目次
2025年1月1日 年頭所感
20250101 財政審予算建議は農政をどこに誘導しようというのか
東京大学名誉教授谷口信和
農村と都市をむすぶ 2025 米の指数先物取引の開始をめぐって座談会 20250101NO874
20230101 求められる飼料用米政策の一貫性と持続性 ― 生産・流通現場の実態からみた課題
李 侖美・谷口信和
農村と都市をむすぶ 2024. 11【No.872】
特集「農産物価格形成のあり方」
特集 農産物価格形成のあり方 安藤光義
特集 卵価形成の実態と課題 信岡誠治
月刊 農村と都市をむすぶ 2024. 11【No.872】
2024年11月号 「農村と都市をむすぶ」

「農村と都市をむすぶ 2024年10月号」【時評】
何が起きているのか
酪農中止農家は「高齢・後継ぎなし」ではない?
「農村と都市をむすぶ 2024年10月号」【時評】
何が起きているのか
酪農中止農家は「高齢・後継ぎなし」ではない?
中央酪農会議が実施した「令和5年度酪農経営廃業者調査」結果によると、令和4年度中に酪農経営を中止した戸数は北海道で249戸、都府県では581戸の合計830戸だった。
令和4年2月時点の酪農家戸数は約1万3千戸だったので、廃業率は約6%になる。
調査対象は系統出荷者のみなので全体では、7%に近いかもしれない。
中止農家割合が増加傾向にあることも問題だが、中止酪農家の平均年齢が北海道では58.3歳で、50代以下が4割を超えたことに驚かされた。
さらに、後継者がいても中止した酪農家が、北海道では9%、都府県では12%もあった。
これまでの酪農中止理由は、「高齢・後継者なし」が最も多かったが、それが変化してきたのだろうか。
農水省が実施した「畜産経営離脱に関する調査」は、年次ごとに全酪農家を対象としており、先の調査と若干の違いがあるが、平成30年からの時系列比較が可能である。
これによると離脱割合は3年度までは3%台だったのが、4年次に6%までに跳ね上がっている。
農水省の調査には離脱要因項目があり、民も多かったのは、「高齢化」の30%だが、次が「経営不振・悪化」の16%で、「従事者の事故・病気・死亡」の15%を上回った。
令和3年までの調査では、「経営不振・悪化」の選択肢がなく、経営関連では「負債問題」のみなので直接の比較はできないが、「負債問題」は5%だった。
酪農を始め畜産経常の収益性が悪化しているのは、農水省の「農業経営調査」を見てもわかる。
酪農経営では令和3年度に736万円だった農業所得は、4年度では49万円の赤字に落ち込んでいる。
肉用牛部門でも繁殖経営も肥育経営も赤字に転落しており、養豚、養鶏も大きく所得を減らしている。
その大きな要因は、飼料費や動カ光熱費の増加、特に飼料費の高騰と指摘できる。
以上から、離脱理由に高齢化が多いことに変わりないが、経営を断念する相対的に若い層の増加も離脱率の増加に拍車をかけているとみられる。
酪農への新規就農者数も令和4年は3年に比べ21人減の73人に留まった。
やはり、収益性の悪化が影響していると思わざるを得ない。
特に、経営環境が悪い中では、倒産する経営以外に、優秀な経営も今が辞め頃とみて経営を中止すると言われる。
反対に、負債などでやめるにやめられない農家が1定存在することも指摘されている。
畜産経営の現状を正確に把握することが必要だ。
それを踏まえた収益性の改善、特に飼料費を抑える抜本的な対策が必須だ。
スーパーの棚から米が消えた
筆者の住まいの近くのスーパーでも、8月中旬以降米棚が空っぽな状態が続いた。
米不足がマスコミに大きく取り上げられている。
不足要因として、当初はインバウンド需要やペンなどの値上げで相対的に安くなった米需要の増加などが言われていたが、農水省が全国のスーパー、生協計約1千店舗を調査したところ、8月第2週は消費者の米購入が前年同期比で4割増加したとのことだった。
南海トラフ地震の臨時情報などの影響による買いだめとみられるとしている。
国は市場に悪影響を及ぼさないように、「備蓄米」の放出は行わないとした。
確かに8月は端境期で、9月になってからは新米が少しずつ入荷しだした。
しかし、棚から米がないというインパクトは相当のものだ。
奇しくも本年6月に「平時における食料安保」を柱とする「食料・農業・農村基本法」が改訂され、同時に米や小麦、畜産物など重要な食料、が不足する事態に対応するための「食料供給困難事態対策法1も制定された。
うがった見方だが、「食料安保」の重要性を国民に実感してもらうため、あえて対応しなかったのでは、とまで考えてしまった。
米需要の増加を受け、米の生産抑制見直しに言及するマスコミもあるが、米の1人当たり年間消費量はピークの半分以下の50kg同程になっており、長期的にこのトレンドは大きくは変わらないだろう。
一方で、本年3月に全国米穀販売事業共済協同組合が「米穀流通2040ビジョン」を発表した。
この「現実的なシナリオ」では、2040年の米の圏内需要量は375万トン、生産量は363万トンとほぼ半減すると予想している。
特に、半減しても需要量国産ではカバーできないと見ている。
やはり平時の食料安保の鍵は国内生産の維持であり、そのためには農地と担い子の確保が不可欠であることは言うまでもない。
この2つの確保には、経営の成り立つ作物の存在が肝心だ。
先の農業経営調査によると水田作経営の農業所得は、約2.8haの耕作でわずか1万円に過ぎない。
今後需要が期待できる作物は、千万トン以上を輸入に依存し、価格も高騰している飼料穀物だろう。
これまでは輸入飼料穀物と飼料用米などの国産飼料穀物の価格ギャップが大きかったが、その差が徐々に狭まってきている。
政策的な支援次第で品質と需給バランスによって、欧米のように主食用と飼料用穀物の相互乗り入れが可能な状況を作り出すことも夢ではなくなってきたのではないか。
農地利用を柱とした、主食用米中心ではない、米政