基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く―現場での対応を通して基本法改正を逆照射する—

2024年5月7日

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2024年度 研究大会のすすめ方
テーマ:「基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く」 
―現場での対応を通して基本法改正を逆照射する—

日 時:2024年4月20日(土) 13時30分
場 所:(一財)農協協会5階「サロン JAcom」+オンライン(Zoomでリモート参加)

1.開会                         13:30
2.主催者あいさつ  農業協同組合研究会 谷口信和 会長
3.講師の紹介                      13:35
4.研究大会
(1)報告者とテーマ
解題 「基本法改正は食料安保をめぐる現場での課題にどう応えようとしているか」 谷口信和 氏(東京大学名誉教授)    13:35~13:45(10分)
◆【報告Ⅰ】 「生協~JA間の生産原価補償方式の実践から「適正な価格形成」を考える」 加藤好一 氏(生活クラブ連合会顧問) 13:45~14:25(30分)
【報告Ⅱ】 「枝物部会や出資型法人など多様な担い手育成を通じた地域農業振興」 秋山 豊 氏(JA常陸代表理事組合長) 14:25~15:05(30分)
【報告Ⅲ】 「コウノトリがつなぐ地域と農業 -持続可能な有機農業と地産地消-」 西谷浩喜 氏(JAたじま 常務理事)  15:05~15:45(30分)
休   憩    15:45~15:55(10分)
(2)討 論    15:55~16:550分)
司会 谷口 信和 氏(東京大学名誉教授・農業協同組合研究会会長)
5.閉会のあいさつ  北出 俊昭 氏 ( (一社)農協協会 副会長)     16:58~17:00
6.閉会         17:00

事務局からの開催報告
 約70名(会場参加:41名、オンライン参加:28名)が参加され、「基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く―現場での対応を通して基本法改正を逆照射する—」をテーマに、解題を含め4人の講師による研究や取り組み成果の説明・報告を受け、活発な質疑応答・意見交換が行われました。
ま た、研究大会の概要は、(一社)農協協会JAcomホームページに4月22日~24付で、農業協同組合新聞には4月30日号に掲載されましたので、ご参考ください。


農業協同組合新聞 2024年4月22日【2024年度研究大会】基本法改正の下 わがJAと生協はこの道を行くを開催
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 農業協同組合研究会は4月20日、東京・日本橋の「サロンJAcom」で2024年度研究大会「基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く」を開催した。オンラインも含めて約70人が参加し、現場の実践から考えた今回の基本法改正の問題と今後の課題を議論した。

サロンJAcomで開かれた農協研究会
サロンJAcomで開かれた農協研究会

解題 「基本法改正は食料安保をめぐる現場での課題にどう応えようとしているか」 谷口信和 氏(東京大学名誉教授)    13:35~13:45(10分)


◆【報告Ⅰ】 「生協~JA間の生産原価補償方式の実践から「適正な価格形成」を考える」 加藤好一 氏(生活クラブ連合会顧問) 13:45~14:25(30分)


【報告Ⅲ】 「コウノトリがつなぐ地域と農業 -持続可能な有機農業と地産地消-」 西谷浩喜 氏(JAたじま 常務理事)  15:05~15:45(30分)

(参考資料) 
   一般社団法人日本飼料用米振興協会 主催
   第10回飼料用米普及のためのシンポジウム2024
    「閉会のご挨拶にかえて」   於:東京大学弥生講堂 (2024.3.25)


新農業基本法と飼料用米 ー 閉会のご挨拶にかえて
                        (一社)日本飼料用米振興協会 副理事長 加藤好一


 数年前のことだが、東大農学部の鈴木宣弘東大院教授の研究室にお邪魔したとき、先生が最近農水省や国が、「食料自給率」という言葉を使わなくなっている、という主旨の感想を述べられていた。
 「食料自給率」は私たちにとって最重要の言葉で、先生のつぶやきは気にはなったが、その時はうかつにも聞き流してしまっていた。
 しかしいま、先生のこのつぶやきが重大な意味を持っていたことがわかる。
それは農業基本法(食料・農業・農村基本法)をめぐるこの間の国の議論と動向である。
 この法が制定されたのは1999 年である。
 この時代、食料で困る状況など想定できなかったし、バブルははじけたとはいえ日本経済もまだそこそこ強かった(かつ円安でもなかった)。
 しかし25 年が経過した今日、その状況は一変した。飼料や肥料、燃料の暴騰など生産者の経営圧迫され、酪農などでは廃業もあとを絶たない。
 ただでさえ、生産基盤(担い手・農地)が深刻すぎる状況にあり、そのなかでのことだ。つまりその意味で新基本法制定は必然なのだ。

 しかし東大大学院の安藤光義教授は、新基本法は「新機軸が乏しい。前回の改正は日本型直接払いにつながる制度が用意されていた。今回は目玉がない。
 新たな予算措置を伴う施策は極力避けているように見える」。(日本農業新聞:2/28)

 私も新基本法は問題が多いと思っている。鈴木先生はあるところで(「農業基本法の現在地」/月刊「日本の進路」)、「新基本法の原案には食料自給率という言葉がなく、『基本計画』の項目で『指標の一つ』と位置づけを後退させ、食料自給率向上の抜本的な対策の強化などには言及されていない」、と書かれている。

 これまで自給率目標を掲げてきたが低下する一方で、この間、その総括も対策もなかった。
 わが国は「食料自給」という問題を、意図的に忘却しようとしているかのようだ。
 その結果、「食料の安全保障」という問題意識もその裏づけが希薄になる。
 また「食料自給」の問題では、「種」の自給と自家採取、自家増殖の問題も重要だ。
 加えて日本農業新聞は、新基本法に基づく農水省の戦略として、「農地の受け皿となる農業法人に農地の集積・集約化を加速し、先端技術を活用して、農作業を大幅に省力化。
 食品メーカーをはじめ外部から農業への投資を呼び込み、農業を食料産業化する」ことにあると報じている(2/29)。

 いずれにしても、このあたりの問題が、まずは新基本法の本質的な問題だろう。
 こういう認識が根底にある以上、飼料用米が積極的に位置づけられることはないだろう。
 しかしこの問題に入る前に、戦後農政の本質を振り返っておく必要がある。
 ここでも鈴木先生のご主張をお借りする。

 「戦後の米国の占領政策により米国の余剰農産物の処分場として食料自給率を下げていくことを宿命づけられた」(同上)、いわば米国の51 番目の州、それがわが国である。
 つまり稲作中心の農業になっていったのは米国発の日本の国家政策だった。
 これをいまの政治家や官僚は忘れている。
 私のように60 代以上の年代の、学校給食のメニューを思い出そう。
 コッペパンと脱脂粉乳。
 その背景にはこういう事情があった。

 いま農水省は水田の畑地化を推進したいようだ。
 もちろんこれを全面的に否定するつもりはない。
 しかしこれが声高になるにつれ、国は水田農業からの撤退(食料自給率の軽視)を考えているのではないと懸念する。
 水田は水田として最大限維持され、その結果としていわゆる多面的機能も維持される。
これがおかしくなれば昨今の日本の地方経済を支えるインバウンド(外国人訪日客)にも影響が出るのではないか。

 地方経済というならば、水田を中心とする農業をどうしていくかが最重要な問題のはずだ。
 ここに飼料用米の役割や重要性が明確に位置づけられなければならない。
 しかし畑地化とともに大規模化、輸出、スマート農業を強調する昨今の農政は、問題ありと言わざるをえない。
 飼料用米の助成金単価の引き下げと、品種問題(多収専用品種への誘導)がその根っこの一つだ。ちなみに24 年産転作作物の作付け動向によれば、すでに飼料用米は25 道府県が「減少」の意向だという。
 これは結果としてこうなったという問題ではない。
 ここには明らかに政治的な意図が感じられる。
 由々しき事態だ。
 水稲生産者にはやはり米を作ってもらう。
 これこそが農政の基本だろう。

 さて最後に、基本法論議で重視されている「価格転嫁」の問題についても一言申し述べておきたい。
 冒頭に述べたように、生産資材の高騰などにより、生産者の経営が圧迫され、その持続性が困難になっている。そのコスト上昇分を、流通段階の各所で補填していくべきだという考え方に基づいているのが、この価格転嫁問題の背景にある。
 重要な問題であることは言うまでもない。
 しかしこの問題に対する対処法は、消費者や流通関係者の善意に訴えるレベルにとどまっているように思われる。メディアは今年の大手企業の春闘による賃上げについて景気よく報道しているが、国全体で見た場合にどうなのか。
 ①生産者に対する(大手)流通業者の価格決定権の圧倒的な優位性。
 ②多くの食品のインフレの加速化により、苦しい状況に消費者も追い込まれている現状。これらの問題を重く見た方がよい。
 ではどうすべきか。
 ここでも鈴木先生のご主張をお借りする。
 「欧米は『価格支持+直接支払い』を堅持しているのに、日本だけ『丸裸』だ。欧米並みの直接支払いによる所得維持と政府買い上げによる需要創出政策を早急に導入すべきではないか」(同上)。
 同感である。
 しかし自民党内では戸別補償(直接支払い)に警戒感が強いという(日本農業新聞:3/8)また財源の問題が常に議論になるが、それを考えることこそ政治家や官僚の仕事だろう。
 かつ生産者と消費者との「提携」(共に事を成すこと)という日常的な関係性をどう構築するかも重要だ。
 つまり生消の協同組合間協同の強化だ。
 さて私見を中心に縷々(るる)述べてきたが、当協会の基本的な考え方は、本日のシンポジウムで信岡誠治理事(元東京農大教授)から表明していただいた。
 飼料用米が正念場の状況にあるなか、これを今後の当協会の活動の指針としていく所存である。
 また本シンポジウムでも、各方面から貴重なご意見や当協会に対する連帯のご挨拶を賜った。
 感謝申し上げたい。
 今後とも皆さんの当協会に対するご支援・ご指導をあらためてお願い申し上げ、本シンポジウムを閉じさせていただく。
 本日のご参加、まことにありがとうございました。