【2026新年号】藤井聡京都大学教授にインタビュー
政府がすべきは「個別所得補償」
JCOM 農業協同組合新聞 2026年1月9日
2026本紙新年号は「食料安全保障と農業協同組合」をテーマにした。気候危機や不安定な世界情勢のなか、食料安全保障の確立がいっそう重要となるなか、地域に根ざした農協の役割は農業振興と食料の安定供給にとってますます重要になる。本紙新年号ではこのテーマを軸に政治、行政、学識者にJAトップ層が生産現場を踏まえて聞くインタビューを特集した。藤井聡京都大学教授に生川秀治JAみえきた組合長がオンラインでインタビューした。

政府は責任を果たしていない
生川 本日はまず、農業や農協についてのご意見を伺いたいと思います。
藤井 日本は「貿易立国」の政策により、貿易交渉で農畜産物は譲歩を重ねた結果、農業が犠牲にされ、歪められました。「食料安全保障」や「食料自給率」も言葉先行で議論が十分ではない。先進国であれば農業を守ることは絶対に必要です。食料の安定供給は国家の責任であり、重要な政策分野です。
生川 農業を守るために必要なことはなんでしょう。
藤井 政府が直接サポートする財政支援と、関税で外国産農産物が国内市場で支配的にならないようにする方法が、世界的に標準的な農業保護政策です。しかし、日本はいずれも世界最低水準に近い。
日本の農作物の平均関税率は11.7%で、EU19.5%、スイス51%、ノルウェー・インドは120%を超えます。政府の直接支援もアメリカは日本の約2.5倍、EU1.7倍。結果として食料自給率が低下し、政府は責任を果たしていません。
緊縮財政が農業を歪めた
生川 なぜ財政支援を渋るのでしょうか。
藤井 緊縮財政が最大の問題で、同時に保護主義でもない。「自由主義かつ緊縮」では農業は「虐待」に近い扱いです。政府の態度が長年にわたって道徳的ではなく、倫理性が低い状態だった。国民の食と農を守るべき道徳感覚が衰弱している。
「責任ある積極財政」には期待
生川 高市政権には期待できますか。
藤井 「責任ある積極財政」の「責任」には食料確保も含まれます。食料自給率の確保についても積極的に発言されている。農政に根本的な転換を倫理感・責任感に基づいて果たして貰えるのではないかと期待しています。
生川 地方は疲弊し、耕作放棄地も増えています。中山間地ではクマも出ています。
藤井 経済界は農業を「単なる食料供給産業の一つ」としか見ていませんが、本来は安全保障や雇用、地域振興などの政策であり、輸出増や輸入抑制は外交カードになる。また、農村には国土保全や教育、文化継承など多様な役割があります。
「安い農産物を海外から買えばよい」という発想は至って貧しい議論。ここにおいてもやはり、戦後日本の道徳性の劣化問題が顔を出していると思います。
農協は農家そのもの

生川 農協も様々な批判を浴びています。
藤井 「利権にしがみついている」「中間マージンで価格が高くなる」など誤った認識があります。「JA」というから分かりにくい。農業協同組合は搾取を防ぐため農家自身が作った組織で、農家そのものです。株式会社になれば利益最大化のため仕入れを安く買いたたきたいと考える。そうした仕組みを知らない知識の欠如が招いた誤解です。
そして、ここでもやはり「協同」すること、つまり「人と人が協力すること」の重要性を理解するという、道徳性の劣化が戦後日本において進行している問題がある。
生川 「郵政民営化の次は農協民営化だ」という的外れな議論もありました。
藤井 農協を解体すれば、農家は巨大資本と一対一で向き合い搾取されます。政治家は既得権益層ばかりを見ている。国民も実体ではなく、「マスメディアにどう映るか」とフィルター越しにしか見ていないのです。
諸外国並みの支援を
生川 鈴木農水大臣には期待しています。
藤井 関税と政府の直接支援の必要性を理解していると思います。しかし、緊縮財政下では減反や「おこめ券」程度しかできません。本来のゴールは政府支援の拡充で、「農家の個別所得補償」が必要です。
生川 「減反に舵を切った」という評価もありますが、展望が語られていません。米価が上がり、農家は喜ぶ一方で「もう少し安くてもいいが、安定してほしい」という感覚です。
藤井 鈴木農水大臣のメッセージの出し方が間違っています。「価格はマーケットで決まる」という発言は「農家は滅んでもよい」に等しい。価格は所得が守られる範囲内で市場が決めるべきです。必要経費を差し引いた平均的な年収が1万円という試算もあり、正当ではありません。
価格以上に重要なのは農家の所得です。財務省や他の政治家に対して、諸外国並みの政府支援や、農業が市場任せでは持たない現実を粘り強く訴えてほしい。
生川 JAグループの金融や共済といった機能も攻撃のターゲットになっています。
藤井 資本家から見れば、農協は「おいしそうに太った豚」です。以前よりはずいぶん細ってはいるでしょうが、未だに十分太っているので、魅力的で「食べたい」と思われています。
生川 小さな農家を整理せよという議論もあります。
藤井 集約化には一定は賛成ですが、集約できない地域も多い。「小さいところは潰せ」という発想は乱暴で、最終的には外国産米依存に必ず繋がる。作付面積だけを基準にするのは誤りで、農地の多面的な価値を総合的に評価すべきです。
生川 高市総理は農業をどう考えているのでしょうか。
藤井 「食料安全保障」はよくおっしゃっていますし、既存の田畑の保持、活用や農業支援には繰り返し言及しておられます。「責任ある積極財政」「食料安保」を掲げる以上、農業をしっかり支援していただきたい。
「手数料主義」の理解を促す
生川 最後に、農協が取り組むべきことは。
藤井 農協は利益拡大が第一ではなく、販売価格の一部を手数料として受け取る「手数料主義」で運営されています。安く買い叩く構造ではありません。価格安定化を志向しているが、社会はそれを全く理解していない。その理解を徹底的に促す必要があります。
生川 「米の買取り」や概算金の仕組みも理解されていません。
藤井 理解せず批判する人が多い。概算金や最終精算で農家に還元される構造を伝えることが大切です。
生川 今日は多くの示唆をいただきました。農業や農協について理解されにくい論点を、今後さらに情報発信を強めていきたいと考えています。本日はありがとうございました。
【インタビューを終えて】
楽しみにしていた藤井聡先生との対談は、テーマとして農業と農業協同組合に焦点を合わせましたが、想像通り明解でズバリ本質を衝くもので感銘を受けました。何より広い視野で農業問題を考えておられる点や農業協同組合に対する深い理解はとても頼もしく思いました。議論が白熱化してくると、お互い関西弁で、考え違いをしている農水省OBや政治家の固有名詞が飛び交い、とても楽しく刺激的な時間となりました。感謝。(生川)
| 【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】 コメを守るということは、文化と共同体、そして国の独立を守ること JACOM 農業協同組合新聞 2025年11月14日 コラム・ 米 |
| 拙著『もうコメは食えなくなるのか 国難を乗り切るのにほんとうに大切なものとは』(講談社新書)の書評として、徳本昌大氏が筆者の想いを見事にまとめて下さったので、今回は、それを共有させていただきました。 https://tokumoto.jp/2025/11/53088/ 本書の要約 「令和の米騒動」は猛暑やインバウンド需要の急増だけでなく、長年の農政の歪みが引き起こした構造的な危機です。 備蓄米の放出も根本解決には至らず、農家の疲弊と供給基盤の脆弱化が問題の核心にあります。 鈴木宣弘氏は、農業を「国民の命を守るインフラ」と位置づけ、政府による生産コスト補填と「国消国産」の実現を提唱。 地域単位で自給圏を築き、自らの手で農と暮らしを守る取り組みの重要性を訴えています。 令和の米騒動の原因とは? 農家が安心してコメを増産できる環境をつくらなければ、「令和のコメ騒動」は今後も何度でも再発するだろう。(鈴木宣弘) 日本の食卓を揺るがした「令和の米騒動」は、単なる一時的な需給の乱れではなく、長年にわたる農政の歪みが噴き出した国家的危機でした。コメが消え、価格が高騰した背景には、猛暑やインバウンド需要の急増といった短期的な要因もあります。 しかし、真の原因は、農家を支える仕組みを削り続けてきた政策構造の欠陥にあります。 この現実に最も鋭く切り込んだのが、東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授の鈴木宣弘氏です。 本書もうコメは食えなくなるのか 国難を乗り切るのにほんとうに大切なものとはは、まさにこの危機を正面から描き出した警鐘の書となっています。 鈴木氏が指摘するのは、農協や流通の問題ではなく、国の根幹を揺るがす「農政の敗戦」そのものです。政府は需要減に合わせて、毎年10万トン単位で生産を削減する減反政策を半世紀以上にわたって続けてきました。 さらに、「コメは余っている」という論理のもと、水田を畑に転換する政策まで導入され、田んぼが潰されてきたのです。 パンや麺類など小麦製品の値上がりが続く中、相対的にコメが割安になり、低所得層を中心にコメへの回帰が顕著になりました。 宮城大学の森田明教授の分析によれば、2022〜2025年にかけて、2人以上世帯の年間コメ購入量は56.6kgから60.2kgへと増加し、家計全体で13万トン以上の需要増が確認されています。 さらに、インバウンド需要も2.1万トンから6.3万トンへと急増し、需給バランスが一気に崩れました。 このような経緯の結果として生じたのが、「令和の米騒動」なのです。 事態の深刻化を受けて、小泉農林水産大臣は備蓄米の放出に踏み切りましたが、混乱を抑えるには不十分でした。放出量は限られ、そもそも備蓄そのものが足りていないという構造的な問題もあります。 火に油を注ぐほどではなかったにせよ、根本的な需給のひっ迫や生産基盤の弱体化を解決するには至りませんでした。 米価の急騰に直面した消費者の不安は払拭されず、現場の農家にも安心は届かないままでした。 しかし、この問題を単なる天候不順や一時的な需給の乱れとして片づけるのは、あまりにも表面的です。 本質にあるのは、農家の疲弊と、それを見過ごしてきた政策のあり方そのものです。 米価が下がり続け、利益が見込めない構造の中で、多くの農家が離農を余儀なくされ、後継者も育たない。政策が生産者の背中を押すどころか、突き放してきたのです。 令和の米騒動の解決策とは? 生産者が赤字にならないように、食料生産にかかるコストは政府があらかじめ補填する。 こういう仕組みを構築すれば、消費者は安く食料品を購入でき、生産者は十分な所得が得られる。 この二本立てで、日本は現在の農業政策を再構築するべきだ。 ここで鈴木氏が最も強く批判しているのが、財務省の存在です。 財務省は農業を「削るための予算の調整弁」として扱い、50年前には国家予算の12%を占めていた農水予算を、現在ではわずか2%未満にまで削減しました。 防衛費が10兆円を超えて拡大する一方で、食料安全保障への投資はほとんど放棄されています。 官僚たちは「市場に任せればよい」「足りなければ輸入すればいい」といった論理で農政を軽視し続けてきましたが、世界的な異常気象と地政学的リスクが高まる現在、その考え方は完全に時代遅れです。 中国は14億人が1年半食べられるだけの備蓄を確保している一方で、日本の備蓄はわずか1か月半分に過ぎません。財務省が「カネがない」と突っぱねている間に、食料自給率は38%まで低下し、輸入依存のリスクは高まるばかりです。食料を海外に委ねるということは、主権の一部を他国に預けることと同義です。 鈴木氏は、食料を単なる商品ではなく、「国民の命を守るインフラ」として位置づけ直すべきだと訴えています。国内で消費する食料を国内で生産する「国消国産」を掲げ、生産コストを政府が補填する仕組みを整えれば、農家は赤字を恐れずに生産を継続できます。 消費者にとっても、安定した価格での供給が保証され、持続可能な循環を取り戻すことが可能になります。この制度改革こそが、次なる「食糧敗戦」を防ぐ唯一の道なのです。 鈴木氏の提言はきわめて明快です。農業は費用ではなく、国家の未来への投資であるということです。 財務省が数字の論理で削り続けた結果、今や日本という国家全体が命のインフラを失いかけています。コメを守るということは、文化と共同体、そして国の独立を守ることにほかなりません。 そして今、地域コミュニティを崩壊させる「今だけ、金だけ、自分だけ」の政治・行政の流れがますます強まってきています。そうした空気の中で、国民の命を支える農業や食料政策が後回しにされている現実を、私たちは見過ごしてはいけません。 米国の言いなりになり、農政をコントロールされていては、私たちはいつまでも独立した国家とは言えません。 いまこそ、アメリカに対しても政治家や官僚が正しい主張をしなければならない時です。 そのためには、もちろん政治や行政にも責任を果たしてもらう必要があります。 しかし、それを待つだけでは足りません。まず、私たち一人ひとりが、自分たちの暮らす地域から、農と食と暮らしを自分たちの手で守る仕組みづくりを強化していくことが求められています。 「みんなで作って、みんなで食べる」。 そんな地に足のついた自給圏をつくる動きは、すでに各地で芽吹きはじめていると著者は指摘します。 本書では世田谷区の有機米給食、和歌山の給食スマイルプロジェクト、徳島の耕作放棄地の再生プロジェクトなど全国のケーススタディが紹介されています。 実際、私自身も数年前から、ある農家の方からお米を定期的に購入しています。 その農家さんの掲げるビジョンに共感し、その真摯な姿勢を応援したいという気持ちから始めたものでした。 結果的に、今回の「令和の米騒動」でも慌てることなく、安定した形でお米を手にすることができました。顔の見える関係を築くことで、単なる消費ではなく、暮らしをともにつくる実感を得られています。 「食料は金で買うものではない。作る力こそ、未来を守る力である」 この一文こそが、本書が私たちに突きつける最大のメッセージであり、財務官僚主義に支配された日本社会への痛烈な問いかけなのです。 |
目次
- 農政:【極端気象・猛暑・豪雨とどう向き合うか】(2)「暑すぎた夏」原因は海に 釜ゆで状態だった日本列島JACOM 農業協同組合新聞 2025年9月2日
- 全農 備蓄米の出荷済数量84% 7月17日現在農業協同組合新聞 2025年7月18日
- 2025年 備蓄米関連ニュースまとめ【放出・政策・需給動向】2025年5月23日
- 主食用10万ha増 過去5年で最大に 飼料用米は半減 水田作付意向6月末
- 備蓄米入札 23年産10万t 4月21日週に実施関係者と意見交換も農業協同組合新聞 2025年4月11日
- 政府備蓄米 21万t販売 初回は15万t 3月初め入札 農水省農業協同組合新聞2025年2月14日
- コラム【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】サツマイモを消せば世論が収まると考えたお粗末さ 農業協同組合新聞 2025年1月24日
- 【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】これ以上農家に負担を押し付けてはいけない~国内生産は過剰でなく足りていないのだから生産調整でなく出口調整が不可欠 JCOM 農業協同組合新聞 2024年12月18日
- JCOM 農業協同組合新聞 2024年11月21日コラム【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国家戦略の欠如
農政:【極端気象・猛暑・豪雨とどう向き合うか】(2)
「暑すぎた夏」原因は海に 釜ゆで状態だった日本列島
JACOM 農業協同組合新聞 2025年9月2日
| 8月最終日の31日に、名古屋市で最高気温が40度に達するなど、今年も日本列島は猛暑に襲われ、夏(6、7、8月)平均の気温が観測史上最高となった。 農業にとって重要なのは、ある特定の日の気温ではない。 長期の平均的気温が重要なのだ。 瞬間の気温は特定の気象現象が決める。 しかし長期になればなるほど、異常高温の原因の主役は二酸化炭素に代表される温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化となる。 そしてその影響が海に蓄積される。海に蓄積された余剰の熱が日本を暑くしている。 今回はそれをひもとこう。 今年の日本の夏はなぜこれほど暑いのか? 人は、その原因を気象の異常に求めがちだ。 確かに今年も太平洋高気圧やチベット高気圧が強かった。 しかし、それだけでは、今年が去年よりも圧倒的に暑い理由としては説明不足だ。 今年の海水面の温度は異常に高く、過去最高を記録。 しかも去年よりも遙かに高いのだ。海に囲まれた日本列島は、煮えたぎった釜の中心に日本列島があったようなものだ。 「釜ゆでの刑」といっても過言ではない。だから暑いのだ。 昔の日本周辺の海面水温は低かった。だから、海風が入れば気温が下がる。 日本は四方を海に囲まれているので、風向がどちらを向いていようとも、日本のどこかは海風が吹く。 海風は、高温となった日中の気温をある程度下げてくれる。日中に上がった気温を、午後に吹く海風が夕方までに一旦リセットしてくれる。 これが冷涼な海風の冷却効果だ。ところが、水温が異常に高いことから、海風による冷却効果が弱まり、毎日毎日、少しずつ、陸に熱が貯熱され続ける。 貯熱状態下で、強い太平洋高気圧に覆われる日には、これまでに経験が無いような温度にまで、気温が上昇してしまう。 海から吹く高温の空気は水蒸気が多い。 水蒸気も二酸化炭素と同じ温室効果ガスである。 だから日中に暖まった地面からの熱を、水蒸気が吸収し、夜間の放射冷却を弱める。 だから日本は、夜でも暑い。海の効果はじわじわと、そして根深く、ボディーブローのように効く。 夏を通した平均の気温がダントツに高い理由がこれだ。 だからこそ、農業に関連する人たちは、もっと海に関心を持って欲しい。 ではなぜ、今年の日本周辺の海面水温がこれほど高温だったのか。 それは、6月の異常が原因だ。 順を追って説明しよう。 例年だとジメジメとした梅雨が続く6月だが、今年は違っていた。6月18日には北上していた梅雨前線が消え、日本列島で35度を超える猛暑日が続出した。 なぜ、こんな天気になってしまったのか。 今年は6月から偏西風が日本のはるか北を蛇行していた。 偏西風は南から来る暖気と北から来る寒気の境目で吹く。 そして、梅雨前線はその偏西風の上にできる。 偏西風が日本の北側を通り、南からの高気圧が張り出していることが、梅雨前線が北上したことの直接の原因だ。 こうした偏西風の蛇行は猛暑の真夏にはよく見られる。 しかし、6月になることは過去にはなかった。 なぜ、このような状況になってしまったのか。 理由は三つ。 一つめは、日本の西にある中国のチベット高原の気温が春からずっと暖かかったこと。 この背景には温暖化がある。気温が高いと雪解けが早くなり、地面の温度が上がっていく。 チベット高原は標高5000mくらいの高地なので、その高さにある気温も上がっていく。 そして、その熱くなった空気が偏西風によって、日本にやって来る。 二つめは、昨年と同じく、日本の南にある太平洋やインド洋などの熱帯地方の海面水温が非常に高いこと。 すると、熱い空気が熱帯から日本のある中緯度までやって来る。 そして、太平洋高気圧を北にグッと押し上げる。 三つめは、北海道の北に南北傾斜高気圧があること。 気流の高気圧は上空から空気が降りてくると、圧縮されて地上の温度が上がる。 このように、日本列島の高度10kmくらいのところにチベット高気圧があり、地上付近に太平洋高気圧がある。 そして、その間に南北傾斜高気圧が入ってくる。 いわば、日本は”高気圧のトリプルバーガー”のような状態になっていた。 この三つの強力な高気圧があるために、偏西風や梅雨前線は北に押しやられてしまっていた。 そして、このトリプル高気圧のために、6月は記録的な猛暑になった。 6月の猛暑が海面水温を上げた。 暑いと地面の温度が上がるが、日本周辺の海面水温も上がる。 特に夏至(6月21日)の前後が暑いと、より海面水温があがりやすい。 なぜなら、夏至は1日のうちで最も昼の時間が長い日だから、晴れれば一年で最も水温を上げる効果が大きい。 今年の夏は6月の梅雨前線消失とトリプル高気圧の影響が、海に蓄積され、8月まで暑い状態が続いた。 6月の異常が、7月や8月の異常を呼んだのだ。異常気象は、次の異常気象を呼ぶ。 その仲介役が海だ。 今年の夏は、猛暑だけでなく、災害級の豪雨が各地で発生した。 猛暑と豪雨は関係している。それは次回に解説しよう。 【略歴】 1961年北海道生まれ。 三重大学大学院生物資源学研究科地球環境学講座気象・気候ダイナミクス研究室教授。 札幌南高等学校卒業。北海道大学大学院理学研究科博士後期過程終了。博士(理学)。 小学生のときに、雪の少ない地域や豪雪地域への引っ越しを経験し、気象に興味を持つ。 「羽鳥真一モーニングショー」を始め、ニュース番組にも多数出演し、異常気象や気候危機の情報を精力的に発信。 北海道大学低温科学研究所、東海大学、ワシントン大学、海洋研究開発機構等を経て、現職。 専門は気象学、異常気象、気象力学。 2023年三重大学賞(研究分野)、2024年東海テレビ文化賞。日本気象学会理事、日本雪氷学会理事。近著に『異常事象の未来予測』(ポプラ社)などがある。 【極端気象・猛暑・豪雨とどう向き合うか】(1)観測史上一番の猛暑 秋まで続く? 三重大学大学院教授・立花義裕氏 |

三重大学大学院生物資源学研究科地球環境学講座教授 立花義裕氏
全農 備蓄米の出荷済数量84% 7月17日現在
農業協同組合新聞 2025年7月18日
JA全農は7月18日、17日現在の政府備蓄米の販売状況を公表した。
出荷済み数量は24万8641tで進度率は84%となった。前週の80%から4ポイント増えた。出荷依頼に対しては100出荷した。この1週間の出荷数量は1万1711tで、1日に2300t程度を出荷している。
出荷依頼数量は7月出荷分で5万2593t、8月出荷分で1万335tとなっており、4月からの出荷依頼数量の合計は27万9236tで進度率は94%となっている。
出荷依頼待ち数量は1万6959tで契約数量の5.8%となっている。
2025年 備蓄米関連ニュースまとめ【放出・政策・需給動向】2025年5月23日
主食用10万ha増 過去5年で最大に 飼料用米は半減 水田作付意向6月末
農業協同組新聞
2025年7月18日
農水省は7月18日、6月末時点の水田の作付意向を取りまとめ公表した。

主食用米の作付意向は24年産実績と比べると10.4万ha増の136.6万haが見込まれる。
4月末時点の調査と比べると2.9万ha増えた。
これを平年単収(10a539kg)で生産量を計算すると735万tに相当し、前年より56万t増加する。
過去5年間で最大の生産量となる見込みで、生産量の伸びは主食用の生産量調査を開始した2004年産以降、最大となる見込み。これまでの過去最大は2005年産で前年比33万t増だった。
全国的に主食用米を増産する傾向だが、地域差がある。北海道・東北、関東では前年比10%増以上の県も多く増産余力があることが示された。これに対して、西日本では鹿児島(12%増)、熊本(10%増)など九州を除くと、3%から5%程度の増産にとどまっている。
また、新潟と北陸も3%から7%となった。
主食用米の増産傾向の一方、戦略作物は軒並み対前年減となった。とくに飼料用米の作付け意向は4.9万ha減の4.9万haでほぼ半減する見込み。
加工用米は0.6万ha減の4.4万ha、輸出用など新市場開拓米は0.2万ha減の0.9万ha、米粉用米は0.3万ha減の0.4万ha、WCS用稲は0.7万ha減の5.0万haとなった。また、麦は0.7万ha減の9.6万ha、大豆は0.9万ha減の7.6万haとなった。
農業者の営農計画書の提出期限は6月末だが、25年産からは8月20日まで営農計画書を変更できる。実際の作付面積の確定はその期限以降となる。
備蓄米入札 23年産10万t 4月21日週に実施
関係者と意見交換も
農業協同組合新聞 2025年4月11日
江藤拓農相は4月11日の閣議後会見で3回めとなる政府備蓄米の売り渡し入札を21日の週後半に実施することを明らかにした。
売り渡すのは23年産米で数量は10万t。対象者はこれまで2回の入札と同じ仕入れ量が年間5000t以上の集荷業者。原則として売り渡しから1年以内の買戻しを条件とする。
売り渡し数量を10万tとしたことについて、江藤農相は3月末に公表した流通調査結果で集荷業者の集荷量が前年に比べ31万t不足していたことを挙げた。昨年12月末時点で集荷不足が21万tだったことから第2回までの入札で21万tを売り渡した。今回は31万tとの差の10万tを売り渡すことにしたと説明した。
農水省は石破総理の指示を受けて端境期の7月まで毎月、政府備蓄米の売り渡しを実施することにしている。ただ、売り渡し数量や時期について需給状況を踏まえて決定するとしている。
農水省は政府備蓄米を買い受けた業者には販売数量や価格を隔週で報告することを義務づけている。江藤農相は4回目以降の売り渡しについて、「国民の受け止め方」も判断材料にするとして店頭の価格水準も考慮する考えをにじませたが、あくまで備蓄米の売り渡しは「流通が円滑化することが基本。その結果、価格が落ち着く」との立場だ。
また、江藤農相は4月14日に集荷業 者、卸売業者、小売業者など関係者との意見交換会を実施し、「米価高止まり解消に向けた取り組みを要請する」と述べた。
一方、米国の関税措置にともなう今後の日米の協議で米政府は米をはじめ農産物の輸入拡大や枠外関税率にも言及する懸念もあるが、江藤農相は「1kg341円の従量税は、米国に対してではなくウルグアイ・ラウンド交渉のなかで広く国際社会に約束したことであり極めて重い」と多国間で締結したWTО協定に基づくものであることを強調した。
同時に「米は主食。主食を海外に頼るのは日本の食料安保上、決していいことではない。国内の農業、水田を守っていくことがいかに大事か、この機会に(国民に)しっかり考えていただきたい」と述べた。
コラム
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】
国内供給を放置して進む輸入米と輸出米の危うさ
農業協同組合新聞 2025年3月21日
コメ不足感の高まり
備蓄米が放出されたが、市場の「不足感」は極めて大きい。2024年産米も政府発表ほどは穫れておらず、精米歩留まり率も9割から8割程度に落ちて、2024年産米が前倒しで流通する「先食い状態」が強まっており、今年の夏にかけて、不足感がさらに高まる可能性がある。 「流通に問題が生じているだけでコメ供給は足りている」との説明には無理がある。
根本的には、「あと5年でここでコメをつくる人がいなくなる」と漏らす地域が続出しているほどの農家の赤字は放置し、減反要請を続け、一時金(手切れ金)だけ払うから田んぼは潰せ、と誘導して、コメが作れなくなってきたツケである。
今の米価でも30年前の水準に戻っただけでコメ農家にとってはやっと一息つけるくらいで、2025年の作付けも全国で2%程度増えるだけの見込みで、市場の不足感は解消されそうにない。
「コメは足りている。悪いのは流通」という本末転倒の「流通悪玉論」でなく、「コメの供給が不足しているため流通に混乱が生じている」ことを認め、農家が安心して増産できる政策を早く示さないと間に合わなくなる。
消費者にとっても今年の米価は30年前の水準に戻っただけだが、所得が減る中での急激な米価上昇は苦しい。今、農家にとっての適正米価と消費者にとっての適正米価が乖離している。農家に増産を促し、消費者は安く買えるようにし、米価が下がっても農家の所得が得られるように支援することでコメ市場は安定化できる。
輸入米増加の末路
一方で、輸入米が増えている。コメ価格高騰の根本的解決がされないと輸入米はさらに増える。米国が狙っている。前のトランプ政権で日本は「盗人に追い銭」で25%の自動車関税を許してほしいと牛肉と豚肉を差し出した。EUやカナダはWTO違反行為には断固闘う姿勢を示したが、日本は「うちだけは許して。何でもしますから」と、中国が米国との約束を反故にして宙に浮いた大量の余剰トウモロコシまで「尻拭い」で買わされ、「犯罪者に金を払って許しを請う」(細川昌彦・中部大学教授)ような「失うだけの交渉」を展開した。
前回の日米貿易協定の交渉時の記者会見で、日本政府は米国との今後の自動車関税の交渉にあたり、「農産品というカードがない中で厳しい交渉になるのでは」との質問に答えて「農産品というカードがないということはない。TPPでの農産品の関税撤廃率は品目数で82%だったが、今回は40%いかない」、つまり、「自動車のために農産物をさらに差し出す」ことを認めている。「自動車のために農産物を譲るリスト」があるわけだ。
積み残しの目玉品目はコメと乳製品だ。これが進めば、日本のコメや酪農の崩壊が早まり、日本の飢餓のリスクが高まる。安易に輸入に頼る落とし穴にはまってはならない。
国内供給支援せず、なぜ今輸出米支援なのか
一方で、コメ輸出を8倍に増やすという目標が発表された。輸出市場の開拓は追求すべき1つの可能性ではあるが、国内でコメ不足が深刻化しているときに、まず示すべきは、国内供給の安定化政策ではないか。
輸出米を増やせば、いざというときに国内向けに転用できるというが、そんな簡単に輸出契約を解除できるとは思えない。その前に国内供給を確保するのが先だ。
しかも、輸出向けの作付けには4万円/10aの補助金が支給される。ならば、国内の主食米の生産に4万円/10aの補助金を支給して、国内生産の増加を誘導するのが明確な方向性である。
しかも、輸出振興とセットで必ず出てくるのは、規模拡大してコストダウンして、スマート農業と輸出の増加で未来は明るい、という机上の空論だ。規模拡大してコストダウンすることは重要だが、日本の農村地域を回れば、その土地条件から限界があることは明白だ。100haの経営で田んぼが400カ所くらいに分散する日本と目の前1区画が100haの西オーストラリアとは別世界だ。
中山間地域は、全国の耕地面積の約4割、総農家数の約4割、農業産出額の約4割を占める。大規模化とスマート農業でカバーできる面積は限られている。それができない条件不利地域は疲弊が進むから無理に維持する必要がないという暴論もある。それでは、国民へのコメ供給は大幅に不足するし、日本各地のコミュニティが崩壊して大事な国土・環境と人々の暮らし、命は守れなくなる。
地域の疲弊は続くから仕方ないのではなくて、それは無策の結果だ。政策を変更して未来を変えるのが政策の役割だ。集落営農で頑張っている地域もあるし、消費者と生産者が一体的にローカル自給圏をつくろうという「飢えるか、植えるか」運動も筆者のセミナーもきっかけに広がりつつある。まず、地域から自分たちの食と農と命を守る仕組みづくりを強化していこう。
政府備蓄米 21万t販売 初回は15万t 3月初め入札 農水省
農業協同組合新聞
2025年2月14日
江藤拓農相は2月14日の閣議後会見で政府備蓄米の売り渡し条件を明らかにした。
売り渡し数量は現時点で21万tとする。
昨年12月末に全農など大手集荷業者の集荷量が前年比で20.6万t少なっていることをふまえた。
この量を流通させることで流通状況の改善を図る。
初回は15万tで、24年産米を10万t、23年産米を5万t販売する。
23年産米を販売するのは業務用等の需要に応えるため。
また、販売価格を安く設定できる面もある。
初回を15万tと設定するのは、これが大手卸などが1か月に販売する流通量であり、政府備蓄米の販売で流通ルートに1ヶ月分を乗せることで流通の停滞の解消を図る。
売り渡し対象は年間の玄米仕入れ量が5000t以上の集荷業者で、卸売業者等への販売の計画・契約をする業者。
農水省によると89社(全農を1法人とすると63)となる。
一般競争入札による売り渡しを行う。
高値から落札することになるが、過度な競争が起きないよう申込数量に制限を設け、申請者の集荷数量のシェアを上限とする。
売り渡し予定価格は財政法と予算決算、会計令に基づき設定するとしており、価格水準は明らかにしない。
農水省は1月17日、18日に対象業者向けの説明会と買受資格に関する審査を開始する。
3月初めに入札の公告を行い、上旬に入札を実施する予定としており、早ければ3月半ばから政府備蓄米の売り渡しが始まる。
その後、集荷業者から卸に販売され、量販店や業務向けに届くことになる。
落札者の決定後は、売り渡し数量や価格などを公表する。
農水省は買い受けた集荷業者に対して、その後の販売状況を調査し、販売数量と金額を隔週で報告するよう求める。
同省は報告内容を取りまとめホームページで公表する。
一方、集荷業者からの買い戻しは原則として1年以内とするが、農水省との協議のうえ延長することの可能とした。
買い戻す米は同等、同量のものとする。
とくに歩留まりを考慮し同等の等級の米を買い戻す方針。
買い戻しは農水省と随意契約する。
江藤農相はもっと早く売り渡しを実施すべきとの批判に対して「甘んじて受けとめる」と述べた。
一方、政府米備蓄の売り渡しで、相対取引価格の下落への懸念があることについて「とにかく今は正常な状態ではない。
今の米価は農家のためにならない」、「市場に対して公が影響を与えるのは王道ではない。
しかし、あまりにも高く、他に手がない。
覚悟を決めてやった以上、結果にも責任を持つ」と強調した。
2回目の入札時期については売り渡し後の需給状況を見極めるとしているが農水省は21万tは販売する予定で、必要に応じて販売量をさらに拡大するとしている。
農水省は小規模集荷業者や生産者など米の在庫調査を行っており、3月中旬にも結果を公表する予定。
在庫を抱えて値上がりを待つ業者がいると指摘されているが、農水省も「在庫を抱えている業者がいると認識している」と話す。
コラム
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】
サツマイモを消せば世論が収まると考えたお粗末さ
農業協同組合新聞 2025年1月24日
| コラム 【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】 サツマイモを消せば世論が収まると考えたお粗末さ 農業協同組合新聞 2025年1月24日 国際情勢は、お金を出せばいつでも食料が輸入できる時代の終わりを告げている。 かたや、日本の農家の平均年齢は68.7歳。あと10年で日本の農業・農村の多くが崩壊しかねない深刻な事態に直面している。 しかも農家は生産コスト高による赤字に苦しみ、廃業が加速している。これでは不測の事態に子ども達の命は守れない。 私達に残された時間は多くない。 しかし、昨年、25年ぶりに改定された「食料・農業・農村基本法」における政府側の説明は、これ以上の農業支援は必要ないというものだった。 農業就業人口がこれから減る、つまり、農家が潰れていくから、一部の企業などに任せていくしかないような議論は、そもそもの前提が根本的に間違っている。今の趨勢を放置したらという仮定に基づく推定値であり、農家が元気に生産を継続できる政策を強化して趨勢を変えれば、流れは変わる。 それこそが政策の役割ではないか。それを放棄した暴論である。 いや、一つ考えてある目玉は「有事立法」(食料供給困難事態対策法)だという。 普段は頑張っている農家にこれ以上の支援はしないが、有事になったら命令だけする。 野菜を育てている農家の皆さんも一斉にカロリーを生むコメやサツマイモなどを植えさせる。 その増産命令に従って供出計画を出さない農家は処罰する。 支援はしないが罰金で脅して、そのときだけ作らせればいいと。 こんなことができるわけもないし、やっていいわけもない。 今、頑張っている人への支援を強化して自給率を上げればいいだけの話なのに、それをしないでおいて、いざというときだけ罰金で脅して作らせるという「国家総動員法」のようなお粗末な発想がどうして出てくるのか。 しかも、サツマイモが象徴的に取り上げられて世論の批判を浴びたからと、増産要請品目リストからサツマイモを消しておけばよいだろうと、国はサツマイモを消した。 サツマイモを消しても「悪法」の本質が変わるわけではないのに、なんと姑息でお粗末な発想だろうか。 もう一つ、農家のコスト上昇を流通段階でスライドして上乗せしていくのを政府が誘導する「強制的価格転嫁制度」の導入が基本法の目玉とされたが、参考にしたフランスでも簡単ではなく、小売主導の強い日本ではなおさらで、すぐに無理だとわかり、どうお茶濁すかの模索が始まった。 法律もつくり、相応の予算を付けて、コスト指標を作成し、協議会で価格転嫁に取り組みましょう、と掛け声をかけるだけだ。 こんな実効性のないことに法律をつくり、予算を付けるのは、ごまかしのためだけの無駄金だ。 価格転嫁というが、消費者負担にも限界があるから、生産者に必要な支払額と消費者が支払える額とのギャップを直接支払いで埋めるのこそが政策の役割なのに、財政出動を減らして民間の努力に委ねようとする。 とにかく、ことごとく、食料・農業・農村への予算を何とか出さないようにしようという姿勢が至る所に強く滲み出ている。 それが財政当局の圧力であることは、最近、見事に確認できた。 2024年11月29日に公表された財政審建議で、財政当局の農業予算に対する考え方が次のように示された。 1. 農業予算が多すぎる 2. 飼料米補助をやめよ 3. 低米価に耐えられる構造転換 4. 備蓄米を減らせ 5. 食料自給率を重視するな そこには、歳出削減しか念頭になく、呆れを通り越した、現状認識、大局的見地の欠如が露呈されている。 食料自給率向上に予算をかけるのは非効率だ、輸入すればよい、という論理は危機認識力と国民の命を守る視点の欠如も甚だしい。 財政当局の誰に聞いても、日本のやるべきことは2つしかないと言う。 ① 増税 ② 歳出削減 これでは負のスパイラルになるに決まっている。 今が財政赤字でも、命・子供・食料を守る政策に財政出動して、みんなが幸せになって、その波及効果で好循環が生まれて経済が活性化すれば財政赤字は解消する。 今、「住むのが非効率な」農業・農村の崩壊を加速させ、人口の拠点都市への集中と一部企業の利益さえ確保すれば「効率的」だとする動きが、改訂基本法だけでなく、全体に強まっている懸念がある。 能登半島の復旧支援に行かれた方はわかると思うが、1年たっても復旧していない。 国は金を切ってきている。 「もう住むのはやめたらいいじゃないか。漁業も農業もやめてどこかに行け」と思わせるような状態だ。 また、全国各地で、台風で被害を受けた水田に対して復旧予算を要求したが出さないと言われたという声も聞く。 もっと驚いたのが、「消滅可能性自治体」(人口戦略会議)のレポートだ。 よく読んでみると「消滅しろ」と書いてあるという。 そんなところに無理して住むのは金がもったいないから早くどこかへ行けという論調だ。 目先の効率性だけでみんなの暮らしを追いやり、農村・漁村を住めないような状態にしてしまえば、日本の地域の豊かな暮らしや人の命は守れるわけがない。 「目先の銭金だけの効率性」にこれ以上目を奪われたら、日本の子どもたちの未来は守れない。 |
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】
これ以上農家に負担を押し付けてはいけない~国内生産は過剰でなく足りていないのだから生産調整でなく出口調整が不可欠
JCOM 農業協同組合新聞 2024年12月18日
お金を出せば食料はいつでも安く輸入できる時代でなくなった一方、国内農家は減少速度を増している。国内生産は過剰でなく足りていないのだ。
今こそ、すべての農産物の国内生産の増大に全力を挙げて、国産で輸入を置き換えて輸入依存を減らすとともに、備蓄も増やして、不測の事態に子ども達の命を守れる準備を強化するのが命を守る安全保障、「国防」だ。
コメ騒動を受けても変わらぬ「コメ過剰論」の不思議
なのに、相変わらずのコメは過剰と言い続ける政府の需給見通しで減産要請をし始めた。生産者が継続できるセーフティネットを構築する議論なしには、コメ不足は解消できない。
かつ、猛暑でふるい下米が増えていることは作況指数に反映されていない。だから、生産量を10万トン減らすと減らし過ぎになる。
一方、需要は減るとの見通しには、安全保障上の需要が欠落している。91万トン、1.5ヶ月分で不測の事態に国民の命は守れない。
小麦やとうもろこしの輸入が減るリスクも高まっている中、コメのパンや麺を増やし、コメの畜産飼料を増やすのは国家戦略的な安全保障上のコメ需要、貧困層増大の下でのフードバンクや子供食堂を通じたコメ支援も必要だ。
それらを合わせたら、コメ需要は大きく広がっており、減反でなく、増産こそが求められている。こうした判断ができずに、いまだに、コメ過剰を言い続けている感覚を疑う。
酪農生産は足りていない~酪農家にしわ寄せし過ぎ
酪農家が1万戸を切り、減少が加速しているのが問題になっている最中、脱脂粉乳の在庫が多いから生産抑制だ、協力せずに絞って系統外に売る酪農家には補助金を出さないようにしようという方向性が出ている。
発想の方向性が間違っている。今こそ、酪農家が自由に増産できるようにするのが不可欠だ。国内生産が多すぎるのでなくて、輸入が多すぎるのだ。他の国のように脱脂粉乳とバターの在庫を政府が持ち、需給状況に応じて、過剰時に買い入れ、国内外の援助にも活用し、不足時に放出すれば、わずかな民間在庫増加で、こんなに酪農家に負担を押し付ける必要などない。
酪農家のコストに見合う乳価に届いていない分は海外のように補填して、これ以上の酪農家の減少を食い止めなくては、本当に子どもたちに牛乳が飲ませられなくなる。
輸入が8割を占めるチーズ向け生乳を増やす内外価格差補填で大幅に輸入への置き換えができるが、それにかかる財政負担は、オスプレイ1機の購入代金が220億円とすれば、オスプレイ1機の半分を酪農家あるいはメーカーに補填するだけでできる。
食料・農業・農村を守るのは国民の命を守る安全保障のコストだと認識すれば、それを渋って、農家を苦しめ、国民を苦しめる愚かさに一刻も早く気づいてほしい。
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JCOM 農業協同組合新聞 2024年11月21日
コラム
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】
国家戦略の欠如
国家戦略の欠如
最近、財政当局の農業予算に対する考え方が改めて示された。そこには、とにかく歳出を減らすことだけしか念頭にない大局的見地、国家戦略の欠如が懸念される。
1. 農業予算が多すぎる
表のとおり、1970年の段階で1兆円近くあり、防衛予算の2倍近くだった農水予算は、50年以上たった今も2兆円ほどで、実質減らされてきた。10兆円規模に膨れ上がった防衛予算との格差は大きい。
軍事・食料・エネルギーが国家存立の3本柱とか、米国などでは言うが、その中でも一番命に直結する安全保障(国防)の要は食料・農業だ。その予算がバランスを欠いて減らされ続けているのに、まだ、高水準だという認識は、国家戦略の欠如ではないか。

2. 飼料米補助をやめよ
海外からの穀物輸入も滞りつつある中、国産飼料の拡大は大切な方向性であり、水田を水田として維持して飼料米も増産することが安全保障上も不可欠との方針で進めてきた飼料米への助成は、まさに国家戦略だった。
それを、お金が増えてきたから、もう終わりにしよう、という論理は破綻している。
財源がもったいないから、ではなく、国家戦略として、安全保障上も必要だから続けてきたことを、そのような理由で、2階に上げておいて、梯子を外すことはありえないはずだ。
3. 低米価に耐えられる構造転換
規模拡大とコスト削減は、もちろん必要だが、日本の土地条件では限界があることを無視した議論は机上の空論だ。
日本にも100haの稲作経営もあるが、水田が100か所以上に分散している。
規模拡大しても効率化できずにコストが下がらなくなる(グラフのように20ha以上になると60kg当たり生産費が上昇し始める)。
写真のように、豪州は1面1区画の圃場が100haで、まったく別世界だ。
コスト下げて輸出拡大すればよいという議論にも限界がある。
そもそも、稲作農家が赤字で激減しそうなときに輸出でバラ色かのような議論はナンセンスである。


4. 備蓄米を減らせ
中国は、14億人の人口が1年半食べられるだけの食料備蓄に乗り出している。
国際情勢が悪化する中、コメ91万トンの備蓄は、消費量の1.5か月分程度。これで、不測の事態に子どもたちの命を守れるわけがない。
今こそ、総力をあげて、コメや牛乳や、その他の農畜産物生産を強化し、備蓄も増やすのが、あるべき国家戦略であることは明白なときに、備蓄を減らせという話がどうして出てくるのだろうか。
5. 食料自給率を重視するな
「いつでもお金を出せば安く輸入できる」時代が終わったことが明らかに実感されている今こそ、国民の食べる食料は国内でまかなう「国消国産」、食料自給率の向上が不可欠で、投入すべき安全保障コストの最優先課題のはずなのに、食料自給率向上に予算をかけるのは非効率だ、輸入すればよい、という論理は、国民の命を守る視点の欠如ではないか。
そして、これらの考え方が25年ぶりに改定された食料・農業・農村基本法にも、色濃く反映されていることが事態の深刻さを物語る。
