飼料用米、農業政策に関する報道記事を読む

2024年3月29日

目次

総合目次に戻る

最近の米等の情報20240823
◆日本農業新聞
2024年8月23日
飼料高騰への支援充実を 農相に要請
JAグループ福島と県畜産振興協会
 
◆NHK 2024年8月23日 4時58分
農林水産省 “早いところでは新米も”
冷静な対応を呼びかけ
各地のスーパーなどでコメが売り切れたり、購入点数を制限したりする動きが出ています。
農林水産省は、本格的に新米が出回る前の端境期で、もともと在庫が少ないところに、地震や台風に備えた買いだめの動きが出たことが拍車をかけた可能性もあるとして、消費者に冷静な対応を呼びかけています。

◆読売新聞
2024/08/23 13:46
コメの棚空っぽの異常事態、秋の新米で品薄解消しても価格は大幅上昇…猛暑で供給減・訪日客増で需要増
 コメが全国的に品薄となっている。昨年の猛暑で供給が減った一方、訪日客の回復で需要が増えたことなどが要因で、スーパーなどの店頭では商品が欠品したり、購入数量が制限されたりしている。2024年産米の出荷が本格化する9月下旬には品薄が解消する見通しだが、新米の価格は大幅に上昇している。(川口尚樹)

◆農業協同組合新聞
2024年8月20日
米保管義務は誤解 農水省の支援事業 需要に応じた判断で
主食用米を長期計画的に販売するために保管料を支援する「米穀周年供給・需要拡大支援事業」は今年度も公募が行われ、9事業体から23年産米5万tが申請されている。この事業で保管料支援を受けるためには最低限この10月までは保管しなければならない。そのため店頭に米が並ばない事態も起きる状況のなか、国が米の保管を義務づけるのか、との一部から批判の声も聞かれるが、農水省はこの事業について「10月まで保管せず販売しても、ペナルティーがあるわけではない。事業の目的は需要に合わせた販売。保管料支援はなくなるが計画的に販売してもらえばいい」と強調している。

不作でもインバウンドでもない、コメが買えない「本当の理由」

不作でもインバウンドでもない、コメが買えない「本当の理由」
毎日新聞2024/8/18

コメの品薄状態が続いている=2024年8月14日、坂巻士朗撮影
 
 コメが各地で品薄状態となり、価格が高騰している。ほぼ100%国産なのに、なぜこんな状況に陥っているのか。元農水官僚の山下一仁・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹に「令和の米騒動」の内幕を尋ねると、消費者をないがしろにしたコメ政策の実態が見えてきた。【聞き手・宇田川恵】
 
凶作ではなかった
 
 ――コメの品薄や価格高騰はなぜ起きているのですか。
 
 ◆昨年の猛暑による不作やインバウンド(訪日外国人)の増加でコメの消費が増えたためだと言われていますが、両方とも主要な原因ではありません。
Advertisement
 そもそも2023年産米の場合、コメの出来具合を示す「作況指数」は101で平年並みでした。「平成の米騒動」を招いた1993年産米の作況指数は74。23年産は特に高品質のコメが不作で、消費者が欲しがるコメが減ったからだとの見方もありますが、凶作だったわけではありません。
 一方、インバウンドの消費増もそれほど大きいとは言えません。月約300万人の訪日客が日本に1週間滞在し、日本人並みにコメを朝昼晩食べると仮定しても、その消費量は全体のわずか0・5%程度。実際にはコメを3食取る訪日客は多くはなく、消費量はもっと少ないはずです。
 
50年以上も続く仕組み
 
 ――では、大きな要因は何だと?

インタビューに答えるキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁さん=東京都千代田区で2024年8月6日午後3時、宇田川恵撮影
 
 ◆コメが不足しているのは減反政策のせいですよ。減反というのは、コメの生産を減らして、市場価格を上げる政策です。コメ農家が麦や大豆など他の作物に転作すれば、国が補助金を出す仕組みです。日本はこれを50年以上も続けているのです。
 コメ以外のパンやパスタなどの消費が増える中、従来と同じ量のコメを作っていたら、余って価格が下落してしまう。そうならないよう、年々生産を減らし、最近では水田の約4割を減反して6割しか使わず、ピーク時(年間1445万トン)の半分以下の生産に抑えています。
 ギリギリの生産態勢でやり繰りしているから、訪日客の消費が少し増えるなど、ささいな需要の変動があるだけで、あっという間に品薄状態となり、価格が高騰してしまう。それが今、足元で起きていることの本質です。
 
「減反廃止」は安倍政権のごまかし
 
 ――そもそも減反政策は18年、当時の安倍晋三政権が廃止したはずですが。
 
 ◆あれは安倍政権のごまかしです。廃止したのはコメの「生産数量目標」だけで、生産を減らせば補助金を出すという減反政策の本丸は残したままです。実際、私は当時、農林水産省の関係者に「本当に減反を廃止するのか」と聞いたら、「とんでもない。減反廃止なんて我々は一言も言ってませんよ」と言い切っていました。
 当時の官邸は、「減反廃止」と打ち出すことで、改革色をアピールし、政権浮揚に利用しようとしたのでしょう。実際に国民の受けは良かったので、安倍政権は気を良くし、減反廃止と言い続けたのです。
 
抗議運動は起きなかった
 
 ――国民は目くらましをされた。
 
 ◆本当に減反を廃止したのなら、コメの生産は増えて、価格はどんと下がり、農家から大変な抗議運動が起きたはずです。コメは安くなりましたか? それどころか今、価格が上がって騒動になっているわけですよね。
 日本のように、減反をこれほど長く続けている国は他にありません。米国や欧州連合(EU)も、作物が過剰になった際、一時的に減反を導入し、価格を維持しようとしたことはありました。しかし今はみんなやめている。減反するより、たくさん作って輸出した方がメリットが大きいと知っているからです。
 日本も減反政策を完全に廃止し、どんどんコメを作って本格的に輸出に乗り出すべきなのです。それによって食料自給率も上がります。
 
日本のコメは「ロールスロイス」
 
 ――日本のコメは国際的な競争力があるのでしょうか。
 

間もなく、実りの秋の季節を迎える=宮城県涌谷町で2017年8月28日、山田研撮影
 
 ◆世界一おいしいコメなのに、なぜもっと輸出しないのか、と世界中の人が言っていますよ。よく日本の農業関係者は「タイ産米などの安価なコメにはかなわない」と言いますが、間違いです。自動車に高級車と普及車があるように、コメにもさまざまな種類があります。高級車は高い価格をつけても普及車に負けません。
 自動車には超高級車の英ロールスロイスがありますが、日本のコメはコメのロールスロイスとして売ればいいわけで、安価なコメと競争する必要はない。適度な価格をつければいくらでも売れます。実際、米カリフォルニア州では今、同州産のコシヒカリが日本のスーパーより高い値段で売れています。
 
まったくひどい政策
 
 ――コメ離れが深刻とされますが、生産量が増えて、値段が下がればもっと食べるはずですね。
 
 ◆その通りで、減反というのはまったくひどい政策です。生産を減らすための補助金に年間3000億円超も支出し、わざわざ米価を高くして、消費者の負担を増やしているのです。例えば医療分野なら、国民の医療費負担を軽くするために財政から支出しますが、減反はその逆。税金を使って消費者を苦しめている。
 また、減反政策のせいで、コメの単位面積当たりの収穫量である「単収」を増やす品種改良は止められています。単収で比べると、今や、カリフォルニアのコメは日本の1・6倍、かつて日本の半分しかなかった中国のコメは日本を上回っています。
 減反は消費者のためにも、農業のためにもなっていません。減反をやめた結果、コメの価格が下がって、農業所得を主とする「主業農家」が困るなら、欧米各国のように財政から直接支払いを行えばいいのです。
 
食糧安全保障上も増産は必要
 
 ――コメは日本で唯一、ほぼ国産できる穀物です。食糧安全保障の観点からも、生産を増やすことは重要です。
 
 ◆コメの年間生産量は現在、700万トン弱ですが、減反をやめ、単収の高いコメに変えれば、1700万トンを生産する実力はあります。1700万トン作って、1000万トンを輸出に回せば、安全保障上のメリットは大きい。例えば、台湾有事などで海上封鎖され、輸出入が閉ざされたとしたら、輸出していた1000万トンを国民の食料に回すことができるからです。輸出はいざという時の備蓄の役割を果たします。各国はみんなそれが分かっていて、食料政策を進めています。
品薄、高騰は今後も起きる
 
 ――今回のようなコメの品薄や価格高騰は今後も起こるでしょうか。
 ◆減反政策を続ける限り、同じような事態は繰り返されます。消費のささいな動きでコメはすぐ品薄となり、価格高騰につながるという環境は変わらないからです。
 今、世界最大のコメの輸出国はインドで、年間約1000万~2000万トンを輸出しています。もし日本が減反を完全に廃止して1000万トンを輸出するようになれば、世界最大規模のコメ供給国となり、世界の食糧安全保障にも貢献できます。そんなチャンスがあるのに見向きもせず、日本はいつまで国内の米価を高く維持することだけに注力するつもりなのでしょうか。
やました・かずひと
 1955年、岡山県生まれ。77年東京大法学部卒、旧農林省入省。経済協力開発機構(OECD)農業委員会副議長、農林水産省農村振興局次長などを歴任。専門は食料・農業政策など。「日本が飢える!世界食料危機の真実」など著書多数。
 
コメ価格の高騰
 農水省が7月に発表した速報によれば、JAなどと卸売業者が決める6月のコメの「相対取引価格」は、全銘柄平均で玄米60キロ当たり1万5865円と、約11年ぶりの高値となった。卸売業者の間でコメの過不足分をやり取りする取引価格はさらに上がっているという。価格高騰と品薄から、飲食業界ではコメからパンの提供に切り替えを検討する動きもあるほか、スーパーの店頭ではコメ売り場の棚が埋まらなかったり、販売制限をしたりするケースも出ている

「スーパーから米がない」を教訓に 「減田」やめ備蓄柔軟に

農業協同組合新聞 2024年8月30日
【緊急寄稿】
「スーパーから米がない」を教訓に
「減田」やめ備蓄柔軟に
横浜国大名誉教授・田代洋一氏
 
スーパーの店頭に米がない――と騒がれてから久しい。
横浜国立大学名誉教授の田代洋一氏は、外因のせいにせず適正備蓄や生産コスト補償など根本的な政策が求められていると指摘する。
スーパーから米消失
 横浜国立大学名誉教授 田代洋一氏
店で隣りの客が携帯を取り出し、スーパーから米がなくなっている写真を見せてくれた。
黒い棚底がむき出しになっているのは不気味だ。
農水大臣は7月19日に至っても「民間在庫量は十分に確保されている」とし、副大臣は8月23日、米収穫も早まり出荷も前倒しされるので「品薄状態は今後解消していく」とした(日本農業新聞8月1日、24日)。
しかし、これらの発言はおかしい。
第一に、図1によれば、米の消費者価格は2023年には安定していたのに、2024年は年初から値上がり傾向にあり、対前年同月比は6月107%、7月111%になっている。
市場メカニズムは明らかに「民間在庫量は十分」ではなく、「品薄感」を示している (米需給のひっ迫感に関する米穀機構のデータについてはJAcom7月5日。
その後7月分も公表された)。

注.総務省「消費者物価指数」による
第二に、大臣のいう「民間在庫量は十分」は、仮にそうだとしても全国数字だ。ひっ迫は必ず具体的地域から起こる。
流通在庫はそれを見越した量でなければならない。
第三に、副大臣の発言も、「端境期だから仕方ない」と言うに等しい。
少なくとも毎日の主食である米について、そんな言い方はないだろう。
しかも図1に見るように、端境期にいつもそうなったわけではなく、今年は異常だった。
それをインバウンド需要や南海トラフ情報のせいだけにしてはなるまい。
農水省「米穀の需給及び価格の安定に関する基本方針」(2024年7月)では、2024年6月末の民間在庫は156万トン。在庫量の需要量に対する割合(以下、「在庫率」)は22.2%。
これは、図2でも2009年以来の最低水準で、起こるべくして起こった米不足と値上がりだ。
FAOは適正な穀物在庫水準を18%としているが、図2の日本の経験では、22%でも流通在庫不足だった可能性が高い。
日本は、日本の状況にあった適正在庫率をもつべきだというのが今回の教訓だ。

注1.農水省「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指標」(2024年7月)データによる
 2.相対取引価格は、当該年産の平均価格

なお先の「基本方針」は、2025年6月末民間在庫を152万トンとしている。
米消費が毎年10万トン減っていくなかで、今年より4万トン減は当然とみているようだが、今年の経験からして、それは危ない。
米需給政策を考える
他方で民間在庫が多すぎることは、過剰の現れであり、米価下落をもたらす。
そこで需給調整は民間の流通在庫依存だけでなく、市場隔離的な国家備蓄の役割も求められる。
米過剰下で財政当局は一貫して「単年度需給均衡論」(来年食べる分しか今年の米を作らせない)を押し付けてきた。
しかし自然を相手とし豊凶のある農産物については、「単年度」ではなく「ゆとりある需給均衡」が求められる。
単年度均衡論への固執は1993年の「平成の米騒動」の一因となり、ウルグアイラウンド妥結、食管法の廃止と食糧法の制定、そして新基本法の制定へと政策を変えた。
食糧法で国家備蓄が法定され、当初は150万トン程度とされたが、その後100万トンに改められて今日に至っている。
備蓄は改正基本法では食料安全保障確保の一環とされたが(第2条2)、食料緊急事態法(不測事態法)の対象とはならず、平時のそれに位置づけられているが、それがいつ、いかなる基準で放出されるかは定かでない。
政府は備蓄を過剰対策に用いることは拒否しているが、過剰対応、民間在庫との併用、不測への備えなどいくつかの機能を併せ持つ柔軟な制度にすべきだ。
「減反」から「減田」へ
「ゆとりある需給均衡」に向けて一定の在庫率をキープするには、それだけの供給力の確保が欠かせない。しかるに、安倍官邸農政が生産調整政策を「廃止」して以降、水田減らしが政策基調になっている。
国が割り当てる生産調整政策は「廃止」したものの、水田がある限りは主食用米生産は避けられず、それを他作目に転換するには一定の金銭的補償が必要になる。
その財政負担を減らすには、元となる水田そのものを減らす必要がある。
こうして「減反から減田へ」が政策基調になる。
それが例えば「水張り」(5年に1度は水張りしないと水田とみなさない)問題であり、さらには水田の畑地転換政策である。
改正基本法でも「水田の汎用化及び畑地化」(第29条)がうたわれた。
改正基本法とは一体、何なのか。それを端的に示すのが、「経済財政運営と改革の基本方針2024について」(6月、いわゆる「骨太方針」)である。
そこでは改正基本法の「初動5年間で農業の構造転換を集中的に推し進める」、すなわち「水田の汎用化・畑地化を含め輸入依存度の高い食料・生産資材の国内生産力拡大等の構造転換を推進する」としている。
そして「生産力拡大」には注がつけられ、2030年までに作付け面積を小麦9%、大豆16%、米粉用米188%、飼料作物32%増などとされ、そのこと自体は食料安全保障に貢献するだろう。
つまり改正基本法とは、食料安全保障を表看板に押し立て、その下で水田農業構造改革を追求すことであり、畑地化(減田)がその一環に据えられる。
しかし食料安全保障が本命なら、まず大切なのは主食・「米」であり、水田なら水稲にも麦大豆にも即応できるが、畑地化してしまえば、まず水田に戻す作業が必要になる。
水路までつけるのは大変な作業だ。
水田の貯水機能は、年々大型化し頻発化する台風水害に対して、いよいよ重要になっている。「田んぼダム」を増やす必要がある。アジアモンスーンの気候風土にあって災害列島化している日本に必要なのは水田の多面的機能であり、「減田」政策は食料安全保障のためにもとるべき道ではない。
西から水田が崩れていく
「減田」などと言わなくても、既に水田農業は弱り切っている。
この10年、水田面積は5%減った。西南暖地では15%以上の減だ。
主食用米面積は18%減、水稲の農業経営体数は45%減だ(日農7月21日)。
いずれも西日本の減少率が高い。米供給量の2023/24年と前年を比較すると、全国で14%減、京都以東は13.2%減だが、以西は16.2%減だ(先の「基本方針」の数値に基づく)。
お天気が西から代わるように、水田農業が西から崩れていく。
図3に水田作経営(個人経営)の1時間当たり付加価値(=農業所得+支払い労賃・利子・小作料)をみた。
農業所得だと、水田作経営の全農業経営体の1時間当たり平均は10円!、関東以西は全てマイナスで、図示に忍びないので、付加価値をとった。
結果は西日本を中心に最賃制賃金の2分の1、3分の1以下で、西日本で米をつくる経済的インセンティブはない(関東東山も個人経営としては低いが、平野部では大規模法人経営等が展開している)。
そういう村の人たちに「なぜ米を作るのか」を聞くと、「赤字なのは分かっているが、田んぼを守るためには」という声が返ってくる。
つまり「そこで生きる」ためだが、そう言う人々も老いていく。

注.農水省「営農類型別経営統計」による
価格転嫁論は、それ自体は大切なことだが、農業労働評価(労働コスト)を抜きにしがちだ。
他方で、労働コストをまるまる価格転嫁すると消費者はついていけない。
上来述べてきた適正在庫、備蓄と労働コストの補償を貫く政策として直接支払い政策が欠かせない。
同政策は民主党の米戸別所得補償政策で政党対立の渦中に嵌(はま)ったが、党派を超えて検討すべき課題である。
 

[論説]逼迫する米需給 水田農業の展望示す時

日本農業新聞 2024年8月26日
[論説]逼迫する米需給 水田農業の展望示す時

 小売店で米の欠品が広がっている。2024年産米の出回りが本格化すれば解消される見込みだが、不安に思う消費者は多い。そんな時こそ主食の米を国内で自給する意義を考えたい。長期的な視点で稲作経営を展望できる持続可能な施策が必要だ。
 米は猛暑による等級低下で精米の歩留まりが悪化し、需給が引き締まる。スーパーでは「お一人さま1点まで」などと掲示された店舗が目立つ。気象庁が南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を発表すると、消費者の不安がより高まったようだ。
 過去にも東日本大震災や新型コロナ禍で、一時的に米の買いだめが発生した。主食の米が入手しづらくなると社会に混乱が広がるが、24年産米が出回る頃には騒ぎは沈静化し、危機感は薄れてしまう。だが、一過性の問題として今回の米需給逼迫(ひっぱく)を片付けてはならない。
 農家の高齢化や農産物の価格低迷で、生産基盤の弱体化は進んでいる。23年産の主食用米の面積は124万ヘクタールと10年前から18%減少した。減少幅は東北・北陸などの主産地が1、2割減なのに対し、西日本は3割も落ち込み、地域差は大きい。各県は毎年、減少する需要に合わせて生産量の目安を設定し、いかに供給を抑えるかに苦心してきた。だが、西日本の産地では「生産力が落ち、生産目安を示しても、もはやそれに届かない」と切実な声が上がる。
 都府県では、販売目的で作付けした水稲の農業経営体数は56万7000戸(23年)と10年前より45%も減少した。担い手への農地集約が進むも、生産力や農地の維持は難しくなっている。米卸でつくる全国米穀販売事業共済協同組合は、30年代に米需要を国産だけで賄いきれなくなる恐れがあると警鐘を鳴らす。
 生産者側にとっても米はもうからない品目となり、若い後継者の確保は難しい。再生産可能な米価水準は不可欠だが、急激に上昇すれば今度は消費減の懸念がある。米価の上昇局面にある24年産は、その“落とし所”を探りたい。
 これまで米政策は、需給調整に追われ、長期的な展望を描けずにいた。そうした中、農水省は、食料・農業・農村政策審議会食糧部会を27日に開く。例年にない時期の開催で、生産・需要の長期動向について議論する。直近の需給に関する指針策定を目的した従来の会議とは性格が異なり、注目したい。
 今後、食料・農業・農村基本計画の改定に合わせ、政府は水田政策を見直す。焦点の「水田活用の直接支払交付金」では財政負担ばかり強調されるが、窮地に陥る水田農業をどう維持するか、大局的な視点に立つ必要がある。

日本農業新聞2024年8月6日 オレンジ・牛肉ショック 消費者の選択も原因

日本農業新聞2024年8月6日
[今よみ]
オレンジ・牛肉ショック
消費者の選択も原因

東京大学大学院特任教授・鈴木宣弘氏

 「オレンジ・牛肉ショック」が起きている。ブラジルや米国の天候不順などによるオレンジの不作でオレンジジュースが店頭から消え、価格が高騰し、米国産の供給減と円安、中国などとの「買い負け」で、国産と輸入牛肉の価格が逆転し、焼き肉店の倒産が多発している。
 これらの背景にある根本原因は何か。
(1)米国からの貿易自由化要求に応え続けてきた政策の結果と
(2)「輸入に頼り過ぎている」消費者の選択の結果――だということを認識すべきである。
◁   ▷
 輸入依存構造の大本は、米国からの度重なる圧力だ。
 米国からの余剰農産物受け入れのための貿易自由化は戦後の占領政策で始まったが、日本の自動車などの対米輸出増による貿易赤字に反発する米国からの一層の農産物輸入自由化要求の象徴的な交渉が1977、83、88年の第1~3次「日米牛肉・オレンジ交渉」だった。
 その総仕上げは、2015年の環太平洋連携協定(TPP)合意だ。
 牛肉は最終的に9%まで関税を引き下げ、オレンジの生果とジュースの関税は段階的に撤廃することが合意された。
 米国などから安い輸入品が押し寄せ、競合する温州ミカンなどは壊滅的な打撃を受けた。
 故・山下惣一氏いわく、「日本のミカンは自由化で強くなったとアホなことをいう人がいますがとんでもない話で、現在に至るまでには死屍しし累々の世界があった」(農業協同組合新聞)
 牛肉についても、「国内農家への打撃が懸念されたが、牛肉では危機感を持った畜産農家などが品質向上に努め、世界に知られる『和牛』ブランドが育った」(日本経済新聞)との評価もあるが、今や、35%(飼料自給率を考慮すると10%)前後にまで低下しているのだ。
◁   ▷
 だから、オレンジも牛肉も、ひとたび海外で何かが起きれば、国民が一気に困る状況になっている。
 オレンジ・牛肉ショックはこの現実を見せつけている。
 米国からの畳みかける貿易自由化要求に応じてきた結果であり、発がん性も指摘される防カビ剤や成長ホルモンのリスクも指摘されているにもかかわらず、「見かけの安さ」に国民が目を奪われてきた結果でもある。
 「いつでも安く輸入できる時代」が終焉しゅうえんを迎えている今こそ、身近で安全・安心な国産、地元産に目を向け、農業・農村を支える思いと行動を共有したい。

食料フォーラム2024 「みんなで考えよう! 安全安心な牛乳を飲み続けられるように」

◆NHKプロモーション イベント情報
食料フォーラム2024 「みんなで考えよう! 安全安心な牛乳を飲み続けられるように」
◆イベント概要
酪農家の廃業が相次いでいます。
畜産統計によると、2023年は、前年の酪農家戸数の5.3%にあたる700戸が廃業しました。
酪農家の高齢化に加え、長引く牛乳需要の伸び悩み。
さらに世界的な物価の高騰。
また異常な猛暑による牛の衰弱など、酪農の経営基盤をゆるがす事態が次々と起こっています。
「毎日、牛乳が飲めるように」と、規模拡大などの効率化をすすめ、安価で安全な商品を提供してきた日本の酪農。
しかし、このままでは大倒産時代が訪れると指摘する専門家もいます。
安全で安心な国産の牛乳や乳製品が、いつでも誰にでも手に入るようにするために、持続可能な酪農経営はどうすれば実現できるのか話し合っていきます。

◆イベント情報
日時:2024年9月4日(水)
開場:午後1時 開演:午後1時30分 終演予定:午後3時
会場:イイノホール 千代田区内幸町2-1-1飯野ビルディング4F
主催:JA全中(全国農業協同組合中央会)
共催:NHK

▼観覧申込:参加無料ですが、事前のお申し込みが必要です(先着順)。
下記応募フォームから必要事項を記入のうえ、お申し込みください。
▼食料フォーラム2024 応募フォーム ←
※来場者には新鮮な野菜をもれなくプレゼントします。
※就学前のお子様のご同伴・ご入場はご遠慮ください。
※ご応募の際にいただいた情報は、観覧に関するご連絡のみに使用させていただきます。
▼応募締切:定員に達した時点で締め切りさせていただきます。
▼放送予定:決定次第、ホームページでお知らせします。
▼問い合わせ:「食料フォーラム」事務局
     電話:03-6271-8514 平日 午前11時~午後5時(土日祝除く)
     メールアドレス:shoku@nhk-p.co.jp
◆登壇者:パネリスト
●鈴木宣弘 (東京大学大学院特任教授)
1958年三重県生まれ。東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学教授を経て、2006年から東京大学教授、24年から現職。専門は農業経済学、環境経済学、国際貿易論。日韓、日チリ、日モンゴル、日中韓、日コロンビアFTA産官学共同研究会委員、食料・農業・農村政策審議会委員などを歴任。一般財団法人「食料安全保障推進財団」理事長。主な著書に『このままでは飢える!』『いまだから伝えたい、考えたい「牛乳」のはなし』(共著)など。
●木村純子 (法政大学経営学部教授)
ニューヨーク州立大学修士課程修了(MA)、神戸大学大学院博士前期&後期課程修了・博士(商学)。2012~14年までヴェネツィア大学客員教授。専門はテリトーリオ、地理的表示(GI)保護制度、地域活性化。農林水産省の地理的表示登録における学識経験者等。現在、「乳の学術連合 牛乳食育研究会」副代表幹事。主著は『イタリアのテリトーリオ戦略:甦る都市と農村の交流』『持続可能な酪農:SDGsへの貢献』『南イタリアの食とテリトーリオ:農業が社会を変える』(いずれも共著)。
●浅野達彦 (浅野牧場)
1988年、北海道生まれ。北海道大学卒。釧路市で60ヘクタールの牧場で110頭を飼育。放牧と牛舎を合わせた酪農を営む。休みのたびに祖父の牧場へ行くのが楽しみで、小学校時代に「酪農家になろう」と決めた。若い人たちに酪農の魅力を知ってもらおうと、Youtubeチャンネル「浅野達彦@酪農」開設。また北海道の農業高等学校を舞台に酪農家を目指す若者たちを描いた漫画『銀の匙』を全国の小中学校に寄贈する「全匙プロジェクト」も展開する。
●荒井新吾 (荒井牧場代表取締役)
1961年神奈川県生まれ。1981年、神奈川県立中央農業高等学校卒。乳業関係の会社に勤めた後、Uターンして牧場を継いだ、3代目。現在、約65頭の乳牛を飼育する。牛が食べるエサも可能な限り自前で作付け。地域活性化にも積極的で、「酪農を核とした地域の魅力をつくろう」と2017年、伊勢原市内の酪農家と、「伊勢原産牛乳プロジェクト」を始動。地産地消の“地ミルク”と牛のいる景観など、都市近郊にある酪農のメリットを発信し続けている。
●浅香 唯 (歌手、俳優、タレント)
1969年宮崎県生まれ。1985年に「夏少女」で歌手デビュー。翌86年には「スケバン刑事Ⅲ」で主演を務め、人気を博した。2012年にはNHK大河ドラマ「平清盛」に藤原朝子役で出演。21年からはラジオ日本の「加藤裕介の横浜ポップJ」の水曜パートナーを務めている。現在は毎年恒例のBirthday Liveのほか、ビルボードライブ横浜・大阪などライブ活動を行っている。「牛乳を1日2リットル飲む」という、芸能界きっての“牛乳好き”を自認している。
●コーディネーター:桜井洋子 (元NHKアナウンサー)
1951年新潟県生まれ。明治大学を卒業し、75年、NHKに入局。ニュースワイド、7時のニュース、NHKスペシャルなど、報道番組を25年間務めた。その後、「たべもの新世紀」「NHK俳句」「ハートネットTV」など文化教養番組を15年間担当した。2016年9月からフリーとなり、「ラジオ深夜便」のアンカーや、Eテレ番組などのナレーション、シンポジウムの司会などを随時行う。

NHK PROMOTIONS ALL RIGHTS RESERVED.

 [論点]賀川豊彦に学ぶ 縦糸と横糸 協同実践を

日本農業新聞 2024年7月29日 [論点]賀川豊彦に学ぶ 縦糸と横糸 協同実践を
賀川事業団雲柱社常務理事・刈谷雅夫

 国連が2025年を再び「国際協同組合年」に設定したことは極めて意義深い。
 「協同組合」とは何かについて、その率先垂範実践者であり、多くの人財と組織を育成した賀川豊彦が、いかに「協同組合」が社会改革の最善の施策であるかについて述べたかを改めて共に学び確信を持ちたい。
「国際連盟」に加盟
 日本の協同組合として最初に国際協同組合に加盟したのは、1909(明治42)年東京購買組合共同会である。その後、1923(大正12)年に産業組合中央会が加盟して千石興太郎が中央委員に選出されるなど活動していた。しかし、日中戦争によりイギリス消費組合で日本商品の不買運動が広がり、国内的にも産業組合が次第に戦時体制に組み込まれ、1940(昭和15)年に脱退している。
 戦後、賀川らは「日本協同組合同盟設立準備懇談会」を経て、1945年11月18日「日本協同組合同盟設立総会」を開催。総会の呼びかけは、有馬頼寧、賀川豊彦、千石興太郎、志立鉄次郎の4人でなされ、多くの有志が参加し、その中には、鈴木善幸もおり、協同組合戦線統一は画期的であった。
「中心思想」を著す
 日本が戦時中、国際協同組合同盟(ICA)を脱退した後、灘購買組合の田中俊介が、全国の協同組合からのカンパ協力で1954年パリ大会に参加し、再加盟と原水爆禁止を訴えた。賀川はこの帰朝報告会で田中をねぎらい、「協同組合の中心思想」(利益共楽)(人格経済)(資本協同)(非搾取)(権力分散)(超政党)(教育中心)をその場で書いた。
 この揮毫(きごう)は、賀川豊彦生誕100年記念として複写が全国の希望生協に配布されたが、1995年1月17日「阪神淡路大震災」によりコープこうべの本部が倒壊して現物は消失した。がれきの中に「教育中心」の文字がかすかに見えたとのことだ。
 賀川は、戦後の運動重点として「生命共済の必要性」と「協同組合の立体的協同運動」を提唱し、1947年の松沢生協創設集会で「今日の協同組合運動者は、協同の精神がまだ判っていない。判ったとしてもせいぜい横の協同、平面的な協同しか判(わか)っていない。縦の協同を理解し、縦、横の協同運動をもって、はじめて自衛出来ると心得えなければならない」と述べている。
 現代的に、織物で例えれば、縦糸(協同組合理念)と横糸(それぞれの協同組合の役割・使命)の実践を編み、協同組合間連帯の必要性を説いている。「国際協同組合年」を機に改めて協同組合の果たす役割について学び・実践・発信の「知行一致」に努めたい。

刈谷 雅夫(かりや・まさお)
 1950年新潟県新発田市生まれ、生協の早朝牛乳配達アルバイトより一貫して生協現場47年実践者。92年個人塾「協同組合学舎」を立ち上げ賀川豊彦思想を学ぶ。コープデリ連合会常勤監事退職後、2018年より公益財団法人賀川事業団奉仕。

農業協同組合新聞 2024年7月29日
コロナ禍前比108% 米の需要動向「数年見極め必要」坂本農相

 坂本哲志農相は7月26日の閣議後会見で米の販売量が今年度は前年を上回っているものの、「需要が下げ止まったと判断できるものではない」との考えを示し、引く続き需要に応じた生産が必要だとの語った。
 農林水産省のまとめでは今年5月の販売数量は対前年同月比で小売事業者向けが106%、中食・外食事業者向けが103%となっており、全体では105%となっている。(年間5万t以上の玄米仕入れ量のある販売事業者からの報告、速報値)。


コロナ禍前の2019年5月の販売数量と比較すると108%と1割近い増加だ。

 これについて坂本農相はわが国の人口が減少に転じており「今後も人口減による需要量の減少は確実に見込まれる」として、「現下の需要動向をもって需要が下げ止まったと判断できるものではなく、少なくとも今後数年の需要動向を見たうえで判断すべきもの」と慎重な判断が求められると指摘した。

 そのうえで引き続き需要動向を注視し、「きめ細かな情報提供を行いながら需要に応じた生産を推し進めていく」との考えを示した。


日本農業新聞
2024年7月31日

米在庫156万トン、過去最少 6月末時点 需給引き締まり鮮明|

 農水省は30日、主食用米の需給状況を表す指標となる2024年6月末時点の民間在庫量が156万トンとなり、統計を取り始めた1999年以降で過去最少だったと明らかにした。23年産米の高温障害による歩留まり減や消費の伸びが要因だ。需給が引き締まっている傾向が鮮明となり、米価上昇の局面が続きそうだ。

 同日、農相の諮問機関である食料・農業・農村政策審議会食糧部会で示した。今回の6月末の民間在庫量156万トンは、米業界が適正水準としている180万~200万トンも大きく下回っている。

 同省によると、23年7月~24年6月の主食用米の需要実績は、前年同期を11万トン上回る702万トン。パンや麺類より値上げが緩やかで消費が伸びたことが大きい。近年、主食用米の需要は毎年10万トンずつ減っていたが、需要実績が前年を上回るのは10年ぶりとなる。

 主食用米の需要が増えた分、24年6月末の民間在庫量は縮小した。同省は24年7月~25年6月の需要量を673万トンと想定。24年産が平年作で作付面積が23年産並みだった場合、25年6月末の民間在庫量は152万トンと見通している。

 一方、同省は今回新たな指標として、需要量に対する6月末の民間在庫量の比率を提示した。24年6月末の民間在庫量は、23年7月~24年6月の需要量の22・2%に当たる。同省は「過去にもこの水準の年があった」(企画課)とし、米の需給は逼迫した状況にはないと説明している。

食糧部会、8月に再度 農水省

 農水省は30日、8月下旬に再度、食料・農業・農村政策審議会食糧部会を開くと発表した。米の生産・消費の中長期的な動向を議論する。1日には、全国の農業再生協議会の担当者向けに、今回まとめた米の基本指針に関する説明会を同省会議室とウェブの併用で開く

Jcom 農業協同組合新聞 2024年7月29日
「節約と値上げ」意識調査 若年層の節約意識は引き続き高い傾向 日本生協連

日本生活協同組合連合会は、物価高騰は長期化する中、組合員の食の消費にかかわる「節約と値上げ」の意識について、調査結果を発表。商品の価格だけでなく、コスパ・グラムあたりの価格を見て”安さ”を判断していることが判明した。同調査は5月14日~5月19日、組合員モニターを対象にインターネットで行われ、有効回答数は6536件。
日頃、節約を意識しているか(答えはひとつ)
日頃、節約を意識しているか(答えはひとつ)
 同調査によると、全体の約94%が日頃から節約を意識していると回答。日頃から節約を意識していると回答した人に、回答の理由について尋ねたところ、「モノやサービスが値上がりしているから」(59.9%)が1位だった。2位、3位は「将来の生活に備えて貯蓄するため」(53.3%)、「不況・景気への不安がある」(36.1%)と続き、値上げによる経済不安の影響を受けていることが見て取れる。ここ3か月でどのような項目の節約を行ったかについて尋ねたところ、20代の76.8%が「ふだんの食事」と回答し、昨年の調査より9.7%増加した。

節約を意識する理由(答えはいくつでも)

若年層ほど時短を求めることが判明
 食品を買う際に多少価格が高くても買う理由となるものについて尋ねたところ、2023年11月実施時の結果と変わらず「おいしい」(71.3%)、「国産品」(57.7%)、「添加物不使用・添加物が少ない」(42.0%)がランクイン。4位の「時短できる」(31.2%)については、若年層の回答率が増え、それぞれ20代は3.9%、30代は8.4%増加した。若年層の「時短」における意識の変化が読み取れる。

食費節約のため「セール(特価)のときに買う」が77.0%
 食費を節約するときに選ぶ方法について聞くと、年代別で若年層は「安く買える購入先で買う」(20代:70.9%、30代:74.0%)、「お得な大容量・増量品を選ぶ」(20代:47.3%、30代:42.3%)の割合が高い。一方、シニア・シルバー層では「材料を使い切る・使い切れる量しか買わない」(60代:46.3%、70代:45.3%)、「購入するものを事前に決め、必要なもの以外買わないようにする」(60代:29.0%、70代:33.6%)の回答が、全体と比較すると高い結果となった。
 また、ふだん食料品を購入する時にどのような安さ・価格に惹かれるか聞くと、「コストパフォーマンスが良い(価格に対する品質が良い)かどうか」(57.8%)が1位。2位の「グラム・個数あたりの価格の安さ」(49.5%)は、前回調査に引き続き若年層で高い傾向となり、2023年11月の実施時と比較すると5.2%増加する結果となった。
 節約を強く意識している人は61.6%が同回答を選択し、前回の2位から1位に。商品の価格だけでなく、コスパ、グラムあたりの価格を見て、”安さ”を判断して買い物をする傾向が強まっている。


約6割が、今後も「食費は今と同程度節約したい」と回答
 20代では、「食費は今まで以上に節約したい」という回答の割合は、全体よりも高い結果になった。現在、節約意識の強い人ほど、「今まで以上に節約したい」という回答の割合が高く、節約意識の高い人は、現状の節約では足りないと感じる人も多いのではないかと推測できる。20代では、「食費は今まで以上に節約したい」が39.7%と他の年代と比較すると高い割合となった。一方、「食費は今と同程度節約したい」を回答する割合は49.7%と昨年時よりも11.9%減少した。

[訃報]生活クラブ連合会元会長 加藤好一死去
日本農業新聞 2024年7月18日

 加藤好一氏(かとう・こういち=生活クラブ事業連合生活協同組合連合会元会長)。13日午前7時15分、心不全のため死去。66歳。群馬県出身。葬儀は18日午前11時半から東京都杉並区松庵3の16の2、四季風松庵で親族のみで執り行う。喪主は長女の志保美(しほみ)氏。弔問や供花、香典は辞退。弔電は受け付ける。後日、同連合会主催のしのぶ会を開く。

【訃報】生活クラブ生協連の加藤好一顧問が逝去

農業協同組合新聞 2024年7月17日

写真提供 農業協同組合新聞 2024年4月20日の講演

 生活クラブ事業連合生活協同組合連合会の元会長の加藤好一顧問が7月13日午前、心不全で逝去した。
 享年66歳。葬儀は遺族の意向で親族のみによる告別式として執り行う。弔問・供花は受け付けず、弔電のみ受け付ける。
◯葬儀:7月18日(木)午前11時半~12時半
◯場所:四季風 松庵(〒167-0054東京都杉並区松庵3-16-2 TEL:03-3335‐4445)
◯喪主:加藤志保美(長女)
 生活クラブ連合会によると偲ぶ会については改めて告知するという。
 加藤顧問は農業協同組合研究会が4月20日に東京都内で開いた2024年度研究大会「基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く」で、【報告1】生協とJAの実践から「適正な価格形成」を考える、をテーマに報告し、その後も参加者と積極的な意見交換を行った

[今よみ]日本農業新聞 2024年6月25日
付帯決議の落とし穴 法的拘束力はない
 東京大学大学院特任教授・鈴木宣弘氏

今よみ
 このたびの食料・農業・農村基本法の改定により、農業・農村を救わないことが明確になった。
 農業・農村の疲弊を食い止めるのではなく、それをやむを得ない前提として、わずかに生き延びた経営の成長産業化と企業参入促進により、輸出やスマート農業で利益を上げればよいとする方向性が示された。
 深刻な赤字に 苦しむ現場農家を放置してもいい理由はこうだ。「平時」には輸入先との良好な関係強化と海外農業生産への投資を進め、「有事」には「有事立法」で、支援策でなく、処罰で脅して強制的に増産させれば食料は確保できると。
 こんなことができるわけも、してよいわけもないと、何とか改善したいとの思いで13項目の付帯決議が行われた。その努力には敬意を表するが認識すべきことがある。
 以前も、あるセミナーで主要農作物種子法(種子法)の廃止法への付帯決議について「今後も都道府県に対して予算を確保し、種子が海外に流出したり、特定企業に独占されたりすることのないようにするとの付帯決議がなされたから懸念は払拭されたのではないか」という質問を受けた。
 筆者は「残念ながら付帯決議に実効性はない」「付帯決議は気休めにもならない」「むしろ、実際にはそうはしないということを示している」と答えた。
 付帯決議とは、法律に対する懸念事項に一応配慮したというポーズであり、参議院の公式ホームページでも「付帯決議には政治的効果があるのみで法的効力はありません」と明記されている。
 「政治的効果」とは、賛成側としては「一定の配慮をした」ことを示し、反対した側には、法案は通ってしまったけれど「頑張ったよ」というアリバイづくり、応援者への「ガス抜き」になりかねない。
 危険なのは、与野党がバトルを繰り広げて互いに頑張って、壮絶な闘いの末に一定の成果を上げたというパフォーマンスになり、「手打ちにする」儀式に結果的になることである。
 仮にも、法案の廃案や修正は最初から諦めて、付帯決議を入れるために膨大なエネルギーと時間が費やされて、成果が強調されることになったら、これは、いかに徒労なのかということを当事者も有権者も理解することが重要である。
 付帯決議を入れることを目的化してはならない。
 駄目なものは駄目なのであって、法案本体に対して徹底的に最後まで闘う姿勢を忘れたら反対する意味はない

農業協同組合新聞 2024年7月5日 米需給 ひっ迫感続く 向こう3か月見通しも指数「77」 米穀機構

米穀機構(公益社団法人米穀安定供給確保支援機構)は7月4日、6月の「米取引関係者の判断に関する調査結果」を公表した。

米取引関係者の判断結果

 主食用米の需給についての現状判断DIは前月から6ポイント増えて「85」となり、需給が「締まっている」との見方がさらに強まった。
 向こう3か月の見通し判断DIは前月から1ポイント減ったが「77」と横ばいで、3か月先でも需給が締まっているとの見方が強い。
 米価水準について、現状判断は前月から1ポイント増えて「80」と「高い」との見方が続いている。
 一方、向こう3か月の見通し判断DIは前月から10ポイント減って「63」となった。現時点と比較して「米価水準が高くなる」との見方は減った。
今回の判断を行うにあたって考慮した要因でもっとも多かったのは「米穀の調達状況」で49%だが、前回よりも6ポイント減った。次いで「国内の在庫水準」が34%だが、これは前回よりも4ポイント増え、昨年の出来秋以来ではもっとも高いポイントとなった。
 農林水産省が6月28日に公表した民間在庫量は5月

農村と都市をむすぶ 7月号
改正基本法と食料供給困難事態対策法は食料安保を担保しうるのか
谷口信和

JAcom 農業協同組合新聞 2024年7月12日
【食料・農業・農村/どうするのか?この国のかたち】
石破茂衆議院議員・京大准教授藤原辰史氏に聞く

JAcom 農業協同組合新聞 2024年7月12日
【食料・農業・農村/どうするのか? この国のかたち】
作家・佐藤優氏に聞く 日本の食料安保 水田が根幹 政治への働きかけを

 農業の姿は、言うまでもなくこの国のかたちに関わるる。
 元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は、日本の食料安保の根幹は水田とコメだと指摘する。
 21世紀にあってなお戦争と疫病に苦しむ世界の動向をふまえて私たちの課題を聞いた。

佐藤優氏
作家・佐藤優氏

■食料安全保障が注目される背景

 最近、食料安全保障に注目が集まっています。食料安全保障とは、簡単にいえば国民の食料を確保することが国家の責務だとする考え方です。
 これは国を問わず当然のことであり、決して目新しい発想でありません。
 実際、食料安全保障に関する議論は以前からありました。

 日本で食料安全保障に対する関心が高まったのは、2000年前後からです。
 当時はグローバリゼーション真っ盛りで、ヒト・モノ・カネが世界中を自由に動き回っていました。
 しかし、食料は自然や天候に左右されるので、他のコモディティと違って取引に制約があります。
 そうした中で効率よく食料を買いつけることが食料安全保障の目的とされていました。

 これに対して、現在では食料安全保障の考え方が変わり、経済安全保障の一環として位置づけられています。
 経済安全保障では、ヒト・モノ・カネの移動に制限をかけたり、経済合理性に反したとしても、国益のために確保すべき物資があるとされます。半導体もそうですし、食料もその一つです。

 こうした転換が起こった大きな要因は、ロシア・ウクライナ戦争です。
 ロシアがウクライナに侵攻したことで、ウクライナが穀物を輸出することが物理的に難しくなり、西側連合もロシアによる穀物輸出に規制をかけました。
 そのため、北アフリカや中東の一部諸国で飢餓が発生しました。

 これに追い打ちをかけたのが、イスラエルとイスラムテロ組織・ハマスの衝突です。
 ガザではいまこの瞬間において飢餓が生じています。

 それまで国際社会ではまさか飢餓が深刻な問題になるとは考えられていませんでした。
 イスラエルの歴史学者であるユヴァル・ノア・ハラリは『ホモ・デウス』(河出書房新社)で、人類は昔から飢饉と疫病と戦争に苦しめられてきたが、近年ではこれらの問題をうまく抑え込んでいると記しています。
 ハラリは2018年と2020年のダボス会議で基調講演を務めています。
 ダボス会議は世界の政官財学が集まる超エリートクラブです。
 そこでハラリが講演したということは、人類が飢饉と疫病と戦争を克服しつつあるというのは世界のコンセンサスになっていたということです。

 ところが、新型コロナウイルスの流行によって人類が疫病を克服できていないことが可視化されました。
 さらにロシア・ウクライナ戦争やガザ紛争が起こったことで、人類は戦争も飢餓も克服できていないことが明らかになりました。
 その結果、世界各国で食料安全保障の確立が重要な問題として浮上してきたのです。

■台湾有事が起これば沖縄で飢餓が発生する

 しかし、日本政府が掲げる食料安全保障には問題があります。
 日本の安全保障の司令塔は国家安全保障局(NSS)が担っていますが、ここには情報班や経済班などはありますが、食料班や農業班はありません。
 これでは十分な対策はとれません。

 私が特に気になっているのは、沖縄をめぐる状況です。
 日本政府は台湾有事に備えるという理由で自衛隊の南西シフトを進めており、与那国島を要塞化したり、住民たちを九州に避難させる計画をつくっています。
 しかし、仮に台湾有事が起こった場合、海路も航空路も止まり、物流が途絶えてしまいます。
 そのため、沖縄でどうやって食料を確保するかが重大な課題となります。

 沖縄県の食料自給率はカロリーベースで32%ほどです。
 ここには沖縄県の基幹作物であるサトウキビも含まれています。
 サトウキビを除いた食料自給率はどれくらいかというと、沖縄県議会でのやりとりで6%程度と明らかにされています。非常に低い数値です。

 米に関していえば、沖縄県の1年間の収穫量は1730トン(令和5年)ほどです。
 人間は1日に米を600グラムとれば必要なカロリーを摂取できるとされていますが、沖縄の人口は147万人なので、収穫された米をすべて備蓄に回したとしても、単純計算で2日程度しか持ちません。
 政府は台湾有事に備えるというなら、沖縄に巨大な備蓄基地をつくるべきですが、そういう動きはまったくありません。きわめて不真面目です。

 私の母は14歳のときに陸軍第62師団の軍属として沖縄戦に参加しました。
 壮絶な戦いの中で九死に一生を得ましたが、それでも飢餓で苦しんだ経験はありません。
 沖縄の防衛を担当した第32軍があちこちに地下倉庫をつくり、食料を備蓄していたからです。
 これは私の母親の個人的なエピソードではなく、たとえば法政大学名誉教授の外間守善先生も『私の沖縄戦記』(角川ソフィア文庫)で、地下壕に食料が大量に保管されていたと記しています。

 沖縄戦の準備をしたのは東條英機政権で、実際に戦争を行ったのは小磯国昭政権でした。
 あのような悲劇的な戦いを主導した東條や小磯ですら、少なくとも沖縄で備蓄不足による飢餓は起こさなかったのです。
 こうした歴史を振り返れば、東條政権や小磯政権の方が現在の岸田政権よりもよほど真剣に国民のことを考えていたといわれても仕方ないでしょう。

■JA全中は積極的にロビー活動すべき

 日本の食料安全保障を確立するためには、まずは食料自給率をあげなければなりません。
 鍵を握っているのは、私たち一人ひとりの行動です。
 少々高くても国産品を選ぶという消費行動をとらない限り、食料自給率はあがりません。

 いま日本では経済的に苦しい人が増えているので、国産を選ぶのはなかなか難しいかもしれません。
 しかし、少なくとも米に関しては、消費量自体は減っていますが、自給率はほぼ100%を維持しています。
 いくら値段が安いからといって、外国の米を選ぶ消費者はほとんどいません。
 どうすれば米の消費を拡大できるかを真剣に考える必要があります。
 また、日本の農業の現状を考えても、食料安全保障の現実的なインフラを担えるのは米だけです。
 元農水事務次官の末松広行氏が『日本の食料安全保障』(育鵬社)で指摘しているように、米はカロリーが高く、日本が自給できる作物であり、栽培のノウハウもあります。
 たとえ水田で米をつくり続けなくても、農地として確保して水を引けるようにし、いつでも水田として復活できる状態を維持しておくことが重要です。
 末松氏の試算によれば、1人の人間が米だけで必要なカロリーを得るには、1年に200~220キログラム必要です。
 10アールあたり535キロの米がとれるとすると、2・765人分となります。
 1億2000万人分なら430万ヘクタールの水田が必要になるので、現在の水田面積を倍以上にしなければなりません。
 この政策は経済合理性に反する面があるので、株式会社にはできません。
 これができるのは農協だけです。しかし、そのためには農業に対する補助金を手厚くし、農業者も増やしていくなど、全国各地の農協を組織的に強化していくことが不可欠です。
 政府は防衛費に5年間で43兆円も投じられるのだから、その気になれば簡単にできます。

 そこでネックになるのが政治の理解不足です。
 これはJA全中の力が弱くなっていることも関係しています。
 「全中は時代遅れだ」とか「全中なんて縮小しても構わない」といった声も聞かれますが、全中が政治に働きかけなければ、政治の農業に対する理解はますます後退してしまいます。
 JA全中は圧力団体と批判されることを恐れているのかもしれませんが、農協が政治に働きかけることは日本の食料安全保障の確立につながり、結果として日本全体のためになります。
 JA全中は世の中の批判にひるまず、協同組合論や地域経済の専門家などとも力を合わせながら、積極的にロビー活動を行ってほしいと思います。
 
(インタビュアー 「月刊日本」編集長 中村友哉氏)

JAcom 農業協同組合新聞 2024年6月28日【食料・農業・農村/どうするのか? この国のかたち】連載特集に当たって(一社)農協協会会長 村上光雄

 地球が沸騰化の時代に突入するなか、世界では各地で対立と混迷が深まっている。混迷する世界情勢と日本の未来を見越して問われているのは「どうするのか? この国のかたち」だ。本シリーズでは食料、農業、農村問題はもちろん、政治のあるべき姿やさまざまな政策の方向まで、幅広い視野から有識者らに発信してもらう。今回はシリーズ開始に当たって課題を提起する。
  改正食料・農業・農村基本法が成立しました。迷走する政治資金規正法改正審議の陰に隠れて国民的な関心も盛り上がりもなく国会を通過しました。消費者は度重なる食料品価格の引き上げに悲鳴をあげ、農業者は生産資材価格の高騰に苦しみ続けているのにもかかわらず、であります。
 それではなぜ食と農という国民一人一人にとって最も重要な問題がおろそかにされたのか、また検討審議される中で私の気づいたこと、そして思いを整理し、これからの基本計画作成に反映されることを願うところであります。
 まず政府は最初から抜本的な改正など考えていなかったということです。ロシアのウクライナ侵攻による食料安全保障議論の高まりと自民党からの突き上げにより動かざるを得なくなって、既定路線の延長線上での一部改正しか頭になかったということです。その点戦後農政をしっかりと総括し、様変わりした農業農村、そして環境問題など新たな課題に対応するための抜本的な改正を期待していた私たちとは大きな齟齬が生じたということであります。
 二つには自給率の問題であります。私たちは別に完全自給を要望している訳ではなく、独立国として、また有事に備えてせめて自給率を50%にはしておくべきだと主張しているのです。前法下で45%を掲げ38%に落ち込んでいることへの何の検証もすることもなく新たな指標を検討することは、欺輛とごまかしとのそしりを受けても仕方のない政策であります。自給率のさらなる低下を容認することは我が国が国土防衛のみならず、国民食料まで米国に依存する属国になることであり、独立国のかたちとしてこのままでいいのか猛省すべきであります。

 村上光雄会長
村上光雄会長

 三つ目は農業生産基盤の強化についてでありますが、これではとても生産現場では元気が出ません。
 「有事に対しては平時の対応が必要である」と各学識者から指摘があるのに何ら新しい取り組みは見えない。むしろ全ての補助金に環境との調和が必須条件となり窓口が狭まることが懸念されます。
 耕作放棄地の拡大を阻止することが喫緊の課題でもあるのに出口は見いだせず、このまま推移すると中山問地域の農地のほとんどが獣の住み家と化すことは明白であります。

 四つ目は担い手の問題であります。多様な担い手が認められたことは一歩前進でありますが、審議の中で強固な抵抗があったことが気にかかります。
 企業参入、企業的経営も否定はしませんが米国型の外国人労働者に依存した経営には疑問を感じますし、ましてや全ての農地をカバーできるわけがありません。
 また新規就農者確保も重要ではありますが、むしろ現在現場で悪戦苦闘している担い手に対して支援していくことがより有効であり先決されるべきであります。

 五つ目は価格転嫁の問題です。生産資材価格の高騰を受け、この度の目玉ともなり取り上げられたことは成果であったと思います。
 しかし、その一方で振り回された感がします。そもそも価格転嫁は必要ではありますが、相手のあることであり簡単にはいきません。
 現に法制化も検討されているが複雑で多くのエネルギーとコストのかかることが予測されます。
 となるとやはり生産者と消費者の相互理解に立ち返らざるを得ないように思います。
 普段の交流が重要でありますし、どうしても埋まらない溝は国が直接支払いするのが筋であります。

 最後に今回の重要な柱である食料安全保障について。
 いろいろ議論される中で輸出を振興し有事には国内向けに切り替えればよいとされています。
 しかし、よく考えてみるとこれは輸出国の論理であり、大量の輸入国である我が国が多少輸出が増えたからといって言えることではなく、まったくの詭弁であります。
 まずは我が国の自給率を少しでも高めることであります。

 以上私の感じたこと思いのままに書いてみました。
 そして私たちの農業そして地域を守っていくにはJAを中心に結集するしかないことを確信いたしました。
 先日もJAの支店で農業用資材廃棄物回収があり使用済みの肥料農薬袋そしてビニールなどを積んだ軽トラが列をなしていましたが、職員がテキパキと対応しスムーズに処理されました。広域合併をしましたが支店を中心にして農業と環境、地域を守る活動を展開し頑張っています。

 そして第30回JA全国大会に向けての組織協議も始まりました。地域に根差したJAとしてJA綱領にあるように「地域の農業を振興し、我が国の食と緑と水を守ろう」の気概をもって大会議案作成に取り組んでいただくことを切望します。

2024年6月30日 日本農業新聞
[論説]食育白書と農業 地域連携で理解促そう

 農林漁業の体験が減り、産地を意識して食品を選ぶ人の割合が下がっていることが2023年度の食育白書で分かった。農業の振興には、食べて産地を応援したいという意識を高めることが不可欠だ。
 食育をテーマに地域が連携し、農業の応援団を増やそう。
 白書は「農林水産業に対する国民理解の醸成」を特集、農業体験などの食育や地産地消の取り組みを官民が協働して進めるべきだと指摘した。
 世界的な人口増や気候変動による食料逼迫(ひっぱく)、資材価格の高騰で、食料安全保障のリスクは増している。
 このような時こそ国産や地場産を食べて支える消費者の役割は高まっている。
 だが、「農林漁業体験を経験した国民の割合」は目標の70%に対して63・2%と3年間で2・5ポイント下がり、実体験が減っている。

 自分たちの食べ物がどのように作られているのか、生産現場を知る機会がなければ、食への興味は湧きづらい。「産地や生産者を意識して農林水産物・食品を選ぶ国民の割合」は67・4%と6・1ポイント減、「環境に配慮した農林水産物・食品を選ぶ国民の割合」も60・2%と6・9ポイント減った。
 物価高騰が加わり、購買行動へ影響が出ている。
 JAは女性部や青年部が中心となって親子を対象に田植えや料理教室など多彩な農業体験を展開する。
 食育は、子どもたちのしなやかな心に農の種をまく。
 大切な取り組みで今後も続けてほしい。

 一方、活動が負担でマンネリ化が課題となっている場合は、地域の関係者との協働を模索してはどうだろうか。
 JA東京むさしでは農家や学校、栄養士、市役所などとコミュニケーションを密に取り、小・中学校の給食に使う青果の地場産率を30%以上に高めた地区もある。
給食向けの品種導入や「プラス1畝」の作付け増、農業体験、JA職員の出前授業も行う。
 農業と食育の同時振興という明確な方針が活動を支える。
 地場産麦を使った麦ご飯、イノシシ肉などを活用したジビエ、乳製品など地域の特産を生かした給食や食育も有効だ。
 白書では、「郷土料理や伝統料理を月1回以上食べている国民の割合」が目標の50%を上回り、食にまつわる物語を求めていることがうかがえる。
 文部科学省は、学校給食への地場産食材の活用を促そうと、課題解決のための経費を支援している。
 栄養教諭の配置も増え、助成や人材をうまく活用したい。
 コロナ禍を経て食育活動が各地で復活する中、家庭で余った食品を寄付する「フードドライブ」や子ども食堂が各地に増えている。
 食をきっかけに地域が連携し、農業の理解者、支援者を増やそう。

毎日新聞 2024年6月28日【インタビュー】オレンジジュースが問うもの 鈴木宣弘・東京大大学院特任教授

 オレンジジュースが店頭から消えたり、価格が高騰したりする「オレンジ・ショック」==が広がっている。世界的なオレンジの供給不足が原因だ。しかし農業問題に詳しい東…
mainichi.jp

自動車など製造業の輸出を増やすため、農業を犠牲にし、食料は海外から安く買えばいいという経済政策の前提は崩れた。食料は安全保障の要。そのための国家戦略が欠如。武器を買うことだけが安全保障なのか。食べる物がなければ国民の命は守れない。トマホークをかじって生き延びろと言われているようなもの。

毎日新聞
2024年6月28日
【インタビュー】
オレンジジュースが問うもの 鈴木宣弘・東京大大学院特任教授
朝刊政治面 毎日新聞2024/6/29 東京朝刊


オレンジジュースが店頭から消えたり、価格が高騰したりする「オレンジ・ショック」が広がっている。
世界的なオレンジの供給不足が原因だ。しかし農業問題に詳しい東京大大学院の鈴木宣弘特任教授は「そもそもの背景は食料を輸入に頼り過ぎているからだ」と訴える。今回の騒動から何が見えるのか。【聞き手・宇田川恵】
海外頼みは限界/穀物備蓄増やせ/食料は安保の要
 ――オレンジジュースが買いにくくなっているのはなぜですか。
 ◆原産地のブラジルや米国が天候不順などで不作だからです。しかし根本的な原因は、日本が食料を輸入に頼り過ぎていること。オレンジは日米貿易交渉で1988年に輸入自由化が決定しました。安いオレンジが大量に流入し、温州ミカンなどが壊滅状態となり、国産ミカンは激減してしまった。だから海外で何か起きれば一気に困る状況になっているのです。
 ――食料政策の誤りだと?
 ◆そもそも日本は、自動車など製造業の輸出を増やすため、農業を犠牲にする経済政策をとってきました。食料は海外から安く買えばいいという姿勢で、その結果、経済が発展したとも言えます。
 しかし今や、異常気象が頻発し、世界中で農産物の収穫が不安定化しています。戦争も相次ぎ、ロシアによるウクライナ侵攻で分かったように、戦争が起きれば食料は急騰し、物流も滞ります。さらに中国が世界中で食料を買い集め、日本は買い負けています。
 つまり、お金さえ出せば食料はいつでも海外から安く買えるという前提は崩れているのです。
 ――そんな状況でも、日本の明確な戦略は見えません。
 ◆どんな国も食料の確保を重要政策とし、農家を保護しています。しかし日本は主食のコメでさえ、農家に減反を迫り、生産を抑えてきました。今年はコメ不足だと大騒ぎですが、大きな背景はコメ農家が減っていることです。多くは赤字で食べていけないのに、国は放置したままです。
 食料が不足すれば国民を守れない。食料は安全保障の要です。そのための国家戦略が欠けている。
 ――政府は年間10兆円超の防衛費を目指していますが。
 ◆米国から武器を買うことだけが安全保障なのでしょうか。武器があっても、食べる物がなければ国民の命は守れません。
 中国は今、14億人の国民が1年半食べる穀物を備蓄しようとしています。一方、日本の穀物の備蓄はせいぜい1カ月半ぐらい。もしコメの備蓄を今の5倍の500万トンに増やせば、費用は年約1兆円で防衛費より小さい。有事には国民を守れるうえ、コメの生産を促して農業の疲弊も止められます。
 今のままでは、国民は巡航ミサイル、トマホークをかじって生き延びろ、と言われているようなもの。この現状に気づくべきです。
日本の食料自給率38%
 食料の多くを輸入に依存してきた結果、日本の食料自給率はカロリーベースで38%まで落ち込んでいる。戦後には約70%だったが、今や主要国で突出して低い状況だ。
 鈴木さんによれば、そもそも38%という数字自体にも疑問がある。農産物を育てるには肥料が必要だが、日本は肥料のほぼすべてを輸入に頼っている。また野菜の場合、種の約9割が輸入だ。日本の野菜の自給率は約80%とされるが、種を輸入できなければ8%程度、肥料の輸入も止まれば4%程度に下がってしまう。「最悪の場合、実質的な日本の自給率は10%に満たなくなるでしょう」
 安いものに飛びつきがちな消費者の行動も輸入依存を招く。私たちにできるのはもっと国産品を使うことだ。国産なら安全性が確認しやすいうえ、地元産を買えば地域の活性化にもつながる。「国産は多少高くても、長い目で見れば地域や子供を支えることになり、決して高くないはずです」と鈴木さん。消費者の一歩が現状を変えるきっかけになるかもしれない。


■人物略歴
鈴木宣弘(すずき・のぶひろ)氏
 1958年、三重県生まれ。東京大農学部卒後、農林水産省入省。九州大大学院教授などを経て、2006年から東京大教授。専門は農業経済学。「国民は知らない『食料危機』と『財務省』の不適切な関係」(共著)など著書多数。
鈴木 宣弘: SUZUKI  NOBUHIRO
学位/職位:博士(農学)(東京大学)/特任教授
所属:大学院農学生命科学研究科 水圏生物科学専攻水圏生産環境科学講座
専門分野:農業経済学
研究テーマ:東アジア共通農業政策構築の可能性
研究テーマに関するキーワード:農業政策,農業経済
所属サイトURL:http://www.a.u-tokyo.ac.jp/index.html

 オレンジジュースが店頭から消えたり、価格が高騰したりする「オレンジ・ショック」==が広がっている。世界的なオレンジの供給不足が原因だ。しかし農業問題に詳しい東…
mainichi.jp

農業協同組合新聞 2024年6月18日
市中相場の急落と量販店での安値一斉販売【熊野孝文・米マーケット情報】

出来秋からほぼ1本調子で値上がりしてきた5年産米のスポット価格は6月5日に上げ止まったかに見えた瞬間、あっという間に下落、2日間で2000円、産地銘柄によっては3000円がらみ値下がりするという大きな値動きがあった。現在は小康状態を得ているが、下げ止まっているとは言えない状態。5年産米のスポット価格は6年産米の価格に直接影響するだけに新米が出回るまでにどのような値動きになるのかこれまで以上に関心が高まっている。

komemarket_1600_900.jpg

 全米販が組合員向けに発したスポット価格高騰に対する「注意喚起文書」(既報)の中に「もうはまだなり まだはもうなり」という相場の格言が引用されていた。
 相場の格言の多くは江戸時代から続くコメ先物取引の中から生まれたものが多く、単に価格変動要因や先行きの予測を言い現わすものにとどまらず、中には人生訓に通じるものさえあるので現在でも脈々と引用されている。
 その意味では、「もうはまだなり まだはもうなり」という格言も実に奥が深い。
 今のコメのスポット価格高騰で言い表すと、この文書が発せられたのが5月28日で、その時は秋田あきたこまちや新潟コシヒカリと言った全国銘柄ばかりか関東コシヒカリも2万5000円を超えるまでになっていた。
 その時の仲介業者や卸などコメの当業者の見方のなかには「このままいくと6,7月はさらにひっ迫感が増して3万円を超えるのではないか」という予想まであった。
 天井価格は「まだ」という見方であったのだが、現実は6月5日天井を打った形になった。
 それがあまりにも突然でしかも大幅な値下がりであったことから市中でも情報が錯綜した。

 値下がりの要因については
 ①卸が端境期までの玉手当の目途が付いた
 ②田植えが終わって生産者が手持ちのコメを売りに出した
 ③農協との5年産長期契約の引き取り期限が6月末で、余りそうな玉を市中で換金し始めた
 ④農水省より6年産主食用米の作付けが増えるという動向が発表された。
 これが心理的に影響した。ーなどなど。

 6年産米との関係でいうと早場の南九州のコシヒカリの走り価格は2万円が基準になるものと予想されており、昨年の走り価格より5000円がらみ高いが、現在の5年産関東コシヒカリの価格より3000円がらみ安い。
 このままの相場水準で推移すると新古逆ザヤスタートになるわけで、そうならないように5年産の価格が下落することによって年産格差が正常になるように現物市場でサヤ(鞘)運動が起きていると捉えることが出来る。
 南九州の早期米は量が少なく、新米価格の位どころを決めるには役不足だが、千葉の早期米の価格について地元の卸は「2万円」を目途に予測している。
 最も早いふさおとめは6月11日に幼穂形成期を迎えており、2か月後には刈り取りが可能になる。
 60㌔2万円の玄米を仕入れて精米して販売するとなると店頭価格は5㌔2280円になる。
 そんな高い価格で量販店側と値入交渉できるかと問うたところ「新米が出回るころには併売する5年産などないからそれで大丈夫だ」との答え。
 そう答えたのが有名なディスカウントに白米を納入している卸なので2重に驚いた。
 要するにコメ卸業界も上げ賛成でこの際利益が出る価格で精米を販売したいということなのだろう。

 驚くのは生産者も同じで、千葉の早期米の集荷業者の中では最も多くの数量を扱う業者のところに最近農家が籾で150俵を持ち込んできた。
 業者側が買取価格を示したところあまりの高値に驚いていたという。
千葉の生産者は相場に敏感で高いところに売るというのが基本だが、それでも現在の一種異常とも思える高値は予想を超えるものだったようだ。

 予想を超える動きとしては6月第一週に大手量販店に一斉に5kg1880円の精米がレジの近くに置かれていたことで、納入業者は違うがいずれも広域卸で、示し合わせたように同じ産地銘柄を同値で販売した。
 それだけでなく中堅スーパーでは中部圏の卸が石川のコシヒカリを5㌔1880円でレジ前に山積み、それを5袋も買う人もいた。
 また、全農系卸は千葉の粒すけの無洗米を5㌔1799円で販売し始め、いずれもどこにしまっておいたのかと感心した。
 こうした芸当が出来る大手卸はそれだけ長期的スパンで玉揃えしていたということなのだろうが、ここでも驚く話がある。
 冷凍や総菜原料用のコメの扱いが多い卸は「5年産に切り替えたのが先月からだ」というのだから卸の懐の深さをいまさらながら知った思いがした。
 そうしたことがより良くできるようになったのも周年安定供給対策のおかげである。
 今年の3月末まで国が4年産米の保管料を支払ってくれたのだから卸の在庫負担はゼロである。
 5年産を同様の方法で在庫しようと契約し始めた産地と卸に対してその分は前倒しで販売しなさいという指示があったら5㌔1880円で販売することも出来るだろう。

日本農業新聞 2024年6月9日
米スポット取引価格 高騰なぜ

流通量不足 利ざや期待の業者も

 米の需給逼迫(ひっぱく)を受けて、スポットで米を手当てする業者間の取引価格が前年比7、8割高と急騰している。ただ、スーパーの店頭価格や大部分の取引価格は小幅な上げにとどまり、米を巡る値動きの違いに産地や流通業者では戸惑いが広がる。米の流通で何が起きているのか探った。
 米の情報調査会社・米穀データバンクによると、スポット市場での主力銘柄の秋田「あきたこまち」の5月末時点の60キロ価格(税別)は2万5500円で、9月から7割上げた。青森「まっしぐら」が2万3000円、茨城「コシヒカリ」が2万4500円となるなど、軒並み異例の高水準だ。一方で、産地と卸間の相対取引は9月以降横ばいで、スーパーの店頭価格も数百円の上げにとどまる。
 なぜスポット相場だけが急騰しているのか。スポット取引で売買される銘柄は実需との契約が済んでいない米だが、現状そのような米はほとんどない。猛暑の影響を強く受けた2023年産米の流通量が少ないからだ。しかし、不足感から米を欲しがる業者は多い。市場関係者は「売り手が出た瞬間に取引が成約となってしまい、米が取り合いになっている」と明かす。
 相場に先高観が出ていることも価格がつり上がる要因だ。業界関係者は「利ざやでもうけようとするブローカーがいる他、相場上昇を見越して売り渋る動きが品薄に拍車をかけている」と話す。

店頭は安定 相場独り歩きに懸念

 ただ、スポット市場で取引される米の量はわずかだ。
 国内のスポット市場で取り扱われている米の量は年間需要量の数%に過ぎない。大手米卸は「スポット価格はあくまで局所的な数字。23年産米全体の相場ではない」と指摘する。
 多くの生産者、卸、スーパーなどは、安定した取引を望んでいる。スーパーの店頭を見ても、相対価格の値動きに比較的沿った価格設定となっている。米流通の大部分では、スポット市場の価格のような混乱は起きていない。
 24年産米価格の居所に注目が集まっている。現状の米価は上向いているものの、高止まりする生産コストを転嫁する途上にある。産地関係者には「急騰するスポット相場が独り歩きして主食用米を増やす動きが広がれば、米価が急落しかねない」とした懸念がある。
 持続的な米の生産に向けては、長期的な視点で農家所得を向上させることが重要となる。

将来の米需要 国産で賄えず 「30年代にも」全米販試算

日本農業新聞 2024年6月13日
将来の米需要 国産で賄えず 「30年代にも」全米販試算
生産基盤弱体化に警鐘
 米卸でつくる全国米穀販売事業共済協同組合(全米販)は12日、2030年代にも国内の米需要量を国産で賄えきれなくなるとの試算結果をまとめた。
 生産基盤が弱体化していることに対し、米の流通業界が危機感を示した形だ。
 全米販として生産支援や需要拡大などを通じて、米市場の維持拡大を目指す。
 今回の試算は、現状の問題に何も手を打たなかった場合の「最悪のシナリオ」を想定し、日本総合研究所と連携してまとめた。
 40年の需要量が20年比で41%減の375万トン、生産量は同50%減の363万トンになるとした。
 人口減少に伴い需要量も減少するが、それを上回るペースで稲作農家の高齢化や離農による生産減少が進む。
 30年代にも国産で需要を賄いきれなくなる可能性があると警鐘を鳴らした。

農業協同組合新聞 2024年6月13日
飼料用米 支援水準引き下げで主食用増を懸念 増加意向県

 農林水産省がまとめた24年産水田の4月末時点の作付意向調査結果では、11県が主食用米の作付けについて「前年より増加傾向」と回答した。
 1月末時点の5県から6県増えた。
 県の再生協などに聞くと需要に応じた作付けとは必ずしもいえず、一般品種の飼料用米支援単価の引き下げを指摘する。
 主食用米の作付け過剰とならないよう6月末の営農計画書提出まで加工用米、飼料用米などへの転換を呼びかけている。
 宮城県のJAによると飼料用米の作付意向の面積は前年産の5割程度となっているという。
 宮城県の宮城米推進課によると4月末の「あくまでも意向調査」としたうえで、主食用米の作付け面積は前年産の1%超の増加傾向だったという。
 担当者は「飼料用米の支援単価の見直しの影響は大きい」と話す。
 大豆等で転作に対応してきた生産者は引き続き同様の取り組みをしていると見られるが「一般品種で飼料用米として転作してきた生産者は、経営判断で主食用を作付けることもあるのでは」と認める。
 一般品種への支援単価は24年産から標準単価が10a当たり5000円下がり、同7.5万円となる。
 25年産は同7万円、26年産は同6.5万円と段階的に引き下げる。
 多収品種の飼料用米専用品種への作付け転換を推進するためだ。

 宮城県では水稲が作付けられた後、需要に応じた主食用米の作付けとなるよう加工用米や輸出用米、さらに飼料用米への転換を引き続き推進しているが「前年並みになるのは難しい」ともらす。
 栃木県は1月末時点では「前年より減少傾向」だった。
 それが一転して「前年より増加傾向」に。
 県再生協によると業務用需要などの引き合いが強まったなど動きではなく「在庫不足という情報の影響ではないか」と見る。

 そしてもう一つ指摘するのが、やはり飼料用米への支援水準の引き下げだ。
 米のスポット取引価格の高騰などが伝えられるが「需給全体にどれほどのウェートを持つ話しなのか分からない」と指摘し、需要をしっかり把握することが重要だと話し、JAなど関係機関とともに需要に応じた米の生産を働きかけていくという。
 一方、JA全中によると「全中と全農の調査では主食用米の作付け動向は全体として昨年と同様。
 増やすという県がある一方で減らすという県がある」(全中・馬場専務 6月6日の定例会見)としている。
 営農計画書の提出期限の6月末まで需要に応じた生産となるよう「働きかけをしていきたい」(山野全中会長)と例年と同様の取り組みを進める。

農業協同組合新聞 2024年6月7日 コラム
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】コメ不足は「3だけ主義」と政策のツケ

コラム
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】コメ不足は「3だけ主義」と政策のツケ
農業協同組合新聞 2024年6月7日
一覧へ

 今、急速にコメ不足が顕在化しているという。いろいろな要因はあろうが、根底には、稲作農家の平均所得が1万円(時給にすると10円)というような事態に追い込んでいる「今だけ、金だけ、自分だけ」の「3だけ主義」の取引とコスト高に対応できない政策の欠陥だと思う。
 買いたたきビジネスはやめるべきである。買いたたいて農家が苦しくなって生産が激減したら自分たちもビジネスできなくなる。それが今起こっている。消費者も安ければいいと思っていたら、食べるものがなくなってくる。
 カナダの牛乳は1リットル300円で、日本より大幅に高いが、消費者はそれに不満を持っていない。筆者の研究室の学生のアンケート調査に、カナダの消費者から「米国産の遺伝子組み換え成長ホルモン入り牛乳は不安だから、カナダ産を支えたい」という趣旨の回答が寄せられた。農家・メーカー・小売のそれぞれの段階が十分な利益を得た上で、消費者もハッピーなら、値段が高く困るどころか、これこそが皆が幸せな持続的なシステムではないか。「売手よし、買手よし、世間よし」の「三方よし」が実現されている。
 日本では、「三方よし」でなくては持続できないことがわからないのだろうか。社会全体がそうだ。今や、日本は、労働を買いたたき、先進国で唯一何十年も賃金と所得が下がり続け、先進国で貧困率が一番高い米国を抜いて1位になってしまったどころか、国連の飢餓地図(Hunger Map)で、アフリカ諸国などと並んで、栄養不足人口の多い国(ピンク色以上)の仲間入りをしている。ここまで、「3だけ主義」で一部の人だけが儲ける構造が進んで人々を苦しめている。このままでは日本社会が持続できなくなる。
 買いたたきの問題を数値で確認しておきたい。筆者らは、農業サイドと小売サイドの取引交渉力のパワー・バランスを0(農家が完全に買いたたかれている)から1(農家が完全に優位な価格を実現している)までの数字で計算する手法も開発した。つまり、0.5が対等な交渉関係にあることを示し、0.5を下回っていると農業サイドが買いたたかれているということだ。
 様々な品目で計算したが、ほぼ全ての品目で、0.5を下回った。つまり、総じて、農家が買いたたかれていることが数字でも確認された。農協や漁協の共販、生協の共同購入とか、協同組合の力は農家の価格を引き上げるために大きな貢献を果たしていることも同時に計算できた。例えば、農協の共販の力で、米は60kg当たり3,000円、飲用乳価は1kg当たり16円の引き上げ効果がある。協同組合の役割は重要だということがよくわかる(拙著『協同組合と農業経済』(東京大学出版会、食農資源経済学会賞・JA研究賞受賞、2022年)。
 けれども、0.5を下回っているということは、まだ押されているということだ。ある仲卸業者がこんなふうに言っていたそうだ。「農家に払う価格はどう決まるかというと、単純に言えば、大手小売がいくらで売るかなのだ。それが決まると逆算して買ってくることになるから、悪いけれども、農家のコストは関係ない」と。
 これが大手流通のベースだとしたら、大手流通に取り込まれていたら現場の努力は報われない。ここを抜本的に改革するために、新たな流通ネットワークを含めてどうするかということが消費者、国民全体に問われている。
 もう一つは政策だ。基本法改定の議論でも、「現場への直接支払いは十分行っており、これ以上何も必要はない。それで潰れるなら潰れろ」というような姿勢が示された。収入保険は過去5年の平均収入より減った分の81%を補てんするが、売り上げだけだから、今回のようにコストが2倍近くに上昇してもそれに対応できない。
 農家が継続できる支払額が達成できていない。しかし、消費者もこれ以上高くなっても苦しい。そのギャップを埋めるのこそ政策の役割だ。一刻も早く、欧米のように、生産者への直接支払いの拡充が急務になっている。それなのに、25年ぶりに農業の「憲法」を改訂してまで「何もしない」と宣言してしまった。みんなの力で何とかしないといけない。

[基本法改正 食と農はどこへ]①~⑤ 日本農業新聞

2024年6月7日
[基本法改正 食と農はどこへ]➄農村政策 人口減少、描く未来は
 農村人口の減少で、2050年には30万~70万ヘクタールで営農継続が危ぶまれる--。農水省が農業・農村の行く末を分析する中で、こんな数字をはじいた。
 農業で生計を立てる「担い手」の減少が叫ばれるが、高齢化の波は担い手以外の農家により激しく押し寄せる。あぜ草刈り、溝さらえ、水路補修……。地域農業を支える農村の共同活動は立ちゆかなくなりつつある。
 改正食料・農業・農村基本法は、担い手以外の「多様な農業者」が果たす役割への配慮を規定。「担い手育成に逆行する」と議論を巻き起こした条文だが、同省幹部は「これ以上、リタイアしてもらっては困るということだ」と解釈してみせた。


 「多様な農業者」を後押しする政策として同省が挙げるのが、多面的機能支払いや中山間地域等直接支払いといった共同活動への支援だ。ただ、人口減が進む中、既存の仕組みの限界を指摘する声は多い。政府は作業代行や人材派遣などの「サービス事業体」育成を打ち出すが、中山間地域を含めたサポート体制の構築も課題となる。
 人口減は農業インフラにも影を落とす。同省によると標準耐用年数を超えた基幹的な用排水施設は6割。地域で合意形成がままならず、更新が遅れ、老朽化による突発事故も相次ぐ。政府は計画更新を進めるため、国などが主導して事業実施を可能とする土地改良法改正案を来年の通常国会に提出する方針だ。
 だが--。3月下旬、自民党元幹事長の二階俊博が派閥の裏金事件を受け次期衆院選への不出馬を表明し、関係者に激震が走った。全国土地改良事業団体連合会会長を務め、国土強靭(きょうじん)化政策の旗振り役の引退は「当然(農政に)影響がある」(党農林幹部)。政府の国土強靭化5カ年計画も終わりに近づき、土地改良予算は岐路にある。

 「ここにきて自分を肯定する気持ちが生まれた」。首都圏から高知県の集落に移住した男性(33)の言葉だ。農村に魅力を感じる若者は少なくない。
 「地域社会の維持」を掲げた改正基本法。農村を守り継ぐビジョンを描けるか。いよいよ食料・農業・農村基本計画の作成が始まる。(敬称略・おわり)
 (北坂公紀、本田恵梨、松本大輔、溝口恵子、宮本卓が担当しました)

※[基本法改正 食と農はどこへ]食料安保の確保を基本理念とする改正基本法が成立した。改正に至るまでの背景や今後の論点を追う。(5回掲載)
#1 食料安保 党主導で農政転換へ
#2 環境調和 負荷軽減待ったなし
#3 価格転嫁 利害調整が成否の鍵
#4 水田政策 持続可能な道筋模索
#5 農村政策 人口減少、描く未来は


農業協同組合新聞 2024年6月5日 米価格の急騰がもたらす後遺症 市場の縮小と水田農業の衰退 熊野孝文

◆日本農業新聞 2024年6月6日 [基本法改正 食と農はどこへ]➃水田政策 持続可能な道筋模索

2024年5月21日 朝日小学生新聞 生卵の保存は常温?冷蔵? 疑問解決なるほどね!

2024年5月23日 日本農業新聞
政治・農政に関する意識調査 本紙読者モニター調査結果

◆メディア掲載グローバルエコノミー週刊農林20240325_20240405_202404 15_20240425食料農業・農村基本法見直し1_4


日本農業新聞 2024年5月13日 【ニュース】米のスポット価格が急騰 あきたこまち、まっしぐらが異例の2万円超え
◆◆農業協同組合研究会は4月20日、東京・日本橋の「サロンJAcom」で2024年度研究大会「基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く」を開催しました。
◆農業協同組合新聞2024年4月24日【報告3】コウノトリがつなぐ地域と農業 JAたじま常務理事 西谷浩喜氏
◆農業協同組合新聞 2024年4月24日【報告2】多様な担い手育成を通じた地域農業振興 JA常陸代表理事組合長 秋山豊氏
◆農業協同組合新聞 2024年4月23日【報告1】生協とJAの実践から「適正な価格形成」を考える 生活クラブ連合会顧問 加藤好一氏
◆農業協同組合新聞 2024年4月23日【解題】基本法改正は食料安保をめぐる現場での課題にどう応えようとしているのか 谷口信和東大名誉教授
◆農業協同組合新聞 2024年4月22日【2024年度研究大会】基本法改正の下 「わがJAと生協はこの道を行く」を開催

◆◆ [どうする転作’24]5回連載
◆日本農業新聞 2024年4月23日
  [どうする転作’24]➀ 飼料用米 専用品種へ全量転換 種もみ増産 県も後押し
◆日本農業新聞 2024年4月24日
  [どうする転作’24]② 大豆・麦 輪作を軸に収量安定 価格は下落 水張り負担も
◆日本農業新聞 2024年4月30日
  [どうする転作’24]➂ WCS用稲 粗飼料需要に応える 栽培意欲高める助成が鍵
◆日本農業新聞 2024年5月3日
  [どうする転作’24]➃ 輸出用米 伸びしろ見込み増産 品質そろえ品目調整可能に
◆日本農業新聞 2024年5月4日
  [どうする転作’24]⑤ 24年産見通し 主食米に揺り戻し警戒 堅調米価、飼料用は助成減

「養豚の友5月号」「養鶏の友5月号」  発行所:日本畜産振興会
  第10回 飼料用米普及のためのシンポジウム2024 開催記事が掲載されました
 
 
日本農業新聞 2024年4月25日
 子実コーン大幅増は「困難」 衆院農水委で農相
東京新聞 WEB 2024年4月26日 09時26分 (共同通信)
 東証65円高、一時小幅値下がり 午前9時15分現在

日本農業新聞 2024年4月19日
 [農政の憲法]基本法改正案に付帯決議,脱輸入依存、国産増を、衆院農水委

日本農業新聞 2024年4月16日
 短絡的な「成長産業化」 農村崩壊前提の誤謬(ごびゅう)
            東京大学大学院特任教授・鈴木宣弘

農業協同組合新聞 2024年4月10日
 環境シンポジウム「食・環境・農薬 沈黙の春62年後の現実」 名古屋で開催

日本農業新聞 2024年4月8日
[注目あぐりデータ] 主食用米などの作付け面積

日本農業新聞 2024年4月9日
[論説] 「国消国産」運動の推進 農業の今考える契機に

日本農業新聞 2024年4月8日
 [ニュースあぐり]どうする畑地化  5年限りの助成、経営課題に

日刊毎日経済通信 第13639号 令和6年3月27日(水曜日)
  第10回飼料用米普及のためのシンポジウム開催 2P
  日本飼料用米振興協会農業基本法改正で政策提案 2P

   (飼料用米、農業政策に関する報道記事を読む – J-FRA
農機新聞 2024/4/1 2024年(令和6年)4月2日付け
 日本飼料用米振興協会、飼料用米普及シンポ
農村ニュース 2024年4月2日
 国内生産拡大求める 飼料用米シンポ基本法改正へ提言

日本農業新聞 2024年4月3日
 [論説]酪農家の戸数減 国を挙げて離農を防げ

農業協同組合新聞 2024年3月12日 ➡ 4月20日のお知らせ
 「基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く」4月20日に研究大会開催 農業協同組合研究会

農業協同組合新聞 2024年3月28日
 【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】なぜ多様な農業経営体が大切なのか

◆日本農業新聞 2024年3月28日
 [論説]食料自給率の目標 達成へ「本気度」を問う

日本農業新聞 2024年3月22日
 飼料用米多収コン 受賞者に聞く

日本農業新聞 2024年3月22日
 飼料用米多収コン 農家・団体を表彰

農業協同組合新聞 2024年2月29日
 豚に与える飼料用米給餌量を約1.2倍に「日本の米育ち 平田牧場 三元豚」共同購入 生活クラブ

農業協同組合新聞 2024年3月28日
 飼料用米を食料安保の要に 飼料用米振興協会が政策提言

農業協同組合新聞 2024年3月4日
 飼料用米 多収日本一 過去最高の974kg 美唄市の山口さん

農業協同組合新聞 2023年12月13日
 秋川牧園「第24回グリーン購入大賞」農林水産部門で「大賞」受賞

米価格の急騰がもたらす後遺症 市場の縮小と水田農業の衰退
熊野孝文
農業協同組合新聞 2024年6月5日

米の需給環境の改善に数年に渡り産地が取り組んだことで主食用米の価格は回復してきたことに加えて、販売数量も伸びている。一方、スポット取引では価格の急騰という状況が見られる。何が要因で水田農業を維持していくにはどんな政策が必要か、熊野孝文氏が提起する。

端境期に入り市中で取引されるコメのスポット価格は天井知らずの値上がりを見せており、秋田あきたこまちや新潟コシヒカリと言った全国銘柄に限らず、一般的な産地銘柄も2万5000円を超えるような価格で取引されるものもあり、このまま行くと新米が出回るまでに3万円を超えるのではないかという声まで聞かれるようになった。

この一種異常とも思える市中価格の高騰について、メディアでは5年産の不作とインバウンド需要の盛り上がりの2つを大きな原因として取り上げて報じるところが多い。
確かに5年産は高温障害で等級比率が低下して商品化率が落ちたという面があるが、不作という表現は当たらない。なぜなら農水省の発表では5年産の作況指数は101の平年並みであった。また、インバウンド需要は旺盛であるがこれも農水省は需給見通しを策定する際「織り込み済み」としており、需要量にカウントしてあるとのこと。従って国会での答弁のように価格の高騰はスポット的な取引価格であって、取引の多くを占める相対価格はコロナ前の水準より低いというということで問題なしという結論になる。
しかし、市中で取引されるスポット価格は、人間に喩えるなら体温計のようなもので、今の状況は40度近い高熱で、かなり危うい状態だということを示している。農水省はことあるごとに「スーパーに精米が並んでいること」をコメ不足でない論拠にしているが、すでに売り棚の一部銘柄が空になっているスーパーも見受けられるようになり、ここで仮需が発生するようになればまさにパニックになりかねない。

米の民間在庫量とスポット価格の推移.jpg

グラフ 米の民間在庫量とスポット価格の推移

こうした極めてタイトな状況を招いている真の原因の本質は、歪んでいるともいえる人為的なコメ政策である。コメの価格を上げるために供給面の対策(入り口対策)として巨額の税金をつぎ込んで主食用米減らしを行い、5年産では72万tものコメを餌用に振り向け、政府備蓄米として20万tを買い上げた。さらにあれほど行わないと言っていたにも関わらず、いつの間にか過剰米対策(出口対策)も行うようになった。周年安定供給対策の名のもとに余ったコメを国が保管料を出して市中に出回らないよう隔離するということも行っており、本来なら今年10月までに出回るべき5年産が11月以降に持ち越されるようになり、その分需給ひっ迫に拍車をかけている。この結果、目論見通り以上にコメの価格が上がった。

しかし、この値上がりの代償は大きく、確実に重い病状を発症することになる。病状の一つはコメ加工食品業界の原料米不足による苦境である。伝統的な米菓、味噌、穀粉、清酒、焼酎などのコメ加工食品業界は、伝統的であるが故、中小業者が多く、資本力が乏しいこともあって高騰する原料米を購入することが出来ず、製造を断念するところも出始めた。これら業界が使用する原料米は価格の安い特定米穀が多く、5年産米はその発生が少なかったという面もあるが、それに拍車をかけたのがコメの全体需給がタイト化したことによって本来加工原料に使用されるべき品位のコメが主食用米に吸収されたことも大きい。さらに主食用米の価格が大幅に値上がりしたことによって、産地では6年産米で加工用米の生産を止めて主食用に振り向けるという動きが出始めた。生産者にとっては少しでも手取りの良い用途に生産をシフトするというのは当たり前の経営判断である。実需者が加工用米の契約を望むのであれば主食用米の手取りと同じ程度になるように加工用米の価格を値上げしてもらわなくてはならず、実際にそうした動きになっている。需要者側からすれば需要に応じた生産がなされず、需給のミスマッチは益々拡大しているとしか言いようがない。

これらコメ加工食品業界は国の施策に沿って輸出に力を入れ、順調に輸出量を増やしてきたが、原料米の価格が上がると商品の輸出価格を値上げせざるを得ず、国際的な競争力が低下する。典型的なものがパックご飯で、この商品は最も輸出拡大が期待されている商品で、新たに輸出専用の製造ラインを作ったメーカーもある。しかし、そのメーカーでさえ、原料米の高騰に強い懸念を持っている。それは、パックご飯は韓国等でも製造しており、現状でも価格競争で不利な状況にあり、原料米高によりさらに競争力が低下する。国内の食品産業の競争力を高めるような施策を講じなければならないが、まったく逆の施策が推進されている。

影響が大きいのは何と言っても主食業界である。筆者のところに外食企業や中食企業の仕入れ責任者が直接面談に来て「コメの仕入れ政策を根本的に見直したい」と相談を受けるほどにまでなっている。この中には、年間もち米230t、うるち米5000tを使用するところもあり、目先の話ではなく中長期的にコメの仕入れをどうすれば良いのか広い角度で真剣に検討している。こうした実需者は、コメは法律で安定供給を謳い、さらに手厚い支援措置が講じられているにも関わらず、毎年のように価格が乱高下、需給が不安定になることの原因がわからず、自らの仕入れ政策で何とか安定的に仕入れる方策はないのか模索しているのである。

現実に6年産米の価格は大幅に値上がりすることが避けられない。コメ卸や集荷業者、仲介業者、全農系統など各方面の見方を総合すると新米のハシリである九州の早期米は2万円スタートで、関東の早期米は、スタート価格の予想に大幅な違いがあるが、集荷業者の中には「希望的観測」として1万8500円で始まれば良いのだが、という業者もいる始末。集荷団体は生産者の6年産米の出荷契約を取りまとめているが、すでに卸からはその数量を上回る購入希望が来ている。このため集荷合戦が激化することは避けられず、それを出来るだけ緩和すべく2段階集荷対策を検討しているところもある。2段階とは新米をいち早く供給するために買い手と事前にとりあえず必要な分を価格と数量を決めて集荷に当たる一方、共同計算分は仮渡金を提示して集荷のスパンを長期化するというもの。これでヒートアップする庭先価格を抑えられるか否かはわからないが、価格を提示することで落ち着かせる作戦。

こうした対策を用いてもなお新米集荷時点の混乱は避けられず、価格が落ち着くまでは2、3ヶ月はかかると予想される。平成5年産米のコメ不足パニックの後に何が残ったのかというと大幅なコメ需要の減少である。おそらく6年産米も大幅な価格の上昇により、同じことが起きるだろう。反対に生産量は増加して再び価格が下落する。価格が下落して市場が縮小するという負のスパイラルが繰り返されるだけで、結果的にコメの生産農家が淘汰される。現在のコメ政策を続ければこの負のスパイラルは断ち切れない。断ち切るには価格は市場に任せ、公正で自由な現物市場と先渡し市場、それに価格変動のリスクを回避して生産者の所得を事前に確保できる先物清算市場を設立、コメが産業になる基盤を整備、生産者の所得は直接保証制度を導入することで再生産を可能にするような仕組みを講じるしかない

日本農業新聞 2024年6月6日
 [基本法改正 食と農はどこへ]➃水田政策 持続可能な道筋模索

 将来にわたって安定運営できる水田政策の確立を目指す--。
 昨年12月、岸田文雄首相をトップとする食料安定供給・農林水産業基盤強化本部の会合。政府は、食料・農業・農村基本法の改正後に、水田政策の見直しに乗り出す方針を示した。「安定運営」の念頭にあるのは転作助成金の「水田活用の直接支払交付金」だ。
 麦や大豆、飼料用米など転作作物の作付面積に応じて支払う同交付金。農家所得を下支えし、農作物の販売収入で主食用米に劣る転作作物の生産を後押ししてきた。
 だが、主食用米の需要は毎年10万トンずつ減少。同交付金は転作面積の拡大に伴って雪だるま式に予算が膨らむ構造的な課題を抱える。
 これに対し、財務相の諮問機関である財政制度等審議会は昨年11月、予算編成に関する建議(意見書)で同交付金の見直しを要求。「主食用米の転作助成金など既存の施策が、むしろ食料の生産性向上を阻害することになっていないか」と指摘した。

 財政削減圧力に抗しきれず、これまでも農水省は同交付金の見直しを進めてきた。2022~26年の5年間で一度も水を張らない水田を交付対象から外す他、「畑地化」も進めた。24年産からは一般品種の飼料用米への交付単価を段階的に引き下げる。だが、同交付金の予算圧縮の動きに生産現場では不満がくすぶる。 (敬称略)

2024年5月21日 朝日小学生新聞 生卵の保存は常温?冷蔵? 疑問解決なるほどね!

日本農業新聞 2024年5月23日
政治・農政に関する意識調査 本紙読者モニター調査結果

政治・農政に関する意識調査(数字は%、丸かっこ内は前回2023年9月の調査結果)
問1 岸田内閣を支持しますか

  1. 支持する 26・9(44・5)
  2. 支持しない 72・6(54・4)

問2 問1で「支持する」と答えた方にお聞きします。
   理由は何ですか

  1. 岸田氏に指導力がある 4・1(3・2)
  2. 岸田氏が信頼できる 9・3(9・5)
  3. 岸田氏の訴える政策が評価できる 2・1(6・7)
  4. 食料・農業重視の姿勢がみられる 6・2(7・7)
  5. 自民党中心の政権だから 30・9(35・4)
  6. 他にふさわしい人がいない 42・8(34・4)
  7. その他 3・6(1・8)

問3 問1で「支持しない」と答えた方にお聞きします。
   理由は何ですか

  1. 岸田氏に指導力がない 20・3(18・4)
  2. 岸田氏が信頼できない 18・9(17・0)
  3. 岸田氏の訴える政策が評価できない 15・7(26・1)
  4. 食料・農業重視の姿勢がみられない 19・7(29・0)
  5. 自民党中心の政権だから 5・7(6・0)
  6. 他にふさわしい人がいる 1・3(1・7)
  7. 政治とカネ問題 16・3
  8. その他 1・1(0・9)

問4 あなたは、岸田政権の農業政策を評価しますか

  1. 大いに評価する 1・3(1・9)
  2. どちらかといえば評価する 18・5(24・7)
  3. どちらかといえば評価しない 37・2(40・9)
  4. 全く評価しない 33・2(21・1)
  5. 分からない 8・9(10・6)

問5 問4で「大いに評価する」「どちらかといえば評価する」と答えた方にお聞きします。
   理由となる農業政策は何ですか(三つまで)

  1. 米政策 16・2(21・8)
  2. 農林水産物・食品の輸出拡大 34・5(38・2)
  3. 食料・農業・農村基本法の見直し 53・5(40・6)
  4. 経営安定対策(収入保険、マルキン、酪農対策など) 33・8(35・9)
  5. 生産基盤の強化 20・4(17・1)
  6. 新型コロナウイルス対策 9・9(17・1)
  7. 生産資材などの高騰対策 28・2(37・1)
  8. 環境負荷の低減(みどりの食料システム戦略など) 16・2(5・9)
  9. デジタル・スマート化推進 17・6(18・2)
  10. 地域政策 6・3(8・2)
  11. 農畜産物の需要・消費拡大対策 15・5(21・8)
  12. 規制改革 2・1(1・8)
  13. 農地政策 11・3(4・7)
  14. 貿易自由化 3・5(3・5)
  15. その他 2・1(2・9)

問6 問4で「どちらかといえば評価しない」「全く評価しない」と答えた方にお聞きします。
   理由となる農業政策は何ですか(三つまで)

  1. 米政策 35・6(43・1)
  2. 農林水産物・食品の輸出拡大 10・3(14・1)
  3. 食料・農業・農村基本法の見直し 37・0(37・8)
  4. 経営安定対策(収入保険、マルキン、酪農対策など) 21・4(25・4)
  5. 生産基盤の強化 22・2(21・7)
  6. 新型コロナウイルス対策 1・9(4・5)
  7. 生産資材などの高騰対策 43・3(48・4)
  8. 環境負荷の低減策(みどりの食料システム戦略など) 6・5(8・3)
  9. デジタル・スマート化推進 7・4(4・0)
  10. 地域政策 17・2(19・4)
  11. 農畜産物の需要・消費拡大対策 20・7(25・2)
  12. 規制改革 6・3(4・8)
  13. 農地政策 16・8(17・1)
  14. 貿易自由化 2・1(4・0)
  15. その他 4・2(3・5)

問7 支持する政党はどこですか

  1. 自民党 37・5(48・6)
  2. 立憲民主党 13・1(9・5)
  3. 日本維新の会 1・9(3・9)
  4. 公明党 0・7(0・8)
  5. 共産党 3・5(3・3
  6. 国民民主党 0・8(1・3)
  7. れいわ新選組 1・4(0・5)
  8. 社民党 1・4(1・1)
  9. その他の政党 1・9(1・1)
  10. 支持政党なし 37・6(29・5)

問8 農政で期待する政党はどこですか

  1. 自民党 36・4(46・9)
  2. 立憲民主党 16・4(10・6)
  3. 日本維新の会 2・1(4・2)
  4. 公明党 1・3(1・3)
  5. 共産党 5・8(4・5)
  6. 国民民主党 1・8(1・9)
  7. れいわ新選組 0・7(0・5)
  8. 社民党 0・4(1・3)
  9. その他の政党 1・7(0・8)
  10. 期待する政党はない 33・2(27・3)

問9 次の全国規模の国政選挙で、比例区でどの政党に投票しますか

  1. 自民党 29・0(41・4)
  2. 立憲民主党 18・3(10・9)
  3. 日本維新の会 4・2(5・8)
  4. 公明党 1・5(1・1)
  5. 共産党 4・7(3・6)
  6. 国民民主党 2・2(3・0)
  7. れいわ新選組 1・7(0・9)
  8. 社民党 1・0(1・3)
  9. その他の政党 2・4(1・3)
  10. 決めていない 34・3(29・8)

問10 肥料や飼料、燃油など生産資材の価格が高騰しています。
    人件費も上昇しています。農業経営には影響がありますか

  1. 大きな影響がある 63・3(60・8)
  2. やや影響がある 21・9(24・4)
  3. 影響はない 3・3(3・4)
  4. 分からない 9・3(8・6)

問11 問10で「大きな影響がある」「やや影響がある」と答えた方にお聞きします。
    価格高騰の影響が大きいのは次のうちどれですか(該当を全て)

  1. 肥料 84・0(87・0)
  2. 飼料 20・5(20・7)
  3. 燃油 77・9(86・2)
  4. 農薬 66・0(65・7)
  5. 種子 35・3(33・8)
  6. 石油製品(マルチ、ビニールなど) 57・7(57・1)
  7. 施設の建設費 34・0(31・7)
  8. 人件費 38・9(35・8)
  9. その他 9・0(8・4)

問12 生産資材が高騰する中、どんな対策を求めますか(二つまで)

  1. 生産資材高騰に対する価格補填 65・3(65・9)
  2. 生産コストを抑えるための技術や機械の導入支援 24・7(25・9)
  3. 農畜産物の値上げ(価格転嫁)の理解促進 51・3(47・3)
  4. 国産飼料の増産や堆肥の施用拡大など国内資源の活用 26・3(26・4)
  5. 原料調達網(サプライチェーン)の強化 10・1(13・3)
  6. 備蓄体制の整備 7・6(7・0)
  7. その他 6・0(3・3)

問13 食料・農業・農村基本法の改正案が閣議決定され、今国会に提出されました。
    改正案のどの点に期待しますか(三つまで)

  1. 食料安全保障の確保 55・8
  2. 輸出の促進 13・1
  3. 適正な価格形成 67・2
  4. 環境負荷の低減 9・9
  5. 多様な農業者の確保 28・6
  6. 法人の経営基盤強化 13・2
  7. スマート技術の活用 9・4
  8. 農村振興 27・2
  9. 農地保全の共同活動 15・1
  10. 地域資源の活用 14・7
  11. 農泊の促進 1・5
  12. 農福連携 5・8
  13. 鳥獣害対策 19・0
  14. その他 4・3

日本農業新聞 2024年5月13日 
米のスポット価格が急騰 あきたこまち、まっしぐらが異例の2万円超え

 スポットで米を手当てする業者間の取引価格が急騰している。4月の取引価格を見ると、主力銘柄の秋田「あきたこまち」が60キロ当たり税別で2万円を超え、2023年産米の出回りが始まった9月比で5割高い。
 米の需給逼迫(ひっぱく)を受け、異例の高水準となっている。

 取引を開くクリスタルライス(東京都中央区)の4月下期(16~30日)の取引価格(玄米60キロ、税別、関東到着基準)を見ると、秋田「あきたこまち」が前回比6%(1297円)高の2万1789円となった。
 23年産の初回取引となる9月下期からは45%(6809円)高、取引のあった前年4月上期比では54%(7650円)高と著しく上昇している。

 他銘柄も、青森「まっしぐら」が2万606円、関東「あきたこまち」が1万9713円など高値を付ける。クリスタルライスの担当者は「近年にない高水準」と話す。

 一方で、直近3月の産地と卸の相対取引価格は60キロ当たり1万5428円(税込み)。
 前年産から1割高い水準であるものの、9月比では約140円高とほぼ横ばい。市中とは異なる動きを見せている。
 米の出回り量が減った中、JA系統の米はほとんどが契約済みで、未契約の在庫は限りなく少ない。
 スポット市場に出回る米は少なく、「必要分を手当しようと高くても買う業者がいる」(同)。

 スポット価格の上昇を受けて業者からは悲鳴が上がる。
 東京都内の米穀店は「米の出回りが少ないためだが、それにしても高すぎる。現状は仕入れても売価に反映できず、赤字になる」と戸惑いを見せる。

基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く―現場での対応を通して基本法改正を逆照射する 
2024年5月7日 アップしました。

上記をクリックしていただきますと、当日のプログラムなど谷口信和 氏(東京大学名誉教授)、◆加藤好一 氏(生活クラブ連合会顧問)、◆西谷浩喜 氏(JAたじま 常務理事) の3名様の当日の発表資料(パワーポイントのPDF版)を掲載しています。 

下記は、農業協同組合新聞掲載記事です。

農業協同組合新聞2024年4月24日【報告3】コウノトリがつなぐ地域と農業 JAたじま常務理事 西谷浩喜氏 一覧へ 

農業協同組合研究会が4月20日に東京都内で開いた2024年度研究大会「基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く」で行われた各報告の概要を紹介する(文責:本紙編集部)。

農協研 西谷氏報告
JAたじま常務理事 西谷浩喜氏

生き物を増やす農法へ

 但馬地域は兵庫県の北部の3市2町からなり、面積は県の約4分の1を占め、東京都の総面積に匹敵する。ほぼ中山間地域で人口は15万人余り、県内総人口のわずか3%で過疎化が進んでいる。
 但馬地域でJAたじまが有機農業に取り組んだきっかけはコウノトリである。コウノトリは全長110センチ、羽を広げると2メートルにもなる大型の鳥で一日にドジョウに換算すると70匹から80匹と大量の餌を必要とする。但馬地域では古くからコウノトリと但馬牛、人間が一緒に暮らしていた。
 しかし、高度成長期に日本の農業が大きく転換し、化学肥料や農薬を使用した経済性を重視した農業へと変わっていった。その影響で餌となる生き物が減少し、コウノトリ自身も繁殖力を失い1971年に最後の生息地だった豊岡市で絶滅した。
 このような経過を反省しコウノトリを復活させようと誓い、そのためにもっとも変わらなければならなかったのが農業だった。農薬や化学肥料に頼った農業からの転換を決意し、栽培方法の検討を行った。そして慣行栽培を見直し、農薬や化学肥料の削減と生き物を増やす工夫をしていった。
 試行錯誤の確立したのが、コウノトリ育む農法である。ポイントは農薬については栽培期間中は不使用もしくは7.5割減、化学肥料は使用しない。さらに大きなポイントは水管理。深水管理、中干し延期、早期湛水、冬期湛水を行う。
 この農法に取り組むことによってより多くの生き物が育まれるようになった。コウノトリ育む農法の特色は、春には早くから水を張ることで生き物をたくさん育て、夏には生き物の成長に合わせた水管理を行うことである。そして秋には稲刈り後に米ぬかや堆肥を播いてしっかり土づくりを行い、冬には水を張って鳥の憩いの場を作る。
 私たちはコウノトリ育む農法を農薬や化学肥料に頼らない安全・安心な米と多様な生き物を育みコウノトリも住める豊かな文化、地域環境づくりをめざすための農法と定義した。
 それによって生まれたのが「コウノトリ育むお米」である。今ではJAたじまの米づくりの象徴のような位置づけになるまでに成長した。
 但馬地域での環境に配慮した米づくりのスタートは1988年でコープこうべからの依頼で特別栽培米「つちかおり米」を作付けしたことだった。これがJAたじまの環境創造型農業の先駆けとなった。現在では管内で17種類の特別栽培米が生産している。

価値に見合った価格を

 当JAでは従来の全農に販売委託する方式に加えてJA独自で直接、卸業者に販売する直接販売の取り組みを始めた。そのため必要な倉庫の整備、精米工場の増強など施設面でも直接販売に対応するかたちを整えてきた。
 販売体制も整備し直接販売の専門部署「米穀課」を設置し積極的な営業活動に取り組んだ。それらの地道な取り組みの成果もあり、2022年度では米の販売の約3割が直接販売となった。
 JAとしては農業者の所得増大を図ることが大きな使命だ。これだけ手間をかけて生産した米をJAは適正な価格で販売する努力をしてきた。生産者へ支払う概算金は、慣行栽培で生産された米にくらべて、「コウノトリ育むお米」の有機JAS米は約2倍にしている。
 同時に直接販売を拡大していくために、生産者とJA職員、関係機関の職員による販売促進活動に力を入れている。店頭でコウノトリ育むお米の成り立ちやストーリーを丁寧に説明し、消費者の理解と共感を広げる努力をしている。
 海外でも販促活動を行い、コウノトリの野生復帰に向けた取り組みへの理解を世界にも広げていきたいと考えている。ただ生産数量が限られているため輸出を主とした販売は行っておらず、年20t程度である。
 また、販促活動に加えてこの取り組みへの理解を広げ産地を支援したもらいたいと、消費者や実需者と産地交流会を長年続けている。
 農水省は農業由来の温室効果ガス削減の取り組みを農産物のラベルに表示する取り組みを始めているが、コウノトリ育むお米は32%削減と認められ「3つ星」ラベルを張って販売している。
 販売は全国に広がっており、関西に約700t、関東に約150t、沖縄に約400tという状況になっている。作付けは500haしかないので販売数量は1225tとなっている。現在の部会員は約250名となっている。高齢化で部会員は減少傾向にあるものの面積は担い手が引き受けて維持している。
 このような取り組みを進めるなかで、2007年から学校給食で減農薬米が使われるようになった。これは生徒たちが当時の市長に直談判したことで、コウノトリ育むお米の消費が増えれば水田が守られ、野生復帰したコウノトリの生息環境が広がるのではないか、と考え行動を起こした。2017年以降は週に5日使用されている。さらに現在は多収米の「つきあかり」に品種を変え、無農薬米として提供する取り組みを進めている。
 コウノトリと共生する町づくりについて子どもたちにも理解を深めてもらい、米の食べることによって環境も守られるということを感じてほしいと思っている。私たちの取り組みが全国に普及できる見本となればと考えている。
 JAたじまの使命として、コウノトリ育む農法を通じてかけがえのない日本の食料、農業への次世代への継承、自然環境と共生できる農業の振興、子どもたちに安心して食べさせられる食の提供にしっかり取り組んでいきたい。

農業協同組合新聞 2024年4月24日【報告2】多様な担い手育成を通じた地域農業振興 JA常陸代表理事組合長 秋山豊氏 一覧へ

農業協同組合研究会が4月20日に東京都内で開いた2024年度研究大会「基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く」で行われた各報告の概要を紹介する(文責:本紙編集部)。

農協研 秋山氏報告
JA常陸代表理事組合長 秋山豊氏

一人の決意が一大産地へ

 元気な部会とJA子会社などの有機農業の取り組みを報告する。
 JA常陸奥久慈枝物部会会長の石川幸太郎さんはJA茨城中央会の先輩にあたり、早期に退職して20年で一大産地を作り上げた。自分の故郷が耕作放棄地と高齢者ばかりなっていくなかで、どう再生するかを考えたとき、これからは枝物だと、最初は勤務しながら帰宅後に草刈りして苗を植えることから始めた。
 その後、2005年に退職した人たちを中心に9人で枝物生産部会を立ち上げた。2019年にJA常陸奥久慈枝物部会に名称変更し、販売金額は1億円に達し、2022年には2億円となった。ここ数年で急激に伸びた。
 部会員は144人だが、その家族や親戚も出荷しており、全部で300人ほどが枝物で所得を上げていることになる。品目は「奥久慈の花桃」、「柳類」を中心に約250品目を栽培している。
 夏に竹を伐ると竹が枯れるということから、真夏にみんなで竹を伐る。山際の耕作放棄地を地主から借りて、そうやって竹を伐り苗木を植えてきた。
 栽培状況(2023年度)を見ると、耕作放棄地を15ha復活させ、遊休農地を34ha、普通畑2ha、水田7haなどで枝物を栽培し合計77haとなっている。部会の活動によって耕作放棄地がゼロになった地域もある。1軒当たりの販売額は1000万円以上の人もいるが、200万円から1000万円がほとんど。中山間地の山際でもお金になるので、みんな苗木を植えた。
 若手の就農者も出てきている。30代で4人、40代で3人、まったくの新規就農者が入ってきた。噂を聞いたり、部会のホームページを見たりして訪ねてきた。ホームページは産地の生きた情報を提供しようと作成し、市場や仲卸だけでなく、一般消費者にまで奥久慈の枝物をPRしている。
 ただ、相当に力を入れないと新規就農者は定着しない。実際の事例だが、JAで雇用し直売所で働いてもらって研修し就農した。みんなで手を差し伸べないと後継者は育たないと感じている。
 この部会は常に地域に奉仕しようとしている。これは石川部会長の考えでお金儲けだけでは部会は伸びないといつも言っている。

勢いづく有機栽培

 有機農業の推進は2019年から始まり、筑西市のレインボーフューチャーという農業法人を三美地区に誘致し、5.5haで有機野菜の栽培を始めた。この年に茨城県が「いばらきオーガニックステップアップ事業」を創設し、これを利用した。
 20年に常陸大宮市長に鈴木定幸氏が当選し、市内15小中学校の学校給食の100%オーガニック化を公約とした。21年には笠間の農業法人カモスフィールドを三美地区に誘致し、県はこの地区を有機農業モデル団地に位置づけ、市は有機農業推進計画を策定した。
 22年にはJA子会社のJA常陸アグリサポートが有機農業の取り組みを始め、現在3.5haを栽培している。一方、野田地区では水戸市に本社がある要建設がソバの有機栽培を14haで始めた。学校給食では有機野菜の使用が始まった。
 23年になると米の有機栽培をやりたいという農家が遂に出てきてJA常陸アグリサポートと一緒に取り組みを始めた。さらに今年は若手農家1人が米の有機栽培をやりたいと言ってきた。昨年から学校給食で有機米の使用が始まった。市は1俵2万2000円で買い上げている。
 今年の11月には常陸大宮市で全国オーガニック給食フォーラムを開催する予定となっている。まだまだ課題は多いが、勢いはあり、市とJAが両輪となって取り組んでいるのが特徴だろう。
 有機米の取り組みは鷹巣地区でJA常陸アグリサポートと生産者1人で23年から始めた。23年は3.9haで栽培、今年は9.3ha、27年には12haとすることが目標だ。地権者は75人いるが、みなさん大変協力的で、しかも有機農業と慣行農業のそれぞれの栽培管理について「有機農業を促進するための栽培管理に関する協定」を締結し市長がそれを認可した。JAは有機ブランド米を「ゆうき凜々」と名付けて今年から販売する。
 ただ、オーガニック給食の問題は少なくない。野菜は天候により給食に提供する時期、数量にズレが生じる。低温貯蔵庫がないため供給期間が限られる。納品規格が定められおり規格外品が大量に発生する。給食センターへの安定供給のため、過大に生産する必要があるが、残量の販売先がない。この点については有機野菜を扱う仲卸と契約したが、価格に問題もある。
 有機栽培の生産拡大にともなって堆肥の不足が懸念される。大型の畜産農場から堆肥を入れているが、さらに養鶏農家からの鶏糞などの利用も考えたい。将来的には食品残渣も検討したい。
 課題を解決するため、予定していた野菜が出荷できなくなったときはJAが代替品を手配して納品することにした。また、低温貯蔵庫の建設についても検討するなどの取り組みを進めていきたい。
 現在の農業を取り巻く情勢から考えると、有機栽培に取り組むことが関税引き下げのTPP時代と、SDGs時代に日本農民が生き残り、農地を次世代に伝えていく道だと考えている。

農業協同組合新聞 2024年4月23日【報告1】生協とJAの実践から「適正な価格形成」を考える 生活クラブ連合会顧問 加藤好一氏 一覧へ

農業協同組合研究会が4月20日に東京都内で開いた2024年度研究大会「基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く」で行われた各報告の概要を紹介する(文責:本紙編集部)。

生活クラブ連合会顧問 加藤好一氏
生活クラブ連合会顧問 加藤好一氏

素性の確かなものを適正な価格で

生活クラブの最大の提携先の山形県遊佐町には
①健全な生態系があり、
②耕畜連携が機能し(平田牧場の糞尿等の活用)、
③周辺の一次産業や食品産業との密接な関係があり、
④都市生活者との提携、親密な交流がある。
適正な価格形成には生産者と消費者のこうした関係が必要であり、日常性が勝負だろうと思う。

 生活クラブの組合員数は約42万人。供給高は976億円で、1人1月当たりでは約2万円となっている。かつての半分に下がっているが、他の生協は1万円を下回っている状況だ。出資金は496億円で1人当たりでは10万円以上となる。
 活動テーマの中心は内橋克人氏が提唱したFEC(食料、エネルギー、ケア)自給ネットワークにW(ワーク)を加えている。ワークは組合員参加の新しい方法だと考えている。
 生活クラブには「安全・健康・環境」の原則があり、安全性の追求や自給率の向上、自然資源の持続可能な使用などを掲げているが、重要なことはこれらを生協による生産者への押し付けではなく、生産者の現状をふまえて丁寧に話し合い、いわばPDCAサイクルを回しながら一歩一歩進めていく。これが提携の基本だと考えている。
 私たちは「生産する消費者」という理念を重視している。生産する側と消費する側がもっと一体化するかたちを考えなければならないということから、かつて河野直践氏は「産消混合型協同組合」を提唱した。なかなか難しいことだが、山形県では生産者が主体となって組織している生活クラブがあり、それが産消混合型協同組合へ向けた第一歩ではないかと思う。
 「提携」について学んだのは一楽照雄氏だ。生産者と消費者が生活観を共有したうえで提携すれば取引上の値段は問題ではなくなる、価格は交換経済の意味ではないなどと言い、「提携10か条」を示した。
 そのひとつ「相互扶助の精神」では、提携の本質は物の売り買いではなく人と人との友好的付き合い関係である、と言っており「互恵に基づく価格の取り決め」10か条の1つにある。とにかくこうした視点がないと、まともな価格の議論ができないのではないかと思っている。
 さらに「相互理解の努力」では、提携を持続発展させるには相互の理解を深め友情を厚くすることが肝要でそのためには双方のメンバーが接触する機会を多くしなければならない、と提起している。まったくその通りだ。生活クラブは生産者交流会、産地交流会を重視し40万人の組合員のうち延べ7、8万人が参加しているが、これを緻密に組み立てていくことは提携の肝になることだと思っている。
 遊佐町との提携の特徴の一つは主食用米の消費減対策だ。今、日本人の米の消費量は年間50㎏程度になっており、生活クラブでも消費量は減っている。
 こういう厳しい状況のなかで2018年に国は生産調整政策を見直し、要するに米から撤退したが、それ以前から米の対策を考え、田んぼを田んぼで残すために1990年代から取り組んできたのが飼料用米である。
 生活クラブとして遊佐町の米を最大に食べていたときは15万俵を超えていた。現在は9万俵を切った。それぐらい主食用米の消費量が減った。それで考えたのが転作で現在は転作率は40%を超えている。それによって15万俵食べていたときの総水田面積をほぼ維持している。飼料用米だけでなく大豆やソバなども生活クラブの取引先が購入している。
 飼料用米は平田牧場が豚の飼料に配合して現在は34%配合している。1頭当たりの消費量は102㎏。これは200日間の量で配合割合が増えれば日本人がもっとも米を食べていた量を豚が食べることになり、これほどいい対応はないと私は思う。
 価格問題についてわれわれはどう考えてきたか。多くの生協や量販店は、「より良いものをより安く」だ。しかし、より良いものとは誰が決めるのか。より安くというのは生産者に負荷がかからないか。結局、この路線は組合員の顧客するだけではないかと考えた。
 そしてわれわれとしては「素性の確かなものを適正な価格で」をキャッチコピーにした。素性の確かさと適正な価格は一人ひとりの判断に基づくものだ。自分で考えて自分で行動する主体を着実に大勢にする。内橋克人氏は「自覚的消費者」と言った。モノの値段は安いに越したことはないが、なぜそうなっているか分かっている消費者だと提唱した。
 「合理的な価格」の議論ではもっぱら物財費だが、労働費も補填すべきと田代洋一氏が指摘し、そのためには価格転嫁だけではどうにもならず国の直接支払いが不可欠と主張している。私も正論はこれしかないと思う。離農が増えているというときに、即効性がなければ間に合わないからだ。
 しかし、直接支払いは私たちにはできないため、遊佐町との提携のように主食用以外の転作作物も組み合わせながら、価格と量について双方が納得できる合意点を見出すことになる。「素性の確かなものを適正な価格で」に向けてこれからも一歩一歩取り組んでいきたい。

農業協同組合新聞 2024年4月23日【解題】基本法改正は食料安保をめぐる現場での課題にどう応えようとしているのか 谷口信和東大名誉教授 一覧へ

農業協同組合研究会が4月20日に東京都内で開いた2024年度研究大会「基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く」の解題と各報告の概要を紹介する(文責:本紙編集部)。

【解題】基本法改正は食料安保をめぐる現場での課題にどう応えようとしているのか 谷口信和東大名誉教授
谷口信和 東大名誉教授

並ぶ抽象的な言葉

改正基本法の致命的な欠陥を3点挙げる。


 1つ目は「食料自給率向上と積極的な備蓄論を欠いた食料安全保障論」であることだ。国内でどれだけしっかり食料を作るか、作る能力を持つかを抜きにした食料安保はあり得ない。これはイロハのイ。それから備蓄をどうするか、正面から議論をしないまま食料安保論を語れるわけがない。しかも備蓄を議論するときには、商社や穀物倉庫がどれだけ持っているかも大事だが、一軒一軒の家庭でどのように備蓄を考えていくのかを抜きに食料安保などあり得ない。
 災害問題でも家庭にどれだけ備蓄をするかを前提に備蓄の議論は始まる。つまり、今回は国民的な議論を欠いているということ。当たり前の原点のところが失われていることが大きな問題だと思う。

 2つ目は地産地消と耕畜連携の位置づけがほとんどないこと。こういう言葉がないまま農業の持続的発展という抽象的な言葉が並んでいる。実態のない「農業の持続的発展」となっている。

 3つ目は「農業の多様な担い手」と耕作放棄地復旧や農地確保の問題について正面から捉えていないこと。将来、担い手は減っていくという認識に立っているだけでなく、では、担い手はどうするのかという理念を持つことが重要だ。

 そのうえで「多様な農業者」について考えると、実は2020年3月に閣議決定した現行基本計画のなかにすでに「多様な農業者」は位置づけられていた。それから4年経ったが、何か状況が変わったのだろうか。何も検証されていない。にも関わらず今回の基本法改正で「多様な農業者」という言葉を入れたということだが、それはどんな位置づけなのか。
 改正法案の第26条第2項は「……多様な農業者により農業生産活動が行われることで農業生産の基盤である農地の確保が図られるよう…」となっている。つまり、多様な農業者がいれば、やがて彼らが高齢になって農業をやめたときに担い手が引き受ける、それまでがんばってもらえばいいという位置づけでしかない。
 そうではなく、その間、多様な農業者をどう支援するかという話につながって初めて、食料安保を担保できる多様な農業者という位置づけとなり、それなら、なるほどと納得できるようになる。しかし残念ながら、そうはなっていない。つまり、ただの農地の管理者でしかない。農地の管理であれば作物を作らなくてもいい。現在でも保全管理という方法があり、少なくとも草を生やさないようにすればいいということはある。しかし、それでは食料安保は担保できない。
 もっとも大きな問題は「選別的な担い手政策に変更はない」と繰り返し言っていることだ。これは農水省だけでなく残念ながら大臣もこれに近いことを言っている。つまり、担い手政策は基本的に変わらないということだが、法案には多様な担い手を位置づける。そうなると説明と法案にズレがあることになるが、その厳密な検証はしないまま法案を通そうというのが実際だと思う。

消えた「適正な価格」

 今日のテーマの一つでもある「適正な価格」については、生産者も消費者も期待したが、改正法案には一言も出てこない。すべて「合理的な価格」で押し切っている。
 実は議論の時に使われた言葉は、生産資材価格が高騰した分の「価格転嫁」だった。その結果、適正な価格形成問題が出てきたと皆思っている。
 しかし、改正法案では「合理的な価格」であり、それは現行法のまま。つまり現行法を変えてないことを意味する。
 「合理的な価格」の含意は、農産物価格は需給事情と品質評価を適切に反映して形成されるということだが、これは価格形成のなかに農家の所得を保障するような文言を含んではいけないということであり、現行基本法を制定したときの理念、価格政策と所得政策は分離するという考えが貫かれている。
 「適正な価格形成」という言葉の意味は、実は「適正な形成」なのであり、価格は「合理的」に決めるというのが農水省の考え。つまり、「合理的な価格を適正に形成する」ということである。担当者によると、適正な形成という意味は、費用について、きちんと誰にも説明がつく合理的なものであるかどうかを確認することであり、確認した費用について関係者の間で協議し、どのように価格に反映していくかを検討することだという。
 そこには農業者の所得はどうなるのかという問題はない。本来大事なことは、合理的であるかどうかではなく、費用等の議論を通じて農業者の再生産が図れるような水準に価格が設定されるかどうかだろう。
 しかし、消費者がアクセスできる食料価格と農業者の再生産保障価格は一致する保障はない。しかも最大の問題は価格は変動するものだということを前提にすれば、価格だけで所得を保障することはできない。それを踏まえると価格の変動にとらわれずに安定した所得が得られるように財政的な所得保障をどこまで国が行うのか、これを考えていくべきだろう。

農業協同組合新聞 2024年4月22日【2024年度研究大会】基本法改正の下 わがJAと生協はこの道を行くを開催
一覧へ

 農業協同組合研究会は4月20日、東京・日本橋の「サロンJAcom」で2024年度研究大会「基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く」を開催した。オンラインも含めて約70人が参加し、現場の実践から考えた今回の基本法改正の問題と今後の課題を議論した。

サロンJAcomで開かれた農協研究会
サロンJAcomで開かれた農協研究会

改正法の致命的欠陥

今回の研究会のサブタイトルは「現場での対応を通して基本法改正を照射する」。基本法改正案は一部修正のうえ前日の19日に衆議院を通過した。
その基本法改正案について研究会の谷口信和会長が最初に「基本法改正は食料安保をめぐる現場での課題にどう応えようとしているか」と題して解題を行った。
 そのなかで改正基本法の致命的な欠陥として「食料自給率向上と積極的な備蓄論を欠いた食料安全保障論」を挙げた。
 現行法では、食料自給率目標は、その向上を図ることを旨とし、農業生産と食料消費の「指針」と位置づけられているが、改正法案では「指針」の位置づけはなく、また食料安全保障の確保に関する事項とともに定めるとされており、国会の審議でも食料自給率目標の「格下げ」ではないかとの指摘は野党から出ている。
 谷口氏は「国内でどれだけしっかり食料を作る能力を持つかを抜きにして食料安全保障はあり得ない。イロハのイだ」と指摘、また、備蓄をどうするのか正面からの議論がない食料安保論を語れるわけがない、と問題点を突く。とくに備蓄はそれぞれの家庭がどう備蓄するかをという問題も含まれるはずで、その議論がない。「つまり、国民的な議論を欠いているということ。食料安保の原点が失われている」と指摘した。
 また、地産地消や耕畜連携といった具体的な地域農業への取り組みに言及しないまま、農業の持続的な発展という抽象的な言葉に終始している点を挙げる。
 さらに「多様な農業者」については改正法案で位置づけられた(第26条第2項)ものの、それによって「農地の確保が図られる」とされており、農地の確保に貢献するという「ただの保全管理者」の位置づけであり、食料安保における位置づけは与えられていないとし、しかし一方では、不測時に食料増産を要請することができるようにする食料供給困難事態対策法案では、多様な農業者も政策対象とするという「チグハグさ」も強調した。
 そのほか農業者サイドが期待したコスト上昇分の価格への転嫁について改正法案では「価格転嫁」も「適正な価格形成」の文言はどこにもなく、結局は現行法と同じく、需給と品質を反映して決まることを基本とする「合理的な価格の形成」とされている。
 これをめぐる問題として「適正な価格」には「農業者の所得が補償される価格」との含意があるが、「合理的な価格」にはそれがないことであり、たとえば農業者が求める再生産が保障される価格になる保証はないという。谷口氏はこうした問題点を踏まえて、「農業者の所得確保は財政支出に基づく直接支払いによって行われるべき」と強調した。

適正な価格 「提携」で

 生活クラブ連合会の加藤好一顧問は「適正な価格形成を考える」と題して同連合会によるJAとの「提携」の取り組みを報告した。
 生活クラブは生産者と消費者が分断されている現状を変えようと「生産する消費者」という理念を掲げ、援農などを含めた生産者との交流会に力を入れてきた。参加者は年間7万~8万人程度になるという。加藤氏はこのような活動参加者を「アクティブな組合員」と位置づけ、こうしたアクティブな組合員による農業現場への理解がなければ「適正な価格は実現できない」と話す。
 価格を考える際の前提として、多くの生協や量販店が「より良いものより安く」と考えるが、生活クラブは「素性の確かなものを適正な価格で」としている。内橋克人氏が提唱した自分で考え行動する「自覚的消費者」を増やしていくことと、生産者と消費者の双方が納得できる合意的を見出し価格を決定する取り組みが必要だとした。
 ただし、価格で労働費まで賄うには価格転嫁だけではどういもならず、「国による直接所得支払いが不可欠」として危機的な状況にある農業者を支えるには即効性のある直接支払いなど施策がないと「間に合わない」と危機感を示した。

多様な担い手で農業振興

 茨城県のJA常陸の秋山豊組合長は「多様な担い手育成を通じた地域農業振興」と題して報告した。
 同JAでは枝物部会が盛んだ。石川幸太郎部会長が高齢化と耕作放棄が進む中山間地域の農業再生策として「枝物」に注目し1人で始めた。
 栽培品目は「奥久慈の花桃」、「柳類」を代表として約250品目以上を出荷している。部員は144名だが、家族も含めれば300人以上が枝物づくりに携わっているという。3.8haからスタートし現在は78haまで拡大、耕作放棄地に苗を植え、耕作放棄地がゼロとなった地域もある。部会の販売額は22年度で2億円を超えた。30代、40代の新規就農者も誕生しているが、最初はJAが直売所スタッフとして雇用するなど担い手を定着させる努力をしてきた。
 部会のスローガンは「心が伝わる産地をめざして」。地域への貢献を力を入れている。
 そのほかJAの子会社を始め、有機農業の推進と学校給食への供給の取り組みも進んでいる。JAと行政が両輪となった取り組みで常陸大宮市内の15校に有機米を100%提供する取り組みを進めている。24年産では9.3haを作付けを予定している。JA常陸は有機ブランド米「ゆうき凜々」として今年産から販売する予定としている。
 ただ、学校給食への提供では、天候の問題で計画どおりに生産できない際への対応や、給食センターの整備、低温貯蔵庫の建設など課題もまだ多い。秋山組合長は「有機栽培に取り組むことがTPP時代、SDGs時代における日本農民の生き残る道であるなら、誰かが挑戦し国民を挙げた運動にする必要がある」と強調した。

コウノトリと共生する

 JAたじまの西谷浩喜常務は「コウノトリがつなぐ地域と農業」をテーマに報告した。
 同JA管内の豊岡市では1971年に野生のコウノトリが絶滅した。
 地域ではコウノトリの絶滅要因を真摯に受け止め慣行農法を見直すことにし、農薬や化学肥料の削減と生き物を増やす工夫に取り組んだ。
 試行錯誤のうえ、コウノトリ育む農法として、農薬の栽培期間中の不使用か7.5割減、化学肥料の栽培期間中の不使用、種子の温湯消毒、早期湛水、冬期湛水などを要件とした。
 慣行栽培と比べ水田に水が張られている期間が圧倒的に多くなり、消費者も生き物調査に参加して、安全な米と生き物を同時に育む農法として理解を広げた。コープこうべからの以来で特別栽培米を作ったことをきっかけに、現在では17種類を超える特別栽培米が管内で作付けされ、契約栽培とJA直売ルートも増えていった。
 JAは直接販売するために米穀課を設置し、2022年度では全体の約30%が直接販売となっている。
JAが組合員に支払う概算金は慣行栽培を1とすると、有機JAS米は1.9としているという。販売面ではその価値を理解してもらえるよう生協や量販店での販売促進活動に力を入れている。
 2007年からはコウノトリ育む農法を勉強した生徒が市長に直談判し学校給食に使用されるようになった。それが給食費の値上げにならないよう品種を多収品種の「つきあかり」に切り替えた。地元の米を食べることによって地域の環境も守られるということを生徒たちが理解した成果だと西谷常務は話し「生物多様性を守るトップランナーとして日本の農業を次世代に継承していきたい」と話した。
 3つの報告を受けたディスカッションでは、協同組合間連携による適正価格の形成や、耕畜連携などによる農業振興といったボトムアップで具体的な動きを作り出し、基本法をめぐる参議院の審議では少しでも修正を実現する動きを作り出すことの重要性だとの意見が出された(各報告の概要は近日中に掲載)。
(関連記事)

農協関係者の交流拠点に「JAcomサロン」オープン 農協協会

日本農業新聞 2024年4月23日[どうする転作’24]
➀ 飼料用米 専用品種へ全量転換 種もみ増産 県も後押し

飼料用米専用品種「ふくひびき」の苗を見る福田取締役(栃木県鹿沼市で)

飼料用米専用品種「ふくひびき」の苗を見る福田取締役(栃木県鹿沼市で)
https://www.agrinews.co.jp/news/index/228181
 栃木県鹿沼市の「農業生産法人かぬま」は今年、230ヘクタールで生産する飼料用米を全て多収の専用品種に切り替える。飼料用米は昨年も同じ規模で生産し、専用品種は約100ヘクタール、残りは主食用の一般品種だった。福田朗取締役は「専用品種でなければ転作助成金が大きく減る。トラクターが1台買えてしまうほどだ」と言う。
 飼料用米は今年、全国的に専用品種が増える見込みだ。一般品種で生産する場合、農水省による転作助成の柱「水田活用の直接支払交付金」の助成単価が引き下げられるためだ。助成は2023年産までは標準収量で10アール当たり8万円だったが、24~26年産にかけて年間5000円ずつ減額される。同省は、一般品種は主食用米に回帰しやすいとし、専用品種を増やし飼料用米を定着させる狙いだ。
 同法人は、もし24年産で全面積が一般品種だった場合、同8万円が7万5000円に減るとすれば、受け取れる助成は1150万円減る計算だ。福田取締役は「面積が大きいだけに、経営への影響も大きい」と話す。
 栃木県は23年産の飼料用米の作付面積が約1万5000ヘクタールで全国最多だが、専用品種の割合は4%で、全国の42%を大きく下回る。県は24年産に向けて、専用品種として「夢あおば」などの種もみを増産。約4000ヘクタール分の種もみが供給されたという。これとは別に、専用品種の種もみを購入するなどした農家もおり、専用品種の面積はさらに増える見込みだ。

 同法人は23年産では「夢あおば」を生産した。落粒しにくく収量性が良いことなどを確認しながら、24年産の全量切り替えを見越して種もみを自家で確保した。今年はさらに専用品種「ふくひびき」も加える。2品種で移植時期をずらして作業を分散させ、大面積をこなす考えだ。


 一方、肥料価格が高騰する中で、飼料用米は多肥栽培が基本になるだけに、JA全農とちぎは「農家は不安感も抱えている」(米麦総合課)と指摘。全農とちぎは23年に続き24年も「夢あおば」の展示圃場(ほじょう)を設ける計画だ。専用品種の特性や収量を取る方法を周知して「不安を払拭し、生産者の手取り向上につなげていきたい」という。

 主食用米の需給、農家経営の安定へ、24年産の水田転作にどう臨むのか。産地の動きを追う。(5回掲載)

日本農業新聞 2024年4月24日[どうする転作’24]②大豆・麦 輪作を軸に収量安定 価格は下落 水張り負担も

大豆栽培を予定する転作田の準備を進める大友代表(宮城県名取市で)

大豆栽培を予定する転作田の準備を進める大友代表(宮城県名取市で)

 大豆の面積が1万1700ヘクタール(2023年産)で全国2位の宮城県。「大豆の播種(はしゅ)は、田植え後の6月中旬。作業が競合せず取り組みやすい」。農事組合法人U.M.A.S.I.の大友寛志代表が言う。名取市で水田など147ヘクタールを経営し、転作で大豆80ヘクタールを作付けする。
 24年産の水田作は、23年産と同様の作付け構成にするという同法人。主食用米は27ヘクタールで、転作の主力は大豆と、30ヘクタールを作る飼料用米だ。大豆は、主食用米・飼料用米との輪作を軸に連作を極力避け、10アール当たり180キロの安定した収量を確保する。国産濃厚飼料として注目が高まる子実用トウモロコシも10ヘクタール栽培し、大豆の連作回避や土質改善につなげる。
 16年に設立した同法人は離農者の農地を引き受け、大豆も当初の42ヘクタールから拡大してきた。一方、先行きに課題も抱える。
 大豆は品代だけで生産費を賄うのは難しく、所得確保には水田活用の直接支払交付金の10アール当たり3万5000円が重要だ。足元で大豆価格は下落し、その構図はより強まっている。国産、輸入とも出回り量が潤沢で、3月下旬の23年産普通大豆の収穫後入札では、平均価格は60キロ当たり8686円と、前年同時期の88%の水準だ。
 同省は水田活用交付金の要件に、5年に1度は田に水を張ることを位置付けた。同法人が引き受けた農地の中には、元来畑だった所を田にした「陸田」も数カ所ある。水張りの負担は大きく、「交付金がなくなれば大豆の生産継続も難しく、地権者に返さざるを得なくなる可能性が高い」(大友代表)。
+  +
 麦では、ウクライナ危機などで輸入品の流通が不安定化する中、国産の使用を強める大手小売りも出ている。実需が国産麦に求める安定供給の実現へ、水田転作では、排水性向上や適期作業の徹底が継続的な課題だ。
 滋賀県は水田転作の麦が8222ヘクタール(23年産)で都府県で最多。5年で1割ほど増え、24年産はさらに増える見通しだ。
 県農業再生協議会によると、小麦品種の中でも引き合いが強い製麺向きの多収品種「びわほなみ」への転換が急速に進む。安定供給へ、県内主産地のJAグリーン近江は「集落営農が盛んな地域性も奏功し、水はけの良い農地を団地化して栽培する動きが進んでいる」とする。

主食用米の需給、農家経営の安定へ、24年産の水田転作にどう臨むのか。産地の動きを追う。(5回掲載)

日本農業新聞 2024年4月30日[どうする転作’24]➂WCS用稲 粗飼料需要に応える 栽培意欲高める助成が鍵

国内で拡大が続く発酵粗飼料(WCS)用稲の作付けは、転作意欲を引き出す助成と地元畜産農家からの自給粗飼料ニーズが支えている
www.agrinews.co.jp

乳用牛に長年、稲WCSを与える桜井さん(新潟県魚沼市で)

乳用牛に長年、稲WCSを与える桜井さん(新潟県魚沼市で)

 国内で拡大が続く発酵粗飼料(WCS)用稲の作付けは、転作意欲を引き出す助成と地元畜産農家からの自給粗飼料ニーズが支えている。輸入乾牧草の高騰も追い風に、米のトップ産地・新潟県魚沼市でもWCS用稲の取り組みが広がる。
 市内で乳用牛75頭を飼養する桜井信夫さん(70)は、「〝牛好み〟の高品質な稲WCSだから使い続ける」と利用定着のポイントを話す。自身が組合長を務める魚沼市自給飼料生産組合では組合設立以降約15年にわたり、市内の水稲農家からの購入を続けている。桜井さんは「安心して与えられる。餌の高騰が続いているのでありがたい」と話す。
 地元のJA魚沼によると、2024年産の同組合向けのWCS用稲は、前年産から1割増の20ヘクタールほどになる。乳用牛頭数を基にした試算では、さらに約10ヘクタール増やす余地があるという。
 水稲農家は収穫作業を主食用米より早い時期に済ませる。「経営の規模拡大が進む中、作業分散に役立っている」(北魚沼基幹営農センター)。
 WCS用稲を作った場合、国の戦略作物助成同8万円と商品代が収入として入るが、主食用米より少ない。米の販売価格が高いトップブランド産地では差額がさらに大きくなるため、転作意欲を引き出す助成が要となる。
 同市で作る場合は、県のWCS用稲の産地交付金と、高温・渇水に強い作物の生産拡大助成で最大10アール1万円を支援。同市も50アール以上栽培した場合、市単独で前年の倍となる同3万とし、計12万円ほどに上る。他の転作作物と比べ、収入面で魅力を感じている。
+  +
 輸入飼料価格の高騰が続く中、全国的に飼料作物は増産が見込まれる。WCS用稲の23年産の作付面積は、前年比1割増の5万3000ヘクタールで過去最高だ。
 乾牧草の輸入価格は直近2月が前年同月比9%安の1トン5万5900円。ピーク時より下落したが、18、19年比では4割ほど高い。配合飼料価格も高騰が続く。直近1月の配合飼料価格(工場渡し、全畜種平均)は前年同月より2%安の同9万8057円となる。
 国産濃厚飼料で注目される子実用トウモロコシの国内作付けも増加傾向にある。生産者組織日本メイズ生産者協会によると、23年は2324ヘクタールに拡大し、24年も1割ほど増える見込み。それでも現状、濃厚飼料は輸入頼みの課題があり、自給飼料の増産が引き続き求められている。

主食用米の需給、農家経営の安定へ、24年産の水田転作にどう臨むのか。産地の動きを追う。(5回掲載)

日本農業新聞 2024年5月3日[どうする転作’24]
➃ 輸出用米 伸びしろ見込み増産 品質そろえ品目調整可能に

種もみの品質を確かめる板谷代表(北海道東川町で)

種もみの品質を確かめる板谷代表(北海道東川町で)

 北海道の米どころ・JAひがしかわは、2024年産米で輸出用の新市場開拓用米の作付けを前年から8割以上増やす。米による転作を強化して水田維持を目指す。おにぎり向けなど海外の需要を有望視し、管内東川町の農業法人・板谷農場の板谷智徳代表は「輸出用米の伸びしろは大きい」とみる。
 日本産米の輸出は近年大きく増えている。現地の小売店向けに加え、おにぎりなどの飲食店向けの需要がけん引。産地では転作扱いとなる新市場開拓用米の作付けが進み、23年産では9091ヘクタールまで広がった。
 JAひがしかわは、香港や欧州向けに輸出用米の作付けを増やす。24年産の主食用を含む米全体の作付面積2100ヘクタールのうち、輸出用米は前年比で約60ヘクタール増の130~140ヘクタールを計画。主食用米の需要が縮む中、JAは「海外の需要開拓が進めば水田を守れる」(米穀課)と強調する。
 輸出用や加工用、飼料用など転作で米を作る場合、どの品目に取り組んでも生産者の手取り額が同水準になるようJAが調整する。品目間の不公平感を取り除き、需給均衡に必要な規模の転作を実現している。
 転作扱いの米は、品質基準を主食用米と統一している。銘柄も「ななつぼし」や「ゆめぴりか」など同じにすることで、「転作品目間でスムーズに移行できる」(同)。

 水稲100ヘクタールのうち6、7ヘクタールで輸出用米転作を見込む板谷代表は「大規模農家は米以外の転作に力を割くことは現実的に難しい。おいしい米を作ることに注力できる輸出用米は魅力的」と評価する。
+  +

 米の新用途として米粉用米の注目度も高い。24年度の需要量は6・4万トンで、過去最多の前年度を2割上回る。国際穀物相場の高騰や健康志向を追い風に、パンや麺、菓子など幅広い分野で米粉の商品開発が進む。
 米粉用米の増産を進める埼玉県は、24年産作付けで前年比1割増の850ヘクタールを計画する。堅調な需要に加え、「一般品種で交付金が引き下げられる飼料用米などに比べて生産者に勧めやすい」(県内のJA関係者)。JA埼玉中央などでは米粉加工適性の高い「笑みたわわ」の拡大に取り組む。需要に応じた転作で所得確保につなげる動きがある。

主食用米の需給、農家経営の安定へ、24年産の水田転作にどう臨むのか。産地の動きを追う。(5回掲載)

日本農業新聞 2024年5月4日 [どうする転作]⑤24年産見通し 主食米に揺り戻し警戒 堅調米価、飼料用は助成減


 「2024年産は主食用米を増やす生産者が多くなるかもしれない」。北陸にある地域農業再生協議会の関係者は指摘する。
 農水省がまとめた全国の24年産作付け意向調査(1月末時点)によると、全体の7割の30都府県が主食用米の作付けを前年並みとした。同省は「需要に応じた生産・販売を考えられた結果」(坂本哲志農相)と評価する。
 それでも24年産の作付けで転作作物から主食用米への揺り戻しを警戒する産地は少なくない。前年同時期の調査ではゼロだった主食用米を増加傾向とする産地が、北海道など5道県あった。転作の要の飼料用米は、減少傾向が25道府県に上る。
 背景には主食用米の不足感がある。23年産は猛暑で等級低下が広がり、米の出回り量が大きく減少。販売は前年を上回るペースで進み、民間在庫量(同省調べ)が直近の3月時点で前年比で14%減と低水準にある。
 収入も作付けの判断材料となる。同省がまとめた水田作物別の10アール収入を見ると、23年産の主食用米は13万円となり、飼料用米(標準単収)、小麦や大豆などの10万円強を上回る。主食用米価格は24年産でもう一段上げるとの見方が広がる。
 一方、飼料用米の一般品種は水田活用の直接支払交付金が24年産から引き下げられる。専用品種で取り組み定着を目指す動きがあるが、全体では減産に向かう。飼料用米を減らす見通しの千葉県は助成減額に加え、「主食用米価格が上昇傾向であることも影響したのではないか」とみる。

 現状の引き締まった需給は、異常気象によるところも大きい。長期的に見れば米の消費減少傾向も続く。産地で「主食用米を増やそうという機運がある」(福島県)中、増産が広がれば需給が再び緩和する恐れもある。
 米価は近年、乱高下を繰り返してきた。農業関係者からは「一時期の価格に左右されるのではなく、稲作経営の安定や農地の維持に向けて、転作の定着が欠かせない」との声が上がる。 (おわり)

主食用米の需給、農家経営の安定へ、24年産の水田転作にどう臨むのか。産地の動きを追う。(5回掲載)

「養豚の友5月号」「養鶏の友5月号」
第10回 飼料用米普及のためのシンポジウム2024 開催記事が掲載されました。発行所:日本畜産振興会 〒151-0053 東京都渋谷区代々木3-26-2 新宿カメヤビル2F

 

日本農業新聞
2024年4月26日

 食料・農業・農村基本法改正案がきょう参院で審議入りする。
 食料危機が現実味を帯びる中、どう食料安全保障を確保し、農業・農村を守るか。
 衆院での審議を踏まえ、具体策や財源論も含めて議論を深めたい。
 将来に禍根を残さぬよう党派を超えて一致点を見いだす努力をすべきだ。 
 「農政の憲法」を巡る国会審議は、折り返し地点を迎えた。
 改正案は3月26日の衆院本会議で審議入りし、農林水産委員会での審議時間は約31時間に及んだ。
 特に丁寧な審議が必要とされる「重要広範議案」の目安とされる20時間は超えたものの、過去の農水関係の重要広範議案と比べると短い。
 基本法は、政策の方向性を定める理念法ではあるが、政府は、重要な論点についても改正後に具体化するとの答弁を繰り返し、議論が深まったとは言い難い。 
 衆院では、与党と日本維新の会などの賛成多数で改正案を可決。与党は維新の提案を一部受け入れ、多収品種の導入促進を追加する修正も行われた。
 一方で「農業所得の確保」を求めた立憲民主党などの修正案は拒み、多くの野党が改正案の反対に回った。
 食料安保の必要性や国内生産の強化で各党の認識は一致している。
 意見が異なるのは、それを実現する手法だ。
 とりわけ、衆院では農業所得をどう確保するかが議論になった。
 改正案では、農産物の価格形成を巡り「持続可能な供給に要する合理的な費用」を考慮する方針を明記。岸田文雄首相はその仕組みづくりへ「法制化も視野に検討する」と表明した。
 ただ坂本哲志農相は消費者の納得を得ながら進める考えを強調。審議ではコスト転嫁の仕組みを実現する難しさも浮き彫りになった。
 そのため、野党は価格転嫁の必要性を認めつつも、直接支払いの強化が必要だと主張。参考人質疑でもその重要性を指摘する意見が相次いだ。
 これに対し、政府は規模拡大などの構造政策を維持しつつ、「生産性向上や高付加価値化を通じて農業所得の向上を目指す」考えを示す一方、新たな環境直接支払いを検討するとも表明した。
 直接支払いの体系をどう組み直すかは重要な論点だ。政府は改正後、水田政策の検討に入る方針で、転作助成金の「水田活用の直接支払交付金」の見直しも避けて通れない。
 中山間地域等直接支払や多面的機能支払といった日本型直接支払制度の次期対策の検討も控える。
 政府・与党も「経営安定対策の充実」を掲げる。
 だが政権交代につながった旧民主党の戸別所得補償制度への警戒感からか議論に消極的にみえる。
 国民を巻き込み、財源論からも逃げることなく正面から議論すべきだ。


日本農業新聞
 2024年4月25日

子実コーン大幅増は「困難」 衆院農水委で農相

 坂本哲志農相は25日の衆院農林水産委員会で、濃厚飼料となる子実用トウモロコシを巡り「生産を今後大きく引き上げることは現実的に困難だ」との認識を示した。輸入飼料より価格や生産費が高いことなどを理由に挙げた。一方、粗飼料となる青刈りトウモロコシは輸入品に対して競争力があるとし、生産拡大に意欲を示した。立憲民主党の神谷裕氏への答弁。
 子実用トウモロコシについて坂本農相は、ほぼ全ての畜種に給与でき、輪作体系に組み込むことで連作障害を避けるのに役立つと強調した。一方、「飼料はできるだけ低いコストで生産することが重要だ」とも指摘。日本では耕作面積の制約や湿潤な気候で生産費がかさむ課題があるとの認識を示した。
 農水省は、可消化養分総量(TDN)ベースの生産費について、子実用トウモロコシは1キロ当たり86円、輸入トウモロコシは同55円と試算。子実用トウモロコシを栽培する国内の農家にとっても、手取りが「低い水準」にとどまってしまうとした。神谷氏への答弁。
 加工原料用米の不足への対応を巡り、坂本農相は、政府備蓄米の放出に慎重な姿勢を示した。過去に放出した際に加工用米価格が急落したためだとした。一方、不足を補う形でミニマムアクセス(MA=最低輸入機会)米の販売量が前年同期の1・6倍に増えていると説明。「さらに需要に応えて販売を行っていく」とした。2023年産米は、出穂後の日照が多く、粒の充実が進み、加工原料に使う「ふるい下米」が少ない。今後について坂本農相は「まずは24年産の加工用米の作付けを要請していかなければいけない」と述べた。共産党の田村貴昭氏への答弁。

東京新聞 WEB
 2024年4月26日 09時26分 (共同通信)
 東証65円高、一時小幅値下がり 午前9時15分現在
 26日の東京株式市場の日経平均株価(225種)は午前9時15分現在、前日終値比65円81銭高の3万7694円29銭となった。一時、小幅ながら値下がりに転じた。


追加資料:今回の円安局面は全通貨に対し円安が進行しています。財界からも懸念が出ています。
対ドル 158円
対ユーロ 169円 リーマンショック以来の円安
対ポンド 198円
対スイスフラン 173円
対豪ドル 103円



[農政の憲法]基本法改正案に付帯決議,脱輸入依存、国産増を、衆院農水委

日本農業新聞
2024年4月19日

18日の衆院農林水産委員会は、食料・農業・農村基本法改正案に対する付帯決議を採択した。政府に対し、生産コストを反映した農産物の価格形成に必要な制度を具体化することや、国内生産を増やして食料自給率の向上に努めることを求めた。

 付帯決議は、共産党を除く賛成多数で可決。食料や農業資材の過度な輸入依存からの脱却に向けた施策を強化することも求めた。麦や大豆、飼料作物などの国内生産の拡大、肥料など輸入に頼る農業資材の国内代替資材への転換などを進めるべきだとした。
 農地の確保に向けた支援措置も要請。農業水利施設などを念頭に、農業生産基盤に関わる施設の維持・管理費の負担を軽減する支援の実施も盛り込んだ。
 他に、農業経営の安定を図りつつ、農業の収益性向上を図ることや、地域社会の維持に必要な施策を講じ、農村の総合的な振興を図ることを盛り込んだ。
 18日の衆院農水委では、改正案に賛成・反対する各党が採決を前に、それぞれの立場から意見を述べた。
 賛成の立場からは「何よりも重要なことは基本法の理念実現のための具体的な施策の力強い推進だ」(公明党の角田秀穂氏)、「日本の農業の成長を目指すための農政改革に取り組んでいく」(日本維新の会の一谷勇一郎氏)と今後を見据えた意見が上がった。
 一方、反対の立場からは「(現行の基本法の)基本理念の実現を目指した取り組みと現実のかい離に対する真摯(しんし)な総括と批判的な検証がない」(立憲民主党の緑川貴士氏)、「崩壊の危機が広がる農業と農村に希望をもたらす改正にしなければならなかった」(共産党の田村貴昭氏)、「国内農業生産をどこまで増やすのか目標があいまいで、国の責務が後退した」(無所属の北神圭朗氏)といった意見が出た。
複数修正案 採決割れる
 食料・農業・農村基本法改正案を可決した18日の衆院農林水産委員会では、複数の修正案が提出されたが採決結果は割れた。与党が、多収品種の導入促進を明記するよう求める日本維新の会の修正案をのむ一方、農業所得の確保を明記する立憲民主党などの修正案は拒否した。
 「政府・与党は(提案した)修正項目の全てに対して、(条文に)規定済みあるいは対応不可と言って一顧だにせず、ゼロ回答だった」。
この日、改正案への反対討論を行った同党の緑川貴士氏は怒りをにじませた。
 修正案は①自民・公明・維新②立民・有志の会③国民民主④共産──が、それぞれ提出。
与党が微修正に応じて維新を政府原案の賛成に取り込む一方、その他野党の提案には応じず大幅修正を回避した。
 立民などの修正案は「農業所得の確保による農業経営の安定」を図ることを明記するよう要求。価格形成で、政府原案の「合理的な価格」を「適正な価格」に改め、農業の持続性確保の考慮も求めた。農地や農業用施設の保全に必要な施策として、直接支払制度を念頭に「保全する農業者に対する支援」を加えるよう求めた。
 国民民主党の改正案にも、基本的に立憲民主党と同様の修正項目が盛り込まれた。
 一方、共産党の修正案では、38%に低迷する食料自給率を「できる限り早期に50%以上」に引き上げ、さらに「70%以上」にすることを明記するよう求めた。家族農業を農業施策の中核に位置付けることや、経営規模の大小を問わず適切な農業所得を確保することなども盛り込んだ。

日本農業新聞・論説
2024年4月14日
[論説]食料の供給「不安」2割 国民理解は食農教育で

 食料供給を不安視するのは2割どまり――。農林中央金庫が消費者を対象に行った調査で、こんな結果が出た。食料自給率が38%の日本で、食や農業への理解が不十分なことがうかがえる。今一度、毎日の食を通して農業について学ぶ「食農教育」に力を入れる必要があるのではないか。
 調査は2月に実施した。国内農業の課題について尋ねたところ、消費者の8割が「(課題だと)感じている」と答えた。具体的には「人手不足」(86%)が最多で、「後継者不足」(84・2%)、「生産コストの上昇」(51・2%)と続いた(複数回答)。

 一方、食料安全保障に対して消費者の関心が低いことが浮き彫りとなった。国産農産物・食材の供給・生産の未来について「不安」と感じる消費者は22・6%で、「安心」(55・1%)を大きく下回った。その理由は「現時点で不安になるような支障が生じていない」がトップだった。コンビニやスーパーに行けば途切れることなく食品が並んでいるからだろうか。
 ただ、国際紛争や気候変動で、日本がこの先も食料を安定的に輸入できる保証はない。国内の農業基盤も、高齢化に資材高騰が追い打ちをかけ、離農は相次ぎ、耕作放棄地は増え、弱体化に歯止めがかからない。国民全体に食と農の現状を知ってもらい、危機感を共有することが急務だ。

 鍵となるのが食と農の教育だ。政府は食育推進に向け、2025年度までの達成を目指して24の目標を掲げる。農水省によると、このうちの11で数値が悪化し、目標と遠ざかっているという。
 特に、産地や生産者を意識して農林水産物・食品を選ぶ割合は、23年度が67・4%と、20年度に比べて6・1ポイント低下した。物価高騰などの影響で産地よりも家計を考慮し、食品を購入する人が増加したとみられる。食育に関心を持つ割合も、23年度が78・1%と同5・1ポイント低下した。
 今一度、政府や自治体、JA、食品メーカーなど関係者それぞれが、農業体験の提供や食農教育の機会を意識してつくっていく必要がある。
 政府の23年度食育白書の骨子案では、参考にしたい具体的な取り組みを紹介している。大手乳業メーカーの明治は、牧場や乳製品工場の見学で酪農への関心を高めている。横浜国立大学教育学部付属鎌倉小学校は、給食の残さで作った堆肥で野菜を育て、給食の食材に使っている。命を育てる機会を広げたい。
 国会では25年ぶりとなる食料・農業・農村基本法改正に向けた審議が本格化する。焦点となる農産物の価格転嫁の実現も、国民の理解が不可欠だ。食農教育についても活発な議論を期待したい。

日本農業新聞
2024年4月16日

オピニオン[今よみ]
短絡的な「成長産業化」
農村崩壊前提の誤謬(ごびゅう)
            東京大学大学院特任教授・鈴木宣弘氏


 日本の人口問題では「あと数十年で人口は半減するから、それに合わせた社会構造に転換しなくては」という議論がよく行われるが、強い違和感を覚える。人口減少前提でなく、人口が減らないようにするのが政策ではないか。
 最近、納得できた。同じ議論が農業・農村についても行われている。農業就業人口が急速に減少し、もうすぐ農家はさらにつぶれ、農業・農村は崩壊する。だから、わずかに残る人が「成長産業化」するか、企業などの参入でもうかる人だけもうければいいではないかと。みながつぶれないように支える政策を強化すれば事態は変えられるという発想はない。
 「食料自給率」や「農村」という概念は希薄だ。「国消国産」のために食料自給率を向上するという考え方もないし、農村コミュニティーが維持されることが地域社会、伝統文化、国土・治水も守るといった長期的・総合的視点はない。 農業者の平均年齢が68・7歳という衝撃的な数字は、あと10年で日本の農業・農村が崩壊しかねず、コスト高による赤字でその崩壊は加速している。一方、お金を出せばいつでも食料が輸入できる時代ではなくなったのだから、今こそ国内生産への支援を早急に強化し、食料自給率を高める抜本的な政策を打ち出すと思ったが、そうなっていない。それが納得できた。
 だから、食料自給率を軽視する発言が繰り返され、コスト上昇に対応できない現行施策の限界は認めず、国内農業支援は十分で施策強化は必要ないとの認識が示される。そして、効率的かつ安定的な農業経営には「施策を講じる」とする一方、多様な農業者については「配慮する」だけで施策対象にはしない。定年帰農、半農半X、消費者グループなど多様な農業経営体の役割が重要になっている農村現場を支える意思はない。 一方で「規模拡大によるコストダウン、輸出拡大、スマート農業」が連呼され、加えて、海外農業生産投資、企業の農業参入条件の緩和を進める。誰の利益を考えているのか。
 このままでは、IT大手企業らが描くような無人農場などが各地にポツリと残ったとしても、農山漁村の大半が原野に戻り、地域社会と文化も消え、食料自給率はさらに低下し、不測の事態には超過密化した拠点都市で餓死者が続出するような歪(いびつ)な国に突き進みかねない。農業・農村のおかげで国民の命と暮らしが守られていることを今こそ認識しないと手遅れになる。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

農業協同組合新聞
2024年4月10日
環境シンポジウム「食・環境・農薬 沈黙の春62年後の現実」
名古屋で開催


 沈黙の春62年後の現実トークセッション実行委員会は5月25日、環境シンポジウム「食・環境・農薬 沈黙の春62年後の現実」を名古屋市で開催する。
 同シンポジウムでは、農薬の危険性を告発したレイチェル・カーソン著『沈黙の春』をテーマに、専門家11人が環境汚染・生態系の問題から、農業生産・食品加工・食品販売までについて話し合う。
 当日は、ベストセラー「里山資本主義」著者の藻谷浩介氏の講演会や各専門家とのトークセッション・パネル討論、「沈黙の春」をテーマにした歌や食・環境に関するクイズ大会などを実施。参加無料で子どもから大人まで楽しめるイベントを予定している。
 また、参加者全員に、協賛企業の龍の瞳から、岐阜県基準の1/3程度の農薬使用量で栽培されたブランド米「龍の瞳」3合をプレゼント。
 ◎開催概要
日程:5月25日 13時~16時15分
場所:ウィルあいち(愛知県女性総合センター
所在地: 愛知県名古屋市東区上竪杉町 1番地4階ウィルホール)
定員:800人
参加方法:事前申込制
参加費:無料
【参加申込フォーム】

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

日本農業新聞
2024年4月8日
[注目あぐりデータ] 主食用米などの作付け面積


 今回は、水田の利用状況の推移。2023年産までの過去10年の推移を見ると、主食用米の作付けは、国内の需要減少を背景に減少傾向が目立つ。
 一方で、国による転作助成などにより、飼料用や発酵粗飼料(WCS)用稲など新規需要米の作付面積は過去10年で約3倍に拡大した。大豆は12万ヘクタール、麦は17万~19万ヘクタールで足踏みが続いている。
 農水省によると、14年産は147万ヘクタールだった主食用米の作付面積は、23年産は124万ヘクタールと、10年で16%減少した。

 一方、作付けが大きく拡大しているのが、飼料用やWCS用、米粉用などの新規需要米だ。
 23年産は20万ヘクタールと、14年産の7万ヘクタールから大幅に伸びた。
 新規需要米の6割強を占めるのが飼料用だ。14年産の米価低迷をきっかけに、15年産は前年の3万ヘクタールから8万ヘクタールに急伸。

 23年産は13万ヘクタールと10年間で4倍に増えた。 
 同省は飼料用米について、一般(主食用)品種で取り組む場合、24年産から転作助成を段階的に減額する。一方、主食用米は需給に逼迫(ひっぱく)感があり、価格に先高感が出ている。

 こうした中、飼料用から主食用に揺り戻しが起きる可能性があるとの見方も出ており、今後の動向が焦点となっている。

日本農業新聞
2024年4月9日

[論説] 「国消国産」運動の推進 農業の今考える契機に

 国民が消費する食料はできるだけ国内で生産する「国消国産」の推進へ、JAグループの2024年度統一運動方針が決まった。
 農畜産物の適正な価格形成には、農業の現状に対する消費者側の理解が欠かせない。
 農の今、未来を「自分事」として国民に考えてもらう機会を増やしたい。
 ロシアによるウクライナ侵攻から2年が過ぎ、肥料や飼料など生産資材の高騰による農家の苦境を、報道などで見聞きする場面は増えた。

 加工食品をはじめ、鳥インフルエンザに伴う卵の価格上昇などは、輸入に依存する食の実態をあぶり出した。食料安全保障への理解を広げるきっかけになっただろう。
 ただ、食料の安定供給について国民はどう思っているのだろうか。

 農林中央金庫の調査では、消費者の8割が「農業に課題がある」と回答した一方、国産農産物・食材の供給・生産の未来を「不安」と回答したのは2割にとどまった。
 「現時点で不安になるような支障が生じていない」というのが主な理由だ。
 しかし、将来に目を向ければ不安要素ばかりだ。人口減少が深刻化する日本とは対照的に、世界の人口は増加する。

 食料争奪が激化する中で、日本の購買力は弱まっており、輸入農産物・生産資材の安定的な確保が将来にわたって可能なのか、黄信号がともる。
 今こそ国内の農業生産の維持、強化が欠かせない。
 国民全体で国産の農畜産物を買い支え、食べ支えることが重要だ。こうした理解を深めるための取り組みは、道半ばだ。
 持続可能な農業の実現に必要なのが、コストを適正に反映した価格の形成だ。

 生産費の高止まりは長期化しているが、農畜産物の価格には十分に反映されていない。
 価格形成を支える法制度の道筋がいまだ不透明な中で、生産現場では離農が相次いでいる。
 トラック運転手の労働時間規制が強まり、輸送力が不足する「物流2024年問題」も、農業にとって大きなハードルとなる。

 運転手の荷待ち、荷役時間の削減対策などで経費は増え、運転手確保の鍵となる待遇改善へ運賃値上げを求める声も強まるだろう。
 こうした物流コストを、苦境にある産地だけに押しつけていいのか。今こそ農畜産物価格に適切に反映し、農業所得を下支えする必要がある。
 食料品の値上げが家計を圧迫する中で、価格転嫁に理解を得るのは容易ではない。

 だからこそ、日本の農業が、未来を生きる子どもたちの食の安全・安心を支えていることを訴え、理解を得る努力を重ねる必要がある。
 「国消国産」の運動方針で、子育て層や若年層を重視した意味はそこにある。
 JAグループ挙げて国民理解につなげよう。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

日本農業新聞
2024年4月8日

[ニュースあぐり]
どうする畑地化 5年限りの助成、経営課題に

 水田を畑地化するかどうかが、各地の担い手の経営課題に浮上している。農水省は畑地化への助成を用意するものの、助成期間は5年限り。品代が確保できる園芸品目では助成を活用して経営発展を目指す動きもあるが、ソバなど恒常的な助成金なしでは赤字の懸念がある作物もある。
転作定着田で助成活用促す
 農水省は、転作で畑作物を長年作り続けている水田について、大きく分けて①転作助成の要件見直し②畑地化への助成――の2方策で畑地への転換を促す。
 転作助成の「水田活用の直接支払交付金」では、5年に1度、田に水を張ることを受給条件に位置付けた。水路がないなどで水を張れない場合は、恒常的に受けてきた同交付金の対象から外れる。
 一方、畑地化し同交付金の対象から外れた農地への助成も措置した。2024年産では10アール当たり14万円を1度限り払うことに加え、5年間、同2万円を払うことが基本だ。
 同省によると、畑地化の助成は、23年産は計3万5000ヘクタールが対象。内訳は麦が4000ヘクタール、大豆が2000ヘクタール、飼料作物、ソバとナタネが計1万6000ヘクタールで、他に野菜など高収益作物もある。24年産では、1万ヘクタール超分を畑地化する予算を確保した。

園芸品目では経営投資意欲
 「畑地化しても、経営に大きな影響はないだろう」。山形県尾花沢市で水稲やスイカを栽培する西尾農園の西尾正和代表はそう見通す。スイカ5ヘクタールのうち1ヘクタールを栽培する転作田を畑地にし、23年産から国の助成を受ける。その転作田では10年以上、スイカを連作してきた。
 西尾さんによると、スイカの10アール当たりの品代は約120万円の一方、生産コストは同55万円。これまで同2万500円を受給してきた水田活用交付金がなくても、経営は成り立つという。今後は畑地化の助成金を活用して新たなトラクターを導入し、収穫作業を効率化する計画だ。
 西尾さんは、当該の転作田は水路も備えるが、水張りを安定して行えるよう整備し直すには、金銭的な負担が大きいとし、畑地化を選んだ。

ソバは厳しく 支援制度訴え
 課題が多いのはソバ産地だ。山形県村山市では、畑地化の助成が5年限りとされたことに対して、「耕作放棄地が増える」との懸念が相次ぐ。ソバは品代だけで生産費を賄えず、恒常的な支援が必要との訴えだ。
 同市の転作田でソバ15ヘクタールを栽培する山形ノーテック。23年産からその15ヘクタール全てを畑地化し、同省の助成を活用する。10アール当たり収量は45キロで、品代は約1万2000円だった一方、生産費は同2万5000円。他にも地権者への地代支払いなどがある。10アール当たり2万円の水田活用交付金と、同約1万円の畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)がなければ、生産費割れとなる水準だ。
 同社の斎藤真栄代表は「畑地化の助成がある5年間は赤字が回避できるだろうが、その後は厳しい。産地を維持できるよう、新たな支援制度を国に求めたい」と話す。
 大豆でも、先行きの不透明さを指摘する声がある。宮城県内のある法人は、大豆30ヘクタール弱のうち2ヘクタールを畑地化する方針だ。水田活用交付金から外れ、畑地化の助成も途切れた後は「赤字になる可能性がある。その分は野菜を増産するなどしてカバーしたい」という。
(木寺弘和、仁木隼人)

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

日刊毎日経済通信
第13639号 令和6年3月27日(水曜日)

 第10回飼料用米普及のためのシンポジウム開催 2P
 日本飼料用米振興協会農業基本法改正で政策提案 2P

    日刊毎日経済通信 飼料畜産特報 日刊 (土・日曜日および休日休刊)
    ◎毎日経済通信社 1987 定価10,000円(税抜き 1ヶ月) 前納
    発行所 株式会社 毎日経済通信社 発行人 吉上 豪
    本社 大阪市北区神山町6-6 TEL(06)6316-7201  FAX (06)6316-7207
    東京 TEL (03)3256-2007  FAX (03)3256-2043
    新聞電子版 お申込みはホームページから http://www.maikei.co.jp/

第10回飼料用米普及のためのシンポジウム開催
 (一社)日本飼料用米振興協会は3月25日、午前11時より、東京・弥生の東京大学弥生講堂において、「第10回飼料用米普及のためのシンポジウム2024」を開催した。
 同シンポジウムは、午前11時より飼料用米に関した資料の展示。
 12時50分よりシンポジウムが行われ同シンポジウムでは、海老澤恵子理事長の開会あいさつ。

令和5年度「飼料用米多収日本一」の受賞者の紹介の後、五題の話題提供が行われた。
これについて、テーマと提供者は次の通りである。
⓵ 日本の食料自給率の実態と課題について=東京大学大学院農学部鈴木宣弘教授(ビデオによる)。
⓶ 飼料用米年間五、〇〇〇トン養豚事業の取組みと今後の課題 =(有)ブライトピック千葉 石井俊裕取締役常務。
⓷ 飼料用米という農業革命一飼料用米圃場視察会、鶏肉・採卵事業の推進と課題 =(株)秋川牧園生産部次長 (ゆめファーム) 村田 洋取締役農場長。
⓸ 生協における産直鶏卵の取り組みと課題 =東都生活協同組合事業本部商品部食品第一グループ 渡辺彩香商務。
⓹ 飼料用米に関する取組み、成果と課題、政策アピール =(一社)日本飼料用米振興協会 信岡誠治理事。


五題の話題提供終了後、話題提供者と会場参加者による質疑応答・意見交換が行われた

日本飼料用米振興協会農業基本法改正で政策提案
(一社)日本飼料用米振興協会は別項のように開催した「第10回飼料用米普及のためのシンポジウム2024」において、食料・農業・農村基本法の改正に向けて、飼料用米に関した政策提案を行った。
同政策提案の内容は次の通りである。


(1)食料安全保障は国内生産の拡大を大前提とすべきです=
 わが国の水田農業はコメを軸として食料自給率の維持・向上の要として機能してきました。
 過去50年以上にわたる米の生産調整は「水田を水田として維持していく」という国民合意で多額の財政資金の投入を行い、水田を守ってきています。
 言い換えれば水田は国民全体の共有財産で食料安全保障の要です。
 そのことを国民に訴えて水田の生産力を最大限に引き上げていくべきです。
(2)水田の生産力を最大化する飼料用米を食料安全保障の要として位置づけるべきです=
 飼料用米は米需給の調整弁として見られがちですが、実は食料自給率向上だけでなく食料安全保障の要です。
 現在、飼料用米は家畜の飼料原料として重要な一角を担ってきており飼料自給率の向上に大いに寄与してます。
 今は、飼料用米は一切食用米への転用は禁じられていますが、人が食べても美味しいのが現実です。
 いざ食料危機の場合は人の食料へ転用ができるように制度設計していくべきです。
 ある意味では飼料用米は食料安全保障の最後の砦となります。
(3)飼料用米に求められているのは安定供給の確保です=
 飼料用米の生産量は年々拡大してきて80万を超えた時(2022年産)もあります。
 基本計画の70万を超えた優等生であるはずですが、現在は増えすぎなので生産拡大にブレーキが掛けられております。
 その結果、畜産生産者は飼料用米の調達が困難となっております。
 実需者から飼料用米に求められているのは増産と共に安定供給の確保です。
(4)飼料用米の交付金の上限は撤廃すべきです=
 飼料用米を生産する稲作生産者には地域の標準単収をベースに10a当たり8万円の標準単価を基準にキロ当たり約167円の単価で±150k/10aの範囲(5・5~10・5万円/10a)で水田活用の交付金が直接支払いされています。
 しかし、上限が設けられていることから超多収 (地域の標準単収から150/k以上の多収は打ち切り)を実現しても経済的メリットがないというのが問題点として指摘されています。
 多収のモチベーションアップのためにも交付金の上限は撤廃すべきです。
(5)多収で高タンパク米の品種開発を再開するべきです=
 多収で高タンパク米が飼料原料として求められています。
 すでに多収で高タンパク米の品種が開発されていますが、普及はこれからです。
 これらの品種の普及と共に現在は中断されていますが、さらに多収で高タンパク米の品種開発を再開していくべきです。
 水田の生産力を最大限に発揮するにはさらに優良な多収品種の研究開発の継続が欠かせません。

日本飼料用米振興協会、飼料用米普及シンポ

2024/4/1
農機新聞 2024年(令和6年)4月2日付


(一社)日本飼料用米振興協会(海老澤惠子理事長)は3月25日、第10回「飼料用米普及のためのシンポジウム2024」を東京大学の弥生講堂で行った。現在、国会で審議されている改正食料・農業・農村基本法への政策提言を実施。政府に対して以下の5つを提案した。
①食料安全保障は国内生産の拡大を大前提とする(過去50年以上の生産調整により多額の財政資金を投入してきた水田を国民全体の共有財産として、生産力を最大限に引き上げる)

②飼料用米を食料安全保障の要として位置付ける(現在は食用米への転用は禁止されているが、食料危機の際に転用できるよう制度設計し、食料安全保障の最後の砦とする)
③飼料用米の安定供給確保(生産拡大の抑制による畜産生産者の飼料用米調達の困難を改善)
④飼料用米の交付金の上限撤廃(超多収の経済性を削ぐ上限の撤廃により、多収の意欲向上を促進する)
⑤多収で高たんぱくの品種開発(中断されている優良多収品種の研究開発を再開) 
                株式会社 新農林社
                      代表取締役社長 岸田義典
     【東京本社】 101-0051、東京都千代田区神田神保町1-2-5 和栗ハトヤビル4F
           電話03(3291)3671(代)、FAX03(3291)5717 sinnorin@blue.ocn.ne.jp

農村ニュース

農村ニュース
2024年4月2日

国内生産拡大求める
飼料用米シンポ基本法改正へ提言

国内生産拡大求める 飼料用米シンポ基本法改正へ提言

 日本飼料用米振興協会(海老澤恵子理事長)は3月25日、東京都文京区の東京大学弥生講堂で「第10回飼料用米普及のためのシンポジウム2024」を開催した。
 シンポジウムは、始めに海老澤会長が挨拶。「国際社会での分断や対立の激化、地球規模での気候変動の中で、わが国の食料安全保障の脆弱さに不安を抱かざるを得ない。今こそ、日本の食料自給率向上の取組を一層強めること、そのための飼料用米の安定供給こそが求められていると考える」と述べた。
 その後、東京大学農学部の鈴木宣弘教授が「食料自給率をめぐる諸問題」と題してビデオ講演。飼料用米も重要な安全保障政策の一環として認識すれば、その大幅な拡大が重要なことは明らかである、とした。
 続いて、㈲ブライトピック千葉取締役常務の石井俊裕氏、㈱秋川牧園生産部次長(ゆめファーム)取締役農場長の村田洋氏らが取組報告。更に、振興協会の信岡誠治理事が「食料・農業・農村基本法改正へ向けての政策提言」を行った。
 提言は、

①食料安全保障は国内生産の拡大を大前提とすべき
②水田の生産力を最大化する飼料用米を食料安全保障の要として位置づけるべき
③飼料用米に求められているのは安定供給の確保
④飼料用米の交付金の上限は撤廃すべき
⑤多収で高タンパク米の品種開発を再開すべき―の5項目。
 ①では、水田が国民全体の共有財産であることを訴え、水田の生産力を最大限に引き上げるべき。

 ②では、いざ食料危機の場合は、飼料用米を人の食料へ転用ができるように制度設計していくべき。
 ある意味では飼料用米は食料安全保障の最後の砦となる、とした。
 最後に、振興協会の加藤好一副理事長が挨拶し、閉会となった。


               株式会社国際農業社 農林業機械・農薬・資材についての動向を紹介する
               受付時間 平日9:30~17:00TEL 03-3831-5281毎週 火曜日発行
【本社】〒110-0005 東京都台東区上野1-16-5(産経ビル)TEL 03-3831-5281(代) FAX 03-3831-5480【支社】〒550-0003 大阪市西区京町堀1-10-8(福岡ビル)TEL 06-6441-2043  FAX 06-6441-3685
  代表者 金子 眞紀子  創刊 昭和31年5月5日 週刊12~20頁+雑誌(季刊)
  加盟団体など 農林水産省 農林記者会 第一国会記者クラブ 公益社団法人 日本専門新聞協会


日本農業新聞
2024年4月3日

[論説]酪農家の戸数減 国を挙げて離農を防げ

 窮地の酪農家を支えよう。全国の指定生乳生産者団体(指定団体)への出荷戸数は2月末時点で1万334戸まで減り、1万戸を割る恐れが出てきた。円安は続き、酪農危機は去っていない。輸入依存から脱却し、持続可能な酪農経営と良質な牛乳・乳製品の生産につなげる必要がある。
 4、5月は酪農家の離農が増える時期となる。2023年は、2月末が1万1012戸だったが、5月末には1万729戸と、3カ月間で283戸減った。年間の離農戸数は平均月56戸で、年度をまたいだこの時期に集中している。
 昨年と同様のペースで離農が進めば、5月末までに1万戸を割りかねない。際限のない離農を食い止めなければ、国産牛乳・乳製品を学校給食や食卓などで味わうことができなくなる。離農の増加は国民の食生活に直結する。
 20年以降、酪農を取り巻く環境は厳しい状況が続く。新型コロナ禍による生乳需要の減少をはじめ、ウクライナ危機や円安に伴う輸入飼料価格の高騰、子牛や廃用牛などの市場価格の下落と、産地の努力だけでは解決できない問題が山積する。生産者も消費者も納得できる適正価格の実現、輸入に左右されない国産飼料の生産拡大、政府による経営安定対策、直接支払いの充実が求められている。
 コスト上昇分を販売価格に転嫁しようと、指定団体はこの2年足らずで1キロ当たりの飲用向け乳価を計20円引き上げた。だが「値上げで消費が減るかもしれない」という不安が常につきまとう。将来にわたって酪農を続けていける価格を設定できない怒りや失望が産地側に募っている。
 続けられたはずの酪農に見切りを付けた例は多い。北海道内のJA組合長は「経営が手堅い人から離農していった。地域の生産基盤が目に見えて弱まった」と指摘する。
 生産基盤が弱体化すれば、その影響は地域、国民全体に及ぶ。食料自給率も一層、低下する。猛暑の影響で昨年9月には、各指定団体の受託乳量は1割ほど落ち込み、生乳が足りない状況に陥った。1億2500万人が飲む牛乳をわずか1万戸の酪農家が支えている。綱渡りのような生産基盤では離農は止まらず、後継ぎも生まれない。地域は成り立たず、疲弊する一方だ。

 農業は、国民の命を支える尊い仕事だ。食料・農業・農村基本法改正に向けた国会審議が始まったが、「国を挙げて農業を支える」という岸田首相自らの強いリーダーシップとメッセージが必要だ。
 現在、政府主導で適正な価格形成に向けた議論が進むが、離農を食い止め、持続可能な酪農を展望できる制度設計を強く求めたい。

日本農業新聞
2024年3月28日


[論説]食料自給率の目標 達成へ「本気度」を問う

 食料・農業・農村基本法改正案の国会審議が始まった。
 1999年に制定された現行基本法下で旗印とした食料自給率はこの四半世紀、全く上向かず、目標の45%は遠のく。
 改正に当たり政府は、長期にわたる低迷の原因を検証し、今こそ自給率向上に本腰を入れるべきだ。
 食料自給率は、国内で生産される食料が国内消費をどの程度充足しているかを示す指標だ。基本法制定後の2000年に策定した食料・農業・農村基本計画で初めて目標に設定した。
 この時、1999年度に40%だったカロリーベースの食料自給率を2010年度までに45%に高める目標を掲げた。
 一方で、最終的には「5割以上を目指すことが適当」とも明記していた。
 この一文は後に削除されたが、「国民の胃袋の半分くらいは国産で満たそう」とのコンセプトは十分理解でき、食の在り方を巡って農業者にとどまらず、国民的な合意を目指そうとした当時の意気込みが感じ取れる。
 農水省によると、1965年度の自給率はカロリーベースで73%。その後、低下を続け、直近の2022年度では38%となった。
 自給率低下の要因として同省は、飼料の輸入依存度が高い畜産物の消費が増え、国内で自給可能な米や野菜、魚介類の消費が減少したことを挙げる。
 だが、目標に全く届かない背景には貿易自由化がある。
 この間、政府は競争力強化に農政の重点を置いてきたが、果たしてどうだったのか。
 輸入価格が上がっても国産への切り替えが進まない現状をどう打開するのか。
 それを遂行する農業予算は十分か。

 国会での徹底した議論が必要だ。
 会計検査院も自給率目標が達成できない要因の検証が不十分と指摘している。
 改正案では、食料自給率の他にも、食料安全保障の確保に関する目標を定めるとしている。
 政府は、生産資材の安定供給などは自給率だけでは評価できないため、と説明する。
 肥料原料の多くを一部の国からの輸入に依存する危うさが露呈した今、食料安全保障の状況を、より多角的に把握するのは当然だ。
 だが、現行基本法の下でも政府は自給率の指標としての限界を指摘し、潜在的な供給能力を示す食料自給力飼料自給率を考慮しない食料国産率など多くの指標を追加してきた。
 これが不要とは言わないが、食料自給率が上向かないことの言い訳に使ってきた面はないだろうか。
 岸田文雄首相が言うように、食料自給率の重要性は変わらない。
 むしろ食料リスクが高まる中、国民各層が自給率向上に取り組む意義は増す。
 問われているのは、目標達成に向けた政府の本気度だ。

【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】
なぜ多様な農業経営体が大切なのか

農業協同組合新聞
2024年3月28日

農業従事者の平均年齢が68.4歳という衝撃的数字は、あと10年足したら、日本の農業の担い手が極端に減少し、農業・農村が崩壊しかねない、ということを示しており、さらに、今、コスト高を販売価格に転嫁できず、赤字に苦しみ、酪農・畜産を中心に廃業が後を絶たず、崩壊のスピードは加速している。
 そういう中で、25年ぶりの農業の「憲法」たる基本法が改定されることになった。
 果して、それは、この危機的な日本の農業の担い手をめぐる状況の改善につながるであろうか。
 今回の基本法改定の過程において、農村における多様な農業経営体の位置づけが後退しているとの指摘が多くなされてきた。
 最終的には、多様な農業者に配慮する文言は追加されたが、基本的な方向性は、長期的・総合的な持続性ではなく、狭い意味での目先の金銭的効率性を重視していることが法案全体の言葉使いからも読み取れる。
 農家からの懸念に、ある官僚は「潰れる農家は潰れたほうがよい」と答えたと聞いた。
 自給率向上を書きたくなかった理由には、「自給率向上を目標に掲げると非効率な経営まで残ってしまい、予算を浪費する」という視点もあったと思われる。
 2020年「基本計画」で示された、「半農半X」(半自給的な農業とやりたい仕事を両立させる生き方)を含む多様な農業経営体の重視が弱められ、今回の基本法では2015年「基本計画」に逆戻りし、再び、多様な農業経営体を軽視し、「効率的経営」のみを施策の対象とする色合いが濃くなっている。
 2015年計画と2020年計画のスライドを見比べると、一目瞭然なのは、2020年計画の図の右側と左側のうち、2015年計画では、右側がまったく同じで、左側がスッポリ抜け落ちていた。
 2015年計画は図の左側の「担い手」だけだったが、2020年計画には、農水省の一部部局の反対を抑えて「その他の多様な経営体」が右に加えられ、これらを一体として捉えていることが明瞭に読み取れる。
 あくまで「担い手」を中心としつつも、規模の大小を問わず、「半農半X」なども含む多様な農業経営体を、地域を支える重要な経営体として一体的に捉える姿勢が復活した。
 このように、前回の2015年計画は、狭い意味での経済効率の追及に傾斜した大規模・企業化路線の推進が全体を覆うものとなったが、今回の2020年計画は、前々回の2010年計画のよかった点を復活し、長期的・総合的視点から、多様な農業経営の重要性をしっかりと位置付けて、揺れ戻し、ややバランスを回復し、復活した感がある。それが、今回の本体の基本法改定で、また逆戻りしたのである。「半農半X」の人たちなどとの連携については、全青協の元会長の飯野氏の次の発言が示唆的である。
 「兼業農家がコンバインから何から揃えるのではなくて、例えば収穫時期なんかだったら、仮に半農半Xで平日はほかの働きをしているとすれば、土日は、オペレーターとしてコンバインを動かせばいいのです。
 大規模の経営体は、助かるのです。
 そのオペレーターがついでに自分とこの田んぼも刈っちゃうみたいな。
 そうすると、オペとしての収入もあるし、自分の田んぼも維持できるし、コンバイン等を持つリスクもない。
 今課題なのが、だんだんみんな年をとってきちゃって、大きなコンバインを買ったはいいが、そのコンバインで搬出して、トラックでカントリーまで運ぶ人員がいない。
 だから、せっかく早刈りのコンバインを買ったのに、眠っているみたいな状況になっちゃう。
 だったらトラックの運転手を土日やってもらうだけでも、これは地域のためにもなるし、自分ちの2~3町のところもそのオペをやりながら刈るとかでも、あり方としては、僕はいいと思うのですよ。
 水の管理とあぜの管理と水路のドブさらいをしてもらうだけでも、助かりますから。そのような真ん中の担い手を何か育てられないかなと思っているのですよね。」
 今、農村現場は一部の担い手への集中だけでは地域が支えられないことがわかってきている。
 定年帰農、兼業農家、半農半X、有機・自然栽培をめざす若者、耕作放棄地を借りて農業に関わろうとする消費者グループなど、多様な担い手がいて、水路や畔道の管理の分担も含め、地域コミュニティが機能し、資源・環境を守り、生産量も維持されることが求められている。短絡的な目先の効率性には落とし穴があることを忘れてはならない。
 中山間地直接支払いや多面的機能支払いもあるではないかというが、これらは集団的な活動への補助部分が多く、個別経営に対する支払いは不十分との声が多い。
 また、自治体が1/4負担することが条件になっている。
 自治体負担をなくし、国の責任で、個別農家への直接支払いを増額することが現場にとって不可欠となっている。

日本農業新聞
2024年3月29日

24年度予算 転作助成金は減額
一般品種の飼料用米単価引き下げ

 政府の2024年度予算には、農林水産関係で前年度比3億円増の2兆2686億円が計上された。食料・農業・農村基本法の改正を控え、4年ぶりの増額となった。一方、転作助成金に当たる「水田活用の直接支払交付金」の予算は減額。24年度から段階的に一般品種の飼料用米への助成単価を減らす。
 同交付金には3015億円を充てた。水田の畑地化を促す「畑地化促進助成」の予算も含む。23年度補正予算事業を活用した畑地化の進展などを見込み、前年度から35億円の減額となった。
 同交付金は、飼料用米の一般品種への助成単価を24年度から段階的に引き下げる。標準的な収量の場合、24年度の助成単価(10アール当たり)は前年度を5000円下回る7万5000円となる。25、26年度でも5000円ずつ引き下げる。
 水田の畑地化では、23年度補正予算の畑地化促進事業(予算額750億円)の未使用分と今回の24年度予算で、1万ヘクタール超分を畑地化する予算を確保した。
 地域ごとに将来の農地の利用方針をまとめる「地域計画」の策定を後押しする事業には6億円増の14億円を充てた。
 市町村は24年度末までの策定が義務付けられている。
 農業者の減少に対応するため、農作業の省力化に役立つスマート農業技術の開発などに4億円増の44億円、輸出産地の育成に2億円増の32億円を充てた。
 生産コストを反映した農産物の価格形成の仕組み作りに向け、コスト指標の作成や価格転嫁の実態調査にかかる経費として前年度と同額の1億円を盛り込んだ。
 農業農村整備事業には、3億円増の3326億円、収入保険には42億円増の348億円を計上した

農業協同組合新聞
2024年3月28日

飼料用米を食料安保の要に 飼料用米振興協会が政策提言

 (一社)日本飼料用米振興協会は3月25日、基本法改正に向けての政策提言を発表した。
 政策提言では、過去50年にわたり米の生産調整は「水田を水田として維持していく」という国民合意で多額の財政投入を行ってきたことから、これを国民に訴え、食料安全保障の確立は「水田の生産力を最大限に引き上げていくべき」としている。
 また、飼料用米は米需給の調整弁ではなく、いざというときに人の食料へ転用できるよう制度設計し「飼料用米を食料安全保障の要と位置づけるべき」と提起している。
 そのほか畜産生産者から求められている飼料用米の増産と安定供給の確保、水田活用交付金の飼料用米への10a当たり10.5万円の上限を撤廃し、超多収を実現すれば経済的メリットがある施策に変更すべきとしている。
 多収で高タンパク米の品種開発の再開も求めている。


農業協同組合新聞
2024年2月29日

豚に与える飼料用米給餌量を約1.2倍に「日本の米育ち 平田牧場 三元豚」共同購入 生活クラブ

 生活クラブ事業連合生活協同組合連合会は、飼料用米給餌量を約1.2倍に引き上げた豚肉「日本の米育ち 平田牧場 三元豚」の共同購入を3月から開始する。

豚に与える飼料用米給餌量を約1.2倍に「日本の米育ち 平田牧場 三元豚」共同購入 生活クラブ

 豚の飼料は一般的に、トウモロコシが多く使われるが、そのほとんどを輸入に頼っているのが現状。
 一方、生活クラブの豚肉の提携生産者である平田牧場(山形県酒田市)では、飼料用トウモロコシの一部を飼料用米に置き換えて育てている。
 この取り組みは、生活クラブと平田牧場、山形県遊佐町の米農家が協力し、1996年から使われなくなった水田で飼料用米をつくり豚に与えたのがはじまり。
 飼料の国内自給力アップのモデルとして全国に広がっている。

 平田牧場では、飼料用米給餌量を増やすために継続的に試行錯誤を重ね、開発当初は1頭あたり19kgだったものを2022年には83kgへ、そして2023年に102kgへの引き上げを実現した。
 「日本の米育ち 平田牧場 三元豚」は、肉質の良さに定評のある黒豚(バークシャー)の3品種をかけ合わせた三元交配豚(三元豚)の肉で、繁殖力と丈夫さ、おいしさを兼ね備えたオリジナル品種。
 さらに、米を配合した飼料を与えることで、独特の甘みと旨みが加わり、脂身は舌先でさらりととろける食感になった。
 食肉用の豚は、肥育前期(生後約78~120日)と肥育後期(生後約121日~200日)で飼料の配合などを変えて育てられる。
 「日本の米育ち豚」は、体の基礎を作る肥育前期から飼料用米を食べていることが大きな特長で、肥育前期は飼料の15%、肥育後期は飼料の45%に拡大。
 肥育期全体で約38%の飼料用米を与えている。
 早い段階から飼料用米を食べ慣れさせることで、後期に移行し食べる量が増えてからも体に負担をかけずに育てられるというメリットがある。
 平田牧場ではかねてから、豚の飼料の海外依存を解決したいという思いから米で豚を育てる方法を模索していた。
 一方、同じ山形県のJA庄内みどり(遊佐町)では、長年の減反政策による水田の減少や耕作放棄地の増加に頭を痛めていた。
 そこで生活クラブは、組合員の食べるチカラを背景に、それぞれの立場から自給力の向上をめざしていた生産者をつなぎ、使われていない遊佐の田んぼを活用した「飼料用米」で豚を育てる試みを提案。1996年から、本格的に「飼料用米」を使った豚の生産を開始した。
 これがモデルケースとなり、その後、生活クラブの他の畜産物にも取組みが広がっている。
 生活クラブの働きかけにより行政も一体となってすすめられたこの取組みは、水田が担う温暖化防止や貯水機能など環境保全の側面からも高く評価され2018年3月、平田牧場は第1回「飼料用米活用畜産物ブランド日本一コンテスト」(主催:日本養豚協会)農林水産大臣賞を受賞。
 これは生産者の努力のたまものであると同時に、組合員が長年にわたって平田牧場の豚肉を食べ続けてきた成果といえる。
 日本の畜産業は近年、世界的な課題に直面している。
 その一つは、畜産業で発生する温室効果ガスで、海外から飼料用の穀物を輸送するとき、船などからたくさんのCO2が排出される。
 気候危機対策としてCO2削減への対応が叫ばれるなか、早急に解決策を見つける必要がある。
 さらに、近年需要が高まったことによる飼料用トウモロコシの価格の高騰と、2021年からの燃料費の値上がりもあり、飼料価格と燃料費は畜産農家の経営を直撃。
 精肉の価格も値上がりせざるを得ない状況になっている。
 飼料用トウモロコシの価格高騰は、今後も続くと懸念されるなか、「日本の米育ち豚」は資源循環にも役立っている。

「基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く」4月20日に研究大会開催 農業協同組合研究会
農業協同組合新聞
2024年3月12日

〇報告者とテーマ(案)
解題
・基本法改正は食料安保をめぐる現場での課題にどう応えようとしているか(10分)
東京大学名誉教授 谷口信和 氏 13:35~13:45


【報告Ⅰ】「生協~JA間の生産原価補償方式の実践から「適正な価格形成」を考える」(40分)
生活クラブ連合会顧問 加藤好一 氏 13:45~14:25 

          
【報告Ⅱ】「枝物部会や出資型法人など多様な担い手育成を通じた地域農業振興」(40分)
JA常陸代表理事組合長 秋山 豊 氏 14:25~15:05


【報告Ⅲ】「コウノトリがつなぐ地域と農業 -持続可能な有機農業と地産地消-」(40分) 
JAたじま 常務理事 西谷浩喜 氏 15:05~15:45


休 憩 (10分) 15:45~15:55

【討 論】(60分)
司会 東京大学名誉教授 谷口信和 氏 15:55~16:55

〇参加費
会員は無料。非会員は資料代として1000円(会場で支払うか、下記の農業協同組合研究会のゆうちょ銀行口座に振り込む。)
(ゆうちょ銀行から振込:記号00120-8-番号789476)(他の銀行から振込:店 (019) 当座 0789476)
〇参加締切:4月12日
・会員は研究会案内に同封の返信用はがきで申し込み。
・非会員で参加希望の場合、下記の事務局に電話・FAX・Eメールのいずれかで申し込む。
・オンライン方式での参加希望者は事務局メールへ(nokyoken@jacom.or.jp)
【問い合わせ・参加申し込み】 農業協同組合研究会 事務局
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル4階(農協協会内)
TEL:03-3639-1121 FAX:03-3639-1120   Eメール:nokyoken@jacom.or.jp

地図

日本農業新聞
2024年3月22日

飼料用米多収コン 受賞者に聞く

 飼料用米の多収技術を競うコンテスト「飼料用米多収日本一」で21日、2023年度の受賞者の表彰式が開かれた。最高位の農水大臣賞を受賞した2経営体はいずれも、多収の専用品種を栽培。肥料高騰の中、土壌診断を基にした施肥設計や、稲わら、堆肥による土づくりなどで、効果的に収量を高めている。

密苗でコスト低減両立
福島県須賀川市・熊谷聡さん

 福島県須賀川市の熊谷聡さん(61)は、飼料用米の栽培を始めて3年で受賞を果たした。密苗でコスト低減と収量確保を両立。地域の担い手として規模拡大する一方、フレコン導入など省力化の取り組みも評価された。
 耐倒伏性があり、市の助成が手厚い「ふくひびき」を2021年から作付けする。当初10アール当たり696キロだった収量は852キロ(23年産)に増加。地域平均から311キロの増収を実現した。

農機を点検する熊谷さん(福島県須賀川市で)

 かつて直まきやポット苗を試したこともあったが、天候に左右されない安定性や根張りの良さからプール育苗を導入。規模拡大に伴って育苗施設が手狭になったが、プール育苗の密苗は省スペースにも役立っている。
 土づくりにこだわり、稲わらを毎年すき込む。牛ふんともみ殻を混ぜた完熟堆肥と、鶏ふんを2年ごとにまく。
 元肥は、飼料用米向け一発肥料「お米のみかた」(25-7-7)を10アール当たり40キロ施用。窒素成分を目安に施肥量を決めている。同12キロ施用した年は稲が倒伏したため、23年産は同11キロにしたところ、コストとのバランスが最良だという。
 除草は、田植えと同時に粒剤の初中期一発剤を使用。その後、確実に除草するため、田植え機に付けたアタッチメントで処理する。根に酸素を供給できるのもメリットという。
 経営面積は約6ヘクタール。年間売上高(作業受託除く)は約700万円。「目先の収益を追うより、生き物である農作物に手をかけることが大事。収量や売り上げは後から付いてくる」と語る。
(山口圭一)

出穂早め登熟期間確保
北海道美唄市・山口勝利さん

 「飼料用だからと手を抜かず、基本技術を守っていることが収量につながっている」。北海道美唄市の山口勝利さん(71)は、同コンテストで過去最高の10アール当たり収量974キロを記録した自身の栽培をこう分析する。
 山口さんは、妻の靖子さん(69)と2人で水稲20ヘクタールを経営。うち2ヘクタールで飼料用米を作付けする。2019年にも「地域の平均単収からの増収の部」で大臣賞に輝いた。

山口さん夫妻。勝利さんは指導農業士としても地域農業を支えている(北海道美唄市で)

 多収の鍵は、出穂期を早めて十分な登熟期間を確保することだ。そこで品種は登熟期が早い「きたげんき」とする。移植は例年5月18、19日で、刈り取りは9月20日ごろ。主食用品種より先に植え付け、生育期間を確保する。収量増に加え、青未熟粒が減ることで収穫後の乾燥時間の短縮にもつながるという。
 施肥にも工夫が光る。栽培期間が短い北海道では初期生育の確保が重要なため、肥料の吸収が早い「田植え同時側条施肥」を行う。定植前には微生物資材も散布し、丈夫な稲体づくりに努める。
 肥料価格が高騰する中、「これ以上できないほど減肥している」(山口さん)。「土壌診断は適正施肥に欠かせない」とし、診断結果を基に施肥設計する。秋に稲わらをすき込むことで窒素分をカバーし、窒素肥料の施肥量は10アール当たり11キロと主食用に比べ同4キロ増にとどめている。一方、不足しがちなケイ酸は、ケイカルを秋起こし時に同100キロ、春は融雪材代わりに同100キロ投入して倒伏対策につなげている。
(小澤伸彬)

24年産から助成見直し 専用品種への移行焦点

 飼料用米は2024年産から、一般の主食用品種で取り組む場合、転作助成である水田活用の直接支払交付金が減額される。農家は所得確保へ、多収の専用品種で取り組む必要性が増すことになる。
 飼料用米への助成は一般品種の場合、10アール当たり8万円の標準単価が1年ごとに5000円ずつ減り、26年産に6万5000円、上限単価も10万5000円から1万円ずつ減り、26年産に7万5000円となる。専用品種は従来通り、標準単価8万円で上限10万5000円が続く。
 飼料用米は、政府が食料・農業・農村基本計画で掲げる30年で9万7000ヘクタールの目標を既に超え、23年産で13万4000ヘクタール。転作助成の予算が膨らむことを懸念する財務省の審議会が、専用品種に交付金配分を限定していくよう求めた経緯もある。
 専用品種は23年産で5万6000ヘクタール(42%)で、依然、過半が一般品種だ。農水省は専用品種を広げることで、飼料用米が主食用米に回帰しないよう“定着”させることを狙う。だが、同省がまとめた24年産の作付け意向(1月末時点)では、飼料用米が前年より減少傾向としたのが25道府県に上るなど、助成減額の影響も指摘される。

日本農業新聞
2024年3月22日

「単位収量の部」で表彰状を受け取る山口さん㊤と「地域の平均単収からの増収の部」の熊谷さん(21日、東京都千代田区で)

「単位収量の部」で表彰状を受け取る山口さん㊤と「地域の平均単収からの増収の部」の熊谷さん(21日、東京都千代田区で)

 農水省と日本飼料用米振興協会は21日、飼料用米の収量や生産技術を競う「飼料用米多収日本一」の、2023年度の表彰式を東京都内で開いた。
 農水大臣賞を「単位収量の部」で受賞した北海道美唄市の山口勝利さん(71)「地域の平均単収からの増収の部」で受賞した福島県須賀川市の熊谷聡さん(61)ら、計12の農家・団体を表彰した。
 山口さんは「きたげんき」を2・1ヘクタールで栽培、10アール当たり収量974キロ。微生物資材やケイカル資材の活用、登熟期間を長く確保するための早期移植などに取り組む。

 表彰を受け、「家族やJAの協力のおかげ。感謝したい」と話した。

 熊谷さんは「ふくひびき」を3・7ヘクタールで作付けし、収量は同852キロ。適した肥培管理の他、高密度播種(はしゅ)や立毛乾燥など生産コスト低減の取り組みも評価された。「(主食用米に比べて)飼料用米は、安定した経営計画が立てられる品目


飼料用米 多収日本一 過去最高の974kg 美唄市の山口さん
農業協同組合新聞
2024年3月4日

 農林水産省(一社)日本飼料用米振興会2023年度の飼料用米多収日本一の受賞者を2月28日に発表した。
 「単位収量の部」で農林水産大臣賞を受賞したのは北海道美唄市の山口勝利さん。
 品種は「きたげんき」で作付面積は206a。10a収量は974kgだった。
 多収性や耐倒伏性、耐冷性に優れた品種の選定と早期移植による登熟期間の確保、初期生育の確保、ケイカルによる倒伏防止対策などに取り組んだ結果、10a収量はこれまでのコンテンスト参加者のなかで過去最高の974kgとなった。
 他の生産者とくらべて特に優秀な成績となった。

 農産局長賞を受賞したのは山口県山口市の海地博志さん。
 品種は「北陸193号」、「夢あおば」、「オオナリ」、「みなちから」で作付面積は332a。
 10a収量は812kgだった。
 耕畜連携による鶏ふん堆肥の活用、疎植による軽労化の取り組みを行っている。
 現地視察会による実需者との連携や、飼料用米向け種子生産を2ha規模で実施するなど飼料用米の定着に向けた取り組みも行っている。

その他の受賞者は以下の通り。
(敬称略)
▽全国農業協同組合中央会会長賞:古川久夫(岩手県盛岡市 10a収量788kg)
▽全国農業協同組合連合会会長賞:小針暢芳(福島県須賀川市 同760kg)
▽協同組合日本飼料工業会会長賞:樋熊学(秋田県大潟村 同837kg)
▽日本農業新聞会長賞:高杉伸悦(青森県五所川原市 同780kg)

 「地域の平均単収からの増収の部」で農林水産大臣賞を受賞したのは福島県須賀川市の熊谷聡さん。
 品種は「ふくひびき」で作付面積は371a。地域の10a当たり平均単収からの増収は311kgだった。
 プール育苗や密播による育苗の低コストと軽労化、立毛乾燥やフレコンの導入による生産・流通コストの低減などの取り組みを行うなかで年々単収を向上させて、地域の平均単収からの増収が311kgという高単収を実現した。
 農産局長賞は富山県朝日町の農事組合法人ふながわ(代表者は由井久也さん)。
 品種は「やまだわら」で作付面積は608ha。地域の10a平均単収からの増収は305kg。
 53haという大規模経営のなかで丁寧な土づくり、施肥管理、効率的な作業、軽労化の工夫を行っている。

その他の受賞者は以下の通り。
(敬称略)
▽全国農業協同組合中央会会長賞:高野博文、高野森夫(福島県飯舘村 地域の平均単収からの増収240kg)
▽全国農業協同組合連合会会長賞:櫻井博(茨城県つくば市 同203kg)
▽協同組合日本飼料工業会会長賞:牟田基治(佐賀県みやき町 同215kg)
▽日本農業新聞会長賞:梅村貢司(愛知県豊田市 同214kg)

飼料用米 作付意向 減少傾向25県
前年より15県増 農水省
農業協同組合新聞
2024年3月12日

 農林水産省が公表した24年産に向けた水田での作付意向(1月末時点)では飼料用米の作付けを前年より増加する傾向との県は3県にとどまる一方、減少傾向は25県と前年実績より15県増えている。
 飼料用米への交付金は、一般品種は24年産から交付金標準額が10a8万円から同7.5万円に引き下げられる。
 飼料用米の作付け意向が減少傾向にあるのは交付金引き下げが影響していると考えられるが、農水省は「需要のある加工用米や米粉用の作付けに(その分が)行っているのではないか」(農産局)とみる。
 加工用米で前年より「増加傾向」としたのは昨年より2県多い17県で「前年並み」は同9県減の18県となっている。
 米粉用では「増加傾向」は同1県多い17県、「前年並み」は同2県減の22県となっている。
 WCS用稲は「増加傾向」18県、「前年並み」23県、輸出用米など新市場開拓米は「増加傾向」19県、「前年並み」17県となっている。
 大豆は「減少傾向」が20県、「増加傾向」が5県と減少傾向が多い。
 ただ、畑地化して大豆を作付けする場合はこの意向調査には反映されないため農水省は大豆の作付け面積としては前年並みが確保されているとみる。
 一方、主食用米は「増加傾向」が昨年はゼロだったが5県となっている。
 「前年並み」は昨年から5県減の30県、減少傾向は同1県減の11県となっている。
 前年並みが7割を占めている。

 坂本哲志農相は3月8日の会見で「現段階の作付意向は、農水省が実施している全国会議や産地ごとの意見交換会を通じて、各産地が需給見通しや在庫状況等を踏まえて、「需要に応じた生産・販売」を考えられた結果」とし、「引き続き、きめ細かな需給情報等の情報提供を徹底しながら、需要に応じた生産・販売を促していく」と話している。

秋川牧園「第24回グリーン購入大賞」農林水産部門で「大賞」受賞
農業協同組合新聞
2023年12月13日

 秋川牧園(山口市)は、グリーン購入ネットワーク(GPN)が主催する第24回グリーン購入大賞の農林水産特別部門で大賞を受賞。安心・安全な食づくりと消費者とのネットワーク構築が評価された。

授賞式に臨んだ秋川牧園の秋川正社長(左)とグリーン購入ネットワークの梅田靖会長
授賞式に臨んだ秋川牧園の秋川正社長(左)とグリーン購入ネットワークの梅田靖会長

 グリーン購入大賞は、持続可能な調達(消費と生産)を通じたSDGsの目標達成の中でも、脱炭素社会の実現やサーキュラーエコノミーの実現に寄与する取り組みを国内から募集し、表彰する制度で今年で24回目。
 今年度は、特別部門として農林水産分野で同様の活動に関して表彰する「農林水産特別部門」が制定された。
 秋川牧園は1972年の創業以来、たまごや鶏肉を中心に生産から加工、消費者へ届けるまでを自社で一貫して担っており、今回の受賞は、その仕組みの構築と情報発信に関する点が評価された。
 秋川牧園は、抗生物質を投与しない無投薬飼育や開放型鶏舎での飼育など、家畜にとって負荷の少ない環境づくりに取り組んでいる。

秋川牧園のしくみ秋川牧園のしくみ

 野菜の生産においては、畜産現場で発生した畜糞を用いた堆肥を活用し、化学肥料や農薬に依存せずに栽培。
 また、創業当時から、主力の若鶏の余剰部位を活用した冷凍食品製造も自社で手がけ、6次産業化を実現した。
 さらに、地域の農家と提携して鶏用の飼料用米を生産し、この米を食べて育った鶏の糞から作られた堆肥を飼料用米の圃場に循環させている。
 また、直販事業や情報発信などにより消費者とのコミュニケーションにも力を入れ、安心・安全な食づくりに向けたサステナブルな農業を実践している。
 こうした取組に対し審査員からは「特に、地域の農家との連携で循環型農畜産業の実現、SNSを活用した消費者への情報発信と啓発により、着実に事業を発展させている点は、今後の更なる事業拡大が期待できる」と評された。