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2025年1月13日

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日本農業新聞 2024年11月18日(再掲載)
[論説] 財務省の 「水活」 改悪 飼料用米の支援続けよ

日本農業新聞 2024年11月18日
[論説] 財務省の 「水活」 改悪 飼料用米の支援続けよ


財務省が、 転作助成金に当たる 「水田活用の直接支払交付金」を巡り、 飼料用米を対象から外すよう提起した。
飼料用米は、主食用米の需給安定や飼料自給率向上に貢献する。
畜産現場からは不安の声が上がる。
農水省は毅然(きぜん)と反論し、水田経営の安定へ支援を続けるべきだ。
政府は、 来春の食料・農業・農村基本計画の改定に合わせ、2027年度以降の水田政策について検討する方針だ。
これに対し、財務省は11日の財政制度等審議会で「食料自給率に過度に引きずられることなく、国民負担最小化の視点は重要」と提起した。
来年度以降の飼料用米の交付単価引き下げに加え、27年度以降の水田政策では、 飼料用米を 「交付対象から外すべき」だとも主張した。
自民党は、先の衆院選公約に「水田活用のための予算は責任をもって恒久的に確保する」と明記している。
この文言は、飼料用米などを念頭に置いた過去の水田政策に関する同党の決議に基づくものだ。
公約をほごにすれば農家の信頼を失い、 政治不信はさらに大きくなる。
第2次石破内間の発足を受けて、農相には自民党総合農林政策調査会長を務めた江藤拓氏が就いた。
江藤農相は就任後、農業予算の増額が必要との認識を示した。
食料・農業・農村基本法の改正を受け、政府は今後5年間で農業の構造転換を集中的に進める方針だ。
今後編成する24年度補正予算と25年度予算はその原資となる。

万全の財源確保が求められる。
一方、財務省は「依然として (農林水産関係の) 予算総額は高水準にある」 と抑制を求めている。
だが、全国で考朽化が進むカントリーエレベーターなど共同管理施設の整備を例にとっても、建設資材や人件費は上がり、同じ予算額でも従来ほどの政策効果は見込めない。
ここにきての予算は政府の掲げる食料安全保障の確立に逆行する。
また、会計検査院は、 農水省の補正予算事業などについて予算の繰り越しの多さを指摘した。
国民の税金が無駄に使われていないかを点検するのは当然だが 「木を見て森を見ず」の感も否めない。
補正予算は、年度内の処理が求められ、ただでさえ人手不足に悩む自治体の負担が大きく、事業採択の手続きが間に合わないケースは多くなる。
農業予算の多くを補正に頼る。いびつな予算編成にこそ根本原因があるのではないか。
専門家からは、 緊急を要する経費を計上すべき補正予算で、本来業務に当たる財源を賄っているとの指摘もある。
農水省は財政当局にしっかり反論し、国民に対しても農業予算の必要性について説明を尽くすべきだ。

日本農業新聞 2025年3月25日
[論説]飼料用米生産の意義 地域内循環の輪 絶つな

 飼料用米の生産基盤が揺らいでいる。助成金の見直しや価格高騰により主食用米への揺り戻しが起こり、減産が見込まれるためだ。輸入に代わる国産の濃厚飼料として米農家と畜産農家、行政、JAなどが連携し、循環の輪を築いてきた。地域の耕畜連携を途切れさせてはならない。
 国は米の消費減少に伴う米価浮揚を目指して、主食用米からの転換を促そうと2008年産から飼料用米に助成を開始し、生産を進めてきた。省力・多収栽培技術の確立で生産コストを抑え、耕畜連携の推進、飼料用米を給餌した畜産物のブランド化や、生産と実需の複数年契約による長期の安定的な取引拡大なども進めてきた。輸入に依存する濃厚飼料の国産化に向けた支援を続けた結果、22年産の飼料用米は過去最高の80万トンとなり、20年に閣議決定した食料・農業・農村基本計画で30年の生産努力目標として定める70万トンに到達した。
 だが昨年12月、財務相の諮問機関である財政制度等審議会が、27年度以降の水田政策見直しに合わせて飼料用米を助成対象から除外することを提起、飼料用米産地に動揺が広がった。

 国は飼料用米中心の生産体系を見直し、粗飼料である青刈りトウモロコシなどを振興する方針を示したが、「はしごを外された」と不信感を抱く産地もある。
 濃厚飼料と粗飼料では、畜産農家にとって給与体系が全く異なる。
 今回の見直しは、地域内循環の輪を壊すことはもちろん、畜産農家を軽視していると言わざるを得ない。
 耕畜連携に先駆的に取り組んできた千葉県旭市は、飼料用米の生産量の8割以上を、畜産農家と耕種農家、行政でつくる組織が仲介し、畜産農家が利用している。

 同市は強湿田地帯のため麦、大豆などの生産に不向きで、08年産から飼料用米への転換を本格的に進めてきた。
 飼料用米を通じた地域内循環を生み出し、増産に前向きに取り組んできた。
 飼料用米の生産は補助金があって成り立ち、産地からは「これまでの努力に水を差す」「補助金の削減には反対だ」との強い声が上がる。
 主食用米の価格上昇で産地の増産意欲が高まり、農水省の25年産水田の作付け意向調査では、東日本を中心に19道県が前年と比べて主食用米の生産を増やす。

 一方、飼料用米は前年と比べて1万4000ヘクタール減の8万5000ヘクタールと、増産する県はゼロとなった。
 専用品種以外は国からの助成金が減額されることが大きいためだが、時間をかけて地域内で築き上げた耕畜連携の輪をここで壊すべきではない。
 主食用米の高値が今後も続く保障もない。食料安全保障の観点から、飼料用米への支援拡充を求めたい。

日本農業新聞 2025年5月3日 (憲法記念日)
[論説]食料と憲法 農業こそ命の安全保障

 「トランプ関税」が世界を揺るがす。
 関税による報復の連鎖が続けば、戦後の自由貿易体制は瓦解がかいしかねない。
 日本の食と農への影響も計り知れない。
 食の主権は、憲法の定めた「生存権」に直結する。
 憲法記念日に、命の安全保障を考える。


 トランプ米大統領が、自国の産業保護のために打ち出した関税強化策が、世界経済・金融の混乱を招いている。

 背景には、世界1位と2位の経済大国、米国と中国の経済覇権争いがある。
 互いに報復関税を掛け合う泥仕合の様相で、収束の気配は見えない。
 先の主要20カ国(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、米国の一方的な関税措置が貿易摩擦の激化と世界経済の後退を招くとの危機感が示された。

 加藤勝信財務相が深刻な懸念を表明したように「自由で開かれた多国間貿易体制」は今、大きな岐路に立つ。
 こうした事態に、国際貿易のルールを定め、自由貿易の旗振り役を担ってきた世界貿易機関(WTO)が機能不全状態にあることも混乱に拍車をかける。

 自国優先の貿易紛争の行き着く先は、保護主義の台頭とブロック経済による分断と対立、世界恐慌であり、第2次世界大戦へと突き進んだ歴史の苦い教訓を忘れてはならない。
 資源小国の日本は、日米同盟を基軸に、食料やエネルギーの多くを海外に依存する。

 米国の関税攻勢、農畜産物の市場開放圧力に加え、ウクライナ危機、対中関係悪化などの地政学リスクも加わり、日本の食と農を巡る状況はこれまでになく危うい。
 日米貿易交渉で、主食の米、トウモロコシ、大豆のさらなる輸入拡大となれば、弱体化した生産基盤への致命傷となる。

 とりわけ「米は農村の生命線」「命を交渉カードに差し出すな」と農家が憤るように、米の譲歩は日本農業に致命的な禍根を残す。
 人、農地が減り続ける中で、政府は向こう5年間、「農業の構造転換」を集中的に進め、「国民一人一人の食料安全保障の確保」をうたうが、その国家戦略に逆行する市場開放は到底容認できない。
 石破茂首相は「独立主権国家として食料の安全保障に配慮すべきは当然のこと」と国会の場で述べているが、日米交渉ではその本気度が問われる。
 憲法の「生存権」は「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(25条)のことを指す。
 食料安全保障、食料主権はまさに「生存権」の裏付けとなるものだ。
 今日の食料と農業の危機は、翻って国民一人一人の問題である。「国難」の今こそ、憲法の理念に立ち返り、この国の食と農の在り方を考える契機としたい。

日本農業新聞 2025年5月1日
[論説]地域計画で見えた課題 食支える担い手確保を

日本農業新聞 2025年5月1日
[論説]地域計画で見えた課題 食支える担い手確保を

 地域農業の将来像を描く「地域計画」を全国各地で策定した結果がまとまり、3割の農地で10年後の耕作者を確保できていないことが分かった。
 生産基盤の弱体化がさらに進む姿が浮かび上がり、食料安保が危ぶまれる。
 担い手の確保は、地域だけでなく国民にとって焦眉の課題だ。
 地域計画は、人と農地の将来方針。

 10年後、誰がどの農地を利用するかを落とし込んだ目標地図などの策定が市町村に義務付けられ、3月末が期限だった。
 策定を終えたのは、1613市町村の1万8633地区。

 カバーする農地面積は424万ヘクタールに達する。
 地域農業の現状への危機感と、次世代につなぎたいという生産現場の強い思いの表れだろう。
 ただ、農水省によると、地域計画の多くは将来の農地利用の姿がまだ明らかになっていない。

 今後も話し合いを続け、内容をさらに高めていくことが大事になる。
 同省は、生産現場の意向を反映した地域計画を力に、農地の集積を加速する方針。新たな食料・農業・農村基本計画では具体的な指標も設けた。

 担い手への集積率を、現状の6割から2030年度には7割に高める。
 水稲を15ヘクタール以上作る経営体の面積シェアも3割から5割に上げる。
 農地を団地のようにまとめる集約化や圃場(ほじょう)の大区画化、スマート農業技術の導入を強力に進め、広い面積を効率的にカバーできるようにしていく。
 こうした方針は、担い手の減少を直視した対応策である。

 しかし、あまりに減り過ぎた場合、地域農業を守り切れるのだろうか。
 同省は、24年に111万人いる基幹的農業従事者が、40年ごろには30万人に急減するとの試算を示した。
 ショッキングな見通しで、農村を維持できるか不安が大きい。
 担い手減少に歯止めをかける努力が、同時に必要ではないか。
 そのためには、安心して再生産でき、後継者に経営を託せるだけの十分な所得確保が鍵となる。

 基本計画は、所得向上を実現する道筋として、生産性と付加価値の向上に加え、今回、適正な価格形成を柱に据えた。
 この新機軸の政策に期待が集まる。
 適正な価格の実現には、食を支える農業の価値を消費者が評価してくれるかが焦点だ。

 米を巡る混乱では、価格の動きばかりに関心が集まり、安さを求める声も大きい。
 本当の理解には程遠い。
 地域計画も、理解のきっかけとしたい。

 浮き彫りになった生産基盤の弱体化、先細る食の未来は、消費者にとって“自分ごと”である。
 生産現場が地域計画を作り、動こうとしている今こそ、食と農を守る強力な政策が必要である。

全給連が国に緊急対策要望へ 給食用米値上がり受け

日本農業新聞 2025年4月17日
全給連が国に緊急対策要望へ 給食用米値上がり受け


 47都道府県の学校給食会でつくる全国学校給食推進連合会(全給連)は、4月から給食用米価が大幅に値上がりしたことなどを受け、国に緊急対策を求める要望書の提出を決めた。
 各学給会に要望内容の意向調査を行い、6月の総会で決議する。
 全給連によると、意向調査は、全国6ブロックに分けてアンケート方式で行い、各学給会や自治体など調理現場が直面している課題を整理する。
 国による学給無償化の具体的な内容や、無償化されるまでの間の米を中心とした食材の高騰対策、給食米の安定供給などが主な要望内容になると予想されている。
 三橋一慶常務は「現行法では給食費が保護者負担となっているため、給食費を据え置いている自治体が多く、栄養教諭や学校栄養士など現場は大変な苦労をしている。地方創生推進交付金の継承も含め、あらゆる手だてを講じてほしい」と語る。
 日本農業新聞が1~3月に47都道府県の学校給食会に行った緊急調査では、自治体に売り渡す本年度当初の給食米価格は前年同期比で1・3~2倍超に上昇。

 各学給会は「値上げ額を7割程度に抑制し、来年度から10年かけて価格加算する」「等級を下げた」「栄養バランスや質を保った食事の提供が難しくなっている」など深刻な影響を明らかにした。

(栗田慎一)

対米農畜産物の輸入 「盗人に追い銭」繰り返すな
鈴木宣弘 日本農業新聞 コラム「今よみ」 2025年4月22日

[論説]相互関税で日米交渉 農畜産物犠牲にするな

日本農業新聞 2025年4月17日
[論説]相互関税で日米交渉 農畜産物犠牲にするな


 貿易不均衡を正す米国トランプ大統領による「相互関税」に絡んだ日米交渉が始まる。
 自動車や鉄鋼などと引き換えにした農畜産物のこれ以上の市場開放は許されない。
 食料安全保障の確保や日本農業の存続が危うい中、国民の命と食を支える農業、農村を米国に譲り渡してはならない。
 米国の「相互関税」は、貿易相手国の関税と、検疫などの非関税障壁を考慮して設定されたとみられる。日本は24%となった。
 米国は9日に発動したが、直後に翻し、90日間停止して交渉に応じる姿勢を見せた。

 日本政府は、担当の赤沢亮正経済再生相を派遣し、ベッセント米財務長官やグリア米通商代表部(USTR)代表との交渉に臨む。
 閣議決定した食料・農業・農村基本計画に反することなく、毅然(きぜん)と対応すべきだ。
 米国の貿易赤字は、2024年に過去最大となった。
 製造業や雇用縮小への危機感は理解できるが、米国がこれまで進めてきた自由貿易の帰結に他ならない。
 一方的に関税を課すのは、身勝手と言うほかない。
 世界貿易機関(WTO)協定にも違反する。
 トランプ大統領は、障壁の例として日本の輸入米制度を引き合いに出したが、認識不足も甚だしい。
 日本は1993年のウルグアイ・ラウンド(多角的貿易交渉)実質合意に基づき、ミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)米を、米国などから関税をかけず年間77万トンを輸入し続けている。
 第1次トランプ政権時に結んだ日米貿易協定の共同声明では「協定が誠実に履行されている間、本共同声明の精神に反する行動を取らない」としてきた。
 トランプ大統領は今こそ、この声明を思い起こしてほしい。
 米国の対日貿易赤字は、自動車や自動車部品などが大半を占める。
 農畜産物が市場開放された背景には、自動車などが引き起こした貿易摩擦がある。
 80年代には牛肉・オレンジ、雑豆などの12品目の輸入数量制限の撤廃を迫られ、ウルグアイ・ラウンドや環太平洋連携協定(TPP)交渉のたびに、農畜産物が譲歩を迫られてきた。
 結果、日本の食料自給率は38%(カロリーベース)と先進国で最低水準に低迷、農業の基盤は急速に弱体化している。もう限界である。
 各国が経済優先の自国主義を見直さない限り、貿易戦争を回避できない。
 日本政府が主張すべきは、各国が「共生」できる貿易制度の構築である。
 交渉は、世界が安定する新しい貿易ルールを話し合う契機とすべきである。
 「相互関税」から日本だけを除外してもらうような交渉姿勢では、根本的な問題は解決しない。

[論説]学校給食米の値上がり 安定供給の仕組み急げ

日本農業新聞 2025年4月15日
[論説]学校給食米の値上がり 安定供給の仕組み急げ


 学校給食向けの米価が4月、前年同期比で最大2倍超も値上がりした。各地で米飯給食の回数や副食、デザートを減らすなど児童らに深刻な影響が広がる。地場産農畜産物の活用も後退する懸念がある。
 2026年度からの学給無償化に向け、政府は安定供給へ早急に対応すべきだ。
 給食用米の大幅な値上がりは、47都道府県の学校給食会に日本農業新聞が1~3月に行った緊急調査で判明した。
 回答したのは9割超に当たる43の学給会で、自治体への米の売り渡し価格の上昇は昨年秋から始まり、25年度当初は1キロ当たり707円~400円とこれまでにない高価格帯となった。
 最低価格の400円は、24年度当初の最高価格(399円)を上回り、全国の自治体に衝撃を与えた。
 文部科学省によると、学校給食は1食当たり平均250円前後と低く抑えられている。
 学校給食法で食材費に当たる給食費を原則「保護者負担」としているためで、給食の実施主体である自治体が値上げをためらう原因となっている。
 同法が制定された1954年は、国が米価を管理していた食糧管理法(95年廃止)下の時代で、今回のような米の大幅な価格変動は想定されていなかった。
 政府からの交付金や補助金で値上がり分を補填ほてんする従来の手法は問題を先送りするだけだ。
 給食無償化を踏まえ、まずは学校給食法を見直すべきだ。
 全国の小中学生のうち、給食実施校で学ぶのは96%に当たる約886万人。
 本紙で試算したところ、全員が給食で米飯を食べるには1日824トンの米が必要となる。
 米飯を週4回実施するならば、24年度全国主食用米作付面積の1・8%分、週3回では1・3%分が必要となる。
 作付け全体で見ればわずかな面積だが、「令和の米騒動」以来、新米の時期までの半年分を確保できない学給会は多い。
 半数以上で仕入れ先との調整・交渉が長引き、特に米の消費量が生産量を上回る東京や静岡などの消費県では、3月下旬に政府が備蓄米を放出するまで価格決定を待たなければならなかった。
 今回の学給米値上がりを受け、全国の調理現場では米飯給食の回数を減らしたり、おかずの食材を安価なものに変えたりする動きが広がる。
 西日本の栄養教諭は「地場産農産物を使った給食が、価格を理由に使いづらくなっている」と語る。
 このままでは給食をきっかけにした地産地消や有機農業が後退しかねない。
 学給史70年の転換点となる国の無償化は、「ただであれば何でも良い」というのではない。
 食で子どもの成長を支える安定供給の仕組みを構築し、地域農業の振興につなげる発想が必要だ。

[論説]基本計画閣議決定へ 食料安保の具体化急げ

日本農業新聞 2025年4月7日
[論説]基本計画閣議決定へ

食料安保の具体化急げ

 政府は、新たな食料・農業・農村基本計画を近く閣議決定する。輸入資材の高止まりや温暖化、自然災害が頻発する中、国民の命を支える食料安全保障の確保は急務だ。弱体化する生産基盤を今後5年間でどう立て直すのか、産地が希望を持てるビジョンを示してほしい。
 新たな基本計画は、食料自給率の目標だけでなく、農地の確保や食料の備蓄、肥料の安定供給など食料安保に関わる数多くの目標を設定した。
 目標倒れで終われば、基本計画そのものの存在意義も問われかねない。進捗(しんちょく)状況を確認・検証し、適切に政策に反映させる必要がある。
 特に高齢化で急減する担い手や、農地の維持・確保に向けた対応を強く求めたい。
 基本計画に基づく水田政策の見直しや、農産物の適正な価格形成の仕組みといった農業政策の議論も本格化する。
 水田政策は2027年度からの見直しに向け、制度の詳細を25年度中に決める方針だ。「水田活用の直接支払交付金(水活)」は、水田を対象とする対策から、田畑を問わず作物ごとに支援する仕組みに見直す。生産現場には、対象が畑に広がることで、支援の水準が現行より下がるのではないかとの懸念も広がる。
 弱体化が進む国内の農業基盤をどう強化し、担い手を確保するのか。中長期的な視点に立った政策を求めたい。
 安心して農村で暮らせる施策も必要だ。
 農水省は、中山間地域等直接支払制度を拡充する方針。27年度に新設予定の環境直接支払制度は、みどりの食料システム法に基づく仕組みにし、支援の対象や水準を今後、具体化する。
 国際情勢や気候が不安定化する中、収入減少などに対応した万全なセーフティーネットの構築も喫緊の課題だ。
 こうした政策を具現化するには、十分な財源確保が重要となる。
 衆参の農林水産委員会は基本計画を巡る初の決議を全会一致で採択、食料安保に関わる予算の「別枠」確保を政府に求めた。
 自民党も食料安保強化本部などの決議で、農地の大区画化、共同利用施設の再編・集約化などを柱に、既存事業とは「別次元」で大規模予算を確保するよう要請。
 与党内には、予算確保の「5カ年計画」を求める声が強まる。
 政府は、防衛費を27年度までの5年間で43兆円、防災・減災対策などを強化する国土強靭(きょうじん)化は26年度以降の5年間で事業規模20兆円超を確保する目標を掲げる。
 農業・食料安保でも、中期的な予算確保の方針を明確にするべきだ。
 予算編成の指針「骨太方針」の策定に向けた議論で具体化を進め、農家が展望を描ける方策を示してほしい。

[今よみ]
輸出米と輸入米の危うさ
国内供給こそ最優先
 東京大学特任教授・名誉教授 鈴木宣弘氏

日本農業新聞 2025年3月18日

 米輸出を8倍に増やすという目標が発表された。
 しかし、国内の米不足が深刻化しているときに、まずやるべきは国内供給の確保ではないか。
  「米は足りている。悪いのは流通」という「流通悪玉論」は本末転倒だ。

 「米の供給が不足しているため流通に混乱が生じている」ことを認め、「あと5年で米を作る人がいなくなる」と漏らす地域が続出している中で、農家が安心して増産できる政策を早く示さないと間に合わなくなる。
 しかも、輸出向けの作付けには10アール当たり4万円の補助金が支給される。ならば、国内の主食米の生産にこそ10アール当たり4万円の補助金を支給して、国内生産の増加を誘導すればよいというのは明白だ。
 そして、必ず出てくるのは、規模拡大してコストダウンしてスマート農業と輸出の増加で未来は明るいという机上の空論だ。規模拡大してコストダウンすることは重要だが、日本の農村地域を回れば、その土地条件から限界があることは明白だ。100ヘクタールの経営で田んぼが約400カ所に分散する日本と目の前1区画が100ヘクタールの豪州とは別世界だ。輸出市場も簡単に拡大できない。
 中山間地域は、全国の耕地面積、総農家数、農業産出額の各4割を占める。大規模化とスマート農業でカバーできる面積は限られている。それができずに疲弊している条件不利地域で無理に農業をして住み続ける必要はないという暴論もある。
 それでは、国民への米供給は大幅に不足するし、日本各地のコミュニティーが崩壊して国土と環境、人々の暮らし、命は守れなくなる。
 地域の疲弊は止められないのではなく、これまでの無策の結果だ。政策を改善して未来を変えるのが政府の役割だ。集落営農で頑張っている地域もあるし、消費者と生産者が一体的にローカル自給圏をつくろうという「飢えるか、植えるか」運動も筆者のセミナーもきっかけに広がりつつある。
 一方で、輸入米が増えている。前のトランプ政権で日本は「盗っ人に追い銭」で25%の自動車関税を許してほしいと牛肉・豚肉を差し出した。積み残しは米と乳製品だ。国は自動車関税阻止のために米国に差し出す農産物リストを作成している。
 これが進めば、米生産の崩壊が早まり、国民の飢餓のリスクが高まる。安易に輸入に頼る落とし穴にはまってはならない。

日本農業新聞 2025年3月9日

[ニッポンの米]飼料用米作付けほぼゼロに
宮城・JAいしのまき、補助減額で

25年産で飼料用米の生産が大幅に減少するJAいしのまき管内(宮城県石巻市で)

25年産で飼料用米の生産が大幅に減少するJAいしのまき管内(宮城県石巻市で)

 宮城県有数の米産地であるJAいしのまきが、飼料用米の作付けを2025年産でほぼゼロにすることが分かった。24年産では650ヘクタールを作付けしていた。専用品種以外は国からの助成が減額されるようになったためで、他の米産地でも飼料用米の作付けを減らす動きが出ている。
 JAの水田面積は1万1385ヘクタール。飼料用米は、国が支援措置を拡充した14年産以降、主食用途でも使える一般品種で生産を増やし、近年は600ヘクタール以上の栽培実績があった。
 24年産から、専用品種で作付けしないと10アール当たりの補助単価が年間5000円ずつ減る仕組みが導入された。JAは24年産は減額分を農家が積み立ててきた基金で補填(ほてん)したが、25年産は財源不足で難しいと判断。飼料用米の生産分を主食用米や輸出用米に切り替える方針を決めた。
 JAでは、主食用米とのコンタミ(異品種混入)の恐れがあり、専用品種への切り替えは難しいとしている。管内の大半の水田で米、麦、大豆のブロックローテーションを行っており、「一度でも専用品種を使えば再び主食用米が生産しづらくなる」と説明する。
 同県内では、米主産地であるJAみやぎ登米、JA新みやぎでも24年産より飼料用米の作付けが減る見込み。これまでJAから飼料用米を受け入れていたJA全農くみあい飼料の担当者は「生産の不足分は、輸入のトウモロコシや麦で代替せざるを得ない」としている。

鳥インフル44例目の防疫措置完了 千葉県
日本農業新聞 2025年2月15日

千葉県は14日、旭市の肉養鶏農場で1月28日に発生した今季国内44例目となる高病原性鳥インフルエンザについて、防疫措置を完了したと発表した。この農場では約7万9000羽を飼育していた。

[畜産物見通し]
日本農業新聞 2025年2月14日

 向こう1カ月の畜産物は、畜種によってまちまち。牛肉は外食需要が増え相場を維持する。豚肉は寒波による頭数減で相場を上げる。鶏肉は需要は堅調だが在庫処理で弱含み。鶏卵は鳥インフルエンザによる供給減で高値を続ける。

牛肉 外食向け和牛引き


 牛肉はもちあい。「月の初めは、肉の日に向けて調達を強める外食から、和牛の引き合いがあった」(大手食肉卸)。一方で、小売りなどの売れ行きは低調で、相場は伸び悩む。

 農畜産業振興機構(alic)の予測で2月出荷頭数は和牛が前年比6・8%減の3万6300頭、F1が同0・5%増の1万9900頭、乳用種が同11・5%減の2万1700頭。東京市場の和牛去勢A5が1キロ2530円台、F1B3が1500円、ホルスB2が1100円。

豚肉 増体遅れ頭数減る

 豚肉は上げる。全国的な寒波の影響で、増体が遅れて出荷頭数が減少。需要は安定しており、相場は上げ基調で推移する。首都圏の食肉卸は「3月以降も、昨夏の暑さによる受胎率の悪さが響き、出荷頭数は減る」とし、相場上げを見込む。

 alicは、2月の全国の出荷頭数は前年比2・2%減の134万4000頭と予測。輸入の冷凍品は安価なブラジル産の調達を強めており、同44・8%増の4万6500トンと予測する。


東京市場の上物平均価格は1キキロ630円前後。


鶏肉 鍋材低調で弱含み

 鶏肉は弱含み。野菜など高値の農産物の影響で、鍋物商材としての需要が弱まる。市場関係者は「年度末決算に向けての在庫処理が始まり、価格は上がらない」とする。ムネ肉は、健康志向に応える商材として、加工筋からの安定した需要を続ける。

 alicは2月の生産量は前年比7%減の13万4400トンと見込むが、輸入を合わせた期末在庫は、同1・6%増の16万1600トンと予測する。1キロ平均価格(農水省統計ベース)はモモ肉が760円、ムネ肉が420円。




鶏卵 供給減り高値続く

 鶏卵は強もちあい。年明け以降も発生が続く鳥インフルエンザの発生で、全国的に供給が減り高値での取引が続く。大手の鶏卵卸は「疾病での供給減に加えて、外食からの需要も堅調で、需要期の4月に向けてさらに上げる」と見通す。

 農水省の食品価格動向によると、直近1月(14~16日)の小売価格(サイズ混合・10個入り)は、平年比16%高の1パック269円で、本年度の最高値を更新した。

 JA全農たまごの平均価格(東京地区・M級)は1キロ320円前後。

日本農業新聞 2025年2月12日
【今よみ】<政治 経済 農業>
米価高騰〟の深層

日本農業新聞 2025/2/12
【今よみ】政治 経済 農業
米価高騰〟の深層
東京大学特任教授・名誉教授 鈴木 宣弘


薄く広げた交付金には限界

 米は十分あるが、問題は流通にある」と政府は米価高騰〟の原因は流通業界の「買い占め」だと言って、まだ「米は余っている」と強弁する。
 しかし、市場関係者が「不足感」を感じているから、買いだめが起こるわけで、足りていると政府が言い張るのは無理がある。
 水田つぶし政策と時給が10円しかないような農家の疲弊暑さの影響(低品質米の増加)も加わって主食米供給が減り過ぎている。
 米価が上がったといっても農家からすると30年前の価格に戻っただけで、やっと一息つけるかという程度で、すでに疲弊している現場の生産が一気に増えるのは難しいと流通業界も見込んでいる。
 水田をつぶして現場農家の疲弊を放置する政策が続けば、「米不足」は続く。
 「農協が米価格をつり上げている」との見解も実態と乖離(かいり)している。 
 農協は今、米が集まらず困っている。 
 共販で、概算金60㌔当たり1万8000円、後で同5000円追加払いの見込みでも、農家は同2万2000円とかで即買いに来る業者に売ってしまいがちになる。
 根底にあるのは、農家が赤字でやめていくのを放置して、田んぼをつぶせば一時金(手切れ金)だけ払うからもうやめなさい、と誘導して、農村現場を苦しめてきたツケである。
 農業予算を削りたい財政当局の強い意志がある。
 需要が減るから生産減らし続けていくという政策を続けたら「負のスパイラル」で、日本の稲作と米業界は縮小していくだけである。
 日本農業の根幹と日本人の主食が失われ、一時的に輸入に頼っても、それが濡れば日本人は飢える。
◆■◆■◆
 日本の水田をフル活用すれば、今の700万から1300万、に米生産を増やせる。
 米需要は備蓄用、パン・麺用、飼料用、貧困支援用と広がっている。
 どんどん増産できるように農家支援を拡充すれば、米価格は上がり過ぎずに消費者も助かる。
 そして、需要を創出するために財政出動する。
 そうすれば縮小でなく好循環で市場拡大できる。
 財政当局に農水予算の枠を抑えられたまま、水田活用交付金の組み替えで農地当たり基礎支払いを広げる方向性が示されたが、それでは10当たりの極めて少額の支援に薄まるだけで何もならない。
 「財源の壁」の克服なくして事態の改善はできない。

日本農業新聞 2025年1月24日
<最新>鶏卵価格23年超え 猛暑の供給減に鳥インフル重なる

 鶏卵価格が続伸している。建値となるJA全農たまごの24日のM級基準値(東京)は前日比10円高の1キロ285円となり、1月の月間平均価格が過去最も高かった23年を上回った。昨夏の猛暑による供給減に、鳥インフルエンザの発生が重なり、不足感が強まる見通しが強まっている。
 都内のスーパーでは、通常価格、特売価格ともに前年より2割程度高く販売するが、「現状、仕入れに大きな影響は出ておらず、売り場の欠品もない」とする。一方で「今後、同病の発生が増えれば、スーパーへの出荷量を減らす可能性がある」(流通業者)との声も広がる。
 農水省によると、同病は全国14道県で43事例(24日時点)に発生が拡大。採卵鶏の殺処分対象羽数は約734万羽で、全飼養羽数(24年2月時点)の5・7%に当たる。

日本農業新聞 2025年1月7日
今よみ

負担強いる生産調整 安保考え増産への転換を

日本農業新聞 2025年1月7日 [今よみ]
安保考え増産へ転換を
負担強いる生産調整
 東京大学特任教授・名誉教授 鈴木宣弘氏


 輸入依存度が高いということは国内農業生産は過剰でなく足りていないのだ。国内生産の増大に全力を挙げ、輸入から置き換え、備蓄も増やし、不測の事態に子どもたちの命を守るのが「国防」だ。
 なのに生産者のセーフティーネット構築は議論せずに、相変わらず「米は過剰」とする政府の需給見通しで減産を要請している。猛暑が常態化して低品質米が増えていることは作況指数に反映されない。だから、生産量を10万トン減らすと減らし過ぎになる。米需要は減るとの見通しには、安全保障上の需要が欠落している。91万トン、消費の1・5カ月分で不測の事態に国民の命は守れない。
 小麦やトウモロコシの輸入が減るリスクも高まる中、米のパンや麺、飼料を増やすのは国家戦略的な安全保障上の米需要で、フードバンクや子ども食堂を通じた米支援も必要だ。それらを合わせたら米需要は莫大(ばくだい)で、生産調整をしている場合ではない。
◁    ▷
さらに、酪農家が1万戸を切り、減少の加速が問題になる最中、脱脂粉乳の在庫が多いから生産抑制だとして、それに協力せずに系統外に売る酪農家には補助金を出さないという方向性が出ている。
 発想が間違っている。今こそ、酪農家が自由に増産できるようにするのが不可欠だ。国内生産が多過ぎるのでなく、輸入が多過ぎるのだ。他国のように脱脂粉乳とバターの在庫を政府が持ち、需給状況に応じて過剰時に買い入れ、国内外への援助にも活用し、不足時に放出すれば、わずかな民間在庫増加でこんなに酪農家に負担を押し付ける必要などない。
 酪農家のコストに見合う乳価に届いていない分は海外のように補填(ほてん)して、酪農家の減少を食い止めなくては、本当に子どもたちに牛乳が飲ませられなくなる。
 輸入が8割を占めるチーズ向け生乳を増やす内外価格差補填で大幅に国産へ置き換えができるが、それにかかる財政負担はオスプレイ1機の購入代金が220億円とすれば、その半分相当を酪農家あるいはメーカーに補填するだけでいい。
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食料・農業・農村を守るのは、国民の命を守る安全保障のコストだと認識すべきだ。それを出し渋り、農家を苦しめ国民を苦しめる愚かさに一刻も早く気付いてほしい。

日本農業新聞:論説 JAと生協が提携 【[論説]作る人と食べる人 対等互恵の関係築く年に

日本農業新聞
2025年1月5日
参院選控え議論加速
農政展望2025


2025年は、3月に改定する食料・農業・農村基本計画が農政の最大の焦点だ。
生産費を考慮した農畜産物の価格形成を巡る法案などの国会審議も予定される。衆院で与党が過半数を割り込む中、与野党がどう合意形成を図るか注目される。
夏には参院選を控え、農政を巡る論戦も熱を帯びそうだ。
 
基本計画 3月に改定 自給率目標が論点に
 
 基本計画は、食料・農業・農村基本法に基づき、中長期の農政の方針や具体策を示す。
今春に策定するのは、昨年の通常国会で四半世紀ぶりに改正された基本法に基づく初めての計画となる。
 
 食料自給率など各種目標が論点の一つだ。改正基本法は、向上や改善を念頭にこれらを定めると明記。
政府は現在、カロリーベース自給率で45%の目標を掲げる。
食料安全保障が「わが国にとって極めて大切な政策課題」(自民党の森山裕幹事長)となる中、新目標の水準が問われる。
 一方、財務省の財政制度等審議会は昨年、自給率を「過度に重視することは不適当」だとする意見書を加藤勝信財務相に提出した。
既に他国との食料の調達競争で「買い負け」する例もある中、自給を重視しない考え方が政府内にも存在。目標設定の議論の行方には不透明感もある。
 基本計画の改定と並行し、水田政策の見直しも検討される。
政府は27年度以降、「安定運営」できるようにしたい考え。主食用米の需給安定へ、麦などへの転作を支える「水田活用の直接支払交付金」の財政負担が増していることが背景にある。
 江藤拓農相は昨年の臨時国会で、同交付金について「根本的に見直す」と表明。
森山氏も「全般的に直接支払いの検討を進めなければならない」としており、着地点が注目される。
 
 自民は昨年新設した食料安全保障強化本部(森山本部長)で基本計画の検討を進める。
1月以降4回ほど会合を開き、一定の取りまとめを予定する。
 
国会 与党過半数割れ 「直接支払」で激突も
 
 今月24日召集の通常国会でまず焦点となるのが、25年度予算案の審議だ。
与党が過半数を割った衆院で予算案を可決するには、野党の賛成が不可欠。
衆院通過を巡る与野党攻防のヤマ場は2月末ごろとなりそうだ。
 政府は農業関係で、農畜産物の価格形成を巡る法案の提出を予定する。
生産者ら売り手がコストを把握・説明し、小売業者ら買い手がそれを考慮して値上げを検討する仕組みを目指す。
最終的な価格は、当事者間の交渉に委ねる。生産費の考慮を努力義務とし、取引を監視することで実効性を確保したい考えだ。
 一方、昨年の衆院選で躍進した立憲民主党や国民民主党は、生産費の価格への転嫁だけでは農家の所得を確保できないとし、新たな直接支払制度の創設を求める。
法案審議でもこうした声が上がると見込まれる。
ただ、政府・与党には所得補償に否定的な声もある。与野党がどう折り合うかが焦点となる。
 通常国会では他に、農地や水利施設の改良・保全について定める「土地改良法」や、3月が期限となっている「棚田地域振興法」などの改正案の審議も予定される。
 10年後の地域農業の姿を描く「地域計画」は、3月に各市町村による策定の期限を迎える。作業の遅れを指摘する向きもあり、年度末にかけて重要な局面となる。
 政府は、今後5年間で農業の構造改革を集中的に進める方針だが、25年度の農業関係予算は前年度からわずかな伸びにとどまった。
26年度予算でも財務省と綱引きが続きそうだ。
 
トランプ米政権発足 貿易交渉の矛先注視
 
 外交面では、米国のトランプ次期大統領の動向が注目される。「辞書で最も美しい言葉は関税だ」などと述べ、友好国にも貿易交渉で圧力をかける姿勢を示しており、日本農業に矛先が向く恐れもある。
 
 新政権は20日に発足する。貿易交渉を担う通商代表部(USTR)の代表にはジェミソン・グリア氏が就く。過去に日米貿易交渉も担当。「対外強硬派」と目される。
 日米貿易協定で米国の主要な品目は関税が削減されている。そのため日本に対しては、生産ジャガイモの輸入解禁など検疫関係の要求が新たに繰り出されるとの見方もある。
 ブラジルなど5カ国が加盟する関税同盟・南米南部共同市場(メルコスール)にも注意が必要だ。メルコスール側は経済連携協定の交渉入りを求めているが、畜産大国を抱える相手だけに、自民党内には反対の声が強い。これとは別に、政府はアルゼンチン北部地域からの牛肉輸入解禁も検討している。
 日本からの農林水産物・食品の輸出は節目を迎える。政府は25年に輸出額を2兆円とする目標を掲げる。
24年は1~10月で1兆1702億円と過去最高のペースを維持しているものの、近年は伸びが鈍化。
目標達成が危ぶまれる。昨年の日中首脳会談で再開を打診した対中牛肉輸出などの動向も注目される。
 25年は国際協同組合年だ。協同組合組織でつくる全国実行委員会は、超党派の「協同組合振興研究議員連盟」に国会決議の採択を要請した。
協同組合の価値を確認する年となることが期待される。

 
日本農業新聞
2025年1月1日

[論説]作る人と食べる人 対等互恵の関係築く年に
 
 2025年が明けた。今年は国連の定めた「国際協同組合年」。作る人、食べる人の垣根を低くし、対等な立場で食という恵みをお互いに分かち合う。そんな「対等互恵」の関係を築く年としたい。
JAと生協、生産者と消費者、農村と都市がともに力を合わせ、持続可能な農業、農村につなげよう。
 
再生産確保が焦点
 
 対等互恵。この言葉は半世紀前、協同組合運動の中から生まれた。
生活クラブ生協は、現在も生産者と交わす契約書の中に「対等・互恵の理念にもとづき連帯して、生産者及び生協組織と運動を強化発展させる」との理念を掲げている。
ウクライナ危機以降、輸入に依存する化学肥料や飼料などの価格高騰が長引き、農業経営を圧迫する。
政府は1月の通常国会で生産費を考慮した農畜産物の価格形成を促す関連法案を提出する見通しだが、直接支払いの拡充を含め、農家が再生産できる価格をどう確保するかが、大きな焦点となっている。
 こうした中、同生協では食べる側、作る側が対等な立場で互いに話し合うことで価格転嫁につなげている。「生産者と消費者は互いに利益を享受している。
買う方が強いのが今の情勢だが、生産者をもっとリスペクト(尊敬)し、再生産できる価格を受け入れる必要がある」と同連合会の村上彰一会長。
 同生協では生協組合員が提携する産地に移住し、農業にも積極的に携わる。山形県酒田市に建設された移住・交流の拠点「TOCHiTO(トチト)」には2023年以降、40代から80代まで多様な世代16人が入居。
都会と田舎の二拠点生活を楽しみながら、JA庄内みどり管内の提携生産者の元に援農に出向く。
 お金を払う方が上で、もらう方が下。そんな縦の関係ではなく、食でつながる横の関係を広げることが求められている。
 
JAと生協が提携
 
 生協発の取り組みに共鳴し「対等互恵」を直売所の理念に掲げるJAも出てきた。
 中山間地域に囲まれたJA愛知東は、昨年オープンした直売所「グリーンファームしんしろ」の入り口に、この言葉を掲げた。
 海野文貴組合長は「消費者は少しでも安いものを買いたい、生産者は少しでも高く売りたい。
 相反する関係の中で、お互いが理解と尊重、そして感謝の念のもとに適正価格が成り立つという考え方が必要」と指摘する。
 さらに、生協のコープあいちと「対等互恵」の理念を盛り込んだ新たな協同組合間提携を結び直し、「農産物を買うことで、地域農業を支えてほしい」と呼びかける。
 
農村と都市共生を
 
 安ければ安いほどいい――。価格競争の果て、酪農家をはじめ全国の農家が離農に追い込まれている。農山村から人がいなくなれば農地は荒れ、地方は衰退する。負のループから抜け出すには作る人と食べる人、農村と都市が「お互いさま」の関係を取り戻す必要がある。
 明治大学の小田切徳美教授は、「にぎやかな過疎をつくる」(農文協)の中で、「農村なくして都市の安心なし、都市なくして農村の安定なし」という都市農村共生が、「農村=切り捨ててもよい地域」という考え方に対する対抗戦略になると主張する。
 こうした考え方は、能登半島地震から1年となる被災地の復旧復興を進めていく上でも重要となる。財務省の財政制度等審議会は、コスト重視の集約的なまちづくりを提言したが、石川県珠洲市で復旧を支える元農水省職員の本鍛治千修さんは「非効率な零細農家を切り捨て、規模拡大を支援すべきだという声もあるが、誰が日本の原風景を守ってきたのか。誰が水田の持つかん養力で洪水を防いできたのか」と問う。
 利益やコスト、効率、規模拡大ばかりを追求する経済優先の社会構造は、働く人の意欲をそぎ、やがて衰退する。分断を超えて違いを受け入れ、互いに恵みを分かち合う「友愛の経済」(協同組合の父・賀川豊彦氏)が今、求められている。

日本農業新聞 2024年12月5日
<最新>飼料用米振興協会がシンポ 「水活」から対象外に反発

日本農業新聞 2024年12月5日
<最新>飼料用米振興協会がシンポ 「水活」から対象外に反発


 日本飼料用米振興協会は5日、米政策と飼料用米をテーマにした意見交換会を東京都内で開いた。
 飼料用米の活用を進めている生活クラブ事業連合生協連(生活クラブ連合会)や養豚農家らが参加し、飼料用米の価値や重要性を訴えた。
 財務相の諮問機関・財政制度等審議会(財政審)が建議で「水田活用の直接支払交付金」の対象から飼料用米を外すよう求めたことに対し、怒りや不安の声が上がった。

 生活クラブ連合会の村上彰一会長は、財政審の建議について「怒っている」と強調。
 同連合会は、年間で2万2000~2万3000トン程度の飼料用米を使う。
 飼料自給率の向上を目指して飼料用米の利用拡大を続けてきた結果で、鶏や豚を中心に定着してきているとする。
 飼料用米の生産量が大幅に落ち込めば、「飼料を国産で賄うことは難しい」と指摘した。

 青森県の木村牧場は、年間3万5000頭の豚を出荷する。
 約12年前から飼料用米を使い始め、飼料全体の3~5割程度まで増やした。
 木村洋文代表は「飼料用米は肉質の向上にもつながる上、カビなどのリスクも低く、とても良い原料」と強調。輸入飼料については「安価に買える見込みはない」と話した。

 飼料用米は米農家にとっても欠かせないとした意見も多く上がった。
 同協会の信岡誠治理事は「(主食用の)米価低迷時には、収入面で米農家のセーフティーネットとして機能してきた」と指摘。
 主食用米の需要減少が続く中で、水田の維持に向けて飼料用米は重要な役割を担っているとした。

[論説]生消交流の課題 生協との連携強めよう

日本農業新聞
2024年12月4日
[論説]生消交流の課題 生協との連携強めよう


 生産者と消費者の交流が岐路に差しかかっている。消費者が産地に出向き、農業体験をしたり、農産物を買ったりする「生消連携」の取り組みは、受け入れ側の負担増や、農家の高齢化が進み、継続が危うい。JAと生協の連携を強め、農業の振興につなげよう。
 これまで、生消連携を進める上で欠かせなかったのが交流イベントだ。都会の消費者が農村を訪れ、農家と共に田植えや収穫などの作業を体験し、農業・農村への理解を深めることが目的だ。同時に、消費者が何を求めているのか農家が直接知ることで、相互理解につながっていた。
 生活クラブ事業連合生協連は、田植えや稲刈り、農産物の収穫体験といった生産者と生協組合員との顔の見える関係を50年以上に渡り築いてきた。こうした長年にわたる関係性が、生産資材の高騰を踏まえた農畜産物の価格転嫁についても、生協組合員との話し合いでスムーズな値上げを実現したことは成果の一つだろう。
 だが、少子高齢化や地方の人口減で、これまでのように交流イベントを開くことは難しい。消費者の受け入れを担ってきたJAの組合員数は2023年の正・准組合員の総数(見通し)で1009万人と、前年より7万人減り、減少に歯止めがかからない。新たな方法を模索する必要がある。
 JA京都中央会は4月、京都生協などと意見交換を開き、生協とJAの相互加入・事業利用を進め、協同組合間連携の強化を検討している。JAグループ福島は、11月に開いた第42回JA福島大会で決議した次期3カ年基本方針に、生協との連携を強め生協組合員をJA准組合員にする方針を盛り込んだ。25年度から展開する。食や農に関心の高い生協組合員の意見をJA運営に反映することが、地域農業の活性化につながる。
 10月に開かれた第30回JA全国大会では、地域に根差した関係者との連携が引き続き取り組む課題となった。30年に向けてJAは多様な関係者と連携し、協同の力で地域共生社会を目指すとしており、消費者との結び付きをどう深化させるかが問われている。
 生協などとの協同組合間連携は、その中でも大きな柱となるのは当然だろう。生協との連携をきっかけにして、消費者に価格の向こうにある農業の実態をどう理解してもらうかが重要だ。そのためには、「生産者と消費者」という関係性を超えて、同じ人間として、自分たちの食の未来に危機感を持ってもらうための発信が欠かせない。JAは生協との連携をさらに強め、食と農業、農村の応援団を増やす取り組みを進めよう。

緊急・重要情報

日本農業新聞 2024年11月30日
飼料米、水活対象から除外を 備蓄米水準見直しも提起 財政審建議

 財務相の諮問機関である財政制度等審議会(財政審)は29日、国の2025年度予算に対する建議(意見書)をまとめた。農業分野では、転作助成金に当たる「水田活用の直接支払交付金」について、2027年産以降は飼料用米を助成対象から外すよう迫った。主食用米の需要減を踏まえ、政府備蓄米の備蓄量の見直しも求めた。
 同日、加藤勝信財務相に提出した。建議では、補助金の支給などを念頭に、国内農業について「多額の国民負担に支えられている」と主張。法人化や規模拡大を進め、「自立した産業」に構造転換することを求めた。
 水田活用の直接支払交付金を巡っては、27年度以降の水田政策の見直しに合わせて、財政負担の大きい飼料用米を助成対象から外すよう求めた。同交付金は、主食用米の需要減で転作面積が増えるにつれ、予算が膨らみ続ける構造的な課題を抱える。「財政面での持続性も確保していくべき」と指摘した。 水田農業は経営の効率化を進め、生産コストを下げ、「高米価に頼らない」構造に転換していくべきとした。
 政府備蓄米は、現在100万トン程度ある備蓄量の見直しを求めた。主食用米の年間需要量が、備蓄量を設定した当時の900万トンから700万トン程度に減っていることを前提に見直すよう主張した。
 輸入米であるミニマム・アクセス(最低輸入機会=MA)米を活用するなどして、政府備蓄米の備蓄量を減らすことも提起した。
 政府備蓄米とMA米は、いずれも国が買い入れ、飼料用など非主食向けに低価格で売り渡す。建議では、それぞれ年間数百億円に上る財政負担を圧縮させたい意向をにじませた。

<解説>食料安保強化に逆行

 財政審が「水田活用の直接支払交付金」の対象から外すよう求めた飼料用米は、転作作物の主力だ。主食用米の需要が年々落ち込む中、飼料用米を作ることで荒廃せずに守られてきた水田がある。財政審の建議は、生産基盤である農地を守る飼料用米の役割を無視する内容で、食料安全保障の強化に逆行する。
 2024年産の飼料用米の作付面積は9万9000ヘクタール。主食用米の約1割に当たる。農地がいったん荒れてしまえば、有事の際、食料は作れない。飼料用米が食料安保に果たす役割は大きい。他にも、主食用米の需給調整や飼料自給率の向上にも貢献している。
 ただ、財政審の建議は、大きな影響力を持つ。これまでも、同交付金の飼料用米の一般品種への助成単価の引き下げなどを主張し、実現させてきた。
 農水省は、来年春の次期食料・農業・農村基本計画の策定に合わせて、27年度以降の水田政策の在り方を検討する。飼料用米への支援を堅持すべきだ。

財政審の主張は… 自給率「過度な重視不適当」

 財務省の財政制度等審議会(財政審)が29日にまとめた建議(意見書)では、食料自給率を軽視していると取られかねない提言も盛り込まれた。食料自給率を政策目標として「過度に重視することは不適当」と強調。食料安全保障の確保に向け、国内での生産を増やすだけでなく、海外からの輸入も活用するよう提起した。
 食料・農業・農村基本法では元々、食料・農業・農村基本計画で定める目標として「食料自給率」だけを明記。国内農業の向かうべき方向性を示す「指針」と位置付けていた。
 一方で、改正基本法では基本計画で、食料自給率など「食料安全保障の確保に関する事項の目標」を定めると規定。食料安全保障の状況を多角的に捉えるため、食料自給率以外の目標も定める方針に転換した。
 建議ではこの改正によって、食料自給率が「唯一の目標」から「国内生産と消費に関する目標の一つ」に相対化されたと指摘。改正基本法は国内生産の拡大だけを重視する考えに立っていないとして、「輸入可能なものは輸入」する視点も重要と提起した。
 輸入を提起する背景には、財政負担の大きさもある。仮に小麦や大豆の増産で食料自給率を1%増やすには、水田活用の直接支払交付金や畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)の予算として、水田で800億~900億円程度、畑地で400億~500億円程度の財政負担が増えるという。
 国の農林水産予算については「高水準で推移」しているとして、早期に是正するよう求めた。補正予算の影響で「(予算)総額の増額傾向が著しい」という。ただ、近年は環太平洋連携協定(TPP)対策など大型の補正予算で持ち直しているが、過去最大だった1993年度と比べると6割、基本法が制定された99年度と比べると8割の水準にとどまる。

[論説]耕畜連携の推進 飼料作物の支援拡充を

日本農業新聞 2024年11月25日
[論説]耕畜連携の推進 飼料作物の支援拡充を


 輸入飼料や肥料などの高騰を受け、地域内での耕畜連携が一層、重要になっている。

 酪農家と集落営農法人、和牛農家と飼料生産受託組織など連携の形はさまざま。
 持続的な農業を進める上でも、政府は飼料用米などへの助成措置を継続、拡充すべきだ。
 ウクライナ危機や円安の影響で輸入飼料、肥料の高騰が長期化している。

 2023年の輸入乾牧草はここ3年で6割高、肥料原料は一時より落ち着いたものの、3年前より5割以上高い。
 このため、輸入依存からの脱却に向けて国産へ切り替えが進み、粗飼料自給率は23年に80%と3年で4ポイント増えた。
 目標の国産100%へ着実な歩みとしたい。
 鍵となるのが耕畜連携だ。

 広島県三次市の県酪農協みわTMRセンターは、完全混合飼料(TMR)を製造し、県内の酪農家に供給する。
 主原料は、県内の集落営農組織が契約栽培した極短穂型の発酵粗飼料(WCS)用稲。酪農協が専用収穫機で刈り取り、堆肥の散布も請け負う。
 耕種農家向けには栽培、畜産農家には給与の研修会も開く。
 中山間地域のため1筆平均20アールという小さな減反田や転作田で飼料稲の栽培を積み上げた結果、栽培面積は200ヘクタールを超えるまでになった。

 管内ではTMRを使う畜産農家が水田飼料作物生産協議会を立ち上げるなど、耕畜連携の輪が広がっている。持続可能な農業農村づくりへ、こうした輪を広げたい。
 鹿児島県伊佐市では、飼料生産受託組織のグリーンネットワークとどろきが、WCS用稲と牧草を100ヘクタール超の水田で生産、肉用牛農家に供給する。

 鹿やイノシシによる獣害に悩まされながらも、ドローンで牧草播種(はしゅ)にも挑戦。「地域を守りたい」という現場の熱意と地道な努力が耕畜連携の要となっている。
 一方、こうした取り組みに水を差すのが政府の政策や提言だ。

 政府は、飼料用米の一般品種について今年産から単価を引き下げ、水田活用の直接支払交付金(水活)は5年に1度の水張りをしない水田を交付金対象から外した。
 さらに財務省は財政制度等審議会で、27年度以降は飼料用米を「交付対象から外すべき」だと提言。財務省は、この国の農業をつぶそうとしているのか。
 今、必要なのは耕畜連携の推進に向けた支援だ。
 現場からは、資材高を受けて主食用米の価格が上がったことで、転作田でのWCS用稲や牧草栽培を主食用米へ転換する農家が出るのでは、との声も上がる。

 畜産と耕種農家による地域内循環は輸入資材の高騰対策だけでなく、環境負荷の軽減や飼料自給率向上などあらゆる課題に対応する。
 循環の輪が途絶えないよう、施策の充実を求めたい。

農と食と命守る視点「日本農業新聞 【今よみ】」
「国家観なき歳出削減」

日本農業新聞
2024年11月26日
[今よみ]
農と食と命守る視点 東京大学特任教授・名誉教授・鈴木宣弘氏


国家観なき歳出削減 

 最近、財政当局の農業予算に対する考え方が次のように示された。
(1)農業予算が多すぎる

(2)飼料用米補助をやめよ
(3)低米価に耐えられる構造転換
(4)備蓄米を減らせ
(5)食料自給率を重視するな--。
 そこには、歳出削減しか念頭になく、現状認識、大局的見地の欠如が懸念される。

 1970年の段階で1兆円近くあり、防衛予算の2倍近くだった農水予算は、50年以上たった今も2兆円ほどで、国家予算比で12%近くから2%弱までに減らされてきた。
 10兆円規模に膨れ上がった防衛予算との格差は大きい。

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 軍事・食料・エネルギーが国家存立の3本柱ともいわれるが、中でも一番命に直結する安全保障(国防)の要は食料・農業だ。

 その予算が減らされ続け、かつ、世界的食料争奪戦の激化と国内農業の疲弊の深刻化の下で、まだ高水準だという認識は国家戦略の欠如だ。
 海外からの穀物輸入も不安視される中、水田を水田として維持して飼料用米も増産することが安全保障上も不可欠との方針で進めてきた飼料用米助成は、まさに国家戦略のはずだ。

 それを、2階に上げてはしごを外すように、金額が増えてきたから終了というだけの論理は破綻している。
 また、規模拡大とコスト削減は必要だが、日本の土地条件では限界があることを無視した議論は空論だ。日本にも100ヘクタールの稲作経営もあるが、水田が100カ所以上に分散し、規模拡大してもコストが下がらなくなる(稲作も20ヘクタール以上になると60キロ当たり生産費が上昇し始める)。
 中国は14億人の人口が1年半食べられるだけの食料備蓄に乗り出している。

 世界情勢悪化の中、1・5カ月分程度の米備蓄で、不測の事態に子どもたちの命を守れるわけがない。
 今こそ総力をあげて増産し備蓄も増やすのが不可欠なときに備蓄を減らせという話がなぜ出てくるのか。

◁    ▷
 「いつでもお金を出せば安く輸入できる」時代が終わった今こそ、国民の食料は国内でまかなう「国消国産」、食料自給率の向上が不可欠で、投入すべき安全保障コストの最優先課題のはずなのに、食料自給率向上に予算をかけるのは非効率だ、輸入すればよい、という論理は、現状認識力と国民の命を守る視点の欠如だ。
 そして、これらの考え方が25年ぶりに改定された食料・農業・農村基本法にも色濃く反映されていることが事態の深刻さを物語る。

日本農業新聞 2025年1月1日
今年よみ 2025






 2025年はどんな年になるのか--。本紙火曜日2面掲載のコラム「今よみ」の執筆陣に「今年よみ」として寄稿してもらった。
農 村
能登の「創造的復興」 人間同士の交流が鍵
農ジャーナリスト 小谷あゆみ氏
 防災では「自助、共助、公助」の順番が大事で、まず自力で助かれば、地域内で共助できるという。これを農業・農村に置き換えるとしたらどうなるか。地域の自給圏の集合体が国を助けるという順番になるだろう。
 1年前の元日に能登半島地震が起き、現地は復旧・復興のただ中にあるが、今年は阪神・淡路大震災から30年の節目でもある。現在、石川県の復興プランに掲げられている「創造的復興」とは、1995年の兵庫県から始まった。
 「創造的復興」とは、従前の復旧にとどまらずさらに良いものを目指すアプローチで、とりわけ人の復興と呼ばれるコミュニティーの再構築が欠かせない。ただし、それには地域内だけでなく、外からの人の力が必要である。支援のみならず、人間同士の交流によって生まれるふるさとへの誇りや愛着がやる気となり、行動変容につながる。
 都市も農村も片方だけの繁栄では持続しない。人が交流し、活気づくことで初めて地域は動き出す。
 食の観点から考えると、不安を抱えるのはむしろ都市である。大阪府泉大津市では、「市民の健康増進と食料危機への備え」として食料の安定確保を掲げ、北海道旭川市など8自治体とオーガニックビレッジの連携協定を結んだ。提携先のお米を学校給食などに活用する。
 自治体が手を結んで自給圏ネットワークをつくり、相手を応援しながら自分を守れば、互いの安心につながる。お米が足りないとき、スーパーではなく、友達の田んぼへ駆け付ける道が必要だ。多様な主体が農に関わり農村へ往来する法整備が急がれる。
経 済
グローバル経済の試練 次代への大事な一年
京都大学大学院准教授 柴山桂太氏


 今年から、グローバル経済は試練の時を迎える。米国のトランプ次期大統領は、全ての国に対して関税を10~20%引き上げると明言、世界貿易機関(WTO)ルールを無視する発言も繰り返しており、自由貿易の理念はいよいよ風前のともしびである。
 中国や欧州連合(EU)は、米国の関税引き上げに対抗措置を取るだろう。日本はどうするのか。同じく対抗関税の実施を宣言し、他の主要国と共同歩調を取りつつ米国に譲歩を迫る経済外交を仕掛けることができれば上出来であるが、石破政権にそのような胆力を期待するのは難しい。農作物の輸入を増やして、トランプのご機嫌を取ろうとするのが関の山ではないか。
 今年は昭和百年に当たるという。この百年を振り返ると、日本の命運を左右してきたのはいつも米国だった。大日本帝国の野望は米国によってたたきつぶされた。冷戦期には米国陣営の一員として経済発展し、冷戦終結後は米国が主導するグローバル資本主義の運動に進んで身を投じた。その米国でトランプが再登場し、新たな孤立主義と保護主義の時代が始まろうとしている。この先、東アジアで有事が起きても米国がどこまで関与するかは全くの未知数となった。経済的には、日本にさらなる財政負担と貿易面での譲歩を迫ってくるのは確実である。
 日本はこれからも米国追従一辺倒でいくのか。それとも、トランプ以後の日米関係を見据えた新たな国家百年の計を描いていくのか。今年は、次の時代に向けた大事な一年となる。
社 会
地域の「もやい直し」 「課題先進地」に学べ
福島県飯舘村地域おこし協力隊 行友弥氏


 「課題先進地」という言葉がある。「これから社会が直面する課題と、一足先に向き合っている地域」という意味だ。当事者にとっては嫌な言い方かもしれないが、向き合い方次第では本当の先進地になり得る。
 筆者が住む福島県飯舘村も、その一つだろう。過疎と高齢化に悩む典型的な中山間地域だから、というだけではない。多くの農山村に今も色濃く存在する地縁・血縁のコミュニティーが壊れ「もやい直し」を迫られている点も重要だ。

 壊したのは、14年前に起きた東京電力福島第1原子力発電所の事故である。6年間の全村避難で地域が解体され、家族や親族も離散。戻った住民は4分の1程度で、高齢者に著しく偏る。集落の互助機能は低下し、将来展望が描きにくい。帰還住民を支える移住者や関係人口の存在もあるが、楽観は許されない。
 「もやい直し」は四大公害病の一つ、水俣病に苦しんだ熊本県水俣市で生まれた言葉だ。「もやう」は船と船をつなぐこと。転じて「人と人、人と自然とのつながりの回復」をもやい直しと呼ぶ。未認定患者の救済など水俣病の問題自体は解決していないが、賠償などを巡る地域社会の分断を乗り越え、環境モデル都市として再生した水俣市は先進地と言っていい。
 昨年、地震と豪雨に相次いで見舞われた能登半島など、全ての被災地に課題は共通する。災害の有無にかかわらない。元々「もやい」が乏しい大都市圏では急増する単身高齢者の孤立をどう防ぐかも急務になっている。被災地の現状を人ごととせず、今こそ課題先進地に学ぶべきだ。
農 政
国の将来守る政策へ 長期・総合的視点を
東京大学特任教授・名誉教授 鈴木宣弘氏


 今後20年で基幹的農業従事者数は120万人から30万人まで激減するのだから、農業をやる人はいなくなってくる。だから、それに合わせて企業参入を進め、規模拡大、スマート農業、輸出でバラ色だといった議論がよく展開される。
 これは、そもそも出発点が間違っている。今の趨勢(すうせい)を放置したらという仮定に基づく推定値であり、農家が元気に生産を継続できる政策を強化して趨勢を変えれば、流れは変わる。それこそが政策の役割ではないか。
 日本全体の人口問題も同じである。日本の人口はやがて5000万人になるのだから、住むのが非効率な地域に無理に住むのはやめようという議論は前提が間違っている。今の出生率の趨勢を将来に延ばしたらそうなるという推定であり、出生率が少し上向くだけで将来推計は大きく変わる。これを実現するのが政策の役割だ。
 しかし今、懸念される流れが強まっている。能登半島の復旧は遅々として進んでいない。まるで、そこに住むのをやめて移住するのを促しているかのようだ。全国各地の豪雨被害で被害を受けた水田の復旧予算を要求しても、なかなかつかないという声も聞く。
 消滅可能性市町村のリポートも、そういう地域に住むのは非効率だから拠点都市に移住しようというニュアンスがある。狭い目先の効率性、歳出削減しか頭にないのでは日本の地域社会、人々の暮らしと命は守れない。今年こそ長期的・総合的視点を取り戻そう。

日本農業新聞 2024年11月18日
[論説] 財務省の 「水活」 改悪 飼料用米の支援続けよ

日本農業新聞 2024年11月18日
[論説] 財務省の 「水活」 改悪 飼料用米の支援続けよ


財務省が、 転作助成金に当たる 「水田活用の直接支払交付金」を巡り、 飼料用米を対象から外すよう提起した。
飼料用米は、主食用米の需給安定や飼料自給率向上に貢献する。
畜産現場からは不安の声が上がる。農水省は毅然(きぜん)と反論し、水田経営の安定へ支援を続けるべきだ。
政府は、 来春の食料・農業・農村基本計画の改定に合わせ、2027年度以降の水田政策について検討する方針だ。
これに対し、財務省は11日の財政制度等審議会で「食料自給率に過度に引きずられることなく、国民負担最小化の視点は重要」と提起した。
来年度以降の飼料用米の交付単価引き下げに加え、27年度以降の水田政策では、 飼料用米を 「交付対象から外すべき」だとも主張した。
自民党は、先の衆院選公約に「水田活用のための予算は責任をもって恒久的に確保する」と明記している。
この文言は、飼料用米などを念頭に置いた過去の水田政策に関する同党の決議に基づくものだ。
公約をほごにすれば農家の信頼を失い、 政治不信はさらに大きくなる。
第2次石破内間の発足を受けて、農相には自民党総合農林政策調査会長を務めた江藤拓氏が就いた。
江藤農相は就任後、農業予算の増額が必要との認識を示した。
食料・農業・農村基本法の改正を受け、政府は今後5年間で農業の構造転換を集中的に進める方針だ。
今後編成する24年度補正予算と25年度予算はその原資となる。

万全の財源確保が求められる。
一方、財務省は「依然として (農林水産関係の) 予算総額は高水準にある」 と抑制を求めている。
だが、全国で考朽化が進むカントリーエレベーターなど共同管理施設の整備を例にとっても、建設資材や人件費は上がり、同じ予算額でも従来ほどの政策効果は見込めない。
ここにきての予算は政府の掲げる食料安全保障の確立に逆行する。
また、会計検査院は、 農水省の補正予算事業などについて予算の繰り越しの多さを指摘した。
国民の税金が無駄に使われていないかを点検するのは当然だが 「木を見て森を見ず」の感も否めない。
補正予算は、年度内の処理が求められ、ただでさえ人手不足に悩む自治体の負担が大きく、事業採択の手続きが間に合わないケースは多くなる。
農業予算の多くを補正に頼る。いびつな予算編成にこそ根本原因があるのではないか。
専門家からは、 緊急を要する経費を計上すべき補正予算で、本来業務に当たる財源を賄っているとの指摘もある。
農水省は財政当局にしっかり反論し、国民に対しても農業予算の必要性について説明を尽くすべきだ。


国 際
トランプ政権2期目 貿易で圧力高まるか
農業ジャーナリスト 山田優氏

 米国のトランプ氏が20日に大統領に就任する。多くの農家が同氏に投票した。彼らが期待する大統領は米国農業に何をもたらすのだろうか。
 まず直面するのは貿易戦争だろう。昨年末にトランプ氏は、メキシコ、カナダ、中国に対して関税を大幅に引き上げると宣言した。不法移民、薬物の流入に対抗することが理由だ。
 冬場を中心に米国が輸入する野菜の3分の2はメキシコからだ。関税が上がれば直ちに冬野菜が値上がりし、消費者の懐を直撃する。
 米国の農家にとっては悪い話ではないかもしれないが、この3カ国は米国農産物の輸出先で1番目から3番目までを占め、合計すると全輸出額の49%に達する。
 貿易戦争になると、ふつう、相手国は報復する。メキシコ大統領も関税引き上げで対抗すると宣言している。1期目のトランプ政権時には、中国政府は直ちに報復関税でお返しした。2期目はおとなしいとは考えられない。
 米農務省(USDA)によると、2018年と19年の2年間に報復関税の影響で、農業輸出が270億ドル、現在の為替相場で4兆円が失われた。
 輸出の半分を占めるお得意さまが、米国産農産物を締め出したら、農家は「話が違う」と怒るだろう。
 大統領はどうする?
 この先は筆者の予想だが、第4位の輸出先へ圧力が高まるのではないか。牛肉やオレンジ、米などあらゆる農産物で譲歩を重ねてきた日本は、大統領の目にネギを背負うカモに見えているはずだ。
 石破さん、今年は日本農業を守る正念場だよ。
主張

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