日本飼料用米振興協会 副理事長 故 加藤 好一 氏 を偲ぶ

2024年7月21日

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2024年7月13日に逝去された当協会の副理事長 加藤好一さん(生活クラブ事業連合生活協同組合連合会顧問)のこれまでのご活躍に感謝し、業績を紹介します。
また、2024年10月27日(日)に「偲ぶ会」が開催されました。

加藤好一さんの残した最後の言葉です。
基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く―現場での対応を通して基本法改正を逆照射する— – J-FRA

◆一般社団法人日本飼料用米振興協会の加藤好一副理事長と正社員である谷口信和さんが参加して行った研究会の開催報告です。加藤好一さんはこの後体調を崩し、2024年7月13日にお亡くなりました。
哀悼の意を表明すると同時に、その活動を引き継ぐ想いでいっぱいです。
加藤さん、ありがとうございました

ご挨拶をする「一般社団法人日本飼料用米振興協会」のメンバー

若狹 良治(理事 事務局長) 木村 友二郎(個人社員:前理事、木徳神糧元顧問) 鈴木 猛(生活クラブ事業連合 事務局) 谷口 信和(学識経験者 東京大学名誉教授) 村田 洋(社員:秋川牧園) 阿部 健太郎(理事・昭和産業執行役員) 谷 清司(社員・JA全農くみあい飼料九州本部長) 信岡 誠治(理事・元東京農業大学教授) 【前列】海老澤惠子(理事長)

当日は、340名の方々がご参列し、お別れをすると同時にその人柄を偲びました。
会場で展示されました多くの資料の一端をご紹介し、また、ご本人の最後の言葉ともなりました3月から5月に語られた言葉(シンポジウム挨拶や閉会の言葉を合わせてご紹介します)

加藤好一さんを偲ぶ会に寄せて
一般社団法人日本飼料用米振興協会
理事長 海老澤惠子

日本飼料用米振興協会の海老澤と申します。

加藤好一様と日本飼料用米振興協会とのお付き合いは、2011年1月に大阪で開催しました「超多収穫飼料用米が日本の畜産と水田農業を変える」シンポジウムで「首都圏における消費者と連携した取り組み事例」として加藤会長にご報告を頂きました。
その後、毎年、活動を共にしてまいりました。
任意団体「超多収穫米普及連絡会」設立、また、2014年の「一般社団法人日本飼料用米振興協会」設立時に副理事長を引き受けていただき今日に至っておりました。
大変お世話になりました。
今年7月の理事会を開催しようとしていた矢先の突然の訃報に大変驚き、ショックを受けましたと同時に、活動の大きな柱を失って、当惑致しました。
特に当協会事務局長の若狭さんにとってはとても大切な支えを失って、その後の活動もスムーズに進まない状況です。
飼料用米普及については、生活クラブ生協様が先進的に取り組んでいらっしゃいました。
提携されている産地、生産者も多かったので、何かと教えていただいたり、提携の産地を視察させて頂いたりしました。
加藤さんは、生活クラブ事業連合会の会長として、重責と激務の中にありながら、私どもの会議やシンポジウムの中では、とても親しみやすいお人柄でしたので、
私たちも活動のお仲間として、「加藤さん」とお呼びして気軽にお付き合いさせていただいておりました。
飼料用米振興協会では、毎年、意見交換会と大きなシンポジウムを開催しており、飼料用米普及について各方面から情報提供や問題提起をしていただき、政策提案もしてまいりました。
私どもからの課題はほぼ出つくされていますが、一朝一夕には解決できないのですが、意見交換会でも、シンポジウムでも、加藤さんが毎回最後の締めで閉会のごあいさつをして下さり、それがとても的確にまとまっていることにいつも「さすが!」と感心しておりました。
今年3月に開催しましたシンポジウムの締めのご挨拶が、ご本人が他でも紹介されるように「遺書」の様になってしまいました。
私ども残された方々や組織にとって、これからの課題の実効化に努めてまいりたいと思います。
さて、お酒が大好きな方でしたので、お体への影響が心配されました。
私ども、加藤好一様のことを心配していました。
いつの間にか入院されていて連絡がつかなくなることも何度かございました。
それでも又元気に戻ってきて下さっていたのに、今回は本当に残念でなりません。
まだまだお若いですし、会長から顧問になられて、前よりは当協会にエネルギーを注いでいただけることと期待しておりましたし、当協会のこれからの進め方についても加藤さんとご相談したいことが沢山ありました。
これまで、ご体調が悪くても、ご無理されてお仕事されていらしたことと思います。
本当に残念ですが、今は「加藤さん本当にお疲れさまでした。ありがとうございました。」とお伝えして、お別れの言葉とさせていただきます。

加藤好一さん偲ぶ会、開催報告(PDF)

加藤好一さん偲ぶ会、開催報告(パワーポイント)

加藤好一さん偲ぶ会、開催報告(ワード)

対談 鈴木 宣弘 東京大学教授と加藤 好一 生活クラブ事業連合顧問

すでに日本は「食料危機」に突入している

生活クラブ オリジナルレポート WEBオリジナルレポート

掲載日:2022年8月10日

対談(上) 東京大学大学院教授 鈴木宣弘さん
       生活クラブ連合会 加藤好一顧問

新型コロナ禍とロシアのウクライナへの軍事侵攻の影響で原油をはじめとするエネルギー価格が高騰、主要穀物の輸入が滞ったことで食料品の値上げが続いています。とはいえ小売店の店頭から食品が消えるわけではなく、日本の食料確保が足元から揺らいでいるという意識を持ちにくいのは無理もない話かもしれません。でも、本当に日本の「食」は大丈夫なのでしょうか。その実状と課題解決の道筋を東京大学大学院教授の鈴木宣弘さんと生活クラブ連合会の加藤好一顧問に聞いてみました。
(この企画は2回に分けて掲載します)


「現状況」で農業振興予算を切る不可解な政治

鈴木 現在の日本は「食料危機が迫っている」のではなく、もはや「食料危機が来てしまった」と認識しなければならない事態に突入したと私は思っています。今年2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻する以前から、中国の世界からの食料買い占めである「爆買い」が顕在化してきており、日本は思うように食料調達ができない「買い負け」状態に置かれていました。

 中国の大豆輸入量は1億300万トン。対して国内で消費する大豆のほぼ全量を輸入に頼っている日本は300万トンしか調達できていません。さらに中国がもう少し輸入を増やすとなったら、あっという間に日本向けの大豆は届かなくなる可能性がより現実味を増し、「そもそも日本と中国では購買力が桁違い。競り合って買い負けているのではなく、勝負にならない」と元全農職員が嘆くほどです。

 大豆だけではなく、今後、中国の輸入量が少しでも増えれば、小麦もトウモロコシも日本には入ってこなくなるでしょう。「日本向けは量が少ない。ビジネスにならない」とコンテナ船も日本を敬遠し始めています。要するにビジネスの対象から外されつつあるわけです。中国ばかりではありません。新興国がより強い資金力を行使できるようになり、大量の穀物を輸入するようになってきました。「お金さえ出せば買える」という経済安全保障はとっくに破綻していると私たちは肝に銘じなければならないのです。

 新型コロナ禍の次に何か起きたら、日本の食料確保はとてつもなく困難な局面を迎えると私はずっと懸念していました。それがウクライナ紛争でさらに高騰し、今年3月8日には小麦の国際相場が2008年の世界食料危機の水準をすでに超えてしまいました。そんな深刻な状況に置かれているにもかかわらず、「食料自給率」という言葉が依然として国会では出てきません。しかも新型コロナ禍の影響でコメや牛乳が余っているとして、政府は生産者に減産を強いようとしているのですから「飽食ぼけ」もいいところです。

これまで政府は「コメは作るな、ただし飼料用米や小麦、大豆、ソバや牧草などを作付けするなら支援する」としてきましたが、その予算を今年度から切ると断言しました。まさに食料危機の渦中にあるというのに、あまりにも信じがたいお粗末な対応ではありませんか。本来なら何とか食料自給率を一気に上げるための予算措置を講じなければならず、いかにすれば国民の生命を飢えから守るかを根本的に議論する必要があるはずです。ところが、政府はさらに農業を潰しにかかるような予算切りを始めています。

まさに象徴的だと思ったのは関東の酪農家に乳牛の殺処分を求めるために政府が配布したチラシです。「1頭処分すれば5万円払う」と明記されているのを私はインターネットで確認しました。これから何が起こるか分からないときに目先の在庫が増えたという理由で、大切な生産資源を失ってどうするのかと言いたい。政府がちゃんと在庫を買い取ればいいだけの話ですよ。なのに牛を殺せと酪農家に迫るとは本末転倒というしかありません。コメも同じです。主食米の消費量が減っているのは事実です。ならば飼料用米を作付けすることで水田の機能を保持していくのが、食料安全保障上も実に重要なわけですが、すでに目標の70万トンに達したので飼料用米の作付けを奨励する予算措置まで政府は節操なく打ち切ろうとしているとしています。

加藤 いま70万トンという数字が出ましたが、内訳を子細に見てみると、義務付けられた最低輸入量を満たすミニマムアクセス米などを含めた飼料用米として給餌されるコメの総量で、国産のものばかりではありません。この見なし方自体が生産農家はもちろんのこと、私たちとしても不満が残るものです。予算が無くなったと財務省などはいいますが、実際はものすごく限定的で制約があるのがいまの交付金の仕組みです。交付金額の<最大値10アール当たり10万5000円>をはじめ複数の制度設計がなされていますが、特に問題なのはそれがいつなくなってしまうのかわからないことで、これでは「来年もがんばるぞ」という元気が出てきません。

この間、盛んに「コメ余り」が伝えられていますが、余っているのではなく上手に活用できていないというのが実際のところでしょう。かねてから鈴木さんが主張されているような海外支援策も含め、それをやったら「日本は大したものだ」と評される策を講じるのが政府の責務なはず。いまの日本政府には食料危機(⇔食料の安全保障)の認識がまるでありません。

 とにかく水田を活用し続けることが求められているのです。それが地域や実際の担い手の現状を踏まえた、真に日本の農業に求められている対応だと思います。水田農業は日本農業と地域経済の根幹にあり、生産者も高齢化して、担い手の問題が深刻になっているなか、飼料用米は新しい設備投資や農業技術が基本的にはいらないという特徴(優位性)を持つ作物です。だからこそ、これを「転作」ではなく、国産飼料用作物として「本作化(目的化)」し、関連する法制度や流通の仕組みなども整えながら、元気よくやっていけるような流れをつくれればと思っています。ここを消費者も理解し、生産者を励まし支える必要があります。

危機乗り越えるカギはコメ守る「稲作」に

鈴木 今回のように「有事」で食料輸入が困難になった際、水田を活用した飼料用米の栽培ができていれば、それを人が食べることも可能でしょう。やはり安全保障上のコメをしっかり作れるようにしておくのが重要なのです。飼料用米の作付けは一つの「防衛策」でもあります。水田は国防の役割も果たしていると考え、もっと水田の多面的機能に注目してほしいと思います。水田は洪水を防止し、地域を守ってくれています。それは豊かな自然環境の源でもある。だからコストをかけても維持しなければならないのに、切り捨てに走るのでは話になりません。

政府は同じことを北海道のテンサイでもやっています。もう作るな。補填に使っていた予算が上限にきたから終わりだというのです。砂糖は1人7キロ摂取できる体制を作っておかないと暴動が起こるとされていて、世界中が砂糖の生産をしっかり維持し、国家戦略物資として保護しています。それをお金が続かないからやめるとは開いた口がふさがりません。


加藤 テンサイ振興の予算はいつ切られてしまうのかと、以前から私たち生活クラブも危機感を持っていました。鈴木さんが言われたように、砂糖の位置付けは確かに軽んじられています。沖縄のサトウキビも極めて軽んじられていて、沖縄県民は基地問題にも怒っていますが、サトウキビを軽視する政府にも相当に怒っています。ここで少し話を戻しますが、いざという時に家畜用に作った飼料用米を人間が食べればいいという話は制度上そう簡単ではありません。そういう危機対応にはなっておらず、飼料用米を勝手に食べると手が後ろに回ってしまうのです。
生活クラブが飼料用米の栽培普及に動きはじめたとき、自民党の加藤紘一衆院議員(山形県)に予算確保の必要を繰り返しお願いしていた関係で、遊佐町でお会いしたときのことです。食べたら「違反になります」と申し上げたのですが、「どうしても食べる」と繰り返しおっしゃっていたのが印象に残っています。遊佐町の飼料用米は主食用品種で、他の飼料用米の多くがインディカ(長粒種)系です。だから食べても主食用米と比べて遜色ありません。飼料用米は収量が多い(多収)であることが重要で、適地適作を考慮しつつ、多収を追求する品種改良が必要不可欠なのです。この品種の考え方をどうするかもこれからの課題だと思います。

鈴木 なるほど。食べられるのに食べてはいけない法制度ですか。確かに法令順守は大事ですが、いざという時は有事対応の視点に立って解釈を変更すればいいのではないでしょうか。いかなる場合も平時の解釈でやろうとすること自体、思考が硬直している証でしょう。今年2月、自民党に「食料安全保障に関する検討委員会(食料安全保障会議)」ができても「食料自給」という言葉を怖くて言えないような雰囲気だと聞きました。食料自給を口にすると予算を付けなければならなくなるからだそうです。とにかく食料は買えばいい。貿易自由化を進めればたくさんのところから買える。食料危機というなら「貿易自由化を進めて調達先を増やせばいい」という硬直した思考が主流です。


主要穀物をはじめとする食料に加え、いまや化学肥料の原料も入手困難に陥っています。化学肥料の原料は100パーセント中国などからの輸入ですが、売ってくれなくなっていて、このままロシアとベラルーシからの輸入ができなくなれば「今年分の肥料は何とか供給できても、来年以降の予定は全然立たない」と農協関係者が言っているぐらいです。

加藤 肥料原料が手に入らなくなるとすれば、農水省が突然提起して先ごろ国会で決定された「みどりの食料システム戦略」(以下、みどり戦略)、特に有機減農薬の方向性、たとえば2050年までに、化学肥料や農薬を削減し、日本の耕地面積の25パーセントを有機農業にするなどの選択をせざるを得なくなりますね。

鈴木 それしかないんですよ。江戸時代の農業みたいになるしかない。その循環型農業を見て、リービッヒというドイツの肥料学の大家が「こんなすごい国があるのか」と驚嘆しています。農水省のみどり戦略の担当者も「肥料原料はカリもリンも100パーセント輸入だからもたなくなる。だから、みどり戦略なんだ」と話していました。
もう一つ付け加えたいのが、みどり戦略が数値目標として提示している有機減農薬・無農薬農業に取り組む耕地面積ののうち100万ヘクタールが水田だということ。この点についても農水省の担当者が「ほとんど水田で考えています」と明言しています。

加藤 やはり大前提は水田を残すことであり、有畜や耕畜連携の可能性にかけるのが日本の未来を切り開く基軸になるとも思います。日本農業の未来は大規模化や輸出だという政府方針はやはり一面的で、そうなると化学肥料に頼る現実を突破できない好ましくない技術化やイノベーション(技術革新)に頼らざるを得なくなるだろうと思います。私は家族経営の農家が地域で知恵と技術を出し合い、「点から面へ」の連帯を通して有機農業の方向性を達成していく方向性を着実につくっていく、消費者もそれを支える。すでに危機のさなかにあって時間がないなかでも、それしかないと思っています。           
(次回に続く)
撮影/魚本勝之 取材構成/生活クラブ連合会・山田衛

「飽食」と「呆食」の時代は過ぎ去ったのだから

生活クラブ オリジナルレポート WEBオリジナルレポート

掲載日:2022年8月25日

対談(下) 東京大学大学院教授 鈴木宣弘さん
       生活クラブ連合会 加藤好一顧問

新型コロナ禍にウクライナ紛争、気候危機などさまざまな要因で日本の「食」が大きく揺らいでいます。いまはまだ小売店の店頭から食料品が消えることは幸いにもありませんが、はたして今後も大丈夫といえるでしょうか。その実状と課題解決の道筋について、前回に引き続き東京大学大学院教授の鈴木宣弘さんと生活クラブ連合会の加藤好一顧問の意見を聞きました。

米国の「顔色」を常に意識し、動けない政治家

――岸田政権は「経済安全保障」を掲げていますが、そこに食料確保のための「自給力向上」という視点が欠落していることが前回のお話でわかりました。本当に首をかしげざるを得ないことです。とにもかくにも貿易自由化を進めれば食料危機を乗り越えられるという政治は、日本の食料自給の要であるコメと水田まで切り捨てようとしているのは信じがたい話です。日本には良質なコメがある。なぜコメを媒介に諸外国との連帯を強化しようという見地に立った政治ができないのでしょうか。日本が食料危機に直面しているとき、より深刻な事態に見舞われている地域が世界には数多くあるという現実を看過してはならないと思います。

鈴木 そうですね。行き過ぎた貿易自由化が経済力に物を言わせた富裕国が他国の食料を奪うことに通じているとの視点が失われているのは実に気になります。かねてから私は再三再四、アジアモンスーン地域とのコメを介した連帯を提唱してきました。それが国際関係の安定に大きく貢献する道と信じるからです。一国だけの安全保障というよりはアジア全体で助け合う仕組みを日本が率先して用意していくことが今後もますます重要になってくると思います。

 これも何度も申し上げていることですが、コメが余っているというなら、政府が農業予算で買い上げて海外支援に回すなり、新型コロナ禍で生活が厳しくなっている国内の人たちに提供するといった機動的な対応をすべきなのです。

加藤 海外にコメを送るという選択もありますが、何より国際相場を高騰させないようにすることも重要になると思いますが、どうでしょうか。先生もご著書の「農業消滅」(平凡社新書)でそういう問題提起をなさっていますね。

鈴木 そのほうが確かに大きい効果が得られると思います。2008年の食料危機の際に日本が「コメを20万トン拠出する」と言っただけで、相場はガクンと下がりました。それほど日本のコメの力は強いということです。そのことは自民党の政治家も熟知しているはず。それでも彼らが動こうとしないのは米国の圧力が強いからです。コメの国際相場が低下すれば、世界市場における米国の利益が損なわれるという理由で、彼らは日本の「勝手」を許しません。これに手向かえば政治生命に関わるため、日本の政治家は動かないのではなく動けないのです。

「2030年に農業消滅」?その危機をどう乗り越えるか

加藤 米国の顔色をうかがわざるを得ない政治が日本農業を窮地に追い込んでいく流れと米国の食料戦略による世界支配については、「農業消滅」に具体的かつ詳細に書かれています。当初、タイトルから推察したのは、そのような暗く悲観的な内容ばかりなのかなと思いましたが、読ませていただいたら全然違うことがわかりました。とりわけ後半は日本農業を消滅させないための提言が数多く散りばめられているという印象です。その本の冒頭で鈴木さんは2021年2月7日に放送された「NHKスペシャル 2030 未来への分岐点(2)飽食の悪夢~水・食料クライシス~」を例に引き、番組は2050年に日本が飢餓に直面すると警告していたが、その15年前の2035年には日本の食料自給率は大幅に低下するという危機感を示されています。そこにウクライナ紛争という形で「有事」が拍車をかけました。

鈴木 本当にNHKは頑張ってくれたと思いますし、その示唆した内容は衝撃的なものでしたが、新型コロナウイルスの感染爆発で世界的に物流が麻痺(まひ)したため、種(たね)の輸入が滞ったことで野菜の種の90パーセントが外国で生産されていることが明らかになりました。生産国が輸出規制に踏み出したり、物流が停滞したりすれば、野菜は現状の8パーセントしか栽培できません。

 飼料用トウモロコシの輸入も激減し、その98パーセントは国産とされる鶏卵もヒナの100パーセント近くが輸入ですから、すぐ一巻の終わりじゃないかということです。そんな危機的なレベルが今回のウクライナ紛争で一段と高まってしまった。2035年どころか、いまの日本は薄氷の上にいると認識しなければなりません。これまで私の言葉を「まさか、そんなぁ」と聞いていた人も「どんどん言っている通りになるんだけど」と深刻に受け止めてくれるようになってきました。

加藤 国連の持続的な開発目標である「SDGs」の達成期限が2030年。この2030年を重視するのは環境問題の分野が多いわけですが、日本農業の問題という点では2030年に昭和一桁世代といわれている、戦後の日本農業を支えてきた生産者たちが、おそらく完全にリタイアしている時期になります。

鈴木 その意味でも農業消滅です。このままでは自然にそうなります。加藤さんのご指摘通り、あの本の後半部分では農業消滅の危機をどう乗り越えるかという点に力を注ぎました。種から始まって生産から消費までの繋がりを強固にし、だれもが不安なく口にできる食べ物を確保していくネットワークを構築できれば危機は回避できるのではないかと思うのです。それには生活クラブ生協が取り組んでいる「産地提携」のように、もっと消費者が生産に関わり、加工・流通事業者も含めた支え合いの強化が必要なのです。その核になるのは協同組合。生協と農協がしっかりと核になってネットワークを繋げる役割を果たしてもらいたいですね。

協同組合が中心となった「産地提携」の強化を

加藤 もう一つあります。SDGsの達成に向けてアプローチを続けていく際、農業に関していえば「フードマイル」と「バーチャル・ウォーター」などの視点を持つ必要があると思います。他国の食料を経済力でかすめ取る行為は水資源の収奪にも通じていることを忘れてはならないと思うのです。その一方で日本の国土は、輸入穀物をはじめとする人間の諸活動が発生させた「廃棄窒素」によって、窒素汚染が尋常ではないレベルに達しています。これは大問題ですね。だから食料は可能な限り自給していかなければならないとの考えから、生活クラブは産地提携を進めてきました。だれもが不安なく口にできる食料を手にするには、いわゆる「顔が見える関係」だけでは難しいでしょう。「顔が見える」ことにプラスして互いが対等互恵の関係にあることが重要ですよね。私は協同して事を成すという意味を込めた「提携」という言葉を重視し、そこに大手小売業との根本的な違いがあり、生活クラブが協同組合たるゆえんがあると考えています。

鈴木 そういう産地提携を協同組合が核となって各地で進めてもらいたいのです。その動きをバックアップするための根拠法となる「ローカルフード法」(仮称)を議員立法で提案する準備を国会議員の川田龍平さんが中心になって進めています。この法律を根拠法として政府予算を生み出し、学校給食に地元の食材を使うための補てんに振り向けることもできます。この法律に加えて農業予算を消費者支援に振り向ける米国型の制度も導入すれば、かなり状況は好転するのではないかと思っています。

加藤 地域への予算措置はモデル事業的なケースでは適用されているようですが、それ以外となるとなかなか難しいうえに常に「上から目線」で全国一律の画一的な運用で硬直していて、実に使い勝手が良くないのが実状ではないですか。

鈴木 そうです。柔軟性もなく、使い勝手が悪いわけです。どうしてそうなるのかを農水省に尋ねると「自分たちの責任じゃない。財務省だ」と言います。予算を付けてもらうために財務省に出向くと「抜け道があるようなものは認められない。きちんと縛りをかけろ」と簡単にはねられてしまうというのです。
まるでわざと使いにくくしているかのようです。そんな発想しかできない人間が法律の杓子定規な解釈だけ勉強して「あれは出来ません」「これも出来ません」と平然としているのであれば、構造そのものがもう腐っているというしかありません。前回、飼料用米振興のための予算措置や穀物栽培促進のための助成金の打ち切りについて触れましたが、トウモロコシや牧草などの家畜飼料の輸入が大幅に滞っているなかでの予算切りですから、時代錯誤もはなはだしいお粗末な対応です。

加藤 少し話は変わりますが、とにかく酪農家はとんでもない事態に陥っていて、コメと同様に牛乳も難儀な状況が続いていますね。地域によって温度差はありますが、乳牛を殺処分すれば1頭に対して5万円支給するという対応はもとより、輸入される牧草や穀物飼料にほぼ全面的に頼らざるを得ない千葉の酪農は大変どころの騒ぎじゃありません。まさに死活問題ですよ。

鈴木 千葉は本当に大変ですよね。そうしたなか、千葉県いすみ市には地元で生産した飼料用米を牛に与えている牧場があります。エサのほとんどがコメ。輸入飼料はほとんど無しで酪農を続けています。

加藤 私もJAいすみに講演に行ったことがあります。いまの低すぎる日本の食料自給を、それでも根本から支えているのはコメであり、コメが基幹食料であることを私は日ごろから強調しています。しかし、その位置付けが揺らいでいるのが大変気になります。やはり、コメの位置付けを再確認するとともに、飼料用米を「ついでに作っているもの」という位置からもっと積極的な位置に転換させなければならないと思っています。

鈴木 ヨーロッパでは主たる飼料は小麦。最も多く生産可能な穀物を有効に使うのが飼料ですよね。その意味でいうと日本は当然コメなんですよ。いま、コメを大事にしなくてどうするかと私は言いたい。あえて繰り返しますが、もはや食料危機に備えよという段階ではなく、すでに私たちは食料危機のただなかにいることを一人でも多くの人に気づいてもらいたいのです。これは脅しでも何でもありません。日本が経済力に物を言わせ、世界の食料を買い漁り、挙句に大量の食品ロスを生んだ「飽食」と「呆食」の時代は過ぎ去ったのです。加藤さん、今日はありがとうございました。

加藤 こちらこそありがとうございました。今後ともよろしくご指導ください。

撮影/魚本勝之 取材構成/生活クラブ連合会・山田衛



すずき・のぶひろ
1958年三重県生まれ。東京大学大学院農学生命研究科教授。専門は農業経済学。東京大学農学部を卒業後、農林水産省に入省。九州大学大学院教授を経て2006年から現職。主な著書に「食の戦争」(文春新書)、「悪夢の食卓」(KADOKAWA)、「農業消滅」(平凡社新書)、最新刊に「協同組合と農業経済」(東京大学出版会)がある。自身が漁業権を保有することでも知られている。

最新刊「協同組合と農業経済」(東京大学出版会)

訃報 当協会副理事長 加藤好一 氏 心不全のため逝去されました。66歳でした。生前の偉業を偲び哀悼の意を表します。
2024年7月13日
一般社団法人日本飼料用米振興協会 構成社員・役職員一同

加藤好一さんの専用ページを作成しました。

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【報告1】生協とJAの実践から「適正な価格形成」を考える 生活クラブ連合会顧問 加藤好一氏|JAcom 農業協同組合新聞


加藤好一氏最後の講演 20240420ダウンロード

上記の報告「加藤好一さん最後の講演」資料の最後に2024年3月25日の「第10回飼料用米普及のためのシンポジウム2024」での閉会の辞の資料が掲載されています。

2023年12月5日 第8回 コメ政策と飼料用米に関する意見交換会 で意見を述べる加藤好一 さん

第8回 コメ政策と飼料用米に関する意見交換会2023
第8回 コメ政策と飼料用米に関する意見交換会2023を開催しました。 開催日程:2023年12月5日(火) 会場:食糧会館(日本橋小伝馬町) 5階会議室(収容8…
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2024年3月25日 第10回飼料用米普及のためのシンポジウム2024 で閉会の辞を述べる加藤好一 副理事長(生活クラブ事業連合生活協同組合連合会 顧問) 

第11回 飼料用米普及のためのシンポジウム2025 案内ページ 下記要領で開催します。是非ともご参加ください。 第10回 飼料用米普及のためのシンポジウム202…
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日本農業新聞 2024年7月18日
[訃報]生活クラブ連合会元会長 加藤好一死去

 加藤好一氏(かとう・こういち=生活クラブ事業連合生活協同組合連合会元会長)。13日午前7時15分、心不全のため死去。66歳。群馬県出身。葬儀は18日午前11時半から東京都杉並区松庵3の16の2、四季風松庵で親族のみで執り行う。喪主は長女の志保美(しほみ)氏。弔問や供花、香典は辞退。弔電は受け付ける。後日、同連合会主催のしのぶ会を開く。

【訃報】生活クラブ生協連の加藤好一顧問が逝去

農業協同組合新聞 2024年7月17日

写真提供 農業協同組合新聞 2024年4月20日の講演

 生活クラブ事業連合生活協同組合連合会の元会長の加藤好一顧問が7月13日午前、心不全で逝去した。
 享年66歳。葬儀は遺族の意向で親族のみによる告別式として執り行う。弔問・供花は受け付けず、弔電のみ受け付ける。
◯葬儀:7月18日(木)午前11時半~12時半
◯場所:四季風 松庵(〒167-0054東京都杉並区松庵3-16-2 TEL:03-3335‐4445)
◯喪主:加藤志保美(長女)
 生活クラブ連合会によると偲ぶ会については改めて告知するという。
 加藤顧問は農業協同組合研究会が4月20日に東京都内で開いた2024年度研究大会「基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く」で、【報告1】生協とJAの実践から「適正な価格形成」を考える、をテーマに報告し、その後も参加者と積極的な意見交換を行った。

【報告1】生協とJAの実践から「適正な価格形成」を考える 生活クラブ連合会顧問 加藤好一氏(2024.4.23)

基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く―現場での対応を通して基本法改正を逆照射する—

農業協同組合新聞 2024年5月7日2024年5月9日

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2024年度 研究大会のすすめ方
テーマ:「基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く」 
―現場での対応を通して基本法改正を逆照射する—

日 時:2024年4月20日(土) 13時30分
場 所:(一財)農協協会5階「サロン JAcom」+オンライン(Zoomでリモート参加)

1.開会                         13:30
2.主催者あいさつ  農業協同組合研究会 谷口信和 会長
3.講師の紹介                      13:35
4.研究大会
(1)報告者とテーマ
解題 「基本法改正は食料安保をめぐる現場での課題にどう応えようとしているか」 谷口信和 氏(東京大学名誉教授)    13:35~13:45(10分)
◆【報告Ⅰ】 「生協~JA間の生産原価補償方式の実践から「適正な価格形成」を考える」 加藤好一 氏(生活クラブ連合会顧問) 13:45~14:25(30分)
【報告Ⅱ】 「枝物部会や出資型法人など多様な担い手育成を通じた地域農業振興」 秋山 豊 氏(JA常陸代表理事組合長) 14:25~15:05(30分)
【報告Ⅲ】 「コウノトリがつなぐ地域と農業 -持続可能な有機農業と地産地消-」 西谷浩喜 氏(JAたじま 常務理事)  15:05~15:45(30分)
休   憩    15:45~15:55(10分)
(2)討 論    15:55~16:550分)
司会 谷口 信和 氏(東京大学名誉教授・農業協同組合研究会会長)
5.閉会のあいさつ  北出 俊昭 氏 ( (一社)農協協会 副会長)     16:58~17:00
6.閉会         17:00

事務局からの開催報告
 約70名(会場参加:41名、オンライン参加:28名)が参加され、「基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く―現場での対応を通して基本法改正を逆照射する—」をテーマに、解題を含め4人の講師による研究や取り組み成果の説明・報告を受け、活発な質疑応答・意見交換が行われました。
ま た、研究大会の概要は、(一社)農協協会JAcomホームページに4月22日~24付で、農業協同組合新聞には4月30日号に掲載されましたので、ご参考ください。

農業協同組合新聞 2024年4月22日【2024年度研究大会】基本法改正の下 わがJAと生協はこの道を行くを開催
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 農業協同組合研究会は4月20日、東京・日本橋の「サロンJAcom」で2024年度研究大会「基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く」を開催した。オンラインも含めて約70人が参加し、現場の実践から考えた今回の基本法改正の問題と今後の課題を議論した。

サロンJAcomで開かれた農協研究会
サロンJAcomで開かれた農協研究会

解題 「基本法改正は食料安保をめぐる現場での課題にどう応えようとしているか」 谷口信和 氏(東京大学名誉教授)    13:35~13:45(10分)


「基本法改正は食料安保をめぐる現場での課題にどう応えようとしているか」谷口信和氏ダウンロード


◆【報告Ⅰ】 「生協~JA間の生産原価補償方式の実践から「適正な価格形成」を考える」 加藤好一 氏(生活クラブ連合会顧問) 13:45~14:25(30分)


「生協~JA間の生産原価補償方式の実践から<適正な価格形成>を考える」加藤好一氏ダウンロード


【報告Ⅲ】 「コウノトリがつなぐ地域と農業 -持続可能な有機農業と地産地消-」 西谷浩喜 氏(JAたじま 常務理事)  15:05~15:45(30分)


「コウノトリがつなぐ地域と農業 -持続可能な有機農業と地産地消-」西谷浩喜氏ダウンロード


(参考資料) 
   一般社団法人日本飼料用米振興協会 主催
   第10回飼料用米普及のためのシンポジウム2024
    「閉会のご挨拶にかえて」   於:東京大学弥生講堂 (2024.3.25)

新農業基本法と飼料用米 ー 閉会のご挨拶にかえて
                        (一社)日本飼料用米振興協会 副理事長 加藤好一


 数年前のことだが、東大農学部の鈴木宣弘東大院教授の研究室にお邪魔したとき、先生が最近農水省や国が、「食料自給率」という言葉を使わなくなっている、という主旨の感想を述べられていた。
 「食料自給率」は私たちにとって最重要の言葉で、先生のつぶやきは気にはなったが、その時はうかつにも聞き流してしまっていた。
 しかしいま、先生のこのつぶやきが重大な意味を持っていたことがわかる。
それは農業基本法(食料・農業・農村基本法)をめぐるこの間の国の議論と動向である。
 この法が制定されたのは1999 年である。
 この時代、食料で困る状況など想定できなかったし、バブルははじけたとはいえ日本経済もまだそこそこ強かった(かつ円安でもなかった)。
 しかし25 年が経過した今日、その状況は一変した。飼料や肥料、燃料の暴騰など生産者の経営圧迫され、酪農などでは廃業もあとを絶たない。
 ただでさえ、生産基盤(担い手・農地)が深刻すぎる状況にあり、そのなかでのことだ。つまりその意味で新基本法制定は必然なのだ。

 しかし東大大学院の安藤光義教授は、新基本法は「新機軸が乏しい。前回の改正は日本型直接払いにつながる制度が用意されていた。今回は目玉がない。
 新たな予算措置を伴う施策は極力避けているように見える」。(日本農業新聞:2/28)

 私も新基本法は問題が多いと思っている。鈴木先生はあるところで(「農業基本法の現在地」/月刊「日本の進路」)、「新基本法の原案には食料自給率という言葉がなく、『基本計画』の項目で『指標の一つ』と位置づけを後退させ、食料自給率向上の抜本的な対策の強化などには言及されていない」、と書かれている。

 これまで自給率目標を掲げてきたが低下する一方で、この間、その総括も対策もなかった。
 わが国は「食料自給」という問題を、意図的に忘却しようとしているかのようだ。
 その結果、「食料の安全保障」という問題意識もその裏づけが希薄になる。
 また「食料自給」の問題では、「種」の自給と自家採取、自家増殖の問題も重要だ。
 加えて日本農業新聞は、新基本法に基づく農水省の戦略として、「農地の受け皿となる農業法人に農地の集積・集約化を加速し、先端技術を活用して、農作業を大幅に省力化。
 食品メーカーをはじめ外部から農業への投資を呼び込み、農業を食料産業化する」ことにあると報じている(2/29)。

 いずれにしても、このあたりの問題が、まずは新基本法の本質的な問題だろう。
 こういう認識が根底にある以上、飼料用米が積極的に位置づけられることはないだろう。
 しかしこの問題に入る前に、戦後農政の本質を振り返っておく必要がある。
 ここでも鈴木先生のご主張をお借りする。

 「戦後の米国の占領政策により米国の余剰農産物の処分場として食料自給率を下げていくことを宿命づけられた」(同上)、いわば米国の51 番目の州、それがわが国である。
 つまり稲作中心の農業になっていったのは米国発の日本の国家政策だった。
 これをいまの政治家や官僚は忘れている。
 私のように60 代以上の年代の、学校給食のメニューを思い出そう。
 コッペパンと脱脂粉乳。
 その背景にはこういう事情があった。

 いま農水省は水田の畑地化を推進したいようだ。
 もちろんこれを全面的に否定するつもりはない。
 しかしこれが声高になるにつれ、国は水田農業からの撤退(食料自給率の軽視)を考えているのではないと懸念する。
 水田は水田として最大限維持され、その結果としていわゆる多面的機能も維持される。
これがおかしくなれば昨今の日本の地方経済を支えるインバウンド(外国人訪日客)にも影響が出るのではないか。

 地方経済というならば、水田を中心とする農業をどうしていくかが最重要な問題のはずだ。
 ここに飼料用米の役割や重要性が明確に位置づけられなければならない。
 しかし畑地化とともに大規模化、輸出、スマート農業を強調する昨今の農政は、問題ありと言わざるをえない。
 飼料用米の助成金単価の引き下げと、品種問題(多収専用品種への誘導)がその根っこの一つだ。ちなみに24 年産転作作物の作付け動向によれば、すでに飼料用米は25 道府県が「減少」の意向だという。
 これは結果としてこうなったという問題ではない。
 ここには明らかに政治的な意図が感じられる。
 由々しき事態だ。
 水稲生産者にはやはり米を作ってもらう。
 これこそが農政の基本だろう。

 さて最後に、基本法論議で重視されている「価格転嫁」の問題についても一言申し述べておきたい。
 冒頭に述べたように、生産資材の高騰などにより、生産者の経営が圧迫され、その持続性が困難になっている。そのコスト上昇分を、流通段階の各所で補填していくべきだという考え方に基づいているのが、この価格転嫁問題の背景にある。
 重要な問題であることは言うまでもない。
 しかしこの問題に対する対処法は、消費者や流通関係者の善意に訴えるレベルにとどまっているように思われる。メディアは今年の大手企業の春闘による賃上げについて景気よく報道しているが、国全体で見た場合にどうなのか。
 ①生産者に対する(大手)流通業者の価格決定権の圧倒的な優位性。
 ②多くの食品のインフレの加速化により、苦しい状況に消費者も追い込まれている現状。これらの問題を重く見た方がよい。
 ではどうすべきか。
 ここでも鈴木先生のご主張をお借りする。
 「欧米は『価格支持+直接支払い』を堅持しているのに、日本だけ『丸裸』だ。欧米並みの直接支払いによる所得維持と政府買い上げによる需要創出政策を早急に導入すべきではないか」(同上)。
 同感である。
 しかし自民党内では戸別補償(直接支払い)に警戒感が強いという(日本農業新聞:3/8)また財源の問題が常に議論になるが、それを考えることこそ政治家や官僚の仕事だろう。
 かつ生産者と消費者との「提携」(共に事を成すこと)という日常的な関係性をどう構築するかも重要だ。
 つまり生消の協同組合間協同の強化だ。
 さて私見を中心に縷々(るる)述べてきたが、当協会の基本的な考え方は、本日のシンポジウムで信岡誠治理事(元東京農大教授)から表明していただいた。
 飼料用米が正念場の状況にあるなか、これを今後の当協会の活動の指針としていく所存である。
 また本シンポジウムでも、各方面から貴重なご意見や当協会に対する連帯のご挨拶を賜った。
 感謝申し上げたい。
 今後とも皆さんの当協会に対するご支援・ご指導をあらためてお願い申し上げ、本シンポジウムを閉じさせていただく。
 本日のご参加、まことにありがとうございました。

副理事長として思うこと 2016年5月24日
加藤好一(かとうこういち)
生活クラブ生協連合会 代表理事会長 ・ 一般社団法人 日本飼料用米振興協会 副理事長
この文書は、第27回JA全国大会に際し、「農業協同組合新聞」第27回JA全国大会特集号 に寄稿したものである。

 今、農業協同組合がめざすべきこと 第27回JA全国大会(20151129)の成功をお祈りする 。
 第189回通常国会が終わった。戦後70周年という歴史的な節目にあって、安部首相はこの4月に米国議会で演説し、
 ①TPP(環太平洋戦略連携協定)を成し遂げること
 ②安保法制を夏までに制定すること を宣誓した。国内で提出されてない法案の成立を約束したのだ。
 このあまりの「暴挙」の陰に隠れてしまって、国民にはわかりづらかったが、安倍首相は自慢のドリルの切っ先をJAグループに定めた。
 こうして農協法が「改正」された。わが国は閣議決定が主導する形で、「平和」とともに「協同」も極端に歪めてしまう道を選択することになった。
 その理由は憶測として様々に頭をよぎるが不明なままだ。
 第27回JA全国大会は、このような歴史的局面にあって開催されることになった。
 この大会が未来への希望と、更なる団結・連帯の確認の場となることを期待したい。
「アーミテージ・ナイ報告書」の不気味
 今国会の安保法制の論戦で、「アーミテージ・ナイ報告書」なるものが注目された。
 この報告書と、安倍政権が数の力で押し通した政策課題の著しい類似性について、生活の党の山本太郎議員が安倍首相に質したのだ。
 アーミテージ氏は米国の元国務副長官、ナイ氏は元国防次官補である。両氏は知日派(ジャパン・ハンドラー)として知られ、報告書は2012年に共同執筆された。
 日本が今後も一流国家であり続けるためにはどうすべきか。
 報告書はこの問いで始まり、米国は強い日本を必要とし、日本が一流でありたいなら米国とともに前進することだと断じる。
 集団的自衛権については、日本がこれを行使しないことは日米同盟の障害だと言い、原発については日本が再稼働しないことは国際原子力開発への妨害だとまで言い切っている。
 当然TPPについては参加表明を急ぐべきことを強調する。
 この報告書には日本に対する数々のこのような提言が記されている。
 そのなかに日本農業についての指摘もある。
 日本の人口は老齢化し、農民の平均年齢は66歳を超えていて、農業貿易政策の調整を延期する余裕がない。
 「もたもたできないぞ」ということであろうか(報告書は岩上安身氏のブログで読める)。 新自由主義的農政の横行と協同の未来
 この報告書が公表されたその年末に安倍政権が発足した。
 以後日本の農政は大きく転換し今日に至る。
  ① コメの生産調整(減反)の廃止、
  ② 農地中間管理機構(農地バンク)の創設、
  ③ 農改革。
 これらが目下の主要な農政課題だろう。
 先日農水省の奥原正明経営局長の講演を拝聴する機会を得た。
 奥原局長は、10年後の日本農業は、「農業の産業としての自立」にあると強調され、そのためにはこれらの農政課題がいかに重要かについて力説された。
 その目的は何か。コメを敵視し家族農業の退場を促す。
 私はこれらに共通する目論見はこれだと勘ぐっている。
 そこに「地方創生」などとても期待できない。
 吉田忠則氏の『コメをやめる勇気』(日本経済新聞出版社)という本を読んだ。
 この本の中心的な主張は、「みんながおなじようにコメをつくれば経営を続けられる時代は、終わった」ということだ。
 「みんな平等」「互助の精神」ではもはやダメだ。「規模」「自立」「経営」だと。
 東京大学の鈴木宣弘教授は、「いま、TPPもなし崩し的に進められ、農業所得のセーフティーネット(岩盤)も崩され、関連組織も解体されつつあり、日本の地域社会や農業に対する『総攻撃』の様相を呈している」と言われている(『「岩盤規制」の大義』/農文協)。
 この状況を反転させなくてはならない。 コメを中心とする農業と地域への支持
 九州大学名誉教授の村田武先生から、近著『日本農業の危機と再生』(かもがわ出版)を贈っていただいた。
 先生はこの困難な情勢にあっても、いや、であるからこそ「焦点は米にある」と断言されている。そして特に「米のゲタ対策」の重要性を強調されている。
 同感である。「米のゲタ対策」については先生のご著書にゆずり、ここでは飼料用米について触れたい。
 飼料用米は、主食用米の消費量が減り続けるなかで、これからの稲作を展望するうえで不可欠な取り組みだ。食料自給、耕畜連携等々、これがもたらすメリットは多い。
 しかし飼料用米は補助金を必要とする。これが最大のアキレス腱だ。そのため農家はこの助成制度が「猫の目農政」にならないかと不安視している。
 吉田忠則氏は先の本で、「収入のほとんどを補助金でうめる飼料米助成は、財政の壁にぶちあたり、いずれ見直しをせまられる」。
 「補助金の使い方の妥当性を疑わざるをえない」と断じている。この制度の足元はかく危い。とすればこれを「法制化」できないか。飼料用米がここまで拡大してきた要因に生協(消費者)の貢献がある。消費者を含めた支持の声を集めて法制化が実現できれば、元気も出て来よう。 地球を壊す「今だけ、金だけ、自分だけ」
 「アーミテージ・ナイ報告書」は、米戦略国際問題研究所(CSIS)が発表したものだ。
 このCSISは米国でTPP推進の重要な役割を果たしているらしい。
 日本では安倍首相の知恵袋たる規制改革会議が、このCSISの意向を受けるような形で今回の農協法「改正」を進めた。
 大妻女子大学の田代洋一教授が、本紙9月10日(2269)号で、農協改革における在日米国商工会議所(ACCJ)の対日要求(JAバンクの他金融機関とのイコール・フッティングやJA共済を巡る問題等)について触れておられるが、ACCJもCSISも新自由主義的な視点から日本を物色している。
 今回の農協法「改正」の議論では、世界中の協同組合が結集するICA(国際協同組合同盟)で決定された、協同組合の価値や原則が足蹴にされてしまった(ここで協同組合基本法制定の重要性が想起される)。
 そんななか先の本紙の同じ号で、今尾和実氏による協同組合の保障事業たる共済と、一般の保険事業との違いに関する連載が始まった。  これも協同組合にとって実に重要な論点である。しかし新自由主義者の方々には、これまた馬の耳に念仏だろう。理論武装が必要だ。
  「資本主義の終焉」や「成長メカニズムの崩壊」のような議論があるなかで(例えば水野和夫氏)、さらに成長を欲すれば、これまであったルールをご都合主義的に変更し、他者のものを横取りするような経済活動が正当化される。
 「今だけ、金だけ、自分だけ」(鈴木教授)を行動規範とする一部の人たちが、社会を主導し富を集積させる。無理を道理と言いくるめた無茶苦茶がまかり通る。
  よりよい社会に向かって  泣き言はやめよう。  協同組合は「社会の自己防衛」「社会の良心」たることを使命とし、「協同」によって「よりよい社会を築く」ことを課題とする。
 このことをしっかりと覚悟したい。
 評論家の内橋克人氏が「FEC自給圏」を提唱されている。
 食料とエネルギーと福祉・たすけあいの自給圏づくり。
 これこそ協同組合の課題であろう。
 JAグループのみなさんは、これまで総合農協として地域のライフラインを築いてこられた。その実績に重ねてこの課題をより積極的に位置づけられまいか。
 JAグループこそ、協同組合横断的にこの課題を推進する牽引役にふさわしい。
 2015年に終了する「ミレニアム開発目標」に続き、世界の心ある人びとは、いま「持続可能な開発目標」への挑戦を始めている。
 このままでは新自由主義によって地球は壊わされてしまう。
 こういう状況にあってこれは重要な挑戦だ。日本の協同組合陣営も、この挑戦の環に参画すべきである。

加藤好一(かとうこういち)
生活クラブ生協連合会 代表理事会長
一般社団法人 日本飼料用米振興協会 副理事長
この文書は、第27回JA全国大会に際し、 「農業協同組合新聞」第27回JA全国大会特集号 に寄稿したものである。

協会正社員組織、賛助会員組織のホームページの紹介
(生活クラブ生活協同組合連合会)

日本飼料用米振興協会ホームページ
2024年5月10日2024年5月21日

生活クラブ生協とは?
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生活クラブ生協での飼料用米に関する取り組みのついての紹介

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