鈴木宣弘 さんの記事紹介ページ

2024年12月15日
鈴木先生は、現在、東京大学大学院 名誉教授・特任教授。食料安全保障推進財団 理事長

現在の私どもの協会の前身である任意団体「超多収獲米普及連絡会」が2014年4月1日に「一般社団法人 日本飼料用米振興協会」として法人化しました。

その年度末の2015年3月に通算8回目、法人化第1回目の「飼料用米普及のためのシンポジウム」を開催しました。(活動紹介)
会場の利用について研究の一環としてご尽力を頂き、また、特別講演を行った頂いたのが当時の東京大学大学院教授の鈴木宣弘さんです。
それ以来、毎年、先生のご尽力により現在まで東京大学での研究の一環として施設を利用させていただいております。現在は、鈴木先生がご定年で名誉教授・特任教授になられましたので、先生のご推薦を頂き、東京大学 国際環境経済学研究室 佐藤赳(U-Tokyo Lab of Int. Env. Econ. Takeshi Sato) 先生のご研究の一環として利用をさせていただいております。

参考資料(歴史)
法人化第1回(通算第8回) 飼料用米を活かす日本型循環畜産推進交流集会~飼料用米普及のためのンポジウム2015~
日時:2015年3月20日(金)11時~17時
会場;東京大学 弥生キャンパス 農学1号館8番教室
主催:一般社団法人 日本資料用米振興協会   
詳細:パネル展示 (3階/農経会議室)11時~12時30分
シンポジウム (農学第1号館 2階/8番教室) 12時55分~17時
意見交流・懇親会:東京大学消費生活協同組合農学部食堂17時30分~


参考資料(歴史)
https://x.gd/zA8un

=記念講演=
「循環型飼料米生産のグローバル的意義」 東京大学大学院 鈴木宣弘 教授
2013年3月23日
飼料用米を活かす日本型循環畜産推進交流集会
☆お米で育った“卵、牛乳、鶏肉、豚肉、など”試食あり!
日時:2013年3月23日(土)午前11時~午後5時半
場所:東京大学 弥生講堂・一条ホール
東京都文京区弥生1-1-1 東京大学弥生キャンパス内
https://x.gd/Jvhh7 開催案内
日本農業新聞 記事紹介
日本農業新聞 ホームページ紹介(有料)
農業協同組合新聞 記事紹介
農業協同組合新聞 ホームページ紹介

月刊 『日本の進路』 387 388 号 (2025年1月号) 
日本の進路 ホームページ紹介(有料)
農村と都市を結ぶ 記事紹介
月刊 農村と都市を結ぶ ホームページ紹介
鶏鳴新聞 記事紹介
鶏鳴新聞 ホームページ紹介(有料)
全国農業新聞 記事紹介
全国農業新聞 ホームページ紹介
日本農業新聞 2026年1月6日
[今よみ]
食・農守る意識低い日本人 欧州との違いは教育にあり
東京大学特任教授・名誉教授 鈴木宣弘氏


 日本の食料自給率が先進国最低水準になっている背景の一つとして、日本人の自国の食料・農業を大切にする意識の低さが指摘される。特に、欧州の方が幾度もの戦争と食料難を経験したから日本よりも食料・農業・農村への共感が深いとの指摘があるが、それは違う。

 日本も戦争などによる厳しい食料難を経験しているのに日本人はそれを忘れ、欧州はなぜ忘れないか。それは教育の差ではないか。欧州では食料難の経験をしっかりと教えているから認識が風化せずに人々の脳裏に連綿と刻み続けられている。

 それを検証したのが薄井寛「歴史教科書の日米欧比較」(筑波書房、2017年)である。例えば、ドイツの歴史教科書「発見と理解」では、「イギリスの海上封鎖によって、(中略)1914~18年、栄養失調による死亡者は70万人を超えた」といった記述がある。戦時中の食料難を、生徒たちの討論や研究課題に取り上げる教科書も少なくなく、現在の朝食の政府推奨の週間献立表と戦争中の1週間の配給量と比較させたりする。

 一方、日本の戦中・戦後の食料難の高校歴史教科書における記述は90代半ばまでは増えていたが、2014年度使用の「日本史B」19点を見ると、戦後の食料難を4、5行の文章に記述する教科書は7点あるが、他の12点は1~3行、あるいは脚注で触れているのみで、人々の窮乏を思い起こさせる写真も減少していると薄井氏が指摘する。

 戦後の日本はある時点から「不都合な」過去を消し始めた。筆者の指摘にフェイスブックにこんな体験談が寄せられた。

 「農村では権力的に米が収奪され、農家であるわが家でも一番上の姉は5歳で栄養失調で亡くなりました。(中略)私も弟も栄養失調でした。母が『カタツムリを採っておいで』とザルを渡してくれました。カタツムリを食べる習慣のない当時、グルメやゲテモノ食いとしてではなく、生き残るためとして母はそう言ったのです。(中略)弟と河原で数十個採ってきました。母はそれを煮つけてくれました。全身に染み渡ってくれたあの味は今でも忘れません。1950年ごろのことです」。

 私たちはこうした重い過去を次世代に引き継ぐための情報収集と普及活動を国民的に展開すべきであろう。これこそが命を守る「食育」ではないか。子どもたちが変われば、日本の食と農の未来が変わる。

目次

コメ・ショック 鈴木宣弘 株式会社 経営科学出版

出版社 ‏ : ‎ 経営科学出版 (2025/12/11) 発売日 ‏ : ‎ 2025/12/11 単行本(ソフトカバー) ‏ : ‎ 207ページ
ISBN-10 ‏ : ‎ 4867691259 ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4867691250 寸法 ‏ : ‎ 10.5 x 2 x 17.3 cm
コメ・ショック 塩おにぎりが500円になる日 鈴木宣弘
コメ・ショック
塩おにぎりが500円になる日

鈴木宣弘
 
はじめに
 コンビニで塩おにぎりを手に取ったとき、あなたは価格表示を見ただろうか。
2025年現在、塩おにぎり一個の価格は150円前後である。
しかし、本書で明らかにする日本農業の危機的状況が続けば、この価格が500円になる日がくるかもしれない。
2024年夏、日本中のスーパーマーケットで異常事態が起きた。米売り場から商品が消え、残っていても信じられない価格がついていた。
わずか数年前には2000円台で買えた同じ商品が、である。
「令和の米騒動」と呼ばれたこの事態は、多くの国民に衝撃を与えた。
しかし、これは突発的な出来事ではない。
戦後70年以上にわたって進められてきた日本農業の弱体化政策が、ついに限界点を超えたのである。
そして今、事態はさらに悪化しようとしている。
 
石破政権は、減反政策の限界を認め、増産に舵を切ると表明した。
しかし、わずか二か月後に誕生した高市政権は、この方針をあっさり撤回した。

鈴木憲和農水大臣は「需要に応じた生産が原理原則」と述べ、2026年産米の減産を打ち出したのである。
鈴木大臣の発言は、私を愕然とさせた。
「米価と洋服は同じ。価格はマーケットで決まる」。
つまり、政府は米価に介入しないという宣言だ。
しかし同じロで「来年は減産を」と言う。
価格に介入しないと言いながら、生産量には介入する。
この論理矛盾に、誰も疑問を呈さないのか。
就任時、鈴木大臣は「財務省の壁を乗り越えよう。全責任は私が負う」と力強く語った。
しかし、その言葉は実行されていない。
農家への所得補償は俎上に上ることすらなく、代わりに出てきたのは「おコメ券」という付け焼刃の愚策だった。

備蓄米制度の改悪も検討されている。
民間に備蓄を分担させ、政府の負担を減らそうというのだ。
 
これが、令和の米騒動を経験した日本の農政の現実である。
だからこそ、今、この本を読んでほしい。
私は農林水産省で15年間、その後も大学で研究を続ける中で、日本の農業政策がいかに歪められてきたかを目の当たりにしてきた。

「日本の農家は保護されすぎている」
「農協が米価を釣り上げている」
「大規模化すれば解決する」——こうした嘘が、メディアを通じて国民に刷り込まれてきた。
しかし、データは真逆の事実を示している。
日本の農家一戸あたりの農業予算は135万円。
アメリカの1424万円の10分の1以下である。
農協の米集荷率はわずか26%まで低下し、価格を左右する力など残っていない。
大規模化を唱えて15年、何も変わっていない。
なぜ、これほど明白な嘘がまかり通るのか。
答えは本書の中にある。
それは、日本を食料で永続的に支配下に置こうとする勢力の存在である。
GHQ占領政策から始まり、プラザ合意、GATTウルグアイ・ラウンド、TPP、そして現在進行形の農協解体計画まで、すべてが一本の線でつながっている
オーストラリアとカナダでは、すでに農協が株式会社化され、外資に買収され、消滅した。
農家は価格交渉力を完全に失い、巨大穀物メジャーの言いなりになっている。
今、全く同じマニュアルが日本で実行されようとしている。
全国を回って農家の方々と話をすると、どこでも同じ言葉を聞く

「あと5年が限界です」。
これは誇張ではない。
稲作農家の時給は10円、95%の農家が赤字、平均年齢は69歳を超えている。
この状況で、誰が農業を続けられるというのか。
しかし、私は絶望していない。
希望はある。

 
欧州やアメリカの農業政策を見れば、解決策は明確だ。
農家への適切な所得補償、価格差補填、十分な備蓄。
これらは決して不可能ではない。
必要な予算は5兆円から6兆円。防衛費53兆円の一割強に過ぎない。
問題は、この単純な解決策を阻む勢力の存在である。
財務省は農業予算を「削減対象の筆頭」として扱い、外資は農協マネー155兆円を虎視耽々と狙っている。
彼らの正体と手口を知らなければ、対抗することはできない。
本書は、日本の食料安全保障の危機を、データと事実に基づいて明らかにするものである。

第一章では令和の米騒動の真相を解き明かし、
第二章では日本農業を弱体化させた七つの嘘を検証する。
第三章ではアメリカによる戦後七十年の対日農業戦略を時系列で追い、

第四章では農協解体を狙う勢力の正体を暴く。
そして第五章では、日本の農業を救う具体的な道筋を示す。
 
高市政権が減産に舵を切り、農家と消費者を救う差額補償が見送られ続ける今こそ、国民一人一人がこの問題の本質を理解すべき時だ。
政治家任せにしていては、何も変わらない。
いや、むしろ悪化する一方である。

 
塩おにぎりが500円になってからでは遅い。
その時、私たちは選択肢を失っている。
国産米を買いたくても、もう作る人がいない。
輸入米しか選べない。
その米に残留農薬が含まれていても、受け入れるしかない。
今なら、まだ間に合う。
本書を読み終えたとき、あなたは日本の食料問題の本質を理解し、何をすべきかが明確に見えているはずだ。
一人でも多くの国民が真実を知り、声を上げること。
それが、日本の農業を守り、食料主権を取り戻す第一歩となる。
 
さあ、ページをめくろう。
あなたの食卓の未来が、そこに書かれている。

 
鈴木宣弘
 
目次
はじめに

 
第1章 令和の米騒動の真相
 
 コメ5kg 5000円の衝撃——今、スーパーで何が起きているのか
 農水省が2年間隠し続けた不都合な真実
 統計部予算削減とトレーサピリティ法の形骸化
 作況指数101の嘘——精米ベースでは不作だった現実
 米は「劣等財」?——貧困化で増える米消費
 JA全農26%の真実——買い負けた農協の実態
 小泉進次郎の備蓄米放出がもたらした流通秩序の破壊
 仮渡金制度への攻撃が意味するもの
 震災用備蓄米を使い果たした国の末路
 政権交代しても繰り返される失政

 
第二章 日本の農業を弱体化させた七つの嘘
 
 繰り返される嘘が日本の農業を殺す
 【嘘その一】「日本の農家は保護されすぎている」
 【嘘その二】「農協が米価格を釣り上げてきた」叩
 【嘘その三】「大規模化・集約化で競争力強化」臼
 【嘘その四】「減反政策は2018年に廃止された」
 【嘘その五】「輸出拡大で供給能力向上」
 【嘘その六】「農協を通さなければならない」
 【嘘その七】「スマート農業とイノベーションで解決」

 
第三章 アメリカが仕掛けた日本解体七十年史
 
 嘘の向こうに見える真の支配者見
 GHQが始めた「胃袋からの属国化」戦略
 「米を食うとパカになる」——慶臆大学教授が書かされた嘘

 
第四章 農協解体を狙う者たちの正体
 
 戦後70年の総仕上げ1l最後の砦を破壊する者たち
 JA共済155兆円を155兆円を狙うアメリカ保険業界
 カーギルが狙う全農グレイン
 AWB消滅の教訓——株式会社化から買収まで
 カナダの悲劇――穀物農協全滅から資源メジャー支配へ

 
第五章 日本の農業を救う唯一の道 
 メキシコの警告——トウモロコシ原産国が輸入世界第二位に
 輸入米から残留農薬——食糧を自給できない日本の食の安全性
 あと5年が勝負——全国で聞こえる農家の悲鳴
 再生産可能価格と消費者価格のギャップを埋める方法
 食料安全保障推進法の三本柱
 欧州の成功事例——フランスの農家は年収480万円?
 アメリカ農家1戸1424万円の衝撃
 中国の備蓄1年半分 VS 日本1・5か月の現実
 農家の公務員化という選択
 結論:今こそ行動の時
 全国で広がる希望の灯火
おわりに
 本書を書き終えた今、私の心には複雑な感情が渦巻いている。
 怒りがある。
 戦後70年以上にわたって、日本の農業がいかに意図的に破壊されてきたか。
 その事実を知れば知るほど、怒りを禁じ得ない。
 「日本の農家は保護されすぎている」という嘘を流布し、農業予算を削り続けた者たち。
 農協を「既得権益」と決めつけ、解体を画策する者たち。
 彼らは、日本の食料安全保障など眼中にないのだろう。
 悲しみもある。
 全国を回って出会った農家の方々の顔が浮かぶ。
 時給10円で働き、赤字でも米を作り続ける彼ら。
 「息子には継がせられない—と語る老農の日には、諦めと無念が渉んでいた。
 日本の主食を守ワてきた人々が、これほどまでに報われない社会とは何なのか。
 しかし、同時に肴望も感じている。
 本書の執筆中、私はほぼすべての政党の勉強会で講演する機会を得た。
 自民党の積極財政派から野党各党まで、農業問題の深刻さを理解する議員は確実に増えている。
 昨年の衆議院選挙、今年の参議院選挙の結果は、国民が農業軽視の政策に「NO」を突きつけ始めた証左
である。
 若い世代の変化も感じる。
 食料安全保障の重要性に気づき、新規就農を目指す若者が少しずつ増えている。
 彼らは、農業の価値を信じ、日本の食を守ろうとしている。
 適切な政策と十分な支援があれば、この芽は必ず大きく育つ。
 本書で繰り返し述べてきたように、解決策は存在する。
 日本の農家と国民のどちらにも恩恵のある価格差補填、備蓄の拡充。
欧州やアメりカがすでに実践していることを、日本でもやればいい。
 必要な予算は5兆円から6兆円。
 GDPの1%に過ぎない。
 この投資で、-億2000万人の国民の食料が守れるなら、安いものではないか。
 問題は、この単純な解決策を実行する政治的意思があるかどうかだ。
 財務省の「財政規律」という呪縛、外資の農協マネーへの野心、新自由主義者たちの「市場原理」への盲信。
 これらを打ち破るには、国民一人一人が声を上げるしかない。


 本書を読んでくださった皆さんにお願いしたい。
 まず、この本の内容を周りの人に伝えてほしい。「農家は保護されすぎている」「農協は既得権益」という嘘に踊されている人は、まだ多い。
 真実を知る人が増えれば、世論は必ず変わる。

 次に、選挙で意思表示をしてほしい。
 農業政策を重視する候補者を選び、農業軽視の政党には投票しない。
 民主主義社会において、これが最も効果的な方法だ。
 そして、日常の買い物で国産農産物を選んでほしい。
 多少高くても国産を買う。
 それが農家への最も直接的な支援となる。


 最後に、私自身の決意を述べたい。
 私はこれからも、日本の農業と食料安全保障のために発言し続ける。
 テレビでも、講演でも、そして本でも。
 嘘には嘘と言い、真実を伝え続ける。
 たとえ批判されても、圧力を受けても、この姿勢は変わらない。

 なぜなら、これは私たちの命に関わる問題だからだ。
 有事の際、ミサイルがあっても食料がなければ国民は生きていけない。
 食料を他国に依存すれば、その国の言いなりになるしかない。
 食料主権なくして、真の独立国家はありえない。
 メキシコとハイチの悲劇を日本で繰り返してはならない。
 トウモロコシの原産国が輸入大国に転落し、米を自給していた国が飢餓に苦しむ。
 それは決して他人事ではない。
 同じ道を、日本は今まさに歩もうとしているのだ。

 「あと五年が限界」という農家の悲鳴は、私たちへの最後の警告である。
 五年後、日本の農村から人が消え、田んぼが荒れ果て、国産米が手に入らなくなってから後悔しても遅い。
 その時、塩おにぎりは本当に500円になっているかもしれない。
 いや、それどころか、おにぎりを作る米すら手に入らなくなっているかもしれない。
 今こそ、行動の時である。

 日本の農業を救い、食料主権を取り戻し、真の独立国家となるために。
 その答えは、私たち一人一人の手の中にある。

 本書が、そのための一助となれば、著者としてこれ以上の喜びはない。
                         2025年 初冬 木宣弘

コメ騒動が問うていること——食料安全保障、農業・農村振興の方向性——

東京大学 名誉教授・特任教授
一般社団法人 JA共済総合研究所 客員研究員 鈴木宣弘

アブストラクト
 「令和の米騒動」の深刻化によって、多くの問題が浮き彫りになった。なぜ、このような騒動になったのか。なぜ収まらないのか。
 「コメは足りているのに流通業界や農協がコメを隠した」かのような指摘は本当だったのか。
 流通悪玉論、農協悪玉論が展開され、①減反のしすぎ、②長年の低米価による稲作農家の疲弊など、根底にある要因への対処が遅れると事態は改善できないと思われる。
 しかし、生産現場の疲弊への対策が打ち出される前に、米価を引き下げるための備蓄米の大量投入が行われ、トランプ関税への対処の必要性もある中、足りなければ輸入米を投入するというストーリーが進行しているかのようにも思われる。
 さらには、スピーディな低米価政策の一方で、急がねばならない稲作ビジョンについては、数年後を目途に議論するとされ、かつ、規模拡大してコストダウンして、スマート農業や輸出に取り組む経営を対象とする議論が主流になっている。
 ややもすれば、棚田に象徴されるように、土地条件に恵まれない日本において農村現場を支えている多様な担い手を施策対象としないような方向性は、耕作放棄地をさらに拡大し、コメや他の農業生産の確保はもちろん、農村コミュニティが持続できるのかという問題を投げかけている。
 本稿では、コメ騒動を契機に浮き彫りになった諸問題を整理し、あるべき方向性について検討する。


共済総合研究 第91号(2025.11) 一般社団法人 JA共済総合研究所 (https://www.jkri.or.jp/)
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】
コメを守るということは、文化と共同体、そして国の独立を守ること
JACOM 農業協同組合新聞  2025年11月14日 コラム・ 
 拙著『もうコメは食えなくなるのか 国難を乗り切るのにほんとうに大切なものとは』(講談社新書)の書評として、徳本昌大氏が筆者の想いを見事にまとめて下さったので、今回は、それを共有させていただきました。 https://tokumoto.jp/2025/11/53088/
本書の要約
 「令和の米騒動」は猛暑やインバウンド需要の急増だけでなく、長年の農政の歪みが引き起こした構造的な危機です。
 備蓄米の放出も根本解決には至らず、農家の疲弊と供給基盤の脆弱化が問題の核心にあります。
 鈴木宣弘氏は、農業を「国民の命を守るインフラ」と位置づけ、政府による生産コスト補填と「国消国産」の実現を提唱。
 地域単位で自給圏を築き、自らの手で農と暮らしを守る取り組みの重要性を訴えています。

令和の米騒動の原因とは?

 農家が安心してコメを増産できる環境をつくらなければ、「令和のコメ騒動」は今後も何度でも再発するだろう。(鈴木宣弘)

 日本の食卓を揺るがした「令和の米騒動」は、単なる一時的な需給の乱れではなく、長年にわたる農政の歪みが噴き出した国家的危機でした。コメが消え、価格が高騰した背景には、猛暑やインバウンド需要の急増といった短期的な要因もあります。
 しかし、真の原因は、農家を支える仕組みを削り続けてきた政策構造の欠陥にあります。
 この現実に最も鋭く切り込んだのが、東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授の鈴木宣弘氏です。
 本書もうコメは食えなくなるのか 国難を乗り切るのにほんとうに大切なものとはは、まさにこの危機を正面から描き出した警鐘の書となっています。
 鈴木氏が指摘するのは、農協や流通の問題ではなく、国の根幹を揺るがす「農政の敗戦」そのものです。政府は需要減に合わせて、毎年10万トン単位で生産を削減する減反政策を半世紀以上にわたって続けてきました。
 さらに、「コメは余っている」という論理のもと、水田を畑に転換する政策まで導入され、田んぼが潰されてきたのです。
 パンや麺類など小麦製品の値上がりが続く中、相対的にコメが割安になり、低所得層を中心にコメへの回帰が顕著になりました。
 宮城大学の森田明教授の分析によれば、2022〜2025年にかけて、2人以上世帯の年間コメ購入量は56.6kgから60.2kgへと増加し、家計全体で13万トン以上の需要増が確認されています。
 さらに、インバウンド需要も2.1万トンから6.3万トンへと急増し、需給バランスが一気に崩れました。 このような経緯の結果として生じたのが、「令和の米騒動」なのです。
 事態の深刻化を受けて、小泉農林水産大臣は備蓄米の放出に踏み切りましたが、混乱を抑えるには不十分でした。放出量は限られ、そもそも備蓄そのものが足りていないという構造的な問題もあります。
 火に油を注ぐほどではなかったにせよ、根本的な需給のひっ迫や生産基盤の弱体化を解決するには至りませんでした。
 米価の急騰に直面した消費者の不安は払拭されず、現場の農家にも安心は届かないままでした。
 しかし、この問題を単なる天候不順や一時的な需給の乱れとして片づけるのは、あまりにも表面的です。
 本質にあるのは、農家の疲弊と、それを見過ごしてきた政策のあり方そのものです。
 米価が下がり続け、利益が見込めない構造の中で、多くの農家が離農を余儀なくされ、後継者も育たない。政策が生産者の背中を押すどころか、突き放してきたのです。

令和の米騒動の解決策とは?

 生産者が赤字にならないように、食料生産にかかるコストは政府があらかじめ補填する。
 こういう仕組みを構築すれば、消費者は安く食料品を購入でき、生産者は十分な所得が得られる。
 この二本立てで、日本は現在の農業政策を再構築するべきだ。
 ここで鈴木氏が最も強く批判しているのが、財務省の存在です。
 財務省は農業を「削るための予算の調整弁」として扱い、50年前には国家予算の12%を占めていた農水予算を、現在ではわずか2%未満にまで削減しました。
 防衛費が10兆円を超えて拡大する一方で、食料安全保障への投資はほとんど放棄されています。
 官僚たちは「市場に任せればよい」「足りなければ輸入すればいい」といった論理で農政を軽視し続けてきましたが、世界的な異常気象と地政学的リスクが高まる現在、その考え方は完全に時代遅れです。
 
 中国は14億人が1年半食べられるだけの備蓄を確保している一方で、日本の備蓄はわずか1か月半分に過ぎません。財務省が「カネがない」と突っぱねている間に、食料自給率は38%まで低下し、輸入依存のリスクは高まるばかりです。食料を海外に委ねるということは、主権の一部を他国に預けることと同義です。
 鈴木氏は、食料を単なる商品ではなく、「国民の命を守るインフラ」として位置づけ直すべきだと訴えています。国内で消費する食料を国内で生産する「国消国産」を掲げ、生産コストを政府が補填する仕組みを整えれば、農家は赤字を恐れずに生産を継続できます。
 消費者にとっても、安定した価格での供給が保証され、持続可能な循環を取り戻すことが可能になります。この制度改革こそが、次なる「食糧敗戦」を防ぐ唯一の道なのです。
  鈴木氏の提言はきわめて明快です。農業は費用ではなく、国家の未来への投資であるということです。
財務省が数字の論理で削り続けた結果、今や日本という国家全体が命のインフラを失いかけています。コメを守るということは、文化と共同体、そして国の独立を守ることにほかなりません。
 そして今、地域コミュニティを崩壊させる「今だけ、金だけ、自分だけ」の政治・行政の流れがますます強まってきています。そうした空気の中で、国民の命を支える農業や食料政策が後回しにされている現実を、私たちは見過ごしてはいけません。
 米国の言いなりになり、農政をコントロールされていては、私たちはいつまでも独立した国家とは言えません。
 いまこそ、アメリカに対しても政治家や官僚が正しい主張をしなければならない時です。
 そのためには、もちろん政治や行政にも責任を果たしてもらう必要があります。
 しかし、それを待つだけでは足りません。まず、私たち一人ひとりが、自分たちの暮らす地域から、農と食と暮らしを自分たちの手で守る仕組みづくりを強化していくことが求められています。
 「みんなで作って、みんなで食べる」。
 そんな地に足のついた自給圏をつくる動きは、すでに各地で芽吹きはじめていると著者は指摘します。
 本書では世田谷区の有機米給食、和歌山の給食スマイルプロジェクト、徳島の耕作放棄地の再生プロジェクトなど全国のケーススタディが紹介されています。
 実際、私自身も数年前から、ある農家の方からお米を定期的に購入しています。
 その農家さんの掲げるビジョンに共感し、その真摯な姿勢を応援したいという気持ちから始めたものでした。
 結果的に、今回の「令和の米騒動」でも慌てることなく、安定した形でお米を手にすることができました。顔の見える関係を築くことで、単なる消費ではなく、暮らしをともにつくる実感を得られています。
 「食料は金で買うものではない。作る力こそ、未来を守る力である」
  この一文こそが、本書が私たちに突きつける最大のメッセージであり、財務官僚主義に支配された日本社会への痛烈な問いかけなのです。

日本農業新聞 2025年12月2日
[今よみ]米価めぐる生・消分断 財政出動で溝埋めよ

 東京大学特任教授・名誉教授 鈴木宣弘氏

 高市政権の下で鈴木憲和農相が誕生したが、人によって米政策の評価は割れる。
 端的に言うと、生産者視点からの期待と消費者視点からの懸念だ。
 石破政権で示された増産の方向性が「朝令暮改」のように覆されて、2026年産は減産の方向性が示されたことに対して、米価下落を懸念していた生産サイドからは評価の声があり、逆に消費サイドからは米価が下がらない可能性への懸念が生じている。
 生産者と消費者が分断された状態にある。筆者も出演したテレビ番組で生産者と消費者の双方に街頭で適正米価を聞いたところ、生産者は5キロ3500円くらい、消費者は同2500円くらいだった。
 生産コストは上昇しており、一方、国民所得は30年で150万円近くも減少している。
 双方の歩み寄りを目指せ、というのは無責任だ。
 どうしたらいいか。簡単だ。双方のギャップを財政出動で埋めればよい。
 本紙の読者アンケートでもこの政策を求める声が一番多い。
 生産者のコストに見合う価格を市場価格が下回ったら、その差額を直接支払いする政策を導入すれば、消費者は安く買えて、農家は所得が確保できる。
 「価格にコミット(関与)しない」政策というのはこういう政策だ。
 では、どうして行われないのか。財政制約だ。
 石破政権では生産調整の限界を認識して需給にゆとりが持てるように増産の方向性が出されたが、スマート農業や輸出のかけ声だけで、米価下落時のセーフティーネット(安全網)は示されなかった。
 首相が交代したが、やはり、お金は出せないから、25年産の想定以上の豊作も相まった米価下落の懸念に応えて、再び生産を絞り込もうということになってしまった。
 元のもくあみだ。米騒動が再燃しかねない。
 消費者の高米価の懸念への対応はお米券という「付け焼き刃」が登場した。それにより米購入が増えれば、むしろ米価を上昇させる。お米券に4000億円支出するなら、同額を農家補填(ほてん)に振り向けたほうが間違いなく根本的解決になる。
 コスト割れを回避できる補償基準が明示されれば、農家は経営計画が立てられ、消費者も安く買える。鈴木農相は、職員への訓示で「財務の壁を乗り越えよう。全責任は私が負います」と発言した。有言実行に期待したい。

「食料安全保障推進法」の制定を
コメ騒動の深層とコメ増産の課題 鈴木宣弘

日本の進路 2025年9月号(No396) P9~P11 掲載

「食料安全保障推進法」の制定を
コメ騒動の深層とコメ増産の課題

             東京大学大学院 特任教授 鈴木宣弘

「食料安全保障推進法」の制定を
コメ騒動の深層とコメ増産の課題
                      東京大学大学院 特任教授 鈴木宣弘

 令和の米騒動は、①減反のし過ぎ、②稲作農家の疲弊が根底にあり、③猛暑の生産への影響、④需要
の増加が加わり、コメ不足が一気に顕在化した結果で、流通・農協悪玉論は本末転倒だと述べてきたが、
直近の政府の検証でもそれが裏付けられ、コメが足りなかったことを認めて増産に舵を切ると言う。
 しかし、そのために、相変わらず、規模拡大とスマート農業と輸出だと言っているだけでは、米価下落で稲作農家は潰れてしまう。
 消費者と農家の適正米価(2500円と3500円/ 60kg)の差を補填する直接支払いなどを急がないと、農村コミュニティーもコメ供給も維持できない。
 洪水防止などの多面的機能もさらに失われていく。
 流通・農協悪玉論が展開されたが、それは否定された。
 ところが疏通・農協悪玉論が間違いだったと認める発言がないのはなぜなのか。
 そこに隠された意図が懸念される。


米価高騰要因の整理

 米価高騰の要因については諸説述べられているが、端的に言えば価格が高騰したのは需給が逼迫したからである。
 それはそのとおりだが、問題は、その要因が何かということである。
 実は、単年で見ると、すでに、2020年から21、22年も、生産量が需要量に達していなかった。
 これは、

 ① 減反のし過ぎ、
 ② 稲作農家の疲弊が主因と考えられる。
 つまり、需要にギリギリに合わせようとする生産調整に加え、水田を畑地にすれば「手切れ金」だ
け出すから田んぼを潰せという水田畑地化政策の一方、稲作農家は「時給旧円一にしかならぬほどの
低所得に追い込まれて生産縮小や廃業が増え、生産が需要に届かな
なってきていた。
 そこに23年に、

 ③ 猛暑の生産への影響、
 ④ 需要の増加が加わり、コメ不足が一気に顕在化したのである。
 生産の減少が大きくなったところに、需要は増加した。
 需要の増加はインバウンド需要の増加が指摘されたが、国内消費者が値上がりした他の食材から、相対的に安いコメにシフトしたことも大きかった。
 24年の需要も政府見通しよりも37万トン多い711万トンだと判明した。
 さらに24年も、政府の発表ほどは収穫がなかったし、低品質米の増加で玄米から精米への歩留まり率は通常9剖だが8割台に落ちているとの関係者の声が多い。

 コメ不足に拍車をかけた可能性がある。

本末転倒の流通・農協悪玉論


 だから、流通悪玉論、農協悪玉論は本末転倒なのである。
 農協はコメが集まらなくなって困っているのに、コメを隠して価格を吊り上げることなどできない。
 農協以外の業者も何とかコメを調達しようと高値で買い、卸売業者間でも融通し合い、また7、8月の端境期まで米を持たせなくてはならないので、販売量を調整したのだ。
誰も、隠して吊り上げて儲けようとしているわけではない。

 だから、流通が突然悪さを始めて価格が高騰したわけはなく、コメが足りないから流通が混乱したというのが実態だ。
問題の本質が政策の失敗によるコメ不足であることを認めず、コメは足りていると言い続け、備蓄米の放出も遅れて、事態を悪化させた。
 25年3月末の民間在庫が179万トンで、あと3カ月分くらいしかなくなり、備蓄放出量を足しても、7、8月の端境期を乗り切れるかという事態になった。
 このため25年産米も「青田買い」どころか「茶田買い」と言われるように、田植え前に秋にできたコメの販売契約が、JAの概算金で2・5万円前後、JA以外の業者は3万円前後で進んだ。
 こうして秋の新米の小売価格も5kgで4000円超えになる可能性が示されていた。


小泉劇場

 そこに小泉進次郎農水相が登場し、随意契約という「超法規」的な手段で、極めて低価格のコメ老政府が輸送費まで負担して一部の大手業者のみを使って販売するという強引かつ不公平な政策介入で、無理やり安いおコメを演出した。
 小泉劇場だ。
 備蓄米をほぼ出し尽くし、輸入米も投入して、市場をジャブジャブにして価格破壊して、かつ、コメを増産して輸出も伸ばすと言う。

 そんなに価格が下がったら、誰がコメを作るのか。
 現場の農家は怒り心頭に発した。

輸出米は8倍に

 一方で、輸出米は8倍に増やすとの目標を発表した。
 圏内のコメが足りていないのに、なぜ、輸出の話が出てくるのか。
 しかも輸出米には4万円/10a(5千円/60kg相当) の補助金が付く。
それなら今こそ、その金額を輸出でなく国内主食米に補助して増産を促して、米価が1・5万円/60kgに下落したら、消費者は助かり、農家には5千円/印同の補填で2万円の米価と同等になって農家もギリギリ持続可能水準だ。
 スピーディーにやるのは米価破壊でなく、こういう政策こそ、今すぐに表明して、農家と消費者の双方在スピーディーに助けるべきではないか。
 しかし、それには、5千億円以上の財源が必要になるため、怖い財務の壁が後ろから圧をかけているから言い出せずに事態が悪化しても放置されている。

 財政の壁が「諸悪の根源」ともいえる。

輸入米しかないというストーリー

 「令和の米騒動」への対応では、生産振興する対策は出されずに生産現場の不安を放置したまま、備蓄米も使い果たし、次は輸入しかないというストーリーが作られていたかに見える。
 トランプ大統領に、もっとコメを輸入しろと言われ、自動車を守るにはコメを出すしかないかのように、譲つてはならない最後のカlドであるコメまでが差し出されるストーリーだ。
 「盗人に追い銭」外交で、すべて剥ぎ取られて、自動車も守れなくなるのは自に見えていた。
 すでに、主食用の輸入米の前倒し投入だけでなく、その他の輸入米も増やして圏内の備蓄米に回し、徹底的に園内市場をジャブジャブにしようとしている。

 ほぼ使い果たした備蓄米は、本来、国産の新米で補充するのが当然で、その契約も進んでいたのに、その契約を凍結して、輸入米で備蓄を補充する準備がされているのではないか。

7万トンどころか25万卜ン増に


 まず、TPPで約束した米国からのコメ追加輸入枠7万トンはトランプ氏自らのTPP離脱で消えた。
 だから突っぱねればよいのに、それをどう実現するか、必死に検討してきた。
 その結果、77万トン(これも本当は最低輸入義務ではない)の輸入枠外ではなく、枠内で、米国米の輸入を現在の「密約」の35万トン前後(77万トンの約半分)から75%増の約60万トンに、実に25万トンも増やすという。
 77万トンのうちの60万トンが米国産という異常な「差別待遇」になる。
 タイや豪州や中固など他国のアクセス枠は17万トンしかなくなる。

文書に残せない「密約」

 しかも、当初から77万トンのうち約半分の35万トン前後は米国から必ず買うと約束していたのは関係者聞の「公然の秘密」だ。
 多国間の約束の中に米国だけを優遇する約束はWTO違反になるので文書に残せないし、「そんな約束は
していない」と頑なに言い続けてきた。

 毎年35万トン前後が米国産米なのは統計で確認できるが、「たまたまだ」と説明されてきた。
 今回の上乗せ分もWTO違反の2国間合意である。

 だから、文書に残せないし、そんな約束はないと言い続ける。
 しかし他国も黙ってないだろう。

国産米に影響、がないだろうか

 米圃からの輸入米が庖頭に並ばなくとも備蓄に回せば、その分、国産米が備蓄に回せなくなるから、国産の主食米市場を圧迫することになり、主食米の下落圧力となる可能性がある。
 ただでさえ、ここでコメを作る人は5年以内にいなくなるという地域が続出している。

 それを一気に加速してしまうことになりかねない。

所得補償の議論

 石破総理は09年、農水大臣だったときには、筆者の本を3回も赤線を引きつつ読まれて、生産者にとっての適正米価と消費者にとっての適正米価との差を生産者に直接支払いする仕組みを石破プランとして公表していた。
 今度こそ、それを実施するのかと期待したが、「努力して規模拡大してコストを下げた人」に限定しないと国民に説明ができないと言い出した。

 今、猫も杓子も口を開けば、「大規模化」「スマート農業」「輸出増大」でパラ色、という議論ばかりだ。
 例えば、15ha以上層は数で1・7%、面積で27%。
 大規模化も大事だが、それだけを支えても農村コミュニティーも国民へのコメ供給も維持できない。

 稲作の構造転換のために、2・5兆円の別枠予算在確保したと言うが、5年間なので、年間5000億円だ。
 かつ、中身は、水田区画の大規模化、施設整備、スマート農業、輸出産地の育成、となっている。
 しかも、予算の多くは既存の予算の名前を変えただけだし、その利益の多くは農家でなく関連企業に行く。
 苦悩している稲作現場をスピーディーに救えるとは到底思えない。
 そもそも27年度に向けて検討するとしているが、これでは、間に合わないし、対象を絞ったら、役に立たない。

 なぜ、農家の所得を支える仕組みがすぐに出てこないのか。
 スピーディーにやるべきは米価破壊でなく稲作ビジョンの提示だ。

 このままでは、全国各地で、小規模でも頑張っている人たちを非効率として排除して、日本の地域コミュニティーを破壊し、の企業を儲けさせるだけだ。

明確な稲作ビジョンをすぐに示せ

 極端なコメ需給緩和誘導や農協潰しで態を悪化させている場合ではない。
 備蓄米と輸入米による価格破壊は稲作農家老破壊しつつある。
 大規模農家も含めて多くの農家は、60kg当たり2万円~2万5千円の生産者米価が経営継続に必要だと話している。
 筆者は、超党派の「食料安全保障推進法」を制定し、「財源の壁」を打ち破る提案若している。

 3本柱となる施策のイメージは、まず、
 ① 食料安全保障のベースになる農地10a当たりの基礎支払いを行い、
 ② コスト上昇や価格下落による所得減を直接支払いで補完し、農家老助けると同時に消費者には安く買えるようにする。さらに、
 ③ 増産したコメや乳製品の政府買い上げを行い、備蓄積み増しや国内外の援助などに回す、というものである。
 この提案は、ほぼ全政党の勉強会で賛同を得ており、各党の農政公約にも反映されている。

 農家への直接支払いには、バラマキ批判があり、対象農家を大規模に限定すべきだとの議論があるが、それでは、多くの農家・農村が破綻する。
 対象を限定しなくとも、補填基準米価を高過ぎないように、努力目標として設定すれば、パラマキにはならない。
 「スピード感」と言うならば、一日も早く、消費者・生産者双方が持続できるように、最低限の生産者米価を補償する政策を打ち出すことが不可欠だ。

 麦や大豆の生産振興も必要だから転作奨励金は維持し、コメについては、数量を指示せずに、主食用、加工用、飼料用、輸出用を間わず、最低限60kg当たり2万300012万4000円と市場価格との差額は補填し、何をどれだけ作付けるかは現場の判断に委ねる。コメの政府在庫は、米価が1万5000円を下回ったら買い入れ、2万円を超えたら放出するといったルールを明確にして運用する。
 こういった具体的な数値に基づく詳細な政策枠組みの提示が今こそ求められている。

2025/10/5 大阪保険医新聞 現代日本の農業危機を考える 鈴木宣弘

2025/10/5 大阪保険医新聞 現代日本の農業危機を考える 鈴木宣弘

日本農業新聞 コラム「今よみ」2025年9月23日(火)

日本農業新聞 2025年9月23日
ニッポンの米 [今よみ]
米の需給調整 出口対策強化に転換を
東京大学特任教授・名誉教授 鈴木宣弘氏


 「令和の米騒動」の原因は米不足だったと農水省がやっと認めて、流通・農協悪玉論は否定されたはずだが、またぞろ農協の概算金への批判が噴出している。
 現状の小売り米価は農協の概算金から算定される水準よりもはるかに高い。
 つまり、他の業者が相当高い価格で農家から買った米が売られているのだ。
 農協がつり上げているのではない。
 それだけ米の不足感と不足への懸念が解消されておらず、集荷競争が激化しているのだ。
 一方、秋以降に需給が緩んで下落に転じる可能性も指摘されている。
 このチグハグな事態の改善には農家の疲弊の解消と併せて需給安定機能の強化が不可欠だ。
 豊凶変動が大きい農業で、生産での調整には限界がある。
 猛暑の影響も強まる中ではなおさらだ。
 これまで農家も農協もよく頑張った。
 それでも米価は下落し続けて農家は苦しくなった。
 「安過ぎる米価」で農家を追い詰めてきたのは、小売り・流通業界と消費者にも、そして、それを放置してきた国にも責任がある。
 これからは生産調整でなく「出口調整」の仕組みの強化が不可欠だ。
 一つは備蓄用や国内外の援助用の政府買い上げ制度を強化し、買い上げと放出のルールを明確にして需給の調整弁とする。
 さらに、米のパンや麺、飼料用米、米油で、輸入の小麦・飼料・油脂類を代替する需要創出に財政出動する。
 そして、一番重要なのは、消費者と生産者の適正米価のギャップを埋める直接支払いによって消費者には高過ぎず、かつ、農家は経営を継続・発展できるセーフティーネットをつくることだ。
 農家へのセーフティーネットの中身を問われて「コストダウンとスマート農業と輸出」と答えた政治家もいるが、意味が理解されていない。
 このままでは稲作の衰退が止まらず、中長期的に米騒動が繰り返すことになりかねない。
 今こそ、
(1)麦や大豆の生産振興も必要だから転作奨励金は維持し、米については、用途を問わず、60キロ当たり2・2万~2・5万円と市場価格との差額を補填(ほてん)し、何をどれだけ作付けるかは現場の判断に委ねる
(2)米の政府在庫は、米価が1・5万円を下回ったら買い入れ、2万円を超えたら放出するといったルールを明確にして運用する
――というような具体的な数値に基づく詳細な政策枠組みの提示が急がれる。

日本の進路 2025年9月号 No.396
主張 「今だけ、金だけ、自分だけ」『日本の進路・編集部』
コメ騒動の深層とコメ増産の課題 鈴木宣弘
第21回 全国地方議員交流研修会 案内 札幌10/27.28.29

日本の進路 8月号 コメ農家支援を急がないと間に合わない 鈴木宣弘

コメ農家支援を急がないと間に合わない 鈴木宣弘

日本の進路 2025年7月号 No.394
コメ農家支援を急がないと間に合わない 鈴木宣弘

コメ農家支援を急がないと間に合わない

食料農業◆「小泉劇場」は農協つぶしの売国政治

コメ農家支援を急がないと間に合わない
東京大学 特任教授 鈴木宣弘

                        日本の進路 2025年7月号 No.394
「令和の米騒動」が収まらない。
小泉股水大臣が畳場L、備蓄米によるコメの「価格破頃」が、スピード感を演出しつつ、強引に特定の大手業者を優遇する形で断行されている。
さらには輸入米の早期投入も行い、市場を「じゃぶじゃぶ」にすると意気込んでいる。
この機動力を国民は評価しているが、「小泉劇場」に惑わされていないか。
米騒動の恨本原因は「減反し過ぎと稲作農家の疲弊」にある。
それを放置して流通悪玉論や農協悪玉論が展開され、米国からの輸入米への市場開放や農協組織の外資への差し出しにつなげるストーリーが危惧される。
そもそもコメ卸業界は営業利益事が極めて低い。
1.4%が4.9%に改善しただけだが、対前年比では確かに500%増になって暴利を得ているかのような指摘は明らかに意図的なミスリーディングである。
五次問屋まである中間を飛ばせという議論もあるが、それぞれの役割があって街のお米屋さんも成り立つ。
大手小売だけに都合よく中小業者つぶしになる懸念もある。
主食用の輸入米も早期に投入することも発表された。
しかし、すでに、コメ不足への対応で9月からの新米も「青田買い」で高値契約が進んでいる。
需給を急速に緩和する政治介入が続けば、コメの流通業界もつぶされていくことが危惧される。
5㎏で2000円を下回るような米価に下げ続けようとする小泉農相の姿勢は、生産者にとっては大きな不安につながっている。
備蓄米に輸入米も投入して低米価にして、かっ、増産し、輸出するといった発言に整合性があるだろうか。
そんな低米価で誰がコメを作れるのか、ということになる。
「スピード感」を出すべきは米価破壊でなく、包括的な稲作ビジョンの提示だ。
農協批判の落とし穴
流通業界と農協組織をコメ価格高騰の犯人に仕立てようとする動きが強まっている。
小泉氏が自民党の農林部会長として過去に取り組んだ「農協改革」が頓挫したのに対するリベンジだとも指摘されている。
協同組合を既得権益や岩盤規制だと批判して壊し、自らの既得権益に替えようとしている。
「農協改革」の本質は「農協解体」で、本丸は、
⓵ 農林中金の貯金の100兆円と全共連の共済の55兆円の運用資金を外資に差し出し、
⓶ 日本の農産物流通の要の全農をグローバル穀物商社に差し出し、
⓷ 独禁法の「違法」適用で農協の農産物の共販と資材の共同購入をつぶすことだ。
売国に歯止めをかけねばならない。
「輸入米」という落としどころ
備蓄米には限りがあるから一時的な効果しか見込めない。
だから、次は輸入しかない、という流れで、トランプ政権の要求に応えていくストーリーになりかねない。もうなってきている。
前回のトランプ政権でも、25%の自動車関税で脅され、他の国は毅然と突っぱねたが、日本は「何でもしますから、うちだけは許して」と屈服した。
中国が米国との約束を反故にした300万トンのトウモロコシまで「尻拭い」で買わされ、「盗人に追い銭」外交を展開した。
前回の日米貿易協定で日本は、牛肉(関税の大幅引き下げと緊急輸入制限措置の無効化)と豚肉(実質ゼ口関税)を譲ったが、米国側がTPPで日本に約束していた牛肉関税撤廃は反故にされた。
一方、米国産のコメ(7万トン)と乳製品(3万トン程度)のTPP輸入枠の実施は見送られた。
コメは民主党地盤のカリフォルニア州が主産地なのでトランプ氏が重視しなかったとの見方もあったが、米国のコメと酪農団体は反発した。
日本の交渉責任者は「自動車交渉のための農産物のカードはまだある」と漏らしていた。
今回、自動車関税の見直しを懇願するための前回の積み残し分の生け贄リストに残る目玉はコメと乳製品だ。
そもそも、トランプ氏自らがTPPから離脱したからコメの7万トンの約束は消えたのである。
だから突っぱねればいいだけだが、7万トンの「お土産」をどう設定するかが議論されている。
トランプ関税に浮足立って、担当大臣が一目散に米国に出向いて、どれから譲ればいいですかと聞くありさまだ。
絶対に切ってはならないコメのカードを最初から出すから許してと言い出すのは交渉になっていない。
すべてを失うだけだ。
コメ・農業を守るのは「国防」の一丁目一番地だ。
さらに、大豆やトウモロコシの輸入拡大も日本側から提案している。
まさに、前回と同じだ。
米中関係の悪化による「尻拭い」をまた受け入れる。
7万トンのコメ輸入の追加枠を含め、この流れは、苦しむ日本の農家をさらに追い詰め、食料安全保障の崩壊を早める。
「大規模化」で、しかも2027年に?
小泉農水大臣と石破総理がタッグを組んで、農政改革をやるという。
小泉氏は農林部会長時代の「農協改革」のリベンジ、総理は、2009年に農水大臣として提案した「減反廃止+所得補償」提案のリベンジともいわれる。
2009年の関係閣僚会合には筆者もアドバイザリーメンバーとして参画した。
筆者が軽量モデルによるシミュレーションに基づいて著書で示した提案を基に、農水省で精緻化して石破プランが発表された。
それは、生産調整の緩和により米価が下落したら直接支払いで補填し、消費者は安く買え、生産者も持続できるようにする政策だった。
当時は、与党や農協組織にも生産調整廃止や緩和による米価下落への懸念が強く、実現しなかった。
だが、今こそ、増産が必要なときである。
しかし、米価の「価格破壊」だけが先行し、農家を支える仕組みは2027年を目途に決めると言っている。
しかも、大規模層に限定するような議論になっている。
これでは間に合わないし、対象限定では、農村現場の多くは救えない。
15ha以上の経営は数で1.7%、面積で27%しかない。
大規慎化ができるところは推進すべきだが、それには限りがあることは棚田が広がる日本の風景を見れば一目瞭然だ。
大規模だけを支えても農村コミュニティーも国民へのコメ供給も維持できない。
2.5兆円の別枠予算を確保したと言うが、5年間なので、年間5000億円だ。
かつ、中身は、水田区画の大規模化、施設整備、スマート農業、輸出産地の育成となっている。
これらは関連企業の利益が大きい。
苦悩している稲作現場をスピーディーに救えるとは到底思えない。
なぜ、農家の所得を支える仕組みが出てこないのか。
農家への直接支払いには、バラマキ批判があり、対象農家を大規模に限定すべきだとの議論があるが、それでは、多くの農家・農村が破綻する。
対象を限定しなくとも、補填基準米価を高過ぎないように、努力目標として設定すれば、バラマキにはならない。
今、かなりの大規模経営でも60㎏で2万2000円は必要だとの声がある。
それなら、努力目標として、2万円を基準米価として、それを標準的な販売価絡が下回った場合は、その差を補填する仕組みを導入してはどうか。
急がないと農村現場がもたない。

下記の2冊は表紙のみ掲載します。

[解説 農協と米を巡る誤解] (上・中・下)

JA教育文化WEB(掲載)「農業・食料ほんとうの話」
〔第129 (2022/05/02)~167回(2025/07/01)
鈴木宣弘 東京大学大学院 特任教授

JA教育文化Web 2025年8月配信
農業・食料ほんとうの話 第168回
政策介入による価格破壊と農協潰しをしている場合ではない 鈴木宣弘


鈴木宣弘 東京大学大学院 特任教授 すずき・のぶひろ
1958年三重県生まれ。東京大学農学 部卒業後、農林水産省入省。
農業総合研究所研究交流科長、九州大学教授などを経て、2006年から東京大学大学院教授。2024年4月から現職。食料安全保障推進財団理事長。専門は農業経済学、国際貿易論。
『農業消滅 農政の失敗がまねく国家存亡の危機』(平凡社新書)、『協同組合と農業経済共生システムの経済理論』(東京大学出版会)ほか著書多数。

鈴木宣弘 東京大学大学院 特任教授

米価高騰の背景には、過度な減反や稲作農家の疲弊といった構造的問題がある。
にもかかわらず、農協や流通を悪者とする議論が横行し、政府は備蓄米放出や輸入米投入で価格を押し下げている。国内の稲作農家を守るために、ますます協同組合の役割が大きくなっている。
持続的に経営できる生産者米価を補償する
抜本的な政策転換が急務である。
■ 米価高騰要因の整理
米価高騰の要因については諸説述べられているが、整理しておこう。端的に言えば、価格が高騰したのは需給が逼迫したからである。それはそのとおりだが、問題は、その要因が何かということである。
それは、図1(次ページ)を見てもらいたい。単年で見ると、すでに、2020年から、21、22年も、生産量が需要量に達していない。
これは、①過度な減反、②稲作農家の疲弊が主因と考えられる。
そこに2023年に、③猛暑の影響、④需要の増加が加わり、コメ不足が一気に顕在化したのである。生産の減少が大きくなったところに、需要は増加した。
需要の増加はインバウンド需要の増加が指摘されたが、じつは、それはわずかで、国内消費者が値上がりした他の食材から、まだ価格が安かったコメにシフトしたことが大きい。
さらに2024年も、政府の発表ほどは収穫がなかったし、低品質米の増加で、玄米から精米への歩留まり率が通常9割から8割台に落ちている、との関係者の声が多く、コメ不足に拍車をかけた可能性がある。
■ 本末転倒の流通・農協悪玉論
だから、流通悪玉論、農協悪玉論は本末転倒なのである。
流通がおかしいから価格が上がったのでなく、コメが足りないから流通が混乱したのだ。
備蓄米も出し尽くし、備蓄米の補充も国産米でなく輸入米を投入して、どこまでコメ市場を徹底的にジャブジャブにするつもりなのか。コメをつくれる農家はいなくなってしまう。消費者もいざというときにコメが食べられなくなる。
「農協は共販でなく買取りに」「農協が金融をやる必要はない」といった発言も間違いだ。
歴史的に、個々の農家が大きな買手と個別取引することで農産物は買い叩かれ、個々の農家が大きな生産資材の売手と個別取引することで資材価格は吊り上げられ、苦しんだ。
それに対抗するため、農家が農協を作って結集し、共同販売と共同購入が開始された。
歴史に逆行する共販潰しは農協を協同組合でなくし、全農を株式会社化して穀物メジャーに差し出し、農産物の買い叩きを助長することにつながる。
■ 世界に逆行する共販潰し
農協の共販については、米国では、農協への「全量出荷」が当然で、独禁法の適用除外の「聖域」である。欧州では、強力な買手から農家を守るために、生産者組織の強化が政策的に進められている。
日本だけが完全に逆行している。
多数の農家に対して市場支配力をもつ農産物の買手と生産資材の売手が存在する市場で、個別取引を推進することは、農産物の買手と資材の売手の利益を不当に高める危険がある。
だからこそ、農協の存在による共同販売と共同購入が正当化され、それは取引交渉力を対等にするためのカウンターベイリング・パワー(拮抗力)として、カルテルには当たらないものとし、独占禁止法の適用除外になっているのが世界的な原則であり、日本もそうなっている。
つまり、農業所得の向上のためには、協同組合を通じた共同販売・共同購入の強化こそが理論的にも実態的にも求められるのである。さらに、農協による共同販売や生協による共同購入は、いずれも、中間マージンを削減することにより、農家にはより高く、消費者にはより安く農産物を提供する機能を果たしている。
協同組合は共販と共同購入により、生産者・消費者双方を助ける大切な組織なのである。
しかるに、我が国では、農協共販に対して公正取引委員会の脅しともとれる査察が幾度も入り、独禁法の適用除外がなし崩し的に実質的に無効化される事態が進行していることも容認しがたい違法行為である。
国会の買取り制
にすべきとの要請も、そもそも民間組織である農協に対する越権行為である。
■ 総合農協だからこそ農業振興ができる
また、歴史的に農家は高利貸しに苦しめられ、いざというときの生活保証が不十分だから、農家自らで貯金・貸付を行い、相互扶助の共済事業が展開された。
そして、地域の皆に信用事業や共済事業を利用してもらい、その利益を営農指導(持ち出しの赤字事業)に回すことで農業振興が可能になる。
経済事業も多くが赤字だが、中間マージンを減らして農家と消費者に還元しているからだ。
農協を核にして地域の農と食と暮らしが循環する。信用・共済事業がないと農業振興ができなくなるのだから、「農協は信用・共済を切り離して農業振興を」という論理は成立しない。
むしろ、信用・共済の分離は、農林中金の100兆円と全共連の55兆円の運用資金を外資に差し出す流れにつながる。
■ 明確な稲作ビジョンをすぐに示せ
極端なコメ需給緩和誘導や農協潰しで事態を悪化させている場合ではない。
備蓄米と輸入米による価格破壊は稲作農家を破壊しつつある。大規模農家も含めて多くの農家は、60kg あたり2万円~ 2万5千円の生産者米価が経営継続に必要だと話している。
JAグループでは共選出荷によって有利販売をはかっている
「スピード感」と言うならば、一日も早く、消費者・生産者双方が持続できるように、最低限60kg あたり2万円の生産者米価を補償する政策を打ち出すことが不可欠だ。
日本農業新聞[今よみ] 2025年7月2日
今よみ 危険な需給緩和誘導策 生産者米価補償こそ必要
東京大学特任教授・名誉教授・鈴木宣弘氏

 
 米価高騰の要因が諸説述べられているが、整理しておこう。
価格が高騰したのは需給が逼迫(ひっぱく)したからで、その要因は、
(1)減反のし過ぎ
(2)稲作農家の疲弊で、2020、21、22年から生産が需要を下回ってきたところに、23年に
(3)猛暑の影響
(4)需要の増加が加わった
――からだ。
 
 流通悪玉論、農協悪玉論は本末転倒。
流通がおかしいから価格が上がったのでなく、米が足りないから流通が混乱したのだ。
備蓄米も出し尽くし、備蓄米の補充も国産米でなく輸入米を投入して、どこまで米市場を徹底的にジャブジャブにするつもりなのか。
米を作れる農家はいなくなってしまう。
消費者もいざというときに米が食べられなくなる。
 
 「農協は共販でなく買い取りに」「農協が金融をやる必要はない」といった発言も間違いだ。歴史的に、個々の農家が大きな買い手と個別取引することで農産物は買いたたかれ、個々の農家が大きな生産資材の売り手と個別取引することで資材価格はつり上げられ、苦しんだ。
それに対抗するため、農家が農協を作って結集し、共同販売と共同購入が開始された。
歴史に逆行する共販つぶしは農協を協同組合でなくし、全農を株式会社化して穀物メジャーに差し出し、農産物の買いたたきを助長することにつながる。
 
 また、歴史的に農家は高利貸に苦しめられ、いざというときの生活保障が不十分だから、農家自らで貯金・貸し付けを行い、相互扶助の共済事業が展開された。
そして、地域の皆に信用事業や共済事業を利用してもらい、その利益を営農指導(持ち出しの赤字事業)に回すことで農業振興が可能になる。
経済事業も多くが赤字だが、中間マージンを減らして農家と消費者に還元しているからだ。
 
 農協を核にして地域の農と食と暮らしが循環する。
信用・共済事業がないと農業振興ができなくなるのだから、「農協は信用・共済を切り離して農業振興を」という論理は成立しない。
むしろ、信用・共済の分離は、農林中金の100兆円と全共連の55兆円の運用資金を外資に差し出す流れにつながる。
 
 極端な米需給緩和誘導や農協つぶしではなく、一日も早く、消費者・生産者双方が持続できるような60キロ2万円強の生産者米価を補償する政策を打ち出してほしい。
日本農業新聞「今よみ」 2025年5月27日
今よみ 令和の米騒動 農協悪玉論をファクトチェック
東京大学特任教授・名誉教授 鈴木宣弘氏

 
農相交代とともに米価高騰を巡る「農協悪玉論」が再び「農協改革」につながりかねない様相だ。
実態からよく検証してみる必要がある。
 
まず、今年の米価高騰は農協がつり上げたからだという指摘がある。
残念ながら農協につり上げる力はない。
米が集まらなくなって困っているのが現状だ。
米不足が深刻化して農家に直接買いにくる業者が増えて、農協よりも高値を提示して買っていく。
農協は買い負けている。
◁   ▷
これまで農協が減反に協力して高米価を維持してきたではないか、とも言われる。
今回の米価高騰の直前は30年前の米価の半値以下の1万円前後にまで下がっていた。
高米価を維持してきた実態はない。
減反の米価維持効果はなくなっている。
 
食糧管理制度の下、政府が米を全量買い上げていた時代は、農協が全量を集荷していた。
流通が自由化されていくにつれて小売りを中心とした取引交渉力に押されて米価が下がっていった。
農協の集荷率も下がり、昨年はついに約3割に下がった。
 
農協の共同販売は農家がまとまって強力な買い手と対等な取引交渉力を発揮できるようにする大切な機能で、中間マージンを削減して、農家にはより高く、消費者にはより安く届ける効果があることは筆者の計量モデルでも検証されている(「協同組合と農業経済」)。
集荷率の低下はその機能をそいできた。
◁   ▷
農協には政治力があり、与党と農水省と結託しているではないか、とも言われる。
以前は確かに政治力があったかもしれないが、環太平洋連携協定(TPP)という自由貿易協定に猛反対して、与党から逆襲されて、要のJA全中の権限がそがれてしまった。
 
以前は、農林族・全中・農水省がトライアングルと呼ばれ、農政を決定していたが、その力は弱まった。
小選挙区制で農業に強い議員も減り、全中も力をそがれ、農水省も財務省と経産省に対する以前のような「拮抗(きっこう)力」を失っている。
 
そして、「農協改革」の本丸は
⓵ 農林中央金庫の貯金100兆円とJA共済連の共済の55兆円の運用資金を外資に差し出し
⓶ 日本の農産物流通の要のJA全農をグローバル穀物商社に差し出し
⓷ 独占禁止法の「違法」適用で農協の共販と共同購入をつぶす
――ことだ。
売国に歯止めをかけねばならない。

日本の針路 2025年5月号 No.392
「令和の百姓一揆」農業危機突破の烽火
【国防の要は食料・農業だ】「日本型直接支払い」の実現を
 鈴木宣弘(東京大学大学院・名誉教授/特任教授、食料安保推進財団理事長)

対米農畜産物の輸入 「盗人に追い銭」繰り返すな
鈴木宣弘 日本農業新聞 コラム「今よみ」 2025年4月22日

日本農業新聞
2025年4月22日
[今よみ]
対米農畜産物の輸入
「盗人に追い銭」繰り返すな
 東京大学特任教授・名誉教授 鈴木宣弘氏


 トランプ米大統領の基本姿勢は「反グローバリズム」「自己完結型経済」と思われるので、グローバル化にさらされ、過度に輸入依存に陥っている日本の食と農からすると望ましい方向性を示唆しているとも言える。

 米国は日本を余剰農産物の処分場として、食料で自立させないように「胃袋からの属国化」を進めてきたが、米国が関税を引き上げてでも自国の産業を守るなら、日本も輸入依存度を減らして食料自給率を高め、食と農の独立を目指したいところだ。

 一方で、「米国ファースト」で自国利益を高めるため日本にもっと農産物を買わせる要求も強まる。

 前回のトランプ政権でも、25%の自動車関税で脅され、他の国は毅然(きぜん)と突っぱねたが、日本は「何でもしますから、うちだけは許して」と、中国が米国との約束をほごにした300万トンのトウモロコシまで「尻拭い」で買わされ、「盗っ人に追い銭」外交を展開した。

 前回の日米貿易協定で、日本は、牛肉では関税の大幅引き下げと緊急輸入制限措置(セーフガード=SG)の無効化、豚肉では実質ゼロ関税を譲り、米国側が環太平洋連携協定(TPP)で日本に約束していた牛肉関税撤廃はほごにされた。

 一方、米国向けの米(7万トン)と乳製品(3万トン程度)のTPP輸入枠の実施は見送られた。
 米は民主党の地盤のカリフォルニア州が主産地なのでトランプ氏が重視しなかったとの見方もあったが、米国の米と酪農団体は反発した。

 日本の交渉責任者は「自動車交渉のための農産物のカードはまだある」と漏らしていた。

 今回、自動車関税の見直しを懇願するための前回の積み残し分で「いけにえリスト」に残る目玉は米と乳製品だ。関税削減には原則的には協定締結が必要だが、輸入枠の拡大は、年間77万トンのミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)米に関して、すでに存在する「密約」の36万トンの米国枠を広げることなどでできる。
 トランプ氏は協定なしに関税引き上げも強行しているから一気に関税削減にも踏み込んでくる可能性もある。この流れは苦しむ日本農業を追い詰め、食料安全保障の崩壊を早める。

 独自の国家戦略・外交戦略を持たずに、米国の要請に対処するだけで「思考停止」してきた限界が来ている。「盗っ人に追い銭」外交では全てを失うだけだ。

国民飢餓の危機 令和のコメ騒動の深層 連載1~9回(完了)

1~9回分をまとめて、PDF1冊にまとめました。

日刊ゲ2025年4月8日4月8日~21日(全9回=完了)
国民飢餓の危機 令和のコメ騒動の深層 
東大大学院特任教授・名誉教授 鈴木宣弘

日刊ゲンダイ 2025年4月8日(火)
新連載 【1】
国民飢餓の危機 令和のコメ騒動の深層
 
東大大学院特任教授・名誉教授 鈴木宣弘

 
「令和のコメ騒動」が収まらない。
政府の「コメは足りているのに流通がコメを隠した」という説明は本当なのか。
流通悪玉論で目くらまし、根本原因に目を背け続ければコメ不足は常態化する。
国内生産はさらに激減し、安く輸入できる時代が終わった今、日本人が飢餓に直面するリスクは加速していく。
これから数回にわたり、深刻な事態の進行を解説する。
 
「時給10円」の苦境を放置
 
生産が「過剰、過剰」と言われ、5㌔あたり2000円くらいだったコメが昨年から、どんどん値上がりし始めた。
主たる要因として
⓵ 2023年の猛暑による生産減少
⓶ インバウンド需要の増加
⓷ 海外輸出2割増
⓸ 南海トラフ地震「注意報」による買いだめ ―などが挙げられた。
とりわけ猛暑による減産・品質低下と訪日客急増による需給逼迫が主因と言われたが、筆者は常に「猛暑やインバウンドのせいにして、問題の本質を覆い隠してはならない」と警鐘を鳴らしてきた。
根底には稲作農家の苦境がある。
肥料代などの経費を除くと平均所得は1万円。
平均労働時間で割ると「時給10円」だ。
農家を窮乏に追い込む「今だけ、金だけ、自分だけ」の「3だけ主義」のコメ取引とコスト高に対応できない政策の欠陥こそが、根本的な要因なのである。
政府は「24年産の新米が市場に十分に出回ってくれば、価格は落ち着く。コメは足りている」と繰り返したが、逆に米価は上昇し続けている。
この間、筆者は「当面、需給の逼迫が緩和されたとしても、長期的には政策の失敗の是正をしないと、コメ不足が常態化する」と説明してきた。
多少の需給変動がきっかけで、大きなコメ不足が顕在化してしまう根本原因は
⓵ 農家への減反要請
⓶ 水田の畑地化推進
⓷ 過剰理由の低米価
⓸ コスト高でも農家を支援しない
⓹ 政府備蓄の運用の不備などである。
生産過剰を理由に
⓵ 生産者に生産調整強化を要請し、
⓶ 水田を畑にしたら1回限りの「手切れ金」を支給するとして田んぼを潰す。
⓷ 小売り・流通業界も安く買いたたき、
⓸ 政府は赤字補填を放置しているから、稲作農家は苦しみ、コメ生産が減ってしまうのだ。
さらに政府が
⓹ 増産を奨励し、コメ備蓄を増やしさえすれば、その放出で需給調整できるのに、それもやらない。
だから、「令和のコメ騒動」に対応できないのである。
しかも30万程度の備蓄はあるのだから、放出の用意があると言うだけで、市場は安定化したはず。
それなのに、政府は当初、価格対策としての放出を否定。
需給調整は市場に委ねるべきだとし、コメを生産過剰時に買い上げて不足時に放出する調整弁の役割を担おうとしなかった。
大きな理由は、まず「コメは余っている」として減反政策を続けてきたのに、備蓄米放出で「コメ不足」を認めたら政策の失敗を認めることになり、政府のメンツが潰れるからだ。
さらに、 地震など、よほどの事態でないと主食用の放出は実施しない方針が決まっており、「この程度」ではできないということ。
要は、とにかく「コメ不足」を認めたくなかったのだ。
(つづく)

2024年夏は店頭から消えた

日刊ゲンダイ 2025年4月9日(水)
連載 【2】
国民飢餓の危機 令和のコメ騒動の深層


東大大学院特任教授 名誉教授 鈴木宣弘
 
遅れた備蓄米放出
流通悪玉論は否定された

 
さすがに米価上昇が止まらず、世間の騒ぎが大きくなってきたので、今年に入ると、ついに備蓄米が放出されることになった。
しかし、あくまで、コメは足りているが、流通業者がコメを隠しているのが問題だから、放出の条件に、「流通が支障をきたしている場合」を新たに加えて、コメは足りているが流通是正のために放出すると説明した。
そして、コメは足りているのだから、流通が是正されたら、1年後をめどに放出したコメを買い戻すとした。
つまり、放出しても買い戻すので、最終的に流通量は変わらないということになる。
これでは、放出の効果は一時的になる。
備蓄米放出が発表されても、コメ価格は上昇し続けた。
コメの「不足感」が極めて大きいと言わざるを得ず、「コメ供給は不足していない。流通に問題が生じているだけ」との説明は、いよいよ無理が出てきた。
政府は「21万のコメが消えた」と言ったが、21万㌧は「消えた」のではなく、大手の集荷業者に集まらず、他に流れたのが21万㌧あるということ。
「誰かが隠している」と同義ではない。
飲食業界などがコメ調達の懸念から農家からの直接買い付けを増やしていることな
 
大手の集荷業者が集荷できなかった分を備蓄米で補充することによって、コメが届くのは大手スーパーなどの流通ルートであり、町の米屋さんなどには行きわたらないとの見方があった。
現状は、そのとおりで、一部のスーパーでしか備蓄米は売られていない。
つまり、部分的にコメ価格が下がっても、全体的には大きな下落効果は見込めそうにない。
流通悪玉論は本末転倒だ。
仮に「買いだめ」が起こっているとしても、市場関係者が「不足感」を感じているからビジネスチャンスとしてさまざまな動きが出るのであって、それを誘発した原因はコメが足りていないことにある。

 
24年産「先食い」進む
 
全国の現場の声を聞くと、2024年産米が豊作だったという政府の「作況指数」にも疑問がある。
そもそも、
⓵ それほど収穫できていない、かつ、
⓶ 低品質なコメが増えて、玄米から精米にしたときの歩留まり率が落ちている、との見方が多い。
白いコメ、割れたコメ、カメムシ斑点米なども多いという。
精米歩留まり率は、9割くらいだったのが8割近くに落ちているとの情報もある。
しかし、政府は流通悪玉論を正当化しようと、「投機目的で隠されたコメ」の調査を今年3月に行った。
結果は、そういうコメはほとんどなく、関係者が事態の悪化に備えた行動の結果だと判明した。
今、2024年産米が前倒しでどんどん使われる「先食い」が進み、このままでは2025年産米が市場に出始めるまで、コメ在が持つかが懸念されている。
みなが早めに手当てしようと動いているということだ。
流通悪玉論は否定された。
夏ごろにかけてコメ不足が深刻化する可能性がある。
それでも政府は、コメ生産が足りていない。
(つづく)

江藤農相が備蓄米21万㌧放出を発表(2月14日)

日刊ゲンダイ 2025年4月10日(木)
連載 【3】
国民飢餓の危機 令和のコメ騒動の深層


東大大学院特任教授 名誉教授 鈴木宣弘

国内の供給不足を放置し、輸入米8倍増に力を入れる日本政府の愚かさ

 政府が喧伝してきたコメ高騰の「流通悪玉論」は否定されたが、それでもコメ不足だとは認めない。一方で、2030年までにコメ輸出量を8倍に増やすという目標が発表された。

 輸出市場の開拓は追求すべきひとつの可能性ではある。
 だが、国内でコメ不足が深刻化しているときに、まず示すべきは、国内供給の安定化政策ではないか。

 輸出米を増やせば、いざというときに国内向けに転用できるというが、そんな簡単に輸出契約を解除できるとは思えない。その前に国内供給を確保するのが先だ。

 しかも、輸出向けの作付けには10アール当たり最大で4万円の補助金が支給される。

 ならば、国内の主食米の生産にも同額の補助金を支給して、国内生産の増加を誘導するのが今やるべき方向性である。

 その上、輸出振興と必ずセットで出てくるのは、規模を拡大してコストダウンし、スマート農業と輸出の増加で「コメ農家の未来は明るい」という机上の空論だ。

 規模拡大やコストダウンは重要だが、日本の農村地域を回れば、その土地条件から限界があることは明白だ。
100ヘクタールの経営といっても田んぼが何百カ所にも分散する日本と、目の前1区画が100ヘクタールの西オーストラリアとでは別世界だ。

 実際、農水省の調査でも経営規模が20ヘクタールくらいまでは60キログラム当たりの生産単価は下がるが、それを超えると上昇し始める。いくらコストダウンしても海外と同じ土俵で戦えるわけがない。

■大規模化は土地条件に限定

 日本のコメ作りは、中山間地域が全国の耕地面積の約4割、総農家数の約4割、農業産出額の約4割を占める。大規模化とスマート農業でカバーできる面積は限られる。

 さらに、一軒の大規模経営がポツンと残ったとしても、生活インフラが維持できなくなり、コミュニティーは消え、結局、その経営も存続できなくなる。

 大規模化ができない条件不利地域は、疲弊が進むから無理に維持する必要がないという暴論もある。それでは、国民へのコメ供給は大幅に不足し、日本各地のコミュニティーが崩壊して大事な国土・環境と人々の暮らし、命は守れなくなる。

 今、農村現場は一部の担い手への集中だけでは地域が支えられないことがわかってきている。まず定年帰農、兼業農家、半農半X、有機・自然栽培をめざす若者、耕作放棄地を借りて農業に関わろうとする消費者グループなど、多様な担い手づくりを促す。

 そして、水路やあぜ道の管理の分担も含め、地域コミュニティーが機能し、資源・環境を守り、生産量も維持されることが求められている。短絡的な目先の効率性には落とし穴があることを忘れてはならない。
地域の疲弊が続くのは仕方ないのではなく、それは無策の結果だ。政策を変更して未来を変えるのが政策の役割だ。集落営農で頑張っている地域もあるし、消費者と生産者が一体となり、ローカル自給圏をつくろうとする「飢えるか、植えるか」運動も筆者のセミナーを機に広がりつつある。

 だから、地域から自分たちの食と農と命を守る仕組みづくりを強化していこう。 (つづく)

耕作地の4割は中山間地域

日刊ゲンダイ 2025年4月10日(木)
連載 【4】
国民飢餓の危機 令和のコメ騒動の深層


東大大学院特任教授 名誉教授 鈴木宣弘 

大多数の農家が潰れるから企業参入促進というおかしさ
間違った「議論の前提」が稲作を崩壊させる


 現在の日本は短絡的な目先の効率性の追求を強めており、安全保障や多面的機能といった長期的・総合的視点が失われている。
 これでは、稲作農家を守り、十分なコメ供給を確保できる見込みが立たない。

 今後20年で、基幹的農業従事者数は現在の約120万人から30万人まで激減するため、農業をやる人はいなくなってくるのだから、それに合わせて、企業参入を進め、少ない人数で一層の規模拡大をする必要がある、といった議論がよく展開される。

 昨年6月の食料・農業・農村基本法の改正でもそうだった。

 大多数の農家が潰れることを前提に、規模拡大、スマート農業、輸出、海外農業投資などを展開するために、農業法人における農外資本比率の条件を緩和する(50%未満→3分の2未満)などの企業参入促進のための規制緩和を進める、といった議論だ。

 一部の儲けられる人たちだけが儲かればそれでいいという議論には、国民全体へのコメ供給の確保という安全保障の観点や、地域コミュニティーや伝統文化、洪水防止機能などの維持という長期的・総合的な視点は考慮されていない。

  
そもそも、出発点が間違っている。

 基幹的農業従事者が120万人から30万人になるというのは、今の趨勢を放置したら、という仮定に基づく推定値であり、農家が元気に生産を継続できるようにする政策を強化して、趨勢を変えることができれば、流れは変わる。
 それこそが政策の役割ではないか。

 日本全体の人口問題も同じである。日本の人口はやがて5000万人になるのだから、それに合わせた社会設計をしよう、無理に住むのが非効率な地域に住むのはやめればよい、という議論は前提が間違っている。

 今の出生率の趨勢を将来に伸ばしたらそうなるという推定であり、出生率が少し上向くだけで将来推計は大きく変わる。これを実現するのが政策の役割だ。

 しかし、今、懸念される流れが強まっている。

 能登半島のボランティアに行かれたらわかるように、復旧は遅々として進んでいない。
 まるで、そこに住むのをやめて移住するのを促しているかのようにも見えてしまう。
 実は、全国各地の豪雨災害で被害を受けた水田の復旧予算を要求しても、なかなかつかなくなっているという声も聞いた。

 そういえば、消滅可能性市町村のリポートもよく読むと、消滅可能性市町村に住むのは非効率だから、もう無理して住まずに、各都道府県ごとに拠点都市を定めて、そこに移住してはどうか、と書いてある。

 人が減るから学校もなくし、病院もなくし、公共交通もなくしていったら、悪循環になるだけだ。
 狭い目先の効率性と短絡的な歳出削減で、日本の地域社会が壊され、国民へのコメ供給も確保できなくなる流れをこれ以上許すわけにはいかない。
 (つづく)

能登の復旧遅れは移住を促しているのか…(C)日刊ゲンダイ

日刊ゲンダイ 2025年 (令和7年)4月15日(14日発行)
 連載 【5】
国民飢餓の危機 令和のコメ騒動の深層


東大大学院特任教授 名誉教授 鈴木宣弘 
「盗人に追い銭」外交の生贄にコメを差し出してはいけない
第1次トランプ政権時代からの積み残し
生産者の崩壊、飢餓に陥る確率急上昇

 
 輸入米が増加している。77万トンの「ミニマムアクセス」(最低輸入量)を超えたら、1キロあたり341円の関税がかかる。「禁止的関税」と言われ、この額を払ってでも入ってくる輸入米はないと思われていた。
しかし、今回のコメ価格高騰で、その関税を払っても国産米より安く販売できる状況が生まれている。
 
 このタイミングで米国も圧力をかけてきた。
「日本のコメ関税は700%」だという牽制がトランプ大統領からも発せられた。
日本のコメ関税は重量税だから、その時点の輸入米価格によって税率は変化する。
現在の国際価格だと700%という高率にはなり得ないが、米国は関税引き下げを狙っている。
77万トンの「ミニマムアクセス」についても、マークアップ(輸入差益)を問題視し始めた。
 
 実は第1次トランプ政権からの流れがある。
前回も25%の自動車関税で脅され、他の国は毅然と突っぱねたが、日本は「うちだけは許して。
何でもしますから」という「盗人に追い銭」外交を展開した。
 
 日本の当時の交渉責任者は、記者会見で米国との今後の自動車関税撤廃の交渉にあたり、「農産品というカードがない中で厳しい交渉になるのでは」との質問にこう答えた。
「農産品というカードがないということはない。TPPでの農産品の関税撤廃率は品目数で82%だったが、今回は40%いかない」と。
つまり、「自動車のために農産物をさらに差し出す」ことを認めていたのだ。
 
■生産者の崩壊、飢餓に陥る確率は急上昇
 
 まさに「属国が宗主国の言うことをすべて聞く交渉」がエンドレスに続く「底なし沼」だが、今回もこのような自動車の追加関税に怯えて、食と農を際限なく差し出す「盗人に追い銭」構造にはまることが懸念される。
 
 第1次トランプ政権での日米貿易協定で、日本は牛肉と豚肉への関税をTPP水準に引き下げると譲り、コメや乳製品の実施は先送りされた。
牛肉関税は最終的に9%、豚肉関税は実質ゼロになった。すでに自動車関税の25%が適用されてしまった今、何とか見直しを懇願するため、農産物の「生け贄リスト」に残るのは日本にとっての最後の砦、コメと乳製品だ。
これが前回の積み残し分で、本丸中の本丸だ。コメについては、少なくともTPP交渉で米国に与えた7万トンの無税新設枠の実現だけでなく、さらなる上乗せを求めてくるのは間違いないだろう。
 
 ここで踏ん張れなかったら、日本のコメ生産、酪農の崩壊は加速する。
コメさえも輸入に頼ってしまったら、いざというときに日本人が飢餓に陥る確率が格段に上昇してしまう。
恐れて墓穴を掘る愚を反省し、今度こそ日本の国益を毅然と主張して、日本の独立への一歩を踏み出したい。
 我が国は長らく、米国の要請に応えることが「外交」という「思考停止」を続け、独自の国家戦略、外交戦略を欠如させてきた。
欧州などは、独自の国家・外交戦略を持っているから米国と対等に主張が交わせる。日本が独立国として米国依存を脱却して世界の中でどう生きていくのか、それを確立する機会にできるか。
大きな岐路に立っている。 (つづく)

前回も先送りされたが・・・

日刊ゲンダイ 2025年4月16日(火)
新連載 【6】
国民飢餓の危機 令和のコメ騒動の深層
 
東大大学院特任教授・名誉教授 鈴木宣弘

 
米価高騰の犯人?
「農協悪玉論」には裏がある
かんぽ生命と同じ形のJA共済叩き
 
米価高騰の犯人捜しでは「農協悪玉論」も展開されている。
農協がコメを隠して価格をつり上げているかのような見方があるが、実態は違う。
農協は今、コメが集まらず困っているのだ。
コメ流通全体における農協の集荷率は4割程度になっていたが、今年はさらに3割を切るようなレベルまで落ちてきている。
なぜか。
農協は通常、共同販売を行う。
例えば、まず農家にコメ60あたり概算金1万8000円を払い、販売完了後に5000円の追加払いをして精算する形だ。
今はコメ不足の深刻化で、農家の庭先に直接買いに来る業者が増えている。
そうした人々が現金2万2000円で買います、と言えば、とりあえず農協よりも高いから、そちらに売ってしまいがちになる。本当は農協の方が最終的に2万3000円で高くなるのだが。
それから、農協と農水省が米価高騰を維持するため、生産を抑制しようとしているから、値が下がらないとの見方もある。
これも実態と違う。
長年、農水省と農協が米価つり上げのために減反してきたというが、本当か。
30年前の半値以下現実を見ると、今回の高騰直前まで米価は毎年下がり続け、30年前の半値以下になってしまっていた。
稲作所得は年間1万円時給にすると100円という水準まで落ち込んでいた。
どう見ても米価がつり上げられ、農家に不当な利益がもたらされてきたとは言えない。
農協悪玉論で得する人たちがいる。
一番は米国の金融保険業界だ。振り返れば、どうしても日本の郵貯マネー350兆円の運用資金が欲しくて、「対等な競争条件」(イコールフッティング)の名目で解体(民営化)を迫り、小泉政権による強硬的な郵政民営化政策が始まった。
さらに、安倍政権下の2013年4月には、民営化したかんぽ生命はがん保険に参入しないと宣言させられた。
その3カ月後、郵便局での米国A社のがん保険の委託販売の拡大方針が決まり、全国2万局へ広がっていった。それだけでは終わらない。
 1年、かんぽ生命の過剰ノルマによる利用者無視の営業問題が浮上したが、その少し前、日本郵政がA社に2700億円を出資した。
当時は日本郵政が社を「吸収合併」するかのように言われたが、実質は「ひさしを貸して母屋を取られる」 出資だったのである。
顧客に不利益となる保険の乗り換え契約などが次々と発覚し、かんぽ生命が叩かれているさなか、「かんぽの商品は営業自粛だが、A社のがん保険のノルマは3倍になった」との郵便局員からの指摘が、事態の裏側をよく物語っている。
こうして郵貯マネーの奪取にめどが立ったから、次に喉から手が出るほど欲しいのは、信用と共済を併せて運用資金155兆円のJAマネーだ。
そして案の定、矛先JA共済に向けられてきた。
かんぽ生命とまったく同じ形でJA共済の契約の取り方が不当との報道が行われ始めた。「手口」が分かりやす過ぎる。
「農協悪玉論」には裏があることも忘れてはならない。
(つづく)

全てはこの人から始まった・・・

日刊 ゲンダイ 2025年 (令和7年)4月17日(16日発行)
連載 【7】
国民飢餓の危機 令和のコメ騒動の深層


東大大学院特任教授・名誉教授 鈴木宣弘


学校給食を利用した「胃袋からの属国化」
すべての大本は米国の占領政策にある

 
 今回の「令和のコメ騒動」が深刻化した根底には、そもそも国内のコメ生産が減り過ぎてきていることがある。
 根本原因は、長らく続いているコメの生産調整(減反政策とコメ農家の困窮だが、その大本は戦後の米国による占領政策にまでさかのぼる。
 研究者も含めて、大多数の日本人が信じている「常識」がある。
 「食料自給率が下がったのは、生活が急速に洋風化したため、日本の農地では賄い切れなくなった。だから、しょうがない」というものだ。
 この「常識」は間違いである。
 現象的にはそうだったとしても、それは米国の占領政策の結果であることを忘れてはならない。
GHQの日本占領政策の狙いは、日本の農業を弱体化させて食料自給率を低下させ
 ⓵ 日本を米国の余剰農産物の処分場とする
 ⓶ それによって日本人を食から支配し
 ⓷ 米国に歯向かえるような強国にさせないということであった。


 ⓵の実現には、日本人がコメの代わりに米国産小麦に依存する必要がある。
 そのための洗脳政策が行われたのだ。
 日本の著名な大学の医学部教授が米国の「回し者」に使われ、〝コメを食うとバカになる″という「コメ食低脳論」を主張する本まで書かせ、小麦を食べさせるために「食生活改善」がうたわれた。
 さらに、日本人の食生活を「改善」してあげようという名目で、米国の農産物に依存しないと生きていけない食生活に「改変」させられた。
 極めつきは「子どもたちから変えていくのが手っ取り早い」という戦略
 私自身も、子どもの頃には学校給食で米国産小麦のパンと脱脂粉乳にお世話になった。
 私はパンも脱脂粉乳も苦手で苦労したが、全体としては、これほど短期間に伝統的な食文化を一変させた民族は世界に例がないと言われるほどに、このGHQの洗脳政策は大成功したのである。
 日本は、米国による「胃袋からの属国化」のレールにまんまと乗せられてきたのである。
 そして、この頃からコメの消費量も食料自給率も低下し始め、コメの減反政策につながった。
 これが「わが国の農業、農政が凋落する始まりであった」と農水省管轄の研究所のリポートも指摘している。
 「令和のコメ騒動」の大本はここにあったのだ。
(つづく)

手っ取り早く子供から

日刊ゲンダイ 2025年 (令和7年)4月18日(17日発行)
国民飢餓の危機 令和のコメ騒動の深層
連載【8】

 
東大大学院特任教授・名誉教授 鈴木宣弘
 
絶望を希望に変える好循環の輪は広がっている
「飢えるか、植えるか」
ほぼ全政党が筆者の提案に賛同

 
 疲弊する稲作農家を支援して増産しなければ、「令和のコメ騒動」は解決できないのに、政策の方向性はどこを向いているのか。
 昨年11月29日に財政当局の農業予算に対する考え方が示されたが、それは次のように解釈できる。
 まず、農業振興こそが求められているときに逆に農業予算が多すぎると指摘。
 飼料米補助は安全保障上も重要視されてきたはずなのに、財政支出が大きくなったので、もうやめるべきと言い出した。
 加えて低米価に耐えられる構造転換で財政支出を削減しようとする。
 さらには、備蓄米の量の少なさが問題になっているのに、備蓄米は費用がかかるから減らすべきとし、とどめは、食料自給率を上げるのは金がかかるから、輸入を増やそうというのだ。
 そこには、歳出削減しか念頭にない財政当局の危機認識、大局的見地の欠如が露呈されている。
 25年ぶりに改定された農政の「基本法」においても、食料自給率は重視せず、疲弊する農業・農村にこれ以上の支援はせずに放置。
 一部の企業などがスマート農業や輸出で儲かれば良いかのように、生産資材の高騰でコメ生産コストが60㌔あたり2万円に近づいているときに、9500円のコスト実現を目指すとの空論も示された。
 この状況は絶望的にも見える。
 しかし、この局面を打開できる希望の光も見えてきている。
 筆者は、超党派の「食料安全保障推進法」を制定し、「財源の壁」を打ち破る提案をしている。
 3本柱となる施策のイメージは
  ⓵ まず、食料安全保障のベースになる農地10アールあたりの基礎支払いを行う
  ⓶ コスト上昇や価格下落による所得減を直接支払いで補完し、農家を助けると同時に消費者には安く買えるようにする
  ⓷ さらに、増産したコメや乳製品を政府が買い上げ、備蓄積み増しや国内外の援助などに回すというものである。
 この提案は、ほぼ全政党から賛同を得ており、与野党が拮抗する政治情勢下で、こうした政策を超党派の国民運動で実現できる機運が高まっていると期待したい。
 さらに、全国各地の消費者が農家と共に支え合う仕組みを模索し始めている。
 自分たちの周りで「ホンモノ」を作って頑張ってくれている生産者と、できるだけ直接結びついて支え合う仕組みを作れば、子供たちを守り、生産者も守れる。
 各自治体で学校給食などを核にした「地域の種からつくる循環型食料自給圏」、「ローカル自給圏」を構想しようという動きだ。
 特に地場産の有機米などを自治体が高く買い取り、給食に提供することで農家と子供たちを守る好循環が形成できる。
 域内の食料自給率100%を目標に、飢えないようにみんなで植えようという「飢えるか、植えるか」運動で、農業生産に関わりたいという地域住民の意欲を結集し、みんなでつくってみんなで食べる生産者・消費者の一体的な仕組みをつくる。
 こうして「地域内循環」を高めるとともに、都市部の自治体が子供たちの給食のために農村部の自治体の農産物を買い取る「地域間連携」も加わり、循環の輪が広がってきている。
 こうした地域のうねりが国の政策も突き動かし、子供たちの未来を守ることにもつながれば、絶望は必ず希望に変えられるに違いない。

(来週月曜=2025年4月21日 につづく)
日刊 ゲンダイ 2025年 (令和7年)4月22日(21日発行)
公開日:2025/04/21 17:00 更新日:2025/04/21 17:00
連載 【9】(最終回)
国民飢餓の危機 令和のコメ騒動の深層

東大大学院 特任教授・名誉教授 鈴木宣弘

食と農と命を守るなら「3だけ主義」から脱却し、「3方よし」への転換が必要だ

 なぜ、令和のコメ騒動がここまで深刻化したのか。
 これまでさまざまな角度から深層に迫った。国内のコメ生産が減りすぎてきた根本原因は、長らく続いているコメの生産調整(減反)政策とコメ農家の困窮だが、その大本は戦後のアメリカによる占領政策にあることも示した。
 流通悪玉論、農協悪玉論で目くらましをし、根本原因に目を背けたままにすれば、コメ不足が常態化する。政府は流通悪玉論を正当化しようと、「投機目的で隠されたコメ」の調査が3月に行われたが、関係者が事態の悪化に備えた行動の結果だと判明し、流通悪玉論は否定された。
 それでも政府はコメ生産が足りていないとは認めない。
 それどころか、減反要請、田んぼ潰し、農家の所得減に伴う疲弊による深刻なコメ生産の減少を放置して、コメ輸出を8倍にすると言い出し、トランプ関税の回避を懇願する「盗人に追い銭」外交で、コメと乳製品の輸入増を「いけにえ」として差し出す可能性さえ出てきている。
 国内のコメ生産はさらに激減し、いつでも安く輸入できる時代が終わった今、日本人が飢餓に直面するリスクが加速している。
 加えて、コメ騒動とバター不足の背景は同じだということも言及しておきたい。
 猛暑とインバウンド需要増加が根本原因ではないのは、コメ不足・バター不足も同じだ。
 本当の根本原因は、コメと酪農を並べてまとめるとよくわかる。


■稲作も酪農も青果も悲鳴の構図は同じ

 コメは過剰在庫を理由に
  ① 生産者には生産調整強化を要請
  ② 水田を畑にしたら1回限りの「手切れ金」を支給するとして田んぼ潰しを開始
  ③ コスト高の農家の赤字は補填せず
  ④ 小売・流通業界も安く買いたたく–だから農家が苦しみ、コメ生産が減ってきている。さらに
  ⑤ 増産を奨励し、コメの政府備蓄を増やしていれば、その放出で調整できるのに、何もしないから対応できずに、コメ輸入が増加している。

 酪農も過剰在庫を理由に
  ① 酪農家には減産を要請
  ② 乳牛を処分したら一時金を支給するとして乳牛減らしを開始
  ③ コスト高の酪農家の赤字は補填せず、逆に脱脂粉乳の在庫減らしのためとして酪農家に重い負担金を拠出
  ④ 業界の乳価引き上げも十分ではない──そのため、廃業も増え、生乳生産が減ってきている。さらに
  ⑤ 増産を奨励し、政府がバター・脱脂粉乳の政府在庫を増やしていれば、その買い入れと放出で調整できるのに、何もしないから対応できずに、バターの緊急輸入で海外依存を強めている。
 さらに、青果物についても、市場関係者が悲鳴を上げている。
 野菜や果物の高騰も、猛暑などの天候要因はきっかけでしかない。
 根底には青果物の低価格が続き、農家の所得が上がらず、主要作物の生産がピーク時の半分以下に落ち込むなど、出荷が激減してきていることがある。
 輸入青果物も急増している。
 問題の構造はコメや酪農と同じなのだ。


 現場を回っていると稲作や酪農の廃業が一番急速だが、それ以外の農家の廃業も加速度的に増えている。
 今、頑張っている農家は精鋭、希望の光だ。
 「今だけ、金だけ、自分だけ」で買いたたいて、これ以上、農家がいなくなったら、流通・加工・飲食・小売業界もビジネスができなくなる。
 消費者も安ければいいと言っていたら、食べる物がなくなる。
 政治はもちろん、国民全体が「3だけ主義」から脱却し、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「3方よし」に転換しなければ、食と農と命は守れない。

(おわり)

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 https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4587

頑張っている農家は希望の光(C)日刊ゲンダイ

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国内供給を放置して進む輸入米と輸出米の危うさ

コラム
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】
国内供給を放置して進む輸入米と輸出米の危うさ
農業協同組合新聞 2025年3月21日


コメ不足感の高まり
 備蓄米が放出されたが、市場の「不足感」は極めて大きい。2024年産米も政府発表ほどは穫れておらず、精米歩留まり率も9割から8割程度に落ちて、2024年産米が前倒しで流通する「先食い状態」が強まっており、今年の夏にかけて、不足感がさらに高まる可能性がある。 「流通に問題が生じているだけでコメ供給は足りている」との説明には無理がある。
 根本的には、「あと5年でここでコメをつくる人がいなくなる」と漏らす地域が続出しているほどの農家の赤字は放置し、減反要請を続け、一時金(手切れ金)だけ払うから田んぼは潰せ、と誘導して、コメが作れなくなってきたツケである。
今の米価でも30年前の水準に戻っただけでコメ農家にとってはやっと一息つけるくらいで、2025年の作付けも全国で2%程度増えるだけの見込みで、市場の不足感は解消されそうにない。
 「コメは足りている。悪いのは流通」という本末転倒の「流通悪玉論」でなく、「コメの供給が不足しているため流通に混乱が生じている」ことを認め、農家が安心して増産できる政策を早く示さないと間に合わなくなる。
 消費者にとっても今年の米価は30年前の水準に戻っただけだが、所得が減る中での急激な米価上昇は苦しい。今、農家にとっての適正米価と消費者にとっての適正米価が乖離している。農家に増産を促し、消費者は安く買えるようにし、米価が下がっても農家の所得が得られるように支援することでコメ市場は安定化できる。
輸入米増加の末路
 一方で、輸入米が増えている。コメ価格高騰の根本的解決がされないと輸入米はさらに増える。米国が狙っている。前のトランプ政権で日本は「盗人に追い銭」で25%の自動車関税を許してほしいと牛肉と豚肉を差し出した。EUやカナダはWTO違反行為には断固闘う姿勢を示したが、日本は「うちだけは許して。何でもしますから」と、中国が米国との約束を反故にして宙に浮いた大量の余剰トウモロコシまで「尻拭い」で買わされ、「犯罪者に金を払って許しを請う」(細川昌彦・中部大学教授)ような「失うだけの交渉」を展開した。
 前回の日米貿易協定の交渉時の記者会見で、日本政府は米国との今後の自動車関税の交渉にあたり、「農産品というカードがない中で厳しい交渉になるのでは」との質問に答えて「農産品というカードがないということはない。TPPでの農産品の関税撤廃率は品目数で82%だったが、今回は40%いかない」、つまり、「自動車のために農産物をさらに差し出す」ことを認めている。「自動車のために農産物を譲るリスト」があるわけだ。
 積み残しの目玉品目はコメと乳製品だ。これが進めば、日本のコメや酪農の崩壊が早まり、日本の飢餓のリスクが高まる。安易に輸入に頼る落とし穴にはまってはならない。
国内供給支援せず、なぜ今輸出米支援なのか
 一方で、コメ輸出を8倍に増やすという目標が発表された。輸出市場の開拓は追求すべき1つの可能性ではあるが、国内でコメ不足が深刻化しているときに、まず示すべきは、国内供給の安定化政策ではないか。
 輸出米を増やせば、いざというときに国内向けに転用できるというが、そんな簡単に輸出契約を解除できるとは思えない。その前に国内供給を確保するのが先だ。
 しかも、輸出向けの作付けには4万円/10aの補助金が支給される。ならば、国内の主食米の生産に4万円/10aの補助金を支給して、国内生産の増加を誘導するのが明確な方向性である。
 しかも、輸出振興とセットで必ず出てくるのは、規模拡大してコストダウンして、スマート農業と輸出の増加で未来は明るい、という机上の空論だ。規模拡大してコストダウンすることは重要だが、日本の農村地域を回れば、その土地条件から限界があることは明白だ。100haの経営で田んぼが400カ所くらいに分散する日本と目の前1区画が100haの西オーストラリアとは別世界だ。
 中山間地域は、全国の耕地面積の約4割、総農家数の約4割、農業産出額の約4割を占める。大規模化とスマート農業でカバーできる面積は限られている。それができない条件不利地域は疲弊が進むから無理に維持する必要がないという暴論もある。それでは、国民へのコメ供給は大幅に不足するし、日本各地のコミュニティが崩壊して大事な国土・環境と人々の暮らし、命は守れなくなる。
 地域の疲弊は続くから仕方ないのではなくて、それは無策の結果だ。政策を変更して未来を変えるのが政策の役割だ。集落営農で頑張っている地域もあるし、消費者と生産者が一体的にローカル自給圏をつくろうという「飢えるか、植えるか」運動も筆者のセミナーもきっかけに広がりつつある。まず、地域から自分たちの食と農と命を守る仕組みづくりを強化していこう。

輸出米と輸入米の危うさ 国内供給こそ最優先

日本農業新聞 2025年3月18日
[今よみ]
輸出米と輸入米の危うさ
国内供給こそ最優先
京大学特任教授・名誉教授 鈴木宣弘氏


 米輸出を8倍に増やすという目標が発表された。しかし、国内の米不足が深刻化しているときに、まずやるべきは国内供給の確保ではないか。
 「米は足りている。悪いのは流通」という「流通悪玉論」は本末転倒だ。
 「米の供給が不足しているため流通に混乱が生じている」ことを認め、「あと5年で米を作る人がいなくなる」と漏らす地域が続出している中で、農家が安心して増産できる政策を早く示さないと間に合わなくなる。
 しかも、輸出向けの作付けには10アール当たり4万円の補助金が支給される。
 ならば、国内の主食米の生産にこそ10アール当たり4万円の補助金を支給して、国内生産の増加を誘導すればよいというのは明白だ。
 そして、必ず出てくるのは、規模拡大してコストダウンしてスマート農業と輸出の増加で未来は明るいという机上の空論だ。規模拡大してコストダウンすることは重要だが、日本の農村地域を回れば、その土地条件から限界があることは明白だ。
 100ヘクタールの経営で田んぼが約400カ所に分散する日本と目の前1区画が100ヘクタールの豪州とは別世界だ。輸出市場も簡単に拡大できない。
 中山間地域は、全国の耕地面積、総農家数、農業産出額の各4割を占める。大規模化とスマート農業でカバーできる面積は限られている。それができずに疲弊している条件不利地域で無理に農業をして住み続ける必要はないという暴論もある。
 それでは、国民への米供給は大幅に不足するし、日本各地のコミュニティーが崩壊して国土と環境、人々の暮らし、命は守れなくなる。
 地域の疲弊は止められないのではなく、これまでの無策の結果だ。政策を改善して未来を変えるのが政府の役割だ。集落営農で頑張っている地域もあるし、消費者と生産者が一体的にローカル自給圏をつくろうという「飢えるか、植えるか」運動も筆者のセミナーもきっかけに広がりつつある。
 一方で、輸入米が増えている。前のトランプ政権で日本は「盗っ人に追い銭」で25%の自動車関税を許してほしいと牛肉・豚肉を差し出した。
 積み残しは米と乳製品だ。国は自動車関税阻止のために米国に差し出す農産物リストを作成している。
 これが進めば、米生産の崩壊が早まり、国民の飢餓のリスクが高まる。
 安易に輸入に頼る落とし穴にはまってはならない。

輸出米と輸入米の危うさ 国内供給こそ最優先

東京新聞 2025/2/12 【今よみ】<政治 経済 農業> 米価高騰〟の深層

東京新聞 2025/2/12
【今よみ】政治 経済 農業
米価高騰〟の深層
東京大学特任教授・名誉教授 鈴木 宣弘


薄く広げた交付金には限界

 米は十分あるが、問題は流通にある」と政府は米価高騰〟の原因は流通業界の「買い占め」だと言って、まだ「米は余っている」と強弁する。
 しかし、市場関係者が「不足感」を感じているから、買いだめが起こるわけで、足りていると政府が言い張るのは無理がある。
 水田つぶし政策と時給が10円しかないような農家の疲弊暑さの影響(低品質米の増加)も加わって主食米供給が減り過ぎている。
 米価が上がったといっても農家からすると30年前の価格に戻っただけで、やっと一息つけるかという程度で、すでに疲弊している現場の生産が一気に増えるのは難しいと流通業界も見込んでいる。
 水田をつぶして現場農家の疲弊を放置する政策が続けば、「米不足」は続く。
 「農協が米価格をつり上げている」との見解も実態と乖離(かいり)している。 
 農協は今、米が集まらず困っている。 
 共販で、概算金60㌔当たり1万8000円、後で同5000円追加払いの見込みでも、農家は同2万2000円とかで即買いに来る業者に売ってしまいがちになる。
 根底にあるのは、農家が赤字でやめていくのを放置して、田んぼをつぶせば一時金(手切れ金)だけ払うからもうやめなさい、と誘導して、農村現場を苦しめてきたツケである。
 農業予算を削りたい財政当局の強い意志がある。
 需要が減るから生産減らし続けていくという政策を続けたら「負のスパイラル」で、日本の稲作と米業界は縮小していくだけである。
 日本農業の根幹と日本人の主食が失われ、一時的に輸入に頼っても、それが濡れば日本人は飢える。
◆■◆■◆
 日本の水田をフル活用すれば、今の700万から1300万、に米生産を増やせる。
 米需要は備蓄用、パン・麺用、飼料用、貧困支援用と広がっている。
 どんどん増産できるように農家支援を拡充すれば、米価格は上がり過ぎずに消費者も助かる。
 そして、需要を創出するために財政出動する。
 そうすれば縮小でなく好循環で市場拡大できる。
 財政当局に農水予算の枠を抑えられたまま、水田活用交付金の組み替えで農地当たり基礎支払いを広げる方向性が示されたが、それでは10当たりの極めて少額の支援に薄まるだけで何もならない。
 「財源の壁」の克服なくして事態の改善はできない。

東京新聞 2025年2月2日(日曜日)【予期せぬ天候リスク】 【後継者難】◆不透明感増すコメの需給

論点
2025年の指針 
コメと食糧安全保障 注目の連載
インタビュー 鈴木宣弘・東京大大学院特任教授
毎日新聞 2025/1/31 東京朝刊

鈴木宣弘・東大農学部特任教授=宮本明登撮影
鈴木宣弘・東大農学部特任教授=宮本明登撮影

 昨夏の「令和の米騒動」からほぼ半年たつ。コメの生産を抑える減反政策は続き、米価は高止まりしたままだ。「コメは余っている」と政府は繰り返すが、本当だろうか。農業問題に詳しい東京大大学院の鈴木宣弘・特任教授は「今こそ食糧安全保障の強化が求められるのに、コメ政策は逆行している」と訴える。

【聞き手・宇田川恵】


政府の認識は誤り、生産が減りすぎだ

――昨夏の米騒動をどう振り返りますか。

 騒動の最大の要因は、コメの生産が減りすぎていることです。
 それは「コメは余っている」という政府の認識自体が間違っているからです。
 あれほどのコメ不足となったのに、しかも米価は今も高いままだというのに、農林水産省は「コメの需要は減少傾向にある」と言い続け、「とにかくコメは作るな」と農家に減反を迫っています。
 需要は年約10万トン減るから、それに合わせて生産を抑えようというのです。
 実際、農水省は昨年10月末、2025年7月から1年間の需要量は前年より11万トン減って663万トンになるとの予測を示しました。

――「もっと作りたい」という農家はたくさんありますが、事実上、農水省の需要予測に基づいて生産量が配分されるので、好きなように作れないのですね。

 そうです。昨夏の米騒動を経ても、政府は今までのコメ政策が失敗だったとは認めず、何の是正もしようとしません。
 このままでは、今後もちょっとしたきっかけでコメは品薄となり、コメ不足が慢性化する恐れがあります。
 特に今年は、大手卸などが既に、競って新米を高値で買い集めてしまっています。
 だから価格は高止まりしたままだし、元々生産量に余裕がないから、端境期の夏ごろには再び米騒動が起きる可能性もあります。


――そもそも「コメは余っている」という政府の認識が問題なのですね。

 その通りです。近年、猛暑など気候変動の影響で、低品質米が非常に増えています。作柄の良しあしを示す「作況指数」がいくら良好でも、低品質米が増えれば、主食米は減ります。昨夏のコメ不足もこれが一因だったことは間違いありません。
 今後も猛暑が頻発すれば、低品質米はさらに増えるでしょう。しかし農水省はこの分を見込まずに供給予測を出しており、主食米が足りなくなる恐れがあるのです。

――食の好みの変化などから「コメ離れ」が進んでいると言われてきましたが、コメの需要は減らないのですか。

 減らないどころか、需要はいくらでもあります。
 今、中国は有事に備え、14億人の国民が1年半食べられるだけの穀物を備蓄しようとしています。
 この動きが象徴しているように、世界各地で戦争が起き、国際情勢は悪化して、いつでも食料を海外から輸入できる時代は終わりを迎えています。
 一方、日本もコメの備蓄はしていますが、せいぜい国民が1カ月半食べる程度の量です。
 国産で賄える穀物はコメだけで、有事の際はコメでしのぐしかないのに、このままではいざという時、国民の命は守れません。
 コメを増産して備蓄を増やすことは今や、安全保障のために必要な政策です。

 政府はコメの生産を奨励する方向にカジを切らなければいけないのです。

――減反している場合ではないですね。

 ロシアによるウクライナ侵攻で分かったように、戦争が起きれば物流が滞ったり、産地が荒廃したりして、小麦やトウモロコシなどの輸入品は手に入りにくくなります。
 加えて、緊急時にはどの国も自国の食が最優先なので、自国産の作物を輸出したりしません。
 また、世界各地で干ばつや洪水が毎年のように発生して、作物の不作が続き、輸入頼りは限界がきています。
 しかし、たとえ小麦が輸入できなくなったとしても、コメが十分にあれば、小麦の代わりとなり、パンも麺も作れます。
 酪農の牛などに使う餌についても、今はほぼ輸入トウモロコシが使われていますが、コメがトウモロコシの代わりになることも分かっています。

――コメ離れが進んでいるとはいえ、実際には「コメは高いから食べる量を減らしている」という人が少なくありません。

 日本の貧困率は今、先進国の中でも高く、「食べたくても食べられない」という人が増えています。栄養が足りていない人口を地図上に表した国連の「飢餓マップ」を見ると、日本の栄養不足人口の割合は今やアフリカの一部と同じレベルです。日本が豊かな国だというのは幻想です。
 支援を必要とする人に食料を届けるフードバンクや子ども食堂は今、民間の力で何とか成り立っています。しかし、これだけ厳しい状況にあるなら、コメを増産して政府が買い付け、困窮者に給付してもいいわけです。
 つまり、コメの用途はいくらでもあるということです。


備蓄積み増し必要、農政転換する好機

――農家が好きなだけコメを作るとしたら、そのコメは国内で使い切れますか。

 今、田んぼをフル活用すれば、年間約1300万トンのコメを生産できます。現在のコメの消費量は約700万トンなので、残りの約600万トンの出口はあるのか、という話ですね。
 まず安全保障上、備蓄の積み増しが必要だと述べましたが、日本の備蓄米は現在、約100万トンです。例えばこれを5倍に増やせば、すぐ約500万トンが出ていきます。

 500万トンの買い付け費用は約1兆円と見込まれます。政府は米国から巡航ミサイル「トマホーク」を購入するなど、23~27年度までの防衛費を43兆円にする予定です。いざという時に国民の命を守るのが国防だというなら、備蓄にかける1兆円は必要なコストだと私は思います。

――減反を続ける意味が何なのか、ますます分からなくなります。

 減反政策というのは、コメの生産を減らして市場価格を上げようというものです。農家がコメから別の作物に転作すれば政府が補助金を出しますが、その費用は毎年約3500億円にも上ります。こんな大金をかけて、わざわざ米価を上げようとしているのです。
 しかし、生産を減らせば価格が上がるという仕組みはもはや、ほぼ機能していないんですよ。コメは近年、流通大手などが買いたたいて安く売られてきたので、いくら生産調整しても米価は上がらない状況が定着しているのです。
 もう無理やり生産を抑えて農家を苦しめるのはやめて、農家が好きなだけコメを作る政策に切り替えるべきです。それにより、農家の生産コストが販売価格を上回って赤字が出たら、その差額を政府が補塡(ほてん)したらいいのです。
 農家に赤字補塡する政策に転換しても、その支出は減反にかかる支出とほぼ同規模の見通しです。同じ額を負担するなら、減反をやめた方がずっといい。なぜなら、農家の経営を支えて農業を守ることになるうえ、わざわざ米価を上げて消費者に高いコメを買わせなくてすむからです。

――政府がかたくなにコメの減産を続けるのはなぜでしょう。

 昨夏のコメ不足で備蓄米の放出を求められた際も、農水省は「全国的には逼迫(ひっぱく)していない」と言い、放出を拒否しました。コメ不足を認めることは自分たちの沽券(こけん)に関わるというのでしょう。メンツを守ることしか頭にないように思えます。

――役所のメンツで国民が苦しめられたらたまりません。

 そもそも国家戦略が欠けているのです。財務省主導で今、水田を畑地化する政策が進んでいます。コメが余っているなら田んぼはもう必要ないとし、田んぼをつぶせば一時金を支払うというのです。減反に伴う補助金を少しでも減らし、何とかして農業予算を削ろうという財務省の思惑がはっきり見えます。米国から武器などを買う金に回したいのかもしれませんが、日本をどう導くかという国家観や危機意識が問われます。

 農水省も、国民の命の糧である農業を守る政策をしっかり掲げ、財務省と闘って予算を勝ち取ろうという気概を取り戻してほしい。

 少数与党政権になった今、農政を変えるチャンスだと私は思っています。
 現在の農政のあり方に疑問を持つ国会議員は野党内にはもちろん、与党内にもいます。
 与野党で協力し、農政を転換して食糧安全保障を強化する方向に向かってほしい。


「減反政策」が背景に
 全国のスーパーなどで2024年夏、コメが棚から消えたり、価格が急騰したりする大混乱が生じ、「令和の米騒動」と呼ばれた。前年の猛暑による不作やインバウンド(訪日客)の増加による消費増などが要因とされたが、コメの生産を減らして市場価格を上げる「減反政策」が最大の背景だと見る専門家が多い。秋以降、新米が流通してコメは戻ったが、価格高騰は収まらず、都心では現在、前年同期より6~7割も高いとされる。

■人物略歴
鈴木宣弘(すずき・のぶひろ)氏
 1958年生まれ。東京大農学部卒後、農林水産省。専門は農業経済学。九州大大学院教授、米コーネル大客員教授などを歴任。著書に「世界で最初に飢えるのは日本」「国民は知らない『食料危機』と『財務省』の不適切な関係」(共著)など

 「論点」は原則として毎週水、金曜日に掲載します。
ご意見、ご感想をお寄せください。
 〒100-8051毎日新聞「オピニオン」係 opinion@mainichi.co.jp

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【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】
サツマイモを消せば世論が収まると考えたお粗末さ

コラム
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】
サツマイモを消せば世論が収まると考えたお粗末さ

農業協同組合新聞
2025年1月24日


 国際情勢は、お金を出せばいつでも食料が輸入できる時代の終わりを告げている。
 かたや、日本の農家の平均年齢は68.7歳。あと10年で日本の農業・農村の多くが崩壊しかねない深刻な事態に直面している。
 しかも農家は生産コスト高による赤字に苦しみ、廃業が加速している。これでは不測の事態に子ども達の命は守れない。
 私達に残された時間は多くない。

 しかし、昨年、25年ぶりに改定された「食料・農業・農村基本法」における政府側の説明は、これ以上の農業支援は必要ないというものだった。
 農業就業人口がこれから減る、つまり、農家が潰れていくから、一部の企業などに任せていくしかないような議論は、そもそもの前提が根本的に間違っている。今の趨勢を放置したらという仮定に基づく推定値であり、農家が元気に生産を継続できる政策を強化して趨勢を変えれば、流れは変わる。
 それこそが政策の役割ではないか。それを放棄した暴論である。
 いや、一つ考えてある目玉は「有事立法」(食料供給困難事態対策法)だという。
 普段は頑張っている農家にこれ以上の支援はしないが、有事になったら命令だけする。
 野菜を育てている農家の皆さんも一斉にカロリーを生むコメやサツマイモなどを植えさせる。
 その増産命令に従って供出計画を出さない農家は処罰する。
 支援はしないが罰金で脅して、そのときだけ作らせればいいと。
 こんなことができるわけもないし、やっていいわけもない。
 今、頑張っている人への支援を強化して自給率を上げればいいだけの話なのに、それをしないでおいて、いざというときだけ罰金で脅して作らせるという「国家総動員法」のようなお粗末な発想がどうして出てくるのか。
 しかも、サツマイモが象徴的に取り上げられて世論の批判を浴びたからと、増産要請品目リストからサツマイモを消しておけばよいだろうと、国はサツマイモを消した。
 サツマイモを消しても「悪法」の本質が変わるわけではないのに、なんと姑息でお粗末な発想だろうか。
 もう一つ、農家のコスト上昇を流通段階でスライドして上乗せしていくのを政府が誘導する「強制的価格転嫁制度」の導入が基本法の目玉とされたが、参考にしたフランスでも簡単ではなく、小売主導の強い日本ではなおさらで、すぐに無理だとわかり、どうお茶濁すかの模索が始まった。
 法律もつくり、相応の予算を付けて、コスト指標を作成し、協議会で価格転嫁に取り組みましょう、と掛け声をかけるだけだ。
 こんな実効性のないことに法律をつくり、予算を付けるのは、ごまかしのためだけの無駄金だ。
 価格転嫁というが、消費者負担にも限界があるから、生産者に必要な支払額と消費者が支払える額とのギャップを直接支払いで埋めるのこそが政策の役割なのに、財政出動を減らして民間の努力に委ねようとする。

 とにかく、ことごとく、食料・農業・農村への予算を何とか出さないようにしようという姿勢が至る所に強く滲み出ている。
 それが財政当局の圧力であることは、最近、見事に確認できた。

 2024年11月29日に公表された財政審建議で、財政当局の農業予算に対する考え方が次のように示された。
1. 農業予算が多すぎる
2. 飼料米補助をやめよ
3. 低米価に耐えられる構造転換
4. 備蓄米を減らせ
5. 食料自給率を重視するな
 そこには、歳出削減しか念頭になく、呆れを通り越した、現状認識、大局的見地の欠如が露呈されている。
 食料自給率向上に予算をかけるのは非効率だ、輸入すればよい、という論理は危機認識力と国民の命を守る視点の欠如も甚だしい。
 財政当局の誰に聞いても、日本のやるべきことは2つしかないと言う。
① 増税
② 歳出削減
 これでは負のスパイラルになるに決まっている。
 今が財政赤字でも、命・子供・食料を守る政策に財政出動して、みんなが幸せになって、その波及効果で好循環が生まれて経済が活性化すれば財政赤字は解消する。
 今、「住むのが非効率な」農業・農村の崩壊を加速させ、人口の拠点都市への集中と一部企業の利益さえ確保すれば「効率的」だとする動きが、改訂基本法だけでなく、全体に強まっている懸念がある。
 能登半島の復旧支援に行かれた方はわかると思うが、1年たっても復旧していない。
 国は金を切ってきている。
 「もう住むのはやめたらいいじゃないか。漁業も農業もやめてどこかに行け」と思わせるような状態だ。
 また、全国各地で、台風で被害を受けた水田に対して復旧予算を要求したが出さないと言われたという声も聞く。
 もっと驚いたのが、「消滅可能性自治体」(人口戦略会議)のレポートだ。
 よく読んでみると「消滅しろ」と書いてあるという。
 そんなところに無理して住むのは金がもったいないから早くどこかへ行けという論調だ。
 目先の効率性だけでみんなの暮らしを追いやり、農村・漁村を住めないような状態にしてしまえば、日本の地域の豊かな暮らしや人の命は守れるわけがない。
 「目先の銭金だけの効率性」にこれ以上目を奪われたら、日本の子どもたちの未来は守れない。

鈴木先生に聞いてみよう!!どうなるの?これからの食と農。日本の食料自給率は10%?地域の食と農を守るのは?

鈴木先生に聞いてみよう!!
どうなるの?これからの食と農。

日本の食料自給率は10%?
地域の食と農を守るのは?

2025年2月2日(日)13:30-16:00 (開場12:30) 同時開催:地産地消プチマルシェ

世界で最初に飢えるのは日本!?
鈴木宜弘先生講演会

場 所:須玉ふれあい館大ホール
◆中央道須玉インターより車で3分
参加費:一般:1,000円、学生:500円、高校生以下:無料
お問い合わせ:rin.connect1207@gmail.com
090-5215-2961 事務局担当: 井上
お申込み:鈴木宣弘先生講演会申し込みフォーム
https://x.gd/l2Lxi

◆紹介
マンガでわかる 「日本の食の危機」
脱「今だけ、金だけ、自分だけ」で「再生社会」を築こう!!
◆紹介(講師)
鈴木 宣弘先生
主催:鈴木宣弘先生講演会in 北杜実行委員会共催:いのちをつなぐ給食へGOin北杜、生活クラブ山梨、北杜市有機農業推進協議会、ころぽっくる会議、結の家、富士五湖の給食を考える会
後援:北杜市、北杜市フードバレー協議会、パルシステム山梨 長野、梨北農業協同組合

事務局長の独り言 最新の情報 鈴木宣弘東京大学教授と加藤好一当協会副理事長の対談(上)
事務局長の独り言 最新の情報 鈴木宣弘東京大学教授と加藤紘一当協会副理事長の対談(下)

食料安全保障推進財団 会員向けに年頭のあいさつをお送りしました。

食料安全保障財団 理事長からの新年のメッセージ

                                  2025年1月
令和7年の年頭に当たって


 日本の食料自給率は種や肥料の自給率の低さも考慮すると38%どころか最悪10%を切る事態もありうるとの誌算もあります。

 海外からの物流が停止したら世界で最も餓死者が出るのが日本との試算もあります。
国際情勢は、お金を出せばいつでも食料が輸入できる時代の終わりを告げています。

 かたや、日本の農家の平均年齢は68.7歳。あと10年で日本の農業・農村の多くが崩壊しかねない深刻な事態に直面しています。
 しかも農家は生産コスト高による赤字に苦しみ、廃業が加速しています。
 これでは不測の事態に子ども達の命は守れません。
 私達に残された時間は多くないのです。
 今こそ、食料自給率向上に向けた増産のための支援策を打ち出し、備蓄も増やし輸入の小麦からコメのパンや麺への切り替え、輸入とうもろこしに替わる飼料米などの振興も求められるはずが、農水予算を減らすことしか頭にない財政当局は、
 1.農業予算が多すぎる
 2.飼料米補助をやめよ
 3.備蓄米を減らせ
 4.食料自給率を重視せず輸入せよ

と、果れるほどの現状認識、危機認識の欠如を露呈させています。
 こうした動きから私達が子ども達の未来を守るには、一人一人が行動を起こして、地域の種を守り、生産から消費まで「運命共同体」として地域循環的に農と食を支える「ローカル自給圏」の構築を全国各地で急がねばなりません。

 1つの核は学校給食の安全・安心な地場産農産物の公共調達を進めることです。
 農家と市民が一体化して耕作放棄地は皆で分担して耕そうではありませんか。
 当財団では、このための情報共有、意見交換、行動計画づくりのための財団主催セミナーと全国各地での後援セミナーをこれまで年間30~40力所で実施し、それをきっかけにした農業生産への住民参加や農家と市民とのネットワークづくりも各地で拡大してきています。
それと同時に、園政では、

1 食料安全保障のベースになる農地10aあたりの基礎支払いを行い、それを、
2 コスト上昇や価格下落による経営の悪化を是正する支払いで補完し、さらに、
3 「安全保障推進法」 (仮称)を超党派の議員立法で成立させるための後押しも当財団が進めており、現在、協同組合振興議連を中心に立法化の動きも進み始めています。財団として、この動きも強力に後押ししていきます。
こうした取り組みに加えて、全国各地で踏ん張っている農家の皆さんを支えて、消費者の皆さんに安全・安心な食料を確保できるようにするために、さらに財団としての取り組みを拡充・強化していこうと考えております。
会員の皆様からのご提案もいただき、財団の活動強化に向けて皆さんとともに一層尽力していく所存ですので、引き続き、ご支援、ご指導の程、宜しくお願い申し上げます。
                                 鈴木 宜弘

残された時間は多くない~ 「詰めの甘さ」の克服

【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】
残された時間は多くない~
「詰めの甘さ」の克服

農業協同組合新聞
2025年1月9日


 千葉県の酪農家さんの農水省前での訴えを思い出す。
 辛いものがあった。
 「皆さんにお詫びします。私たちは潰れます。それによって、うちの従業員さんも、獣医さんも、餌屋さんも、機械屋さんも、農協もメーカーもみんな仕事を失います。申し訳ない」と。
 これも重大だ。
 これ以上、国産の農産物が減ってしまえば、食べる物が無くなっていくんだから。
 それ自体が大騒ぎだけれども、それだけじゃなくて、日本の各地に一次産業があって、農家の皆さんが頑張ってくれて、このおかげでどれだけの関連産業と、どれだけの組織が成り立っているか。
 そのことをしっかりと「運命共同体」として認識して、支え合う仕組みを作っていく取り組みを強化しなければ、逆に運命共同体として泥船に乗ってみんなで沈んでいきかねない。
 一次産業なんてちっぽけな産業だと言う人がいる。確かに年間生産額は10兆円規模。
 でもそれを基礎にして成り立っている関連産業の規模は110兆円。
 そうだ。
 日本の経済社会とは、まさに1次産業があって、そのおかげですべてが成り立っているのだ。
 しかも、山間の地域から平野部、そして海に近づくにつれて、一次産業の取り組みの循環のおかげで、全てがしっかりと循環圏を作り上げて生活が成り立つ。
 東京のように都心部だけが肥大化すれば、もう人が住めなくなってくる。
 皆の力で日本各地にしっかりと都市と農村が融合した循環圏を作っていこう。
 そのときに、やはりアメリカとの関係がネックというか、思い出される。
 もう食生活も変わっちゃったんだし、日本の農地じゃ足りないんだから、自給率なんか上げられないってよく言う。
 でも誰がそうしたのか。アメリカの政策だ。
 だから政策で変えられるはずだ。江戸時代を思い出せばすぐにわかる。
 江戸時代は鎖国政策で外から物は入ってこない。
 でも当然自給率は100%。徹底的に地域の資源を循環させて、循環農業・循環経済を作り上げて、そして世界があっと驚いていた。
 これが我々の実績だから、こういう部分をさらに強化していこうじゃないかと。
 それをぶち壊したのが、アメリカの占領政策で、慶應医学部教授が回し者のようになって、米を食うと馬鹿になるっていう本を書いて大ベストセラー。
 極めつけが子供たちから変えていけというアメリカの戦略。
 学校給食だ。
 アメリカ小麦のパンと、それから脱脂粉乳。
 あれで、むしろ私は嫌になったけど、こんな短期間に、伝統的な食文化を一変させた民族は世界に例がないと。
 完全にやられた。
 食生活改善運動ってみんなが頑張ったけど、全部アメリカのお金だった。
 非常にわかりやすい。
 こういう流れの中で、農水省は一度頑張って、もうちょっと食事を見直せば、食料自給率は63%まで簡単に上げられるんだと。
 いいじゃないかと思ってみんなで頑張ろうと思ったら、このレポート(農林水産省「我が国の食料自給率(平成18年度食料自給率レポート)」は調べても、なかなか出てこない。
 わかりやすい。
 みんながこういうものを見て頑張ったら困るという話か。
 そして、わかりやすいデータがある。
 我々の計算だ。
 大きな自由貿易協定を1つ決めるごとに、自動車が3兆円儲かって、農業がどんどん赤字になっていく。
 これを繰り返してきたわけだ。
 これで日本の産業は発展できたけれども、自動車は儲けを増やしてきたけれども、そこに何があったのか。
 もっと日本の産業界は、農業農村に対して責任を持つべきじゃないか。
 農業を「生贄」にするために、メディアを通じて、日本の農業は過保護で衰退したんだっていう嘘が刷り込まれた。
 日本の農業は補助金漬けだって。
 でも調べたら、せいぜい所得に占める税金の割合は3割。
 スイス・フランスほぼ100%だ。
 えっと思うかもしれないが、命を守り、環境を守り、地域コミュニティーを守り、国土国境を守っている産業は国民がみんなで支える、世界の常識だ。それが唯一、おかしなことかのように思わされている日本人が、世界の非常識じゃないかと言うことを今こそ考えないと。
 フランスのように政策を頑張ってきた国の農家の平均年齢は51歳。
 日本の農家の平均年齢はもう69歳。10年経ったら、日本の農業農村、どれだけ存続できるか。
 今、全国を回っているけれども、5年持たないって言う声さえ多い。
 特に、稲作や酪農が。あと5年続けてくれる人がこの地域にはいないと。
 地域が消えると。
 そういう状況がどんどん進んでいる。
 皆さんは一生懸命、農家と消費者が支え合う仕組みを作ろうとしてくれたり、農業をしっかりと頑張ってくれているけども、その皆さんの努力をもっともっと強化してスピードアップしないと、日本の農と食が救えなという、こういうことになってきているんだということを、ぜひ認識して、さらに皆さんが一肌も二肌も脱いでいただかないといけない状況だ。
 以前、私のセミナーに参加してくれたフランス女性が指摘してくれた。
 「日本人は詰めが甘い。フランスのように政府が動くまで徹底的にやらなくては意味がない。流れを変えられなければ、すべての努力は、残念ながら、結局パフォーマンス、アリバイづくりで終わってしまう。フランスなら食料・農業の大事さをわかってもらうために、パリに通じる道路を(トラクターなどで)封鎖して政府が動くまでやめない。」 
 やり方には議論があろうが、「詰めの甘さ」をどうにか打開したい。

日本農業新聞 2025年1月7日
今よみ

【今よみ】負担強いる生産調整 安保考え増産への転換を

日本農業新聞 2025年1月7日 [今よみ]
安保考え増産へ転換を
負担強いる生産調整
 東京大学特任教授・名誉教授 鈴木宣弘氏


 輸入依存度が高いということは国内農業生産は過剰でなく足りていないのだ。国内生産の増大に全力を挙げ、輸入から置き換え、備蓄も増やし、不測の事態に子どもたちの命を守るのが「国防」だ。
 なのに生産者のセーフティーネット構築は議論せずに、相変わらず「米は過剰」とする政府の需給見通しで減産を要請している。猛暑が常態化して低品質米が増えていることは作況指数に反映されない。だから、生産量を10万トン減らすと減らし過ぎになる。米需要は減るとの見通しには、安全保障上の需要が欠落している。91万トン、消費の1・5カ月分で不測の事態に国民の命は守れない。
 小麦やトウモロコシの輸入が減るリスクも高まる中、米のパンや麺、飼料を増やすのは国家戦略的な安全保障上の米需要で、フードバンクや子ども食堂を通じた米支援も必要だ。それらを合わせたら米需要は莫大(ばくだい)で、生産調整をしている場合ではない。
◁    ▷
さらに、酪農家が1万戸を切り、減少の加速が問題になる最中、脱脂粉乳の在庫が多いから生産抑制だとして、それに協力せずに系統外に売る酪農家には補助金を出さないという方向性が出ている。
 発想が間違っている。今こそ、酪農家が自由に増産できるようにするのが不可欠だ。国内生産が多過ぎるのでなく、輸入が多過ぎるのだ。他国のように脱脂粉乳とバターの在庫を政府が持ち、需給状況に応じて過剰時に買い入れ、国内外への援助にも活用し、不足時に放出すれば、わずかな民間在庫増加でこんなに酪農家に負担を押し付ける必要などない。
 酪農家のコストに見合う乳価に届いていない分は海外のように補填(ほてん)して、酪農家の減少を食い止めなくては、本当に子どもたちに牛乳が飲ませられなくなる。
 輸入が8割を占めるチーズ向け生乳を増やす内外価格差補填で大幅に国産へ置き換えができるが、それにかかる財政負担はオスプレイ1機の購入代金が220億円とすれば、その半分相当を酪農家あるいはメーカーに補填するだけでいい。
◁    ▷
食料・農業・農村を守るのは、国民の命を守る安全保障のコストだと認識すべきだ。それを出し渋り、農家を苦しめ国民を苦しめる愚かさに一刻も早く気付いてほしい。

明けましておめでとうございます。
2024年はお世話になりました。
2025年をより良い年となりますように祈念いたします。

日本農業新聞(農 政)
2015年1月1日 【今年よみ】

国の将来守る政策へ 長期・総合的視点を
東京大学特任教授・名誉教授 鈴木宣弘氏



 今後20年で基幹的農業従事者数は120万人から30万人まで激減するのだから、農業をやる人はいなくなってくる。だから、それに合わせて企業参入を進め、規模拡大、スマート農業、輸出でバラ色だといった議論がよく展開される。
 これは、そもそも出発点が間違っている。今の趨勢(すうせい)を放置したらという仮定に基づく推定値であり、農家が元気に生産を継続できる政策を強化して趨勢を変えれば、流れは変わる。それこそが政策の役割ではないか。
 日本全体の人口問題も同じである。日本の人口はやがて5000万人になるのだから、住むのが非効率な地域に無理に住むのはやめようという議論は前提が間違っている。今の出生率の趨勢を将来に延ばしたらそうなるという推定であり、出生率が少し上向くだけで将来推計は大きく変わる。これを実現するのが政策の役割だ。
 しかし今、懸念される流れが強まっている。能登半島の復旧は遅々として進んでいない。まるで、そこに住むのをやめて移住するのを促しているかのようだ。全国各地の豪雨被害で被害を受けた水田の復旧予算を要求しても、なかなかつかないという声も聞く。
 消滅可能性市町村のリポートも、そういう地域に住むのは非効率だから拠点都市に移住しようというニュアンスがある。狭い目先の効率性、歳出削減しか頭にないのでは日本の地域社会、人々の暮らしと命は守れない。今年こそ長期的・総合的視点を取り戻そう。

月刊 『日本の進路』 食料自給の確立へ  農業・農村・食料を守る政策実現に機運高まる

月刊 『日本の進路』 387 388 号 (2025年1月号)
広範な国民連合

 
食料自給の確立へ
農業・農村・食料を守る政策実現に機運高まる

東京大学特任教授・名誉教授、食料安全保障推進財団理事長 鈴木 宣弘
 
「広範な国民連合第26回全国総会」のご成功に心からお祝い申し上げます。
今、「住むのが非効率な」 農業・農村の崩壊を加速させ、人口の拠点都市への集中と一部企業の利益さえ確保すれば「効率的」だとする動きも強まっているなか、文字通り「広範な国民連合」が全国各地の政治・行政と市民・農民の力を結集し、日本の地域社会と子どもたちの未来を守る最大の使命を担っております。
現に、国民連合による食料自給率向上の自治体議員連盟の尽力は、農業・農村を守り、食料を守ることの重要性を超党派の国民運動として盛り上げる原動力となっております。
私自身も、国政レベルでも、ほぼ全政党でお話をし、食料安全保障推進法(仮称)に基づく、
⓵農地を守る基礎支払い、
⓶生産者・消費者の双方を支援するコストと販売価格との不足払い、
⓷備蓄・援助のための政府買い入れの拡大、
などの必要性について、党派をまたいだ強い賛同を得ております。
今まさに、広範な国民連合によ日本の地域社会を守る政策提案が、国政レベルでも喫緊の政策として実現できる機運が党派を超え高まっております。
食料自給確立の自治体議員連盟による全国津々浦々からのうねりづくりが国政を動かす最大の原動力になります。
この機を逃すことなく、さらなる結集と活動の強化に取り組んでまいりましょう。
 
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国家観なき歳出削減からの脱却
政策実現へ超党派の国民運動を  鈴木宣弘
 
最近、財政当局の農業予算に対する考え方が示された。
その骨格は、⓵農業予算が多過ぎる、⓶飼料米補助をやめよ、⓷低米価に耐えられる構造転換、⓸備蓄米を減らせ、⓹食料自給率を重視するな、といったものである。そこには、歳出削減しか念頭になく、現状認識、大局的見地の欠如が懸念される。
1970年の段階で1兆円近くで防衛予算の2倍近くだった農水予算は、50年以上たった今も2兆円ほどで、国家予算比で12%近くから2%弱までに減らされてきた。10兆円規模に膨れ上がった防衛予算との格差は大きい。
軍事・食料・エネルギーが国家存立の3本柱ともいわれるが、なかでも一番命に直結する安全保障(国防)の要は食料・農業だ。その予算が減らされ続け、かつ、世界的食料争奪戦の激化と国内農業の疲弊の深刻化の下で、まだ高水準だという認識は国家戦略の欠如だ。中国は14億の人口が1年半食べられるだけの食料備蓄に乗り出している。世界情勢悪化のなか、15カ月分程度のコメ備蓄で、不測の事態に子どもたちの命を守れるわけがない。今こそ総力を挙げて増産し備蓄も増やすのが不可欠なときに備蓄を減らせという話がな出てくるのか。
「いつでもお金を出せば安く輸入できる」時代は終わった。
今こそ、国民の食料は国内で賄う「国消国産」、食料自給率の向上が不可欠で、投入すべき安全保障コストの最優先課題のはずなのに、食料自給率向上に予算をかけるのは非効率だ、輸入すればよい、という論理は、危機認識力と国民の命を守る視点の欠如だ。
そして、これらの考え方が25年ぶりに改定された食料・農業・農村基本法にも色濃く反映されていることが事態の深刻さを物語る。
この状況は絶望的にも見える。


農業・農村を守る政策実現に新たな展望
 
しかし、この局面を打開できる希望の光も見えてきている。
かつて2009年、当時の石破茂農水大臣は、筆者が2008年に刊行した『現代の食料・農業問題─誤解から打開へ』(創森社)を三度熟読され、この本を論拠にして農政改革を実行したいと表明された。 
 
拙著での提案、および2009年9月15日に石破大臣が発表した「米政策の第2次シミュレーション結果と米政策改革の方向」の政策案の骨子は、「生産調整を廃止に向けて緩和していき、農家に必要な生産費をカバーできる米価 (努力目標) 水準と市場米価の差額を全額補てんする。
それに必要な費用は3500~4000億円で、生産者と消費者の双方を助けて、食料安全保障に資する政策は可能である」というものだった。
これは、その直後に起こった政権交代で、民主党政権が提案していた「戸別所得補償制度」に引き継がれることになった。
 
食料安保確立基礎支払いと食料安全保障推進法(仮称)
 
そして筆者は、スイスの農業政策体系に着目した。食料安全保障のための土台部分になる「供給補償支払い」の充実(農家への直接支払いの1/3を基礎支払いに集約)と、それを補完する直接支払い(景観、環境、生物多様性への配慮などのレベルに応じた加算) の組み合わせだ。
それを基にして、「食料安全保障確立基礎支払い」として、普段から、耕種作物には農地10a当たり、畜産には家畜単位当たりの「基礎支払い」を行うことを提案した。
その上に多面的機能支払いなどを加算するとともに、生産費上昇や価格低下による赤字幅に応じた加算メカニズムを組み込む。
かつ、食料需給調整の最終調整弁は政府の役割とし、下限価格を下回った場合には、穀物や乳製品の政府買い入れを発動し、備蓄積み増しや国内外の人道支援物資として活用する仕組みを整備することも加えた。
こうしてこれらをまとめた超党派の議員立法「食料安全保障推進法」(仮称)の可能性を提起した。
農家だけを助ける直接支払いではなく、消費者も助け、国民全体の食料安全保障のための支払いであることを理解しやすくする意味で「食料安全保障確立基礎支払い」というネーミングも重要と考えた。
筆者が理事長を務める食料安全保障推進財団も活用し、各方面に働きかけてきた。
 
超党派で政策実現の機運
 
全国各地での月20回前後の講演に加え、ほぼ全ての政党から勉強会の要請があったので、各党で話をさせていただいた。国民民主党の勉強会では、この考え方を取り入れて政策を組み立てたいとの賛同をいただいた。自民党(積極財政議員連盟)、立憲民主党、共産党、れいわ新選組、日本維新の会、社民党、参政党など、ほぼ全ての政党から基本的な方向性に強い賛同をいただいたと理解している。
こうしたなかで超党派の協同組合振興研究議員連盟がこれに着目してくれた。
事務局長の小山展弘議員(立憲民主党)を中心に内閣法制局とも打ち合わせを重ね、自民党の積極財政議員連盟の支柱である城内実議員(現・経済安全保障大臣)も賛同してくれ、議員連盟会長の森山裕議員(現・党幹事長)にも話をさせていただいた。
 
以上からわかるように、農業・農村を守る政策の方向性は与野党を問わず収斂してきている。
2009年に石破大臣が発表した農政プラン、戸別所得補償制度、食料安保確立基礎支払いの基本概念には共通項がある。
与野党が拮抗する政治情勢下で、こうした政策を超党派の国民運動で実現できる機運が高まっていると思われる。期待したい。
 

代表世話人 
佐野 慶子 元静岡市議会議員
鈴木 宣弘 東京大学名誉教授
中村 住代 長崎代表世話人、元長崎市議会議員
西澤 清 東京代表世話人、元日教組副委員長
羽場久美子 青山学院大学名誉教授
原田 章弘 神奈川代表世話人、元横須賀市議会議員

新年のごあいさつ 代表世話人 羽場久美子(青山学院大学名誉教授)、他一同   月刊 『日本の進路』

月刊 『日本の進路』 387 388 号 (2025年1月号) 
https://x.gd/kJqYb
新年のごあいさつ
  代表世話人 羽場久美子(青山学院大学名誉教授)、他一同
 
あけましておめでとうございます。
昨年の総会で代表世話人に新たに鈴木宣弘先生と共に選出いただき、大変光栄であると同時に、錚々たる皆さまのご活躍の前に、不十分さと責任を痛感しております。
この間、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザ侵攻などで、マスコミから私は呼ばれなくなってしまいましたが、逆に全国から講演依頼が増え、この2年で国内、国外を含めて200地域に及んだと思います。
中国、韓国からもこの間何度も招聘を受けました。
そうした中で、広範な国民連合の皆さま方のそれぞれの地域での実践的で素晴らしい活動に多くを学ばせていただきました。
皆さんの活躍の重要性を痛感して今日に至ります。 昨年暮れの2日間にわたる第26回全国総会で、皆さま方の討論から本当に多くを学ばせていただきました。
山崎先生、鳩山先生からは中国、東アジアとの共同の重要性とアメリカからの自立の必要性を、孫崎先生や沖縄の方々からは地位協定改定の緊急性を、高野さんからはオリーブの木のような連合政権の提起を、菅野さんからは農業・食の重要性、原発災害の脅威、農業と食こそが国防の基礎にあるのだということ、そして長崎や青年団など多くの方々からSNSの危険性と重要性、長崎からは被団協のノーベル平和賞受賞による核廃絶の重要性、さらに若者・女性を包摂した運動の重要性、国際社会との連携や市民との平和運動の重要性を指摘していただきました。
その中から、現在の世界変動の中で、国際政治学者として最も重要だと思う柱の一つに、中国をはじめとする東アジアとの地域協力、東アジア共同体の構築の課題があるので、それらを踏まえて何点か述べさせていただきます。
第1は、現在世界は戦争か平和かという大変動期にあり、日本もその渦中にあるということです。
そこで何をなすべきか。世界中が戦争の動乱の中にあり、だからこそ日本だけが平穏であり続けることは不可能です。 ロシア・ウクライナ戦争やイスラエル・ガザ戦争が続く中、世界の戦争を止めること、即時停戦と平和を要求することが、東アジアの戦争を避ける、台湾海峡の戦争・日中戦争を避けるため、日中不再戦のために緊急不可欠であるということです。
そのために日本の最前線でミサイルを中国に向けて配備強行が進む沖縄、そこを全国の市民と自治体が支えて平和と繁栄の街にしていくこと、日本各地に配備されているミサイルと基地司令塔や米軍基地の拡大ないし置き換えに反対し、一人一人皆さんの地域から平和をつくっていくことが、今後の最大の目標になります。
 
沖縄を平和のハブに!東アジアの国連を沖縄、広島、長崎に!日本がG7とではなく、中国や韓国・グローバルサウスの国々と結び、世界の、東アジアの平和のセンターになる!という目標を第1に掲げたいと思います。
 
第2は、私たちの生活を守り、発展させ、21世紀のAI時代にふさわしい基盤をつくるということです。この課題は大変に多く、重く、かつ重要です。
シングルマザー、子供の貧困、低賃金と非正規雇用の蔓延、障害者や高齢者などの介護、社会保障の確立など、全国総会でも多く、一人一人が切々と言われたテーマですが、 本気で対応していかねばならない心が痛む課題であると思います。
国民生活の危機打開へ、共同した闘いを発展させましょう。
 
日本を世界の平和のブリッジに
 
広範な国民連合自身の課題につい夢のある具体的な提案もしたい。
まず、若者を呼び込むこと。
今回役員の半分を女性にしていただき、大変感謝しておりますし、今回の参加者の半数が女性です。
ただ若者はまだ少ない。
若者の仲間を増やすことを各県でそれぞれの目標にしてはどうでしょうか。
そのためにもSNSなどの活用です。
地域で若者によるSNS講座などを開いて、情報を広げていくやり方を若者から楽しく学ぶ、SNS講座をやる、などはどうでしょうか。
 
3番目はもう一度、世界との関係、世界の中の日本の経済社会の課題です。
この10年で、中国、韓国、台湾地域などが次々と日本を追い越すスピードで経済成長を遂げています。
今、世界は著しい勢いで成長しています。
日本は残念ながら、 データで見る限り大変な衰退です。
再浮上させなくてはなりません。
重要なのは、教育、福祉、賃金、食、SNS (より正確にはAI)、それから外国人労働者との共存、人権保障です。
その上で、戦後80年の展望に立ち、東アジアの平和と繁栄を、平和憲法のもとでつくり上げていく責任が、日本にあるのではないかと思います。
平和憲法がある限り日本は、先進国、米欧G7と、アジア・アフリカなどG20やグローバルサウスを結ぶ平和のブリッジになれます。
被団協のノーベル平和賞受賞をその契機にする。
北東アジア6カ国自治体連合に沖縄や山口、宮崎の各県が昨年オブザーバー参加し全国14県になりましたがこれを発展させる。
世界は大変動期です。
先進国も日本も、未来への芽もあちこちに見えます。
アメリカの軍拡主義と手を切り、新興国と戦争するのでなく、アジアの国々と結ぶことで、若者の未来、繁栄と平和を勝ち取ることができると確信します。
広範な国民連合が、中国、韓国、朝鮮民主主義人民共和国、 ASEANなど近隣国と結び、農業と食を守り、高齢者を守り、若者を育て、賃金を上げ、平和の旗手となって、市民の先頭に立って活躍する必要があります。
皆さまのますますのご活躍と幸せを心から願って、新年のあいさつとさせていただきます。
 
代表世話人
 
佐野 慶子 元静岡市議会議員
鈴木 宣弘 東京大学名誉教授
中村 住代 長崎代表世話人、元長崎市議会議員
西澤 清 東京代表世話人、元日教組副委員長
羽場久美子 青山学院大学名誉教授
原田 章弘 神奈川代表世話人、元横須賀市議会議員

再生産可能な農業所得確保ヘ 直接支払などを求め組織一丸となって運動展開する 北海道農民連盟委員長大久保明義

月刊 『日本の進路』 387 388 号 (2025年1月号)

再生産可能な農業所得確保ヘ
直接支払などを求め組織一丸となって運動展開する
                        北海道農民連盟委員長大久保明義

 
新年あけましておめでとうございます。
また、「広範な国民連合第話回全国総会」のご成功を心からお祝い申し上げます。
日頃より北海道農民連盟の活動に対しまして、ご支援・ご協力を賜り感謝申し上げます。
さて、近年の日本農業をめぐっては、安倍政権以降、経済効率優先や競争原理・貿易自由化の徹底を図る新自由主義に基づいた、農業を犠牲にする国際貿易交渉の推進のほか、生産現場の声を無視した農業・農協改革が次々と断行されました。
特に、圏内の主要な種を守る種子法の廃止や稲作経営の安定を図る水田活用の直接支払交付金の見直し、改正畜安法による生乳流通改革など制度・政策の改惑によって、家族経営など多様な農業者が存在する我が国の農業・農村に大きな影響を及ぼしてきました。
そうした中、世界情勢の不安定化で食料供給リスクが高まっていることを踏まえ、昨年の通常国会では、農政の憲法とされる「食料・農業・農村基本法」の改正案が提出されました。
法改正にあたっては、生産現場では圏内農業生産の増大を図る施策への転換が図られることに強く期待していました。
また、我々組織としても改正案への理解を深めるとともに、生産現場の声を踏まえた法改正となるよう農水省や与野党の国会議員に強く要請するなど運動を強化してきました。
しかし、これまで掲げてきた食料自給率目標が一度も達成されていないほか、国際貿易協定の進展や農業分野への競争力強化政策の推進による農家戸数の大幅な減少、生産基盤の弱体化などの課題を十分検証せずに、国民への食料の安定供給や食料自給率の向上など、食料安全保障としての本来の議論が欠如したまま、成立したことは誠に遺憾です。
また、基本法の一部改正案や食料供給困難事態対策法案などの国会審議においても、我々組織の要望を踏まえた立憲民主党などからの法案修正には一切応じず、与党などの賛成多数で可決するなど生産現場の想いとかけ離れた国会運営が行われてきました。
こうしたもとで行われた衆議院総選挙において、与党の議席数が過半数を下回る状況となりました。
これにより、これまで与党だけの一方的な国会運営が解消することが見込まれ、農林水産委員会においても野党が多数となったことで、対等な審議のもと生産現場に寄り添った政策の実現が求められています。
 
このため、本連盟としては、今後策定される次期食料・農業・農村基本計画などにあたって、農業予算の拡充とともに、農畜産物の生産維持・増大を基本とする政策の確立、再生産可能な農業所得を確保できる直接支払いなどを求め、組織一丸となって運動展開する所存です。
結びに、貴組織の益々の発展と活躍を心よりご祈念申し上げ、新年のメッセージと致します。

日本を変える!政治を変える 広範な連合を 全国事務局

月刊 『日本の進路』 387 388 号 (2025年1月号)

広範な国民連合 第26回 全国総会開催(11/30~12/1)
日本を変える!政治を変える 広範な連合を

                                         全国事務局
 
「自主・平和・民主のための広範な国民連合」は第26回全国総会を2024年11月30日と12月1日の両日、東京で開催した。
全国世話人と代議員、傍聴者およそ170人が全国から参加し、初日の「日本を変える!政治を変える!」大討論を踏まえ、二日間の真剣な討議で「戦争の危険と国民生活の危機打開」へ方針を定め、新しい全国世話人体制を確立した。
結成引年老迎えた広範な国民連合運動が新たなステージに立ちつつあることを確認できる総会となった。
ご来賓の方がたをはじめ広範な国民連合を献身的に支えてくださっている全国の仲間の皆さま方に改めてお礼申し上げ、概略を報告します。
 
求められる「持続可能で平和な自立の新しい国の力タチ」
 
総会は広範な国民連合結成の地であり、創成のために奮闘した故様枝元文初代代表世話人(総評議長・日教組委員長)の拠点であった日本教育会館で開催された。
開会あいさつで佐野慶子代表世話人は、「大討論」の開始に当たって次のように問題提起した。
世界は戦争の時代、東アジアでの戦争は何としても避けなくてはならない。中国などグローバルサウスが国際社会の前面に登場し、新しい国際秩序を創り出している。
自民党政権の対米従属政治、とりわけアベノミクスで貧富の格差は拡大し、国民の生活は疲弊しきっている。国民は危機的状況の打開を政治に求めている。
しかし、衆院選では野党各党も国民の求める展望は示さなかった。国民は、「持続可能で平和な自立の新しい国のカタチ」を求めている。
どう変えるか、どのように変えるか、刺激的な提起と弾けるような討論を期待する。
日中不再戦、「台湾有事を日本有事」にさせない山本正治事務局長が司会を務め「大討論」を開始、冒頭、山崎拓元自民党副総裁が来賓あいさつ。氏は「まもなく槌歳になりますが旧満州の大連で生まれ、その翌年1937年に底溝橋事件がありまして日中全面戦争が始まりました。
そういう運命的なこともあり、私は名だたる親中派をもって自認しており、私の最大の課題は『台湾有事在日本有事にさせないこと』だ」と切り出して大討論の一致点を「日中不再戦」で方向づけた。
二日間を通じて、「『日中戦争回避』この一点での政治家を含む幅広い共同が必要」は共通の認識になったと確認できる。
続けて鳩山由紀夫元総理が基調的な問題提起を行い、最後は「対米自立の政党形成」を呼びかけた(6ページに全文)。
さらに羽場久美子、孫崎亨、菅野孝志、高野孟の各氏が問題提起した。
また討論の冒頭、伊波洋一参議院議員、大椿裕子参議院議員、古市三久福島県議会議員、山内末子沖縄県議会議員、国連女性差別撤廃委員会に働きかけた沖縄の神谷めぐみさん、棚田一論日本青年団協議会事務局長もそれぞれの立場から発言した。
その後、午後5時半過ぎの閉会まで熱心な討論が繰り広げられた。在日華僑の凌星光福島県立大学名誉教授と、終了後の交涜懇親会に駆けつけた朝鮮総時国際局李泰栄さんからあいさつを受けた。
(報告集を1月中に発刊予定)
 
代表世話人に羽場久美子・鈴木宣弘両教授が
 
総会二日目は、冒頭、故人となった二人の代表世話人、角田義一(元参院副議長)と佐々木道博(京都府)両氏の貢献に感謝し、在りし臼をしのんで黙祷をささげた。
議長団は松尾ゆり(杉並区議)、森あやこ(福岡市議)、大谷篤史(農団労)の3氏が務めた。
まず、原田章弘代表世話人があいさつ、その後、全国事務局の川崎正が総会への「報告と提案」を行った。
続けて、地方組織のいくつかからの報告を受け午前中は終了した。
午後の討議は神奈川の山崎誠衆議院議員のエネルギー政策発言から始まり、北海道から沖縄までお人余が発言し熱心な討議が繰り広げられた。
川崎がまとめの発言を行い、補足も含めて一報告と提案」は満場の拍手で承認された。
その後、山本事務局長が代表世話人に羽場久美子青山学院大学名誉教授と鈴木宣弘東京大学名誉教授を推薦するなどの役員案を提案し、満場の拍手で確認された。
最後に新役員を代表して羽場新代表世話人が熱烈な新任あいさつを行
った。
中村住代代表世話人が閉会のあいさつし、二日間にわたった全国総会は無事成功裏に終了した。
 
まずは日米地位協定改定
 
総会ではまず、「めざすべき国家ビジョンをみんなでつくっていく」ととの重要さを多くの発言者が共通して指摘した。
そして「対米従属国家を自立の国に変える」点が強調された。
その上で自立の固に向かって当面、日米地位協定改定へ全国で動きをつくろうとの呼びかけが孫崎さんや沖縄、神奈川などから強く出された。
特に、地方議会意見書で政府に日米地位協定改定交渉を迫る動きは、石破首相の強い意向から見て実現を促す条件になるに違いない。

一般財団法人「食料安全保障推進財団」について

一般財団法人「食料安全保障推進財団」について
https://x.gd/RcXTl
理事長 鈴木宣弘ご挨拶
 
 一般財団法人「食料安全保障推進財団」(以下「財団」)は食料危機から国民を守るための国内生産と消費をつなぐ強力な架け橋をめざして設立されました。
 クワトロ・ショック(コロナ禍、中国の爆買い、ウクライナ紛争、異常気象)に見舞われている今、国民の食料やその生産資材の調達への不安は深刻の度合いを強め、私達は、間違いなく食料安全保障の危機に直面しています。今こそ、国内資源循環により、史上最低に落ち込んだ食料自給率を引上げ、安全・安心な食料を量的・質的に国民に確保するための生産から消費までの国民ネットワークの強化が急務となっています。
 しかし、国産の増産こそが急務な今、逆に、コメ、生乳、てん菜などの減産要請に加え、転作への交付金カットが行われ、さらに乳牛を淘汰したらお金を出すといった要請も行われています。しかも、肥料、飼料、燃料などの生産資材コストの急騰下で、国産の農産物価格は低迷したまま、農家は悲鳴を上げています。輸入小麦が高騰していても国産小麦が在庫の山だとの情報もあります。
 今こそ、政府だけでなく、加工・流通・小売業界も消費者も、生産者への想いを行動に移していく必要があります。社会全体が支え合わなくては、有事は乗り切れません。国民全体で食料生産を支える機運の共有と具体的行動が不可欠な今、そのための情報提供・理解醸成・意見交換と行動計画策定のためのセミナーの全国展開が急務です。
 特に、未組織の一般市民向けのセミナーを全国展開したいのですが、一般市民がセミナーを開催するのには資金問題が開催のネックとなります。そこで、上記の趣旨に賛同いただける個人・組織・企業の皆さんからの財団に資金集積を行い、それを活用して、全国各地でのセミナー開催を支援して実施していきたいと考えております。
 かねてより各地の農協におじゃまし、農家の皆さんにお話しさせていただいたときに、こういう話を地域住民・消費者の方々に聞いてもらって、わかってもらいたい、との声をお聞きしています。そして、そのために、市民セミナーの開催を農協としても支援したいが、農協という組織規程上の縛りがあるから直接支援できないという嘆きも聞いていました。
 こうした状況も踏まえ、生産者の安全・安心な食料生産とそれを支えて地域と日本の食を守る活動に賛同下さる、個人・組織・企業の皆様に広く会員登録をしていただき、その会費を原資に市民セミナーなどを開催し、生産者と消費者の想いをつなぐ「架け橋」をつくろうと考えました。また、財団は下記のような調査研究事業も受託します。年会費以外に寄付金も受け付けております。

財団概要
■法人番号
4010005034749
■名称
一般財団法人食料安全保障推進財団 
■主たる事務所
東京都千代田区神田三崎町3-5-9-405-I
■設立年月日
令和4年3月15日
■役員
評議員       吉永 正信
評議員       木下 順子
評議員       安達 英彦
代表理事・理事長  鈴木 宣弘
専務理事      久保田 治己
専務理事・事務局長 日下 京
常務理事      曽根 健次

■運営員
企画広報室・室長 松尾 俊治
■設立目的
当法人は、国際的な食料需給情勢が不安定化を強める中、食料安全保障は国民国家存立の要であることに鑑み、安全・安心な食料を量的・質的に国民に常に確保するための生産から消費までの国民全体のネットワーク強化、食の安全性の「可視化」、及び必要な政策を実現するための活動を推進することを目的とする。その目的に資するため、次の事業を行う。
調査研究
政策立案・提言
啓蒙普及
その他当法人の目的を達成するために必要な事業

公告
令和4年度
令和4年度収支決算書(PDF)
令和4年度貸借対照表(PDF)
令和5年度
令和5年度収支決算書(PDF)
令和5年度貸借対照表(PDF)

2025年の年頭にあたって
※食料安全保障推進財団のHP
https://www.foodscjapan.org/



ご入会方法ご入会方法
入会をご希望の方は、財団事務局宛に、氏名(組織名)、住所、会員種別・会費額、(寄付額)、連絡先電話・メールアドレスを封書又はメールにてご連絡ください。
入会の承認後請求書をお送りいたしますので、右記口座にご入金をお願いいたします。
会員一覧/規約会員一覧/規約
※会員一覧準備中
会員規約(PDF)



≪郵送でのお申し込み≫
〒101-0061
東京都千代田区神田三崎町3-5-9-405-I
一般財団法人食料安全保障推進財団

≪メールでのお申し込み≫
info@foodscjapan.org

≪振込先≫
【銀行名】  三菱UFJ銀行
【支店】   春日町支店
【店番号】  062
【口座番号】 普通 1123157
【口座名称】
一般財団法人 食料安全保障推進財団
ザイダンホウジン ショクリョウアンゼンホショウスイシンザイダン
【銀行名】  ゆうちょ銀行
【店名】   一三八(イチサンハチ)
【店番】   138
【番号】   普通 13154971
【口座名称】
一般財団法人 食料安全保障推進財団
ザイ)ショクリョウアンゼンホショウスイシンザイダン

令和7年の年頭に当たって

令和7年の年頭に当たって

国がやらないなら「国民の力で国民を守る」 必要があります。
 ① 「飢えるか、 植えるか」 運動
 ② 民間基金による食料・農業支援
 の推進に、さらに一歩踏み出しましょう。

残された時間は多くない

 日本の食料自給率は種や肥料の自給率の低さも考慮すると38%どころか最悪10%を切るとの試算もあります。
 海外からの物流が停止したら世界で最も餓死者が出るのが日本との試算もあります。
 国際情勢は、お金を出せばいつでも食料が輸入できる時代の終わりを告げています。
 かたや、日本の農家の平均年齢は68.7歳。 あと10年で日本の農業・農村の多くが崩壊しかねない深刻な事態に直面しています。

 しかも農家は生産コスト高による赤字に苦しみ、 廃業が加速しています。
 これでは不測の事態に子ども達の命は守れません。
 私達に残された時間は多くないのです。
 今こそ、食料自給率向上に向けた増産のための支援策を打ち出し、備蓄も増やし、輸入の小麦からコメのパンや麺への切り替え、 輸入とうもろこしに替わる飼料米などの振興も求められるはずが、 農水予算を減らすことしか頭にない財政当局は、

 ①農業予算が多すぎる、
 ② 飼料米補助をやめよ、
 ③ 備蓄米を減らせ、
 ④ 食料自給率を重視せず輸入せよと、呆れるほどの現状認識、危機認識の欠如を露呈させています。 

「飢えるか、 植えるか」 運動
こうした動きから子ども達の未来を守るには、 私達一人一人が行動を起こして、地域の種を守り、 生産から消費まで 「運命共同体」として地域循環的に農と食を支える「ローカル自給圏」の構築を全国各地で急がねばなりません。
1つの核は学校給食の安全・安心な地場産農産物の公共調達を進めることです。
農家と市民が一体化して耕作放棄地は皆で分担して耕そうではありませんか。 「飢えるか、 植えるか」 運動です。
 食料安全保障推進財団では、 このための情報共有、 意見交換、行動計画づくりのための財団主催セミナーと全国各地での後援セミナーをこれまで年間30~40カ所で実施し、 それをきっかけにした農業生産への住民参加や農家と市民とのネットワークづくりも各地で拡大してきています。
 それと同時に、国政では、
 ① 食料安全保障のベースになる農地10aあたりの基礎支払いを行い、 それを、
 ②コスト上昇や価格下落による経営の悪化を是正する支払いなどで補完し、 さらに、
 ③ 増産したコメや乳製品の政府買い上げを行い、 備蓄積み増しや国内外の援助などに回す、といった政策実現に向けて国民の総力を結集すべきときです。
 このための「食料安全保障推進法」 (仮称)を超党派の議員立法で成立させるための後押しも当財団が進めており、 現在、 協同組合振興議員連盟を中心に立法化の動きも進み始めています。 この動きも強力に後押ししていきましょう。


国がやらないなら私達がやる

 さらには、国がやらないなら、 「国民の力で国民を守る」必要があります。
 食料安全保障推進財団自身が民間基金を造成して、農家の赤字補填や新規就農支援事業に乗り出したいと考えております。
 そのためには、多くの個人や法人の皆様の協力により基金を造成しなければなりません。
 私達自身の力で、 全国各地で踏ん張っている農家の皆さんを支えて、消費者の皆さんに安全・安心な
食料を確保できる仕組みを構築しようではありませんか。
 すでに財団会員になられ、 また、ご寄附をいただいている皆さんに心より御礼を申し上げますとともに、さらに多くの個人・法人の皆様に、 財団会員になっていただき、ご支援、ご指導をいただければ、まことにありがたく、宜しくお願い申し上げます。
食料安全保障推進財団理事長 鈴木宣弘 
日本農業新聞
2024年11月26日
[今よみ]
農と食と命守る視点 東京大学特任教授・名誉教授・鈴木宣弘氏

国家観なき歳出削減 

 最近、財政当局の農業予算に対する考え方が次のように示された。
(1)農業予算が多すぎる

(2)飼料用米補助をやめよ
(3)低米価に耐えられる構造転換
(4)備蓄米を減らせ
(5)食料自給率を重視するな--。
 そこには、歳出削減しか念頭になく、現状認識、大局的見地の欠如が懸念される。

 1970年の段階で1兆円近くあり、防衛予算の2倍近くだった農水予算は、50年以上たった今も2兆円ほどで、国家予算比で12%近くから2%弱までに減らされてきた。
 10兆円規模に膨れ上がった防衛予算との格差は大きい。
◁    ▷
 軍事・食料・エネルギーが国家存立の3本柱ともいわれるが、中でも一番命に直結する安全保障(国防)の要は食料・農業だ。

 その予算が減らされ続け、かつ、世界的食料争奪戦の激化と国内農業の疲弊の深刻化の下で、まだ高水準だという認識は国家戦略の欠如だ。
 海外からの穀物輸入も不安視される中、水田を水田として維持して飼料用米も増産することが安全保障上も不可欠との方針で進めてきた飼料用米助成は、まさに国家戦略のはずだ。

 それを、2階に上げてはしごを外すように、金額が増えてきたから終了というだけの論理は破綻している。
 また、規模拡大とコスト削減は必要だが、日本の土地条件では限界があることを無視した議論は空論だ。日本にも100ヘクタールの稲作経営もあるが、水田が100カ所以上に分散し、規模拡大してもコストが下がらなくなる(稲作も20ヘクタール以上になると60キロ当たり生産費が上昇し始める)。
 中国は14億人の人口が1年半食べられるだけの食料備蓄に乗り出している。

 世界情勢悪化の中、1・5カ月分程度の米備蓄で、不測の事態に子どもたちの命を守れるわけがない。
 今こそ総力をあげて増産し備蓄も増やすのが不可欠なときに備蓄を減らせという話がなぜ出てくるのか。
◁    ▷
 「いつでもお金を出せば安く輸入できる」時代が終わった今こそ、国民の食料は国内でまかなう「国消国産」、食料自給率の向上が不可欠で、投入すべき安全保障コストの最優先課題のはずなのに、食料自給率向上に予算をかけるのは非効率だ、輸入すればよい、という論理は、現状認識力と国民の命を守る視点の欠如だ。
 そして、これらの考え方が25年ぶりに改定された食料・農業・農村基本法にも色濃く反映されていることが事態の深刻さを物語る。
全国農業新聞 2024年11月1(前篇)、8(中編),15(後編)日 【食農耕論】鈴木宣弘
 鈴木宣弘 東京大学特任教授・名誉教授 「食料・農業・農村基本計画」の論点(前・中・後篇)

 下記記載
農村と都市をむすぶ2024. 11【No.872】
 特集「農産物価格形成のあり方」
 特集 農産物価格形成のあり方 安藤光義
 特集 卵価形成の実態と課題  信岡誠治

農村と都市をむすぶ2024. 11【No.872】全
「農村と都市をむすぶ 2024年10月号」【時評】
何が起きているのか
酪農中止農家は「高齢・後継ぎなし」ではない?
◆農業協同組合新聞2024年10月10日
コラム 【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】
石破農水大臣による画期的な2009農政改革案 ~米国型の不足払い制度の導入
◆農業協同組合新聞 2024年7月12日
石破茂衆議院議員に聞く(1)(2) 「農業所得と自給率に国費を」

聞き手は谷口信和東大名誉教授。 
自主・平和・民主の日本を目指す月刊誌 日本の進路 2024年10月号(No385)
「コメ不足」「バター不足」を猛暑のせいにするな
農家を苦しめる政策が根本原因
問題の大本には米国からの度重なる圧力
東京大学大学院特任教授 鈴木 宣弘

◆日本農業新聞 2024年8月23日
飼料高騰への支援充実を 農相に要請
JAグループ福島と県畜産振興協会
◆NHK 2024年8月23日 4時58分
農林水産省 “早いところでは新米も”
冷静な対応を呼びかけ
各地のスーパーなどでコメが売り切れたり、購入点数を制限したりする動きが出ています。
農林水産省は、本格的に新米が出回る前の端境期で、もともと在庫が少ないところに、地震や台風に備えた買いだめの動きが出たことが拍車をかけた可能性もあるとして、消費者に冷静な対応を呼びかけています。

◆読売新聞
2024/08/23 13:46
コメの棚空っぽの異常事態、秋の新米で品薄解消しても価格は大幅上昇…猛暑で供給減・訪日客増で需要増
 コメが全国的に品薄となっている。昨年の猛暑で供給が減った一方、訪日客の回復で需要が増えたことなどが要因で、スーパーなどの店頭では商品が欠品したり、購入数量が制限されたりしている。2024年産米の出荷が本格化する9月下旬には品薄が解消する見通しだが、新米の価格は大幅に上昇している。(川口尚樹)

◆農業協同組合新聞
2024年8月20日
米保管義務は誤解 農水省の支援事業 需要に応じた判断で
主食用米を長期計画的に販売するために保管料を支援する「米穀周年供給・需要拡大支援事業」は今年度も公募が行われ、9事業体から23年産米5万tが申請されている。この事業で保管料支援を受けるためには最低限この10月までは保管しなければならない。そのため店頭に米が並ばない事態も起きる状況のなか、国が米の保管を義務づけるのか、との一部から批判の声も聞かれるが、農水省はこの事業について「10月まで保管せず販売しても、ペナルティーがあるわけではない。事業の目的は需要に合わせた販売。保管料支援はなくなるが計画的に販売してもらえばいい」と強調している。

全国農業新聞 2024年11月1日 【食農耕論】鈴木宣弘

鈴木宣弘 東京大学特任教授・名誉教授
「食料・農業・農村基本計画」の論点(前・中・後篇)

鈴木宣弘 東京大学特任教授・名誉教授
1958年三重県生まれ。
東京大学農学部卒業後、農林水産省入省。
九州大学大学院教授を経て、2006年から東京大学大学院教授、24年4月から現職。
食料・農業・農村政策審議会委員などを歴任。
日本の食料安全保障問題の第一人者として食料危機への対応を訴え続ける。
『このままでは飢える!食料危機の処方箋』『国民は知らない「食料危機」と「財務省の不適切な関係』など著書多数 
全国農業新聞 2024年11月1日【食農耕論】
鈴木宣弘 東京大学特任教授・名誉教授


「食料・農業・農村基本計画」の論点(前篇)
 食料自給率とその関連指標の位置づけ 
生産要素や資材の確保状況は自給率に集約される構成要素

 
今何が求められているのか

全国の農村を回っていると、高齢化が進み、農業の後継ぎがいない、中心的な担い手も耕作を頼まれても引き受けきれなくなって、耕作放棄地が増えている深刻さを目の当たりにする。
農業従事者の平均年齢が68.7歳という衝撃的数字は、あと10年足したら、日本の農業の担い手極端に減少し、農業・農村が崩壊しかねない、ということを示しており、さらに、今、肥料、飼料、燃料などのコスト高を販売価格に転嫁できず、赤字に苦しみ、酪農・畜産を中心に廃業が後を絶たず、崩壊のスピードは加速している。
一方で、中国などの需要増加、異常気象の通常化、紛争リスクの高まりなどで、海外からの食料・生産資材の輸入が滞るリスクが高まっている。
「お金を出せばいつでも輸入できる時代ではなくなった」今、不測の事態に国民の命を守る食料は十分に供給できるのかが懸念される。
そういう中で、25年ぶりに食料・農業・農村の「憲法」たる基本法が改定されることになった。
基本法の見直しをやる意義とは、世界的な食料情勢の悪化と国内農業の疲弊を踏まえ、不測の事態にも国民の命を守れるように国内生産への支援を早急に強化し、国民が必要とし、消費する食料は、できるだけ国内で生産する(国消国産)ために、食料自給率を高める抜本的な政策を打ち出すためだ、と考えられる。
新基本法は食料安全保障の確保の必要性を掲げている点で評価されるが、それをどう達成するのかについての内容は不十分だ。
新基本法の原案には食料自給率という言葉がなく、「基本計画」の項目で「指標の一つ」と位置付け、食料自給率向上の抜本的な対策の強化などは言及されていなかった。
与党からの要請を受けて、「食料自給率向上」という文言を加えるという修正は行われたが、なぜ自給率向上が必要で、そのために抜本的な策を講じるという言及はなされていないのはそのままだ。
したがって、これから基本法に基づいて策定される5年間の基本計画で具体化が極めて重要になる。

 
連指標を勘案した総合自給率が提示されるべき

まず、食料自給率という指標の位置づけについても審議会関係者の中では、「食料安全保障を自給率という一つの指標で議論するのは、守るべき国益に対して十分な目配りがますますできなくなる可能性がある」とさえ指摘されていたという。
事務方は「自給率という『一本足打法』ではだめだ」と言う。
その根拠が、農地や労働力や肥料などの生産要素・資材の確保状況などが食料自給率とは別の指標として必要だと説明されている。
これは、食料自給率の意味が理解されていないことを意味する。
食料自給率は生産要素・資材と一体的な指標である。
なぜなら、生産要素・資材がなかったら、食料生産ができないから、食料自給率はゼロになる。
これは、今も、飼料の自給率が勘案されて38%という自給率が計算されていることからもわかる。
具体的には、ほぼ100%輸入に頼っている肥料を考慮すると実質自給率は22%、さらに、野菜だけでなくコメなどの種の自給率も10%に低下すると、実質自給率は最悪の場合9.2%という試算ができる。
つまり、生産要素の確保状況が問題なのはそのおりであるが、それを考慮すると実質自給率が低下する形で、それらは自給率と一体的な指標であり、すべてを勘案した総合・実質自給率を高めることが重要なのである。
だから、生産要素の国内での確保状況、その自給率が大切な指標であることは間違いないが、それと食料自給率という指は独立してあるわけでなく、飼料以外の生産要素も飼料と同様に勘案することで実質自給率が計算されるものであり、生産要素・資材の確保状況は自給率に集約される構成要素であることを理解してもらいたい。

 
予算と工程表の明治の必要性

戦後の米国の占領政策により米国の余剰農産物を受け入れて食料自給率を下げていくレールに乗せられた我が国は、これまでも基本計画で自給率目標を5年ごとに定めても、一度もその実現のための予算と工程表が示されたことがなかった。
今回、少なくとも年1回、自給率目標などの達成の進捗状況を公表することが基本法に追加されたのは一定の前進と評価されるが、ただ数値を確認するだけでなく、実現のための工程表と予算が基本計画に明示されることが不可欠だ。
全国農業新聞 2024年11月8日 【食農耕論】
鈴木宣弘 東京大学特任教授・名誉教授


「食料・農業・農村基本計画」の論点(中篇)
 食料自給率向上の具体策 
みなが潰れない政策を強化
現場を支え自給率高める基本計画に
食料安保を平時と有事に分ける意味があるのか?
有事立法は基本計画で軌道修正を

 
今の政策が十分だという認識は正しいのか

基本計画で、食料自給率目標とその関連指標の目標を定めた上で、予算工程表を示し、具体的な施策をどのように組み合わせるのか。
農水省の事務方は、農村の弊を改善し、自給率向上のための抜本的な強化は必要ないとの認識を示している。
すでに、畑作には内外価格差を埋めるゲタ政策がある。
コメにゲタがないのは関税が高いから内外価格差を埋める必要がないので、そういう政策はできないが、コメなどには収入変動 和のナラシ政策もある。
さらに収入保険もある。
中山間地・多面的機能直接支払などが行われている。
だから十分だ、新たなは必要ないと。
 
しかし、では、それでも農業の疲弊が加速しているのはどう説明するのか。
政策が不十分だから農業危機に陥っているのは明白ではないか。
農業就業人口がこれから試る、つまり、農家が慣れていくから、一部の企業などに任せていくしかないような、そもそもの前提が根本的に間違っている。
みなが慣れないように支える政策を強化することが不可欠で、そうすれば事態は変えられるのに、それを放棄しである。
 
そもそも、ナラシも収入保険も過去の価格・売上の平均より減った分の一部を補てんするだけなので、農家にとって必要な所得水準が確保されるセーフティネットではないし、コスト上昇は考慮されないから今回のようなコスト高には役に立たない。
中山間地多面的機能支払いも、よい仕組みだが、集団活動への支支援が主で個別経営の所得補てん機能は十分ではないとの指摘が多く聞かれる。

 
相変わらずの「規模拡大、輸出、スマート農業だけでよいのか

コスト高に苦しむ農家の所得を支える仕組みは現状で十分かのように説明され、抜本的対策は全く提案されないまま、相変わらずの「規模拡大によるコストダウン、輸出拡大、スマート農業」が連呼され、さらに加えて、海外農業生産投資企業の農業参入条件の緩和が進められるといった方向性が新基本法と関連政策で示された。
基本計画もそうした方向での具体的な施策だけになったら、企業利益につながっても、どれだけ農家の利につながるのか。
輸出の前に脆弱化する国内供給をどうするかが先だということが当然であるし、仮に、輸出が伸ばせても、農家の手取が増えて、所得が増えるわけではない。
多くは輸出に関わる企業の利益である。
また、スマート農業が現場で農家に有効に活用できる範囲は多くはないというのが現場の農家の実感と聞く。
これも、関連企業への税制や金利の優遇で、企業支援の要素が強い。
さらに、これまで半分未満でないと認めなかった農業法人における農外資本の比率を3分の2未満に引き上げて、農外資本の農業参入を緩和する。
本当に農村現場を見ているとは思えない。
規模拡大によるコストダウンも追求すべきだが、我が国の土地条件の界を知らないと机上の空論だ。
まずは、コスト高で疲弊が強まる農村現場を支え、早急に食料自給率を高める政策の提示が基本計画に盛り込まれるべきではないか。
 

有事だけ強制的な増で対応できるのか

さらに懸念されるのは有事に備えた対応。
「平時」と「有事」の食料安全保障という分け方が強調されるが、「不測の事態でも国民の食料が確保できるように普段から食料自給率を維持することが食料安全保障」と考えると、分ける意味はあるのだろうか。
今苦しむ農家を支える政策は提示されないまま、平時は輸入先との関係強化と海外での日本向け生産への投資に努めることが強調されている(基本法21条)。
それが必要でないとは言わないが、いくら関係強化や海外生産にしても不の事態にはまず自国民が優先だからあてにはならないし、物流が止まれ生産しても運んでれない。
一方で、有事になった慌ててカロリーを摂りやすいイモなどへの作目転換、増産・供出を、罰金でして強制するという「有事立法」は作った。
平時は輸入に頼り、国内生産を支援せずに有事だけ罰金で脅して強制増産させるなど、できるわけも、やっていいわけもない。
農家支援を強化して自給率を高め、備蓄もしておけば済む話だ。
このような罰金を伴う強制的な作物転換と増産命今の方向性については、基本計画での軌道修正を期待したい。
全国農業新聞 2024年11月15日 【食農耕論】
鈴木宣弘 東京大学特任教授・名誉教授


「食料・農業・農村基本計画」の論点(後篇)
 多様な農業経営体の位置づけ 
担い手に集中では地域を支えられない
直接支払いの強化と出口対策 
農家への直接支払いは消費者の支援策

 
農村コミュニティーの崩壊が前提?

「担い手」の位置づけは、基本計画の重要な要素である。
今回の基本法改定の過程において、農村における多様な農業経営体の位づけが後退しているとの指摘が多くなされてきた。
最終的には、多様な農業者に配慮する文言は追加されたが、条文を見るとわかるように、26条の1項で、効率的かつ安定的な農業経営に対しては「施策を講じる」としている一方で、2項で、多様な農業者については「配慮する」としていることから、施策の対象は効率的かつ安定的な経営で、その他は施策の対象ではない、と位置づけていることがわかる。
基本的な方向性は、長期的・総合的な持続性ではなく、狭い意味での目先の金銭的効率性を重視していることが懸念される。
農家からの懸念に、ある官僚は「潰れる農家は潰れたほうがよい」と答えたと聞いた。
基本法に自給率向上を書きたくなかった理由には、「自給率向上を目標に掲げると非効率な経営まで残ってしまい、予算を浪費する」という視点もあったと思われる。
今、農村現場は一部の担い手への集中だけでは地域が支えられないことがわかってきている。
定年帰農、兼業農家、半農半Ⅹ、有機・自然栽培をめざす若者、耕作放棄地を借りて農業に関わろうとする消費者グループなど、多様な担い手がいて、水路や畔道の管理の分担も含め、地域コミュニティーが機能し、資源環境を守り、生産量も維持されることが求められている。
短絡的な目先の効率性には落とし穴があることを忘れてはならない。
このことが基本計画に反映されることが不可欠であろう。

 
価格転嫁対策の実効性と直接支払いの重要性

基本計画の中で、価格転嫁策はどう組み込まれるのか。
基本法改定にあたって、一つの目玉政策とされたのが、コスト上昇を流通段階でスライドして上乗せしていくのを政府誘導する制度であったが、参考にしたフランスでもエガリムⅡ法の実効性には疑問も呈されているし、小売り主導の強い日本ではなおさらであることは当初から明白であった。
まず、農家の生産コストに見合う支払い額が支払われていない事態を解消しなくてはならない。
価格転嫁ができていないのは確かに是正したいが、あまり価格が上がったら消費者も苦しい。
だからこそ、政策の役割がある。
生産者に直接支払いをすることで所得を補てんし、それによって消費者は安く買える。
農家への直接支払いは消費者支援策でもあるのだ。

 
国民の命を守るのが「国防」なら農業・農村を守ることこそが国防

もう一つのポイントは生産調整の限界への対応だ。
「コメ不足」「バター不足」でも明白なとおり、生産調整で農家を振り回して疲弊させてしまうのでなく、出口・需要を創るために財政出動する、需要創出に財政出動を、つまり、生産調整から販売調整に切り替える必要がある。
それによって、水田を水田としてフル活用しておけば、不測の事態の安全保障になる。
そんな金がどこにあると財務省が言えばおしまいになるが、これこそよく考えてほしい。
米国の在庫処分といわれるトマホークを買うのに43兆円も使うお金があるというなら、まず命を守る食料をしっかりと国内で確保するために、仮に何兆円使ってでもそのほうが安全保障の一丁目一番地だ。
こういう議論をきちんとやらなくてはいけない。
備蓄費用は安全保障のコストだと認識すべきだ。
欧米は「価格支持+直接支払い」を堅持しているのに、日本だけがどちらも手薄だ。
欧米並みの直接支払いによる所得補てん策と備蓄や国内外援助も含めた政府買い上げによる需要創出政策を早急に導入すべきであろう。
本来、関連法の一番追加されるべきは、現在、農村現場で苦闘している農業の多様な担い手を支えて自給率向上を実現するための直接支払いなどの拡充を図る法案ではないか。
生産コスト高に対応した総合政策がないから農家の廃業が止まらないという政策の欠陥を直視すべきだ。
その柱は、
⓵ 農地が維持されることによる安全保障や多面的機能の発揮への基礎支払い。
⓶ 経営が継続できる所得が維持できるための直接支払い。
⓷ 政府買い入れによる備蓄と国内外援助で、需給の最終調整弁を国が持つこと ――などであろう。
10アール当たり3万円の農地維持基礎支払い、標準的な生産費と標準的な販売額との格差を不足払いする制度の一環として、10アール 当たり3万円の稲作赤字補てん、1頭当たり10万円の酪農赤字補てん、さらに、60キロ当たり1.2万円で500万トンの備蓄・国内外援助用の米買い上げ、これらを足しても2・7兆円、これだけの予算拡充で農業・農村は大きく「復活」し、日本の地域経済に好循環が生まれる。
現状の農水予算2兆円に約3兆円加えても5兆円だ。
もともと、農水予算(物価を考慮した実質額)は5兆円以上あった。
以前に戻すだけだ。

いざというときに国民の命を守るのを「国防」というなら、食料・農業・農村を守ることこそが一番の国防だ。
今こそ、林水産省予算の枠を超えて、安全保障予算という大枠で捉え、国民の食料農業・農村を守るために抜本的な政策と予算が不可欠である。
基本計画がそこに踏み込むものであってほしい。

対談 鈴木 宣弘 東京大学教授と加藤 好一 生活クラブ事業連合顧問

すでに日本は「食料危機」に突入している

生活クラブ オリジナルレポート WEBオリジナルレポート

掲載日:2022年8月10日

対談(上) 東京大学大学院教授 鈴木宣弘さん
       生活クラブ連合会 加藤好一顧問

新型コロナ禍とロシアのウクライナへの軍事侵攻の影響で原油をはじめとするエネルギー価格が高騰、主要穀物の輸入が滞ったことで食料品の値上げが続いています。とはいえ小売店の店頭から食品が消えるわけではなく、日本の食料確保が足元から揺らいでいるという意識を持ちにくいのは無理もない話かもしれません。でも、本当に日本の「食」は大丈夫なのでしょうか。その実状と課題解決の道筋を東京大学大学院教授の鈴木宣弘さんと生活クラブ連合会の加藤好一顧問に聞いてみました。
(この企画は2回に分けて掲載します)


「現状況」で農業振興予算を切る不可解な政治

鈴木 現在の日本は「食料危機が迫っている」のではなく、もはや「食料危機が来てしまった」と認識しなければならない事態に突入したと私は思っています。今年2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻する以前から、中国の世界からの食料買い占めである「爆買い」が顕在化してきており、日本は思うように食料調達ができない「買い負け」状態に置かれていました。

 中国の大豆輸入量は1億300万トン。対して国内で消費する大豆のほぼ全量を輸入に頼っている日本は300万トンしか調達できていません。さらに中国がもう少し輸入を増やすとなったら、あっという間に日本向けの大豆は届かなくなる可能性がより現実味を増し、「そもそも日本と中国では購買力が桁違い。競り合って買い負けているのではなく、勝負にならない」と元全農職員が嘆くほどです。

 大豆だけではなく、今後、中国の輸入量が少しでも増えれば、小麦もトウモロコシも日本には入ってこなくなるでしょう。「日本向けは量が少ない。ビジネスにならない」とコンテナ船も日本を敬遠し始めています。要するにビジネスの対象から外されつつあるわけです。中国ばかりではありません。新興国がより強い資金力を行使できるようになり、大量の穀物を輸入するようになってきました。「お金さえ出せば買える」という経済安全保障はとっくに破綻していると私たちは肝に銘じなければならないのです。

 新型コロナ禍の次に何か起きたら、日本の食料確保はとてつもなく困難な局面を迎えると私はずっと懸念していました。それがウクライナ紛争でさらに高騰し、今年3月8日には小麦の国際相場が2008年の世界食料危機の水準をすでに超えてしまいました。そんな深刻な状況に置かれているにもかかわらず、「食料自給率」という言葉が依然として国会では出てきません。しかも新型コロナ禍の影響でコメや牛乳が余っているとして、政府は生産者に減産を強いようとしているのですから「飽食ぼけ」もいいところです。

これまで政府は「コメは作るな、ただし飼料用米や小麦、大豆、ソバや牧草などを作付けするなら支援する」としてきましたが、その予算を今年度から切ると断言しました。まさに食料危機の渦中にあるというのに、あまりにも信じがたいお粗末な対応ではありませんか。本来なら何とか食料自給率を一気に上げるための予算措置を講じなければならず、いかにすれば国民の生命を飢えから守るかを根本的に議論する必要があるはずです。ところが、政府はさらに農業を潰しにかかるような予算切りを始めています。

まさに象徴的だと思ったのは関東の酪農家に乳牛の殺処分を求めるために政府が配布したチラシです。「1頭処分すれば5万円払う」と明記されているのを私はインターネットで確認しました。これから何が起こるか分からないときに目先の在庫が増えたという理由で、大切な生産資源を失ってどうするのかと言いたい。政府がちゃんと在庫を買い取ればいいだけの話ですよ。なのに牛を殺せと酪農家に迫るとは本末転倒というしかありません。コメも同じです。主食米の消費量が減っているのは事実です。ならば飼料用米を作付けすることで水田の機能を保持していくのが、食料安全保障上も実に重要なわけですが、すでに目標の70万トンに達したので飼料用米の作付けを奨励する予算措置まで政府は節操なく打ち切ろうとしているとしています。

加藤 いま70万トンという数字が出ましたが、内訳を子細に見てみると、義務付けられた最低輸入量を満たすミニマムアクセス米などを含めた飼料用米として給餌されるコメの総量で、国産のものばかりではありません。この見なし方自体が生産農家はもちろんのこと、私たちとしても不満が残るものです。予算が無くなったと財務省などはいいますが、実際はものすごく限定的で制約があるのがいまの交付金の仕組みです。交付金額の<最大値10アール当たり10万5000円>をはじめ複数の制度設計がなされていますが、特に問題なのはそれがいつなくなってしまうのかわからないことで、これでは「来年もがんばるぞ」という元気が出てきません。

この間、盛んに「コメ余り」が伝えられていますが、余っているのではなく上手に活用できていないというのが実際のところでしょう。かねてから鈴木さんが主張されているような海外支援策も含め、それをやったら「日本は大したものだ」と評される策を講じるのが政府の責務なはず。いまの日本政府には食料危機(⇔食料の安全保障)の認識がまるでありません。

 とにかく水田を活用し続けることが求められているのです。それが地域や実際の担い手の現状を踏まえた、真に日本の農業に求められている対応だと思います。水田農業は日本農業と地域経済の根幹にあり、生産者も高齢化して、担い手の問題が深刻になっているなか、飼料用米は新しい設備投資や農業技術が基本的にはいらないという特徴(優位性)を持つ作物です。だからこそ、これを「転作」ではなく、国産飼料用作物として「本作化(目的化)」し、関連する法制度や流通の仕組みなども整えながら、元気よくやっていけるような流れをつくれればと思っています。ここを消費者も理解し、生産者を励まし支える必要があります。

危機乗り越えるカギはコメ守る「稲作」に

鈴木 今回のように「有事」で食料輸入が困難になった際、水田を活用した飼料用米の栽培ができていれば、それを人が食べることも可能でしょう。やはり安全保障上のコメをしっかり作れるようにしておくのが重要なのです。飼料用米の作付けは一つの「防衛策」でもあります。水田は国防の役割も果たしていると考え、もっと水田の多面的機能に注目してほしいと思います。水田は洪水を防止し、地域を守ってくれています。それは豊かな自然環境の源でもある。だからコストをかけても維持しなければならないのに、切り捨てに走るのでは話になりません。

政府は同じことを北海道のテンサイでもやっています。もう作るな。補填に使っていた予算が上限にきたから終わりだというのです。砂糖は1人7キロ摂取できる体制を作っておかないと暴動が起こるとされていて、世界中が砂糖の生産をしっかり維持し、国家戦略物資として保護しています。それをお金が続かないからやめるとは開いた口がふさがりません。


加藤 テンサイ振興の予算はいつ切られてしまうのかと、以前から私たち生活クラブも危機感を持っていました。鈴木さんが言われたように、砂糖の位置付けは確かに軽んじられています。沖縄のサトウキビも極めて軽んじられていて、沖縄県民は基地問題にも怒っていますが、サトウキビを軽視する政府にも相当に怒っています。ここで少し話を戻しますが、いざという時に家畜用に作った飼料用米を人間が食べればいいという話は制度上そう簡単ではありません。そういう危機対応にはなっておらず、飼料用米を勝手に食べると手が後ろに回ってしまうのです。
生活クラブが飼料用米の栽培普及に動きはじめたとき、自民党の加藤紘一衆院議員(山形県)に予算確保の必要を繰り返しお願いしていた関係で、遊佐町でお会いしたときのことです。食べたら「違反になります」と申し上げたのですが、「どうしても食べる」と繰り返しおっしゃっていたのが印象に残っています。遊佐町の飼料用米は主食用品種で、他の飼料用米の多くがインディカ(長粒種)系です。だから食べても主食用米と比べて遜色ありません。飼料用米は収量が多い(多収)であることが重要で、適地適作を考慮しつつ、多収を追求する品種改良が必要不可欠なのです。この品種の考え方をどうするかもこれからの課題だと思います。

鈴木 なるほど。食べられるのに食べてはいけない法制度ですか。確かに法令順守は大事ですが、いざという時は有事対応の視点に立って解釈を変更すればいいのではないでしょうか。いかなる場合も平時の解釈でやろうとすること自体、思考が硬直している証でしょう。今年2月、自民党に「食料安全保障に関する検討委員会(食料安全保障会議)」ができても「食料自給」という言葉を怖くて言えないような雰囲気だと聞きました。食料自給を口にすると予算を付けなければならなくなるからだそうです。とにかく食料は買えばいい。貿易自由化を進めればたくさんのところから買える。食料危機というなら「貿易自由化を進めて調達先を増やせばいい」という硬直した思考が主流です。


主要穀物をはじめとする食料に加え、いまや化学肥料の原料も入手困難に陥っています。化学肥料の原料は100パーセント中国などからの輸入ですが、売ってくれなくなっていて、このままロシアとベラルーシからの輸入ができなくなれば「今年分の肥料は何とか供給できても、来年以降の予定は全然立たない」と農協関係者が言っているぐらいです。

加藤 肥料原料が手に入らなくなるとすれば、農水省が突然提起して先ごろ国会で決定された「みどりの食料システム戦略」(以下、みどり戦略)、特に有機減農薬の方向性、たとえば2050年までに、化学肥料や農薬を削減し、日本の耕地面積の25パーセントを有機農業にするなどの選択をせざるを得なくなりますね。

鈴木 それしかないんですよ。江戸時代の農業みたいになるしかない。その循環型農業を見て、リービッヒというドイツの肥料学の大家が「こんなすごい国があるのか」と驚嘆しています。農水省のみどり戦略の担当者も「肥料原料はカリもリンも100パーセント輸入だからもたなくなる。だから、みどり戦略なんだ」と話していました。
もう一つ付け加えたいのが、みどり戦略が数値目標として提示している有機減農薬・無農薬農業に取り組む耕地面積ののうち100万ヘクタールが水田だということ。この点についても農水省の担当者が「ほとんど水田で考えています」と明言しています。

加藤 やはり大前提は水田を残すことであり、有畜や耕畜連携の可能性にかけるのが日本の未来を切り開く基軸になるとも思います。日本農業の未来は大規模化や輸出だという政府方針はやはり一面的で、そうなると化学肥料に頼る現実を突破できない好ましくない技術化やイノベーション(技術革新)に頼らざるを得なくなるだろうと思います。私は家族経営の農家が地域で知恵と技術を出し合い、「点から面へ」の連帯を通して有機農業の方向性を達成していく方向性を着実につくっていく、消費者もそれを支える。すでに危機のさなかにあって時間がないなかでも、それしかないと思っています。           
(次回に続く)
撮影/魚本勝之 取材構成/生活クラブ連合会・山田衛

「飽食」と「呆食」の時代は過ぎ去ったのだから

生活クラブ オリジナルレポート WEBオリジナルレポート

掲載日:2022年8月25日

対談(下) 東京大学大学院教授 鈴木宣弘さん
       生活クラブ連合会 加藤好一顧問

新型コロナ禍にウクライナ紛争、気候危機などさまざまな要因で日本の「食」が大きく揺らいでいます。いまはまだ小売店の店頭から食料品が消えることは幸いにもありませんが、はたして今後も大丈夫といえるでしょうか。その実状と課題解決の道筋について、前回に引き続き東京大学大学院教授の鈴木宣弘さんと生活クラブ連合会の加藤好一顧問の意見を聞きました。

米国の「顔色」を常に意識し、動けない政治家

――岸田政権は「経済安全保障」を掲げていますが、そこに食料確保のための「自給力向上」という視点が欠落していることが前回のお話でわかりました。本当に首をかしげざるを得ないことです。とにもかくにも貿易自由化を進めれば食料危機を乗り越えられるという政治は、日本の食料自給の要であるコメと水田まで切り捨てようとしているのは信じがたい話です。日本には良質なコメがある。なぜコメを媒介に諸外国との連帯を強化しようという見地に立った政治ができないのでしょうか。日本が食料危機に直面しているとき、より深刻な事態に見舞われている地域が世界には数多くあるという現実を看過してはならないと思います。

鈴木 そうですね。行き過ぎた貿易自由化が経済力に物を言わせた富裕国が他国の食料を奪うことに通じているとの視点が失われているのは実に気になります。かねてから私は再三再四、アジアモンスーン地域とのコメを介した連帯を提唱してきました。それが国際関係の安定に大きく貢献する道と信じるからです。一国だけの安全保障というよりはアジア全体で助け合う仕組みを日本が率先して用意していくことが今後もますます重要になってくると思います。

 これも何度も申し上げていることですが、コメが余っているというなら、政府が農業予算で買い上げて海外支援に回すなり、新型コロナ禍で生活が厳しくなっている国内の人たちに提供するといった機動的な対応をすべきなのです。

加藤 海外にコメを送るという選択もありますが、何より国際相場を高騰させないようにすることも重要になると思いますが、どうでしょうか。先生もご著書の「農業消滅」(平凡社新書)でそういう問題提起をなさっていますね。

鈴木 そのほうが確かに大きい効果が得られると思います。2008年の食料危機の際に日本が「コメを20万トン拠出する」と言っただけで、相場はガクンと下がりました。それほど日本のコメの力は強いということです。そのことは自民党の政治家も熟知しているはず。それでも彼らが動こうとしないのは米国の圧力が強いからです。コメの国際相場が低下すれば、世界市場における米国の利益が損なわれるという理由で、彼らは日本の「勝手」を許しません。これに手向かえば政治生命に関わるため、日本の政治家は動かないのではなく動けないのです。

「2030年に農業消滅」?その危機をどう乗り越えるか

加藤 米国の顔色をうかがわざるを得ない政治が日本農業を窮地に追い込んでいく流れと米国の食料戦略による世界支配については、「農業消滅」に具体的かつ詳細に書かれています。当初、タイトルから推察したのは、そのような暗く悲観的な内容ばかりなのかなと思いましたが、読ませていただいたら全然違うことがわかりました。とりわけ後半は日本農業を消滅させないための提言が数多く散りばめられているという印象です。その本の冒頭で鈴木さんは2021年2月7日に放送された「NHKスペシャル 2030 未来への分岐点(2)飽食の悪夢~水・食料クライシス~」を例に引き、番組は2050年に日本が飢餓に直面すると警告していたが、その15年前の2035年には日本の食料自給率は大幅に低下するという危機感を示されています。そこにウクライナ紛争という形で「有事」が拍車をかけました。

鈴木 本当にNHKは頑張ってくれたと思いますし、その示唆した内容は衝撃的なものでしたが、新型コロナウイルスの感染爆発で世界的に物流が麻痺(まひ)したため、種(たね)の輸入が滞ったことで野菜の種の90パーセントが外国で生産されていることが明らかになりました。生産国が輸出規制に踏み出したり、物流が停滞したりすれば、野菜は現状の8パーセントしか栽培できません。

 飼料用トウモロコシの輸入も激減し、その98パーセントは国産とされる鶏卵もヒナの100パーセント近くが輸入ですから、すぐ一巻の終わりじゃないかということです。そんな危機的なレベルが今回のウクライナ紛争で一段と高まってしまった。2035年どころか、いまの日本は薄氷の上にいると認識しなければなりません。これまで私の言葉を「まさか、そんなぁ」と聞いていた人も「どんどん言っている通りになるんだけど」と深刻に受け止めてくれるようになってきました。

加藤 国連の持続的な開発目標である「SDGs」の達成期限が2030年。この2030年を重視するのは環境問題の分野が多いわけですが、日本農業の問題という点では2030年に昭和一桁世代といわれている、戦後の日本農業を支えてきた生産者たちが、おそらく完全にリタイアしている時期になります。

鈴木 その意味でも農業消滅です。このままでは自然にそうなります。加藤さんのご指摘通り、あの本の後半部分では農業消滅の危機をどう乗り越えるかという点に力を注ぎました。種から始まって生産から消費までの繋がりを強固にし、だれもが不安なく口にできる食べ物を確保していくネットワークを構築できれば危機は回避できるのではないかと思うのです。それには生活クラブ生協が取り組んでいる「産地提携」のように、もっと消費者が生産に関わり、加工・流通事業者も含めた支え合いの強化が必要なのです。その核になるのは協同組合。生協と農協がしっかりと核になってネットワークを繋げる役割を果たしてもらいたいですね。

協同組合が中心となった「産地提携」の強化を

加藤 もう一つあります。SDGsの達成に向けてアプローチを続けていく際、農業に関していえば「フードマイル」と「バーチャル・ウォーター」などの視点を持つ必要があると思います。他国の食料を経済力でかすめ取る行為は水資源の収奪にも通じていることを忘れてはならないと思うのです。その一方で日本の国土は、輸入穀物をはじめとする人間の諸活動が発生させた「廃棄窒素」によって、窒素汚染が尋常ではないレベルに達しています。これは大問題ですね。だから食料は可能な限り自給していかなければならないとの考えから、生活クラブは産地提携を進めてきました。だれもが不安なく口にできる食料を手にするには、いわゆる「顔が見える関係」だけでは難しいでしょう。「顔が見える」ことにプラスして互いが対等互恵の関係にあることが重要ですよね。私は協同して事を成すという意味を込めた「提携」という言葉を重視し、そこに大手小売業との根本的な違いがあり、生活クラブが協同組合たるゆえんがあると考えています。

鈴木 そういう産地提携を協同組合が核となって各地で進めてもらいたいのです。その動きをバックアップするための根拠法となる「ローカルフード法」(仮称)を議員立法で提案する準備を国会議員の川田龍平さんが中心になって進めています。この法律を根拠法として政府予算を生み出し、学校給食に地元の食材を使うための補てんに振り向けることもできます。この法律に加えて農業予算を消費者支援に振り向ける米国型の制度も導入すれば、かなり状況は好転するのではないかと思っています。

加藤 地域への予算措置はモデル事業的なケースでは適用されているようですが、それ以外となるとなかなか難しいうえに常に「上から目線」で全国一律の画一的な運用で硬直していて、実に使い勝手が良くないのが実状ではないですか。

鈴木 そうです。柔軟性もなく、使い勝手が悪いわけです。どうしてそうなるのかを農水省に尋ねると「自分たちの責任じゃない。財務省だ」と言います。予算を付けてもらうために財務省に出向くと「抜け道があるようなものは認められない。きちんと縛りをかけろ」と簡単にはねられてしまうというのです。
まるでわざと使いにくくしているかのようです。そんな発想しかできない人間が法律の杓子定規な解釈だけ勉強して「あれは出来ません」「これも出来ません」と平然としているのであれば、構造そのものがもう腐っているというしかありません。前回、飼料用米振興のための予算措置や穀物栽培促進のための助成金の打ち切りについて触れましたが、トウモロコシや牧草などの家畜飼料の輸入が大幅に滞っているなかでの予算切りですから、時代錯誤もはなはだしいお粗末な対応です。

加藤 少し話は変わりますが、とにかく酪農家はとんでもない事態に陥っていて、コメと同様に牛乳も難儀な状況が続いていますね。地域によって温度差はありますが、乳牛を殺処分すれば1頭に対して5万円支給するという対応はもとより、輸入される牧草や穀物飼料にほぼ全面的に頼らざるを得ない千葉の酪農は大変どころの騒ぎじゃありません。まさに死活問題ですよ。

鈴木 千葉は本当に大変ですよね。そうしたなか、千葉県いすみ市には地元で生産した飼料用米を牛に与えている牧場があります。エサのほとんどがコメ。輸入飼料はほとんど無しで酪農を続けています。

加藤 私もJAいすみに講演に行ったことがあります。いまの低すぎる日本の食料自給を、それでも根本から支えているのはコメであり、コメが基幹食料であることを私は日ごろから強調しています。しかし、その位置付けが揺らいでいるのが大変気になります。やはり、コメの位置付けを再確認するとともに、飼料用米を「ついでに作っているもの」という位置からもっと積極的な位置に転換させなければならないと思っています。

鈴木 ヨーロッパでは主たる飼料は小麦。最も多く生産可能な穀物を有効に使うのが飼料ですよね。その意味でいうと日本は当然コメなんですよ。いま、コメを大事にしなくてどうするかと私は言いたい。あえて繰り返しますが、もはや食料危機に備えよという段階ではなく、すでに私たちは食料危機のただなかにいることを一人でも多くの人に気づいてもらいたいのです。これは脅しでも何でもありません。日本が経済力に物を言わせ、世界の食料を買い漁り、挙句に大量の食品ロスを生んだ「飽食」と「呆食」の時代は過ぎ去ったのです。加藤さん、今日はありがとうございました。

加藤 こちらこそありがとうございました。今後ともよろしくご指導ください。

撮影/魚本勝之 取材構成/生活クラブ連合会・山田衛



すずき・のぶひろ
1958年三重県生まれ。東京大学大学院農学生命研究科教授。専門は農業経済学。東京大学農学部を卒業後、農林水産省に入省。九州大学大学院教授を経て2006年から現職。主な著書に「食の戦争」(文春新書)、「悪夢の食卓」(KADOKAWA)、「農業消滅」(平凡社新書)、最新刊に「協同組合と農業経済」(東京大学出版会)がある。自身が漁業権を保有することでも知られている。

最新刊「協同組合と農業経済」(東京大学出版会)