおか・市民生協やまなし〈いずれもユーコープ事業連合の構成生協〉など全国30の生協が出資して運営している会社です。会社目的は、生協で使用している車両の低害化を進めるために、ハード開発〈車両など〉、ソフト開発(使用方法・啓発活動)などを進めています。 今回、貴殿からお送りいただいた資料が私のところに回されてまいりましたので、拝読いたしました。 積極的に自動車排ガスの害を改善するためにご活躍の由、今後とも積極的なるご活動をお祈りいたします。 さて、延岡のマルビシ様の機材につきましては、数年前になりますが、大分のグリーンコープや鹿児島県のコープかごしまで設置した実績があります。私もその設置した事例を視察した経験があります。 結果としては、私どもは、現在、小型ディーゼル車の脱ディーゼルをメインにLPGトラックの導入を進めてまいりました。 私どもは最初は電気トラックの開発を目的に設立した会社ですが、実際に電気トラックの開発をいすゞ自動車と行い、普及のための努力を傾注してまいりましたが、ディーゼルトラックの入れ替えることが当面困難との見通しを持ちました。 その検討の中で、各種の低害化技術について検討を加えてまいりましたが、結論としては、LPGトラックの開発と普及が、今日的な段階での解決策として浮上しました。 1993年以来、トヨタ自動車とモニター車の開発など話し合い、同年11月にモニター車が完成し、約半年をかけて、全国30箇所で検討を加え、1994年6月より生産を開始し、1994年7月7日に第1号車が愛媛県のえひめ生協に納車されました。 以来、4年8ヶ月。全国で約13000台所有する小型トラックのうち、1900台余りをLPGトラックに転換しました。 環境庁は、「低公害車」の定義に「脱石油」を条件にしているために、ガソリンの代替としてタクシーを中心に利用されてきたLPG〈液化石油ガス=主成分:プロパン20~30%、ブタン80~70%の混合燃料〉を使用した自動車を「低公害車」として認知しようとしません。 しかし、LPG自動車は、黒煙や発ガン性が指摘される浮遊粒子状物質の排出がないなど、国が自動車排ガスで規制しているNOx〈窒素酸化物〉、HC〈ハイドロカーボン:炭化水素:燃料の燃え残り〉、CO(一酸化炭素)の排出の面でも優れた特性を有し、かつ、気体燃料のために燃料は空気と均一混合して理想混合燃焼を行うために、エネルギー効率がよく、状況によっては、炭酸ガスの発生がディーゼルと同等か良い場合もあります。 私どもは、行政の進めている「いわゆる低公害車」普及政策では、自動車排ガスによる大気汚染と健康被害を改善することが困難であるとの判断とユーザーの立場からLPGトラックの普及のための活動を進めています。 目的は同じでも、当面の進め方が異なるのは仕方がないことですが、LPG化できない分野での活用という点では可能性があるかと思います。 ただし、「マルビシ」方式の機材によって、黒煙や悪臭などが低減されたとの説明を受けてはいるのですが、私どもが一番気にしているのは、軽油〈ディーゼルエンジンの燃料〉に5%程度含まれている多環芳香族炭化水素の存在と、その多環芳香族炭化水素によって生じる浮遊粒子状物質の健康被害です。 この浮遊粒子状物質(SPM:10ミクロン以下の目に見えない空気中に浮遊する物質:その中でも、人工的に作り出される工場排ガスや自動車排ガス中のSPMは、1ミクロン以下で、特に、ディーゼル自動車より出されるSPMは、燃料高圧噴射などの技術革新により、より微粒子化し、黒煙すら見えなくなってきています。 長らく、日本の自動車排ガスの健康被害の原因としてNO2〈ニ酸化窒素:窒素酸化物〔(NOx)の中で、一番人体への健康被害が強いといわれている)が指摘されてきましたが、最近の研究によれば、NO2の健康被害で特に指摘されてきた喘息などでは、発症の点ではその役割は弱く、発症した後に悪化させる面が強いとの指摘がされています。同時に、浮遊粒子状物質(SPM)の研究が進む中で、SPMの健康被害が極めて強調される状況になってきました。 SPMの中でも特にディーゼル排ガス微粒子(DEP)の健康被害については、従来の「喘息」以外に、気管支炎、精子減少、奇形などの影響が指摘される状況です。 また、最近ごみ焼却場から排出されるダイオキシンが話題ですが、ディーゼル排ガス中のダイオキシンが指摘されています。奇形などの現象は、これらの物質の環境ホルモン〈内分泌撹乱物質〉としての作用ではないかと指摘されています。 今回、資料をいただき、熱心に活動されていることを知り、力強く感じるものですが、同時に、私どもの活動を理解いただき、今後の活動の一助になればと思い、資料をお送りします。 同封しました、CD-ROMは、マイクロソフト社(MS)のパワーポイント97でご覧ください。 なお、沖縄は、LPG改造業者も多く、タクシーはLPGがほとんどです。しかし、生協でのLPG転換もされていない状況です。 私どもは、現在は、主にディーゼルトラックのLPGへの転換を進めることと、ガソリンとLPGのバイフューエル車の日本での普及のために、高圧ガス保安法の規制緩和を働きかけるなどの活動を進めています。 もし、今後ともお送りしました「CO‐OP・EVプログレス」をお読みいただけるのでしたら、毎月郵送しますので、ご連絡ください。費用は無料です。全国の出資生協の運営費で賄っております。 長々と記述させていただきましたが、貴殿のご多幸をお祈り申し上げ、筆を置かせていただきます。 敬具 |
2009年1月3日 朝日新聞
縦割り打破!エコトラック業界を束ねて低公害車を開発
若狭 良治さん (65)
天然ガスや石炭からするジメチルエーテル(DME)という燃料がある。
これをトラックの次世代燃料にしようと取り組んで10年目になる。
ディーゼルエンジンに使う軽油に比べ二酸化炭素の排出は少なく、ぜんそくの原因の粒子状物質は極めて少ない。
環境保護に最適な低公害車は何かを、何か、と考えた結論がこれだ。
一直線にDMEにたどり着いたわけではない。
まず試みたのは電気だ。
日本生活協同組合連合会に勤めていた私が加盟生協に頼まれ、小型電気トラックを開発する小さな会社に移ったのは1991年。
メーカー共同開発したが、1回の充電で走れる距離はわずか50キロで、2千万円もした。実用には向かない。
そんな頃、トヨタ自動車が液化石油ガス(LPG)を燃料にしたごみ収集車を作ろうとしていることを知った。
LPGは粒子状物質を出さないし、すでにタンシーにも使われていて、開発は難しくない。小型トラックの共同開発を持ちかけた。
完成車を見て、加盟生協の中には「電気トラックには夢があったが、LPGでは」と採用を渋るところもあった。
だが、大切なのは 「実用的」なこと。約7千台を導入した。
ただLPGはガソリンエンジンを使うので、中型より大きなトラクには向かない。
研究者を回り、行き着ついたのが、スプレーの噴射剤などに使うDMEだ。
業界は「補給所の設備が大変だ」などと否定的だった。
2001年、人脈をたどり、産業技術総合研究所や伊藤忠商事、岩谷産業などに打診してみた。
すると、各社ともDMEに意欲的であった。
翌年に部長や課長クラスを中心にしたグループができた。
試作には億単位の金がかかる。親しい大学教授らに協力してもらい、国の補助金を申請した。
支給されるまでは生協から2億円を借りてしのいだ。
2003年 いすず中央研究所の協力で4トン積み中型トラックの試作車が完成した。
同じ補助金で、新潟市などにDMEの補給所が4カ所できた。
試作車は立派に走った。
燃費や耐久性試験などを続けるうちにようやく昨年、国が動いた。
国土交通省の公募事業にいすゞ中央研究所が手をあげ、新潟県首都圏で2台のトラックの耐久実験が始まった。
実用化への大きな一歩だ。
今年2月には、 木材からつくったバイオDME燃料をDMEに混ぜ、走行実験をする。
木材を利用することで、さらに二酸化炭素の排出が減らせる。
燃料は経済産業省、自動車交通は国土交通省と、縦割り行政の弊害から、一緒にDME車を普及しようという意欲が乏しく、それが影を落としていた。
こんな無味なことはない。
共同開発したグループは2006年、豊田通商なども加わり「DME自動車普及促進委員会」に発展した。
私は事務局長を務めている。
それぞれの企業や研究所が協力し、お金を出し合い、風通しをよくして、目標に向かう。
我々の役割はそこにある。
(聞き手・杉本裕明)